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【ネタバレ注意】新海誠『小説 君の名は。』の感想。

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2016年8月末に公開され

大ヒットを記録している

新海誠監督のアニメーション映画

『君の名は。』

 

その映画に先駆けて発売された

小説がこの作品。

『小説 君の名は。』(2016年)

新海誠

 

 

本来なら

映画も観て小説も読むのが

いいのでしょうが

俺は活字寄りの人間なので

ひとまず小説の感想を……

 

あらすじ

 

朝、目が覚めると

なぜか涙が出ている私。

 

寝ている間に

見ていたはずの夢を

思い出せない俺。

 

私は、

俺は、

誰かひとりを、

ひとりだけを探している----。

 

~~~~~~~~~~

 

「瀧くん」と呼んできたその女の子は

自分の髪を結っていた

オレンジ色の紐を差し出した。

「名前は、みつは」

知らない名前の女の子。

それは夢だった。

 

立花瀧(たちばなたき)

目が覚めた時、

自分が知らない女の体に

なっていることに気付く。

10歳くらいの女の子が

「お姉ちゃん、なにしとるの?」と

怪訝そうに俺を見る。

これはいったい

どういうことだ!?

 

宮水三葉(みやみずみつは)

朝起きて食事に降りると

妹の四葉(よつは)

祖母の一葉(ひとは)

私をじろじろ見ている。

どうやら昨日の私の様子が

おかしかったらしい。

 

そう言えば昨日は……

なにがあったのか思い出せない私。

テレビでは

千二百年に一度の彗星が

日本に接近して来ていて

私達の住んでいる

糸守町(いともりまち)でも

肉眼でも見られるという

ニュースが流れていた。

 

糸守高校に行く私に

坊主頭のテッシー(勅使河原克彦)

前髪ぱっつん&おさげの

サヤちん(名取早耶香)

話しかけてくる。

2人からも

「今日はちゃんとしとるな」と言われた。

昨日の私に何があったの?

不安になる私。

 

授業中、

ノートをめくると

白紙のはずのページに大きな文字で

「お前は、誰だ?」と書いてあった。

私の字じゃない。

誰かのいたずら?

 

昼休みにサヤちんに昨日のことを聞くと

昨日の私は

自分の名前も机もロッカーも忘れて

まるで記憶喪失みたいだったという。

その私の方は

昨日は男の子になった夢を

見ていたように思う。

オカルト好きのテッシーは

それは前世の記憶だと言うが……

 

これもストレスが原因?

父は町長で

祖母は神社の神主。

私は巫女として

今夜もお務めがある。

ああ早く高校を卒業して

こんな田舎から出て

東京に行きたい!

 

その夜の宮水神社の豊穣祭り。

私と四葉は巫女として

巫女舞を舞う。

「口噛み酒」を作る様子を

みんなに見られるのも恥ずかしい。

もうこんな町いやや。

来世は東京の

イケメン男子にしてくださーい!

 

私は目覚めたら

見知らぬ部屋にいた。

そして自分が

男になっていることに驚く。

 

スマフォの情報から

私が、いやこの男子高校生が

「立花瀧」という人物だと知る。

 

なんとか学校に辿り着くと

眼鏡で委員長風の男に呼ばれる。

この彼、司(つかさ)

高木という大柄な男子と

とくに仲がいいようだ。

3人とも建築物に興味がある様子。

 

スマフォが鳴って

今日のバイトに遅刻だというメッセージ。

「あのぉ、私のバイト先って、どこだっけ?」

「……はあぁぁ?」と呆れる2人。

だって、この人のこと

なんにも知らないんだってば!

 

私の人生初の

イタリアンレストランの

ウェイターのバイトは散々だった。

しかしトラブルに対応してくれた

奥寺先輩にお礼として

得意の裁縫で

破れたスカートを修繕したことで

先輩との距離が縮まった。

 

瀧くんはスマフォに

日記をつけているので

私は今日の出来事を日記に書いてみる。

ひそかに奥寺先輩のことが

