【2020.8.26 追記】
文庫版エピローグ追加。
「想えば想うほど、遠ざかる二人の距離―――――」
久しぶりの読書レビュー。
劇場版のアニメ化が決定している作品。
ラストに驚愕必至の感動大作とあっては
読まずにいられない。
『僕はロボットごしの君に恋をする』
山田悠介
(2017年)
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<あらすじ>
2060年、三度目のオリンピック開催が迫る東京で、人型ロボットを使った国家的極秘プロジェクトが進んでいた。プロジェクトメンバーの大沢健(おおさわたける)は、幼なじみで同僚の天野陽一郎(あまのよういちろう)、そして彼の妹の天野咲(あまのさき)に助けられながら奮闘する。
ところが、咲の勤務先にテロ予告が届き事態は急変した。目的を達するために、はてしなく暴走する研究者の狂気。はたして健は、テロを防ぎ、想いを寄せる咲を守れるのか?
そしてラストに待ち受ける衝動と、涙の結末は?男の打った最後の一手が、開けてはいけない扉を開ける!
<登場人物>
大沢健 ……AIロボット技術研究所運用部操作官
天野咲 ……アテナ社営業担当、健の幼馴染み
天野陽一郎 ……AIロボット技術研究所エリート研究員、咲の兄
三号 ……健の操作するAIロボット
四号 ……健の操作するAIロボット「佐藤翼」
辻秋成 ……AIロボット技術研究所運用部課長
里見高徳 ……AIロボット技術研究所所長
武見結花 ……女子陸上界のエース、咲の大学のクラスメイト
轟 ……アテナ社の咲の同僚
坂本 ……アテナ社の咲の同僚
東條 ……アテナ社の咲の上司、部長
菊池 ……アテナ社の警備主任
<感想>
舞台は2060年の東京。
車は自動運転で安全に走り、
最新鋭のロボットが街に溢れる時代。
人間と見分けがつかないほど
精巧なAIロボットを遠隔操作して
街をパトロールする操作官・大沢健は
幼馴染みの天野咲に恋心を抱いていた。
3度目の東京オリンピックを控え
活気づく街に爆破テロが発生。
しかも狙われたのは咲の勤める会社だった。
「佐藤翼」という警備員として
咲と接するうちに、
咲はロボットの翼を好きになるが
ロボットごしに咲が好きな健は
その秘密を知られるわけにはいかなくて……。
切なさ溢れるSF青春ラブストーリー。
10代の中高生に人気の作家
山田悠介の人気小説。
『リアル鬼ごっこ』
『スイッチを押すとき』などで
前から名前は知っていましたが
今回初めて作品に触れます。
舞台となる2060年の東京は
現在よりもはるかに文明が進んでいて
車は自動運転で安全に走行。
街のいたるところに
人型ロボットが溢れているが、
安全性を考慮して
ロボットはロボットとわかるように
作らなければいけない法律がある。
その裏で政府は治安維持のために
警視庁の協力のもと極秘で
見た目が人間とそっくりな
AIロボットを開発して運用していた。
その研究所で働く大沢健が主人公。
彼は専用のロボットを操作する操作官。
幼馴染みの天野陽一郎は
同研究所のエリート研究員。
よくロボットを無理させて
失敗してしまう健は
陽一郎に助けてもらいながら
なんとか任務をこなしている。
陽一郎には咲という妹がいて、
健は前から咲のことが好きだった。
東京オリンピックのテロ予告をきっかけに
咲をボディーガードすることになり
どんどん2人は距離が近づくものの、
咲の好意が
本当は自分に向けられたものではなく
ロボットの翼へのものなので
葛藤する健の心情が切ない。
「四号(佐藤翼)」は背が高い
スポーツマンタイプの好青年で
「自分(健)」は背が低く
ひょろい内気な青年という
ギャップがあるのもポイント。
途中に挿入される謎の「男」の
正体は推測できるが
それが最後の展開に
捻りを与える要因となっている。
伏線の回収よりもミスリードが上手い。
リーダビリティが高く
話の展開が面白いので
続きが気になって
とても読みやすかった。
AIロボットの名前に
『リアル鬼ごっこ』の主人公
佐藤翼が使われたのは
読者へのサービスだろうか。
この作品は
刊行前にアニメPVが作られていて
声優のキャストも発表されて
PVテーマ曲も製作されている。
『僕はロボットごしの君に恋をする』アニメPV
山田悠介ファンを公言している
AKB48横山由依さんのコメント。
読み始めると続きが気になり、
気づいたらあっという間に衝撃のラストでした。
愛する人の秘密を知ってしまったとき、自分ならどうするのだろう。
一途な想いは、たとえ言葉にできなかったとしても美しいなと思いました!