好きなこともわかった。

 

ふと「お前は誰だ?」の落書きを思い出した。

あれは立花瀧だったのかもしれない。

自分のてのひらに「みつは」と書いて

私は眠りに就く。

 

起きた時、

俺はてのひらの文字と

着替えもせず寝ていたことに驚いた。

スマフォの日記を読んでさらに驚く。

なんだこれは。

 

バイトに行くと

奥寺先輩が急に親しげになり、

周りの男から嫉妬される。

「みつは」っていったい、なんなんだ?

 

朝起きた私は

昨日の私がまた変だったと聞く。

これってもしかして……。

 

私は、

俺は、

寝ている間に入れ替わっている!?

 

 

東京に住む

高校生・立花瀧。

飛騨の田舎町に住む

女子高生・宮水三葉。

なぜか眠った時に

意識が入れ替わっている2人。

その不思議な現象は何度も続き、

やがて2人は

スマフォのメモなどを通じて

お互いの状況を理解していく。

 

しかし、

その入れ替わりは

ある日突然終わってしまう。

 

瀧は

三葉の身に何か起きたのではないかと

記憶を頼りに描いた

糸守町のスケッチを持って

三葉を捜しだそうと

岐阜県飛騨へと向かう。

 

そこで知った

衝撃の事実とは------

 

解説

 

東京の男子高校生・瀧と

飛騨の糸守町の女子高生・三葉は、

ときどき眠った後で

お互いの意識が入れ替わるという

不思議な夢を見る。

それが夢ではなく、

現実の出来事だと認識した2人。

戸惑いながらも

メモのやりとりを残して

次第に打ち解けていくが、

その関係は

ある日突然終わりを告げる。

三葉に会おうと

糸守町に向かった瀧が見たものは……。

感動のSF青春小説。

 

『小説 君の名は。』は

アニメーション映画に先駆けて

新海監督が自ら執筆し、

映画公開の2ヶ月前に発売された。

 

主人公の一人は、

東京の四ツ谷に住む

男子高校生の立花瀧(17歳)。

父親と2人で暮らしていて、

建物や風景を描くのが趣味で

よくスケッチをする。

瀧の周りにいる友人は

眼鏡の委員長風の藤井司と

大柄な高木真太。

そして瀧が憧れるバイトの先輩で

奥寺ミキが登場する。

 

もう一人の主人公(ヒロイン)は

岐阜県飛騨の糸守町に住む

女子高生の宮水三葉(17歳)。

代々「宮水神社」の家系で生まれ

町長の父は母の死後に別居して、

現在は祖母・一葉と妹・四葉と

3人で暮らしている。

三葉の周りにいる友人は

オカルト好きで坊主頭のテッシー、

前髪ぱっつん&おさげで

町内放送の家系のサヤちん。

それぞれ見せ場があり、

キャラクターの魅力が光っている。

 

男女が入れ替わることで起きる

エッチな問題点が「裸」。

知らない異性に自分の裸を見られて

羞恥心が働かないわけがない。

思春期の瀧は女の裸に興味津々で

おっぱいを揉んだりするから

「お風呂禁止!」「裸を見るな」と

禁止事項を作って牽制する

ピュアなやりとりが微笑ましい。

 

「千二百年に一度の彗星」や

「カタワレ時」の使い方、

「名取家の町内放送」の説得力、

単なる小物で終わらない「口噛み酒」など

終盤の怒涛の伏線回収が素晴らしい。

それ以上に

重要な意味のあった「ミサンガ」は

メインのキービジュアルを見て

改めてハッとするほど

さりげなく描かれていて上手い。

 

読後にさわやかな感動を味わえる秀作。

小説の後で

アニメ映画で想像をビジュアル化したり、

アニメの後で小説を読んで

それぞれの心の動きを

追ってみるのも楽しいだろう。

 

欠点としては…

 

●空白行をはさんで

視点がころころ替わるのは

正直読みにくい。

後半は空白行すらはさまず

視点が替わってしまう。

 

●入れ替わってすぐ

学校に行けてしまうのは

無理がある。

 

●「スマフォ」より

「スマホ」の方がいいと思う。

 

●お互いスマホを使っていて、

なぜ日付に気付かないのか?

日記を付けているのだから

(伏せ字)3年の時間のずれ

気付くはず。

 

●飛騨に行って

糸守湖ほど特徴的な

スケッチを見せられて

誰ひとり「糸守町」を

思い出さないのはおかしい。

 

●物語の終盤、

どうやってあの人物を

説得できたのか描かれていない。

 

●奥寺先輩が

瀧に惹かれる理由が

よくわからない。

 

俺の感想

 

映画が大ヒットしているということで

便乗して読んでみました。

なるほど。

これは面白い。

 

新海監督と言えば

光の色彩表現が素晴らしいので

さぞかしアニメの方は美しいのでしょう。

見たい……けど

映画館でアニメを見るのは

この歳になると少し抵抗があるのです。

 

男女が入れ替わるというアイデアは

古今東西ありますが、

そこにもうひと捻りを

加えたのは良いですね。

俺はRADWIMPSの主題歌

「前前前世」に引っ張られて

ははぁ三葉は

瀧の前世の姿だなと推測していたら……

おっと、ここではやめておこう。

(ネタバレは別の項目で)

 

おそらく皆さんが「泣いた」のは、

三葉が手のひらの

文字を見るシーンでは?

瀧が書いた「あの言葉」は

俺も少し泣きそうになったし、

良い裏切り方でした。

その一行がページをめくって

すぐの位置にあるのも秀逸です。

 

そしてラストのどんでん返し。

俺は『kanon』の月宮あゆルートの

ラストを思い出した。

(わかる人だけわかってくれ)

あまり驚きがなかったので

俺だったらもう少し……

という不満が残ったかな。

 

普段はこの手の小説は

高く評価しないけど

ラストが俺好みなのと

伏線回収が上手いので少し高めの評価。

でもこの作品の魅力は

監督もあとがきで言っているように

アニメーション映画ありきでしょう。

 

あとwikiにストーリーが丸ごと

ネタバレして書いてあるから

未読なら読まないように。

 

★★★★★ 物語の面白さ

★★★★☆ 伏線の巧妙さ

★★★☆☆ どんでん返し

 

笑える度 ○

ホラー度 -

エッチ度 △

泣ける度 ○

 

総合評価(10点満点)

 8.5点

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ここからネタバレあります。

未読の方はお帰りください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------------------------

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレ解説&考察。

 

結末

三葉たちの糸守町は

瀧の時代から3年も前に

隕石の落下が原因で

すでに町は無くなっていた。

瀧は3年前の三葉の体と

入れ替わっていたのだった。

 

それを知った瀧は

最後のチャンスで

三葉になった時に

町の人を避難させようと動く。

三葉の意識を感じた瀧は

山の頂上へ向かった。

 

カタワレ時に三葉と初めて接触し、

元の体に戻った2人。

彗星が迫る糸守町に戻る三葉に

瀧は後を託した。

てのひらに書いた「すきだ」の文字が

三葉を必死に動かす。

 

彗星の厄災から8年後。

糸守町は奇跡的に

ほとんどの住民が避難して生きていた。

もちろん彼女も……。

社会人の瀧は併走する電車の中に

あの人の姿を見る。

急いで降りて引き返した瀧は

神社の階段でその人とすれ違った。

お互いに振り返ると、

彼女はもう泣いている。

そして同時に口を開く。

「君の、名前は」

 

 

入れ替わりのルール。

 

この作品には

「男女の心と体が入れ替わる」

というパターンに

「時間のずれ」を加えている。

2016年の瀧と

2013年の三葉が入れ替わっていたため

どうやっても連絡がとれなかった。

そして三葉が死んでしまうため、

瀧が何とかして

2013年の三葉を救おうとする物語。

 

入れ替わりは週に2、3回、

寝ている時に起こるため

最初は夢だと思っていた。

その夢の記憶は意識しないと

徐々に忘れて行く。

そうならないように

2人はスマホや体にメモを残して

入れ替わり生活を続ける。

 

時間の違う2人は

絶対に出会うはずがない。

それをつなげたのが

「ムスビ」の役割を果たす「口噛み酒」。

これが2人の時間を結ぶ。

もうひとつ、

大きな役割が「カタワレ時」。

黄昏時の不思議な時間のおかげで

2人は時間を越えた。

 

なぜ入れ替わりが起こるのか?

という疑問には

作中に三葉の一族の

危機回避能力として

他者と交信する

不思議な力が提示されている。

 

祖母の一葉にも少女時代に同じように

入れ替わる経験があったらしい。

それが2013年10月4日の

隕石落下を防ぐために

繰り返し行われてきた能力なのか、

「阪神淡路大震災」や

「東日本大震災」のような大きな天災を

知らせるためだった可能性もある。

ちなみにティアマト彗星の

千二百年という周期は

大きな地震が日本を襲う周期とされる。

これは東日本大震災と同じ。

 

2人の年齢の推移は

<物語開始時>

2016年 立花瀧(17歳)

2013年 宮水三葉(17歳)3つ年上

 

<物語終了時>

就活中に奥寺先輩との会話に

「飛騨に行ったのが5年前」とあり

2021年 立花瀧(22歳)

 

その後、就職して

春を迎えたので

2022年 立花瀧(23歳) 宮水三葉(26歳)

※誕生日が不明なので

あくまでも目安として。

 

ラストの2人が再会する場面で

三葉は瀧の家を知っているのだから

家に行けばいいのにと思うかもしれないが、

この時の2人は、

相手の名前も顔もすべて

記憶から消えている。

ただ、巡り会った瞬間に「この人だ」と

わかると2人とも思いながら

生活を続けていた。

 

併走する電車の中で

どんなに姿が違っても

2人には「この人だ」とわかったのは

すごくロマンチック。

 

伏線回収の分析。

 

町内放送をするサヤちんお姉さんと

声が似ているため

妹のサヤちんが町内放送をしても

町の人は信じてくれる。(P.18)

 →これが最後に役立つ。

 

②授業でユキちゃん先生が

「黄昏時」の語源である「誰そ彼」を

人ならざる者に

出会うかもしれない時間と説明する。(P.25)

 →別名「カタワレ時」と言われる

 この時間帯が物語の鍵だった。

 ちなみにこのユキちゃん先生は

 新海誠監督の『言の葉の庭』に登場する

 雪野百香里で、

 声優は同じく花澤香菜。

 

③「ティアマト彗星」

ティアマトとはメソポタミア神話の女神。

女性やドラゴンの姿で描写される。

マルドゥクに倒されたあと、

彼女の体は二つに引き裂かれ

それぞれが天と地の素材となった。

 →その名前がすでに

 二つに分かれることを表している。

 

メールや電話が通じない。(P.80)

 →普通に考えておかしい。

 電波が通じない環境ではない

 何かがあることを示唆。

 三葉→瀧は3年前も同じ電話番号なら

 繋がってしまう可能性も。

 

瀧が「彗星」のニュースで

「何かを忘れている気がする」(P.94)

 →彗星に関する思い出せない何かを示唆。

 

三葉が東京に行ったこと。

その翌日に髪をばっさり切ったこと。

 →失恋している。

 3年の時間のずれに気付いてない三葉は

 出会っていない頃の瀧に話しかけて

 嫌われたと思いこんだ。

 またこの時渡したオレンジの組紐は

 三葉のことを忘れそうになっていた時、

 旅館で奥寺先輩に指摘されて

 記憶の糸口になる。

 

⑦終盤で三葉の「口噛み酒」を飲む瀧。

それは婆ちゃんから聞いた

あの言葉が頭にあったからだ。

“「知っとるか。水でも、米でも、酒でも、なにかを体に入れる行いもまた、ムスビと言う。体に入ったもんは、魂とムスビつくで」”(P.89)

 →瀧の行動は

 ただの変態行動ではなく

 ムスビのため。

 

⑧キービジュアルのヒント。

物語の鍵を握る「オレンジ色の組紐」

「二つに分かれた彗星の片方が

三葉の方に向かっている」

 

同じひとつの空で繋がっていながら、

光で都会と田舎に分かれた構図が巧い。

 

どんでん返しについて。

 

ラスト第八章。

就活中の瀧と奥寺先輩が街を歩き、

街頭ビジョンに映る

「彗星災害から八年」の文字を見て

糸守町の惨状を思い出したシーン。

“そうだ---。あの時期、俺は彗星をめぐって起きたあの一連の出来事に、ひどく関心を引かれていたのだった。

彗星の破片が一つの町を破壊した、人類史上まれに見る自然災害。それなのに町の住民のほとんどが無事だったという、奇跡のような一夜。彗星落下のその日、糸守町では偶然にも町を挙げての避難訓練があり、町民の大半が被害範囲の外にいたというのだ。”(P.239)

ここでやっと

三葉たちが「生きている」ことが語られる。

 

俺は『kanon』の月宮あゆルートを

思い出したと書いたが

それと同じく

悲劇が歓喜に変わる劇的な場面だ。

 

その後、

結婚間近のカップル役として、

東京に出て来たテッシーと

サヤちんが登場し(P.243)、

最後に三葉と巡り会う。

 

ここが俺には少し

もったいないなと感じた。

あまりにもさらっとしている。

 

その後の三葉との邂逅が

きっかけも予感もなく

ご都合主義で、

せめて「思い出の場所」とか

「約束の地」のような決めごとがあって

そこに行って巡り会うなどの方が

良かったんじゃないか?と。

(それすら思い出せないか……)

せめてテッシーたちがヒントを残して

それに導かれる形で

再会すればいいのに。

 

「聖地巡礼スポット」として話題の

2人が最後に巡り会う場所のモデルとなった

東京四ツ谷の須賀神社の赤い階段だが、

(小説では)一度も登場していない。

何かエピソードを入れて

意味のある場所にしてほしかった。

 

 

HKT48の宮脇咲良ちゃんが

Twitterでここの写真をあげて

喜んでいるので

まあいっか。

 

 

名言まとめ。

 

2人が夢だと思っていた生活が

現実だとわかった場面。

“俺の頭の片隅が、あり得ないはずの結論の尾をつかむ。

もしかして---。

俺は夢の中でこの女と---

私は夢の中であの男の子と---

入れ替わってる!?”(P.78)

----------------------------

 

山道を歩く三葉(中身は瀧)と四葉と婆ちゃん。

一葉婆ちゃんが「ムスビ」の話をする。

“「土地の氏神さまのことをな、古い言葉で産霊(むすび)って呼ぶんやさ。この言葉には、いくつもの深いふかーい意味がある」

(中略)

糸を繋げることもムスビ、人を繋げることもムスビ、時間が流れることもムスビ、ぜんぶ、同じ言葉を使う。それは神さまの呼び名であり、神さまの力や、ワシらの作る組紐も、神さまの技、時間の流れそのものを顕しとる

川のせせらぎが聞こえる。どこかに沢があるのかもしれない、と俺は思う。

よりあつまって形を作り、捻じれて絡まって、時には戻って、途切れ、またつながり。それが組紐。それが時間。それが、ムスビ」”(P.87)

-------------------------------------

 

急に東京に出て来た三葉は

瀧の姿を捜して町を歩く。

もし会えたら、瀧くんは、すこしは、喜ぶかな---。

ふたたび三葉は歩きだす。そして考える。

こんなふうにやみくもに探し回ったって、会えっこない。会えっこないけれど、でも、確かなことが、ひとつだけある。私たちは、会えばぜったい、すぐに分かる。私に入っていたのは、君なんだって。君に入っていたのは、私なんだって。”(P.188)

-------------------------------

 

山頂での再会の後、

消える三葉。

瀧のてのひらには

書きかけの線が一本。

“「……言おうと思ったんだ

俺はその線に向かって、小さく独りごちる。

お前が世界のどこにいても、俺が必ず、もう一度逢いに行くって」”(P.205)

-------------------------

父を説得に向かう三葉だが

途中で転倒する。

大事な人の名前も思い出せない。

別れ際、

あの人が三葉の手のひらに

名前を書いていたことを思い出す。

“……でも。

君の声は、耳に届く。

「目が覚めてもお互い忘れないようにさ」

あの時君はそう言って、

「名前書いておこうぜ」

私の手に書いたんだ。

倒れたまま、私は目を開く。

ずきんずきんとにじむ視界に、私の握った右手がある。指を開く。開こうとする。でも、硬くこわばっている。それでもすこしずつ、私は指を開いていく。

なにか、文字がある。目を凝らす。

 

すきだ

 

息が、一瞬とまる。私は立ち上がろうとする。力がうまく入らなくて長い時間がかかる。それでも私の二本の脚は、もう一度アスファルトに立つ。そしてもう一度、手のひらを見る。いつか見たことのある懐かしい筆跡で、すきだ、とだけ書かれている。

……これじゃあ、と私は思う。涙が溢れて、視界がまたにじむ。涙と一緒にまるで湧き水みたいに、あたたかな波のようなものが体中に広がっていく。私は泣きながら笑って、君に言う。

これじゃあ、名前、分かんないよ---。

そしてもう一度、全力で、走りだす。

もうなにも怖くない。もう誰も恐れない。もう私は寂しくない。

やっとわかったから。

私は恋をしている。私たちは恋をしている。

だから私たちは、ぜったいにまた出逢う。

だから生きる。

私は生き抜く。

たとえなにが起きても、たとえ星が落ちたって、私は生きる。”(P.227-228)

-----------------------------

 

ついに再会した2人。

“やっと逢えた。やっと出逢えた。このままじゃ泣きだしてしまいそう、そう思ったところで、私は自分がもう泣いていることに気付く。私の涙を見て、彼が笑う。私も泣きながら笑う。予感をたっぷり溶かしこんだ春の空気を、思いきり吸い込む。

 

そして僕たちは、同時に口を開く。

 

いっせーのーでとタイミングをとりあう子どもみたいに、私たちは声をそろえる。

 

---君の、名前は、と。”(P.251-252)

 

 

映画版の感想。

 

ここまで書いて

やっぱり映画版も見たくなり

映画館へ行きました。

本当に素晴らしかったです。

これはヒットするのもわかる。

 

先に読んだ小説との違いを

いくつか挙げてみよう。

 

◆テッシー視点で

家庭環境をぼやくシーンあり。

テッシーの父と母が出てくる。

父親が建設会社なのは小説でも出たが

工事に使う含水爆薬が倉庫にあると

この時点で伏線を張ってある。

それと父が茶風林。

 

◆瀧の中に三葉が入った翌日、

司が昨日の瀧は

「ちょっと可愛かった」と赤くなる。

 

◆三葉(中身は瀧)と四葉と一葉で

山に登る日に、

三葉が制服に着替えて

「なんで制服なん?」と四葉に言われる。

 

瀧は平日と勘違いしていたが

糸守町は3年前のため休日だった。

ここで時間のずれに関する伏線が張られている。

(小説には着替える様子はないが、

学校に行く気満々の瀧の様子はある)

 

しかしここで問題が。

 

隕石落下が2013年10月4日。(←確定)

前日10月3日

瀧が奥寺とデートして

三葉が東京に行った日。

東京に行った三葉が

街頭テレビで

「ティアマト彗星・明日最接近」を

見ているから

この日は10月3日で確定。

瀧が直前までデートだと

気付かなかったのだから

その前日に入れ替わっている。

入れ替わってないと

三葉がスマホにメモを残せない。

その日付が10月2日だった。

 

つまり10月2日

瀧は山に行ったことになるが、

2013年10月2日は思いっきり平日です。

制服で起きてきても全く変じゃない。

そうすると、

「何で制服なの?」と聞く伏線がおかしくなる。

暦では平日でも糸守町では

「大安」なので奉納に選ばれた

特別な休日だったのでしょうか?

 

瀧の視点から見てみよう。

2016年10月2日は日曜日。

土曜日に寝ているから

朝起きて学校と

勘違いするのはおかしい。

さらに2016年10月3日は月曜日なので

月曜にデート?と少し矛盾も……

(曜日のことはあまり気にしてないのかな)

 

「あんた、夢を見とるな」と

一葉婆ちゃんが言って、

唐突に東京の自分のベッドで目が覚めた。

もしかするとダブルミーニングで

「夢」の中の「夢」だった?

10月2日に入れ替わったが

その時はデートの約束をしただけで

山に奉納に行ったのは9月29日か。

2013年9月29日は日曜日ですし、

制服の件も納得できる。

(小説では10月と書いてあるが

制服の伏線がある映画とは別と考える)

その時のことを思い出して

繋がっているように見えただけ……

という考察も面白いかもしれません。

 

※ネットでこの矛盾の考察がありますが

どれを見ても腑に落ちる答えは無いです。

 

◆デートで失敗し、

瀧が三葉に電話をかける。

場面が変わって三葉が電話に出て

ついに繋がったかと思わせて

テッシーからの電話というシーン。

 

◆瀧・司・奥寺の3人で

旅館に泊まった夜、

奥寺が司に、

瀧のことが好きだと告白。

 

◆小説では

サヤちんの姉が町内放送して

親子で継いでいる設定が

映画では「放送部」に変更。

 

◆作戦がバレて

テッシーが父親に怒られる。

 

◆三葉が町長を説得するため

乗り込むシーンがある。

ここで説得できたのでしょうが

小説版にはないので

上のような欠点になった。

 

三葉の父・俊樹は

「民俗学者→神主→町長」とあったので

もしかしたら

ティアマト彗星や糸守湖について

前から危惧していたことがあって

みんなを避難させたのだろうか?

 

お婆ちゃんと四葉も

一緒にいたようだし、

三葉の入れ替わりと予言を

説明してくれたというオチかも。

 

※「Another Side」という外伝によると、

二葉と出会って、

この地に伝わる

アメノカガセオの伝承を聞いており、

空の竜が落ちてきて

災厄をもたらすことを知っていた。

あの時、一葉と四葉がやってきて

今日の三葉の様子や

彗星が落ちてくること、

みんなに逃げろと指示したことを聞いた。

空を見上げると、

彗星が二つに分かれている。

そこに

かつて自分が愛した二葉と

そっくりの三葉が

強い意志を持った目で

飛び込んできたのを見て

覚悟を決めたらしい。

(説明不足だってば)

 

◆奥寺先輩が結婚することは

直接語らず、

左手薬指の婚約指輪で表現。

 

 

その他、

気になったこと。

 

◆OPムービーあり。

ああTVアニメっぽいなと。

 

◆「入れ替わってる!」

「入れ替わっとる!」の後

主題歌「前前前世」が流れる。

その他RADWIMPSの曲が

多数挿入されるが

少し多すぎる印象。

 

◆三葉が東京に行って瀧を捜しながら

「私たちは、会えばぜったい、すぐにわかる」

と言うシーンで須賀神社の

赤い手すりが見えたような。

 

◆町長を説得に走る三葉が

転倒するシーンは

アニメ「時をかける少女」の

真琴の転倒シーンそっくり。

 

◆瀧は声の感じが変わるので

今どちらが中身かわかりやすいが、

三葉は声があまり変わらずわかりにくい。

冒頭の三葉が起きたシーンで

胸を触り始めた時、

多くの人がどういうことなのか混乱していそう。

ちなみに三葉の中身が瀧の時は

リボンが結べなくて

ポニーテールにしているから

見た目ではわかる。

 

◆旅館に泊まった奥寺先輩。

朝起きた時、

浴衣から黒いブラが……

 

◆小説のP.87に一葉お婆ちゃんの声を

「日本昔話みたいな声」と表現してあるが、

映画のキャストが市原悦子さんで笑った。

 

◆映画では

「スマホの日付」「カレンダー」に

曜日もしっかり書いてあり、

時間がずれている伏線として機能しているが

小説では日付を全く語らないため

時間のずれに気付くことができない。

 

……とまあいろいろ

違いを探して楽しめました。

 

 

小説と映画の両方を見た(読んだ)

結論としては、

映画の方が

映像・声の演技・BGMもあって

断然上です。

小説で泣けない俺も

思わず泣きそうでした。(堪えた

 

どちらから先に見てもいいけど、

小説の方が細部の説明があるので

内容が理解しやすい。

それに比べ

映画の方は説明不足に感じました。

俺は「小説→映画」で良かったです。


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