「ダ・ヴィンチ12月号」で
山田悠介さんと横山由依さんが
対談しているとか。
>AKB48横山由依「いつか山田悠介さん原作の映画に女優として出演するのが、私の夢」 長編小説『僕はロボットごしの君に恋をする』刊行対談
この対談で印象に残ったのはこの言葉。
“ただ、AIが出てくるお話って世の中にいっぱいあるんですよ。その中でも「これは面白そうだ」と思ってもらえるものがいいなって時に……僕が一番大事だと思ってるのは、題名なんです。手に取ってもらわないとしょうがないわけだから、題名でまず目を引いて、ツカミの設定で引っ掛かってもらうようにする。”
「ロボットごし?どういうこと?」
この不思議なタイトルは
確かに心を掴まれる。
略称は「僕ロボ」だそうです。
★★☆☆☆ 犯人の意外性
★☆☆☆☆ 犯行トリック
★★★★☆ 物語の面白さ
★★☆☆☆ 伏線の巧妙さ
★★★☆☆ どんでん返し
笑える度 -
ホラー度 △
エッチ度 -
泣ける度 ○
評価(10点満点)
7点
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※ここからネタバレあります。
-------------------------
●1分でわかるネタバレ
○被害者 ---●犯人 -----動機【凶器】
①多数のテロ被害者---●AIロボット---実験【爆殺:爆弾】
※黒幕---天野陽一郎
<結末>
テロを起こしたのは
天野陽一郎たち
AIロボット技術研究所の人間。
このテロ騒動の発端の
過激派の犯行声明を利用し
実際にテロを起こして
咲を守る健の愛情を強くして
完全なヒューマノイドを
作るのが狙いだった。
テロの犯人にされた健は
咲と一緒に逃亡するが、
GPSを埋め込まれていて
陽一郎に追いつめられ
そこで自分の秘密を知る事になる。
実は大沢健も
陽一郎たちが創り上げた
精巧なAIロボットだったのである。
愛情が暴走した健は
もう処分するしかない。
このまま破壊されるか
外国に出兵する兵士になるか
二択を迫られる。
健は抵抗したが捕まり
1ヶ月後には初期化されて
抜け殻のようなありさまで
海外に売られて行った。
それを見送る咲は
決して彼を忘れないと誓うのだった。
●どんでん返し
ロボットを操作していた
健自身もロボットだったというのが
この作品のオチです。
俺はこの作品を読んでいる途中で
健が咲ちゃんに真実を話したら
絶対に嫌われてしまうから
咲ちゃんもロボットだったら
お互いロボット同士で
仲良くなれるかもしれないなーと思った。
実はその予想は
作者の思うツボ。
それを逆手に取って
咲に何か秘密があるような違和感で
上手くミスリードしています。
※水色はミスリード、緑色は伏線です。
各章の冒頭であやしい「男」が
陽一郎であることは
ほとんどの方が予想していたと思う。
その男が何か目的を達成しようと
懸命になっているから
それは愛する妹のことだろうと思わされる。
「プログラム6」の冒頭を例にすると。
“なぜこうなるんだ!これまで繰り返してきた研究が再度失敗に終わった。しかも今回は改良に改良を重ねて満を持しての最終実験だったのだ。それがこんなことになるなんて。大事に育ててきただけに裏切られたという思いが込み上げてくる。愛情が深かったぶん男の中で憎しみが倍増していくのを抑えることはできなかった。”(単P.199、文庫P,214)
「男=陽一郎」なら
育てられたのは咲しかいない。
ましてや妹の買い物に
ボディーガードを付けようとするほど
溺愛している(単P.23、文庫P.27)から
その相手が大事な妹だろうと予想してしまう。
次は咲自身の違和感。
折り返し地点の爆発の時、
無残にちぎれ飛んだ四号の
すぐそばにいた咲は
武見さんを庇っていたはずなのに
なぜか「軽傷」であったこと。(単P.192、文庫P.203)
足を負傷していたようだが
そこまで痛がっている様子がない。
ここで「咲=ロボット」が濃厚になる。
健が咲に連れられて
陽一郎の部屋に入った時、
本棚にあった
「2050年Jライン航空機
墜落事故報告書」を読んだ健は
その内容を見て固まってしまった。(単P.215、文庫P.230)
実はこの事故で咲も死んでいて
それでロボットにすり替わって
妹として生活しているのではないか?と
読者に思わせているが
ただ衝撃的な内容に
健が驚いただけのようだ。
咲が中学時代から陸上で優勝しまくって
トロフィーがたくさん部屋に飾ってある。(単P.209、文庫P.225)
これも咲がロボットだから
人間には敵わないのだと思わせるミスリード。
健は高校・大学と天野兄妹と離れていて
ちょうど咲が中学生から
会えていないからこの間に
何かあっても変じゃない。
陽一郎が咲のショッピングに
付き合っている時の会話で
“「俺からしたらまだ中学生くらいの感覚なんだよ」”(単P.55、文庫P.60)
これも意味深である。
健がロボットだと判明するのは
陽一郎から聞かされる場面(単P.233、文庫P.246)だが、
それまでに手掛かりがあった。
テロ現場でコンクリートを
どかそうとして右足を骨折するが
痛みを感じなかった。
“そんなことは気にならなかった”(単P.189、文庫P.203)
アドレナリンが出て
痛みを感じない状態だと思わせている。
同様に辻課長の拳銃で撃たれたが
その後すぐ立ちあがって逃走した。(単P.223、文庫P.239)
実はこの銃はロボットだけに効果のある銃で
撃つと“不思議な感触を残して”
機械にダメージを与える。
健の幼少期の記憶は
陽一郎にプログラミングされたもの。
健の昔話に咲が怪訝な表情をするのは
咲をロボットと思っている人にはミスリードとなり
健をロボットと思っている人には伏線となる
ダブルミーニングであった。
“「小さい頃は男の子みたいだったもんな。笑うと陽ちゃんにそっくりだった。はじめて会ったときのこと憶えてる?いじめられてた僕を陽ちゃんと咲ちゃんが助けてくれたんだ。まさか幼稚園児に守ってもらうとは思わなかったよ。そんな咲ちゃんがご両親のお葬式のときに花を渡したら泣きだしたのには驚いたけどね」
そう言って健は小さく笑う。咲が健の顔を不思議そうに見つめ黙っている。ずいぶん昔のことだ。忘れてしまったのかもしれない。”(単P.210、文庫P.225)
その他の伏線っぽいものでは
テロ実行犯のロボットの手掛かり。
手の甲にある傷。
“「どうしました?」
健がインカムに告げると相手のロボットが気づいた。よく見れば手の甲を損傷している。この騒動で負ったのだろうか。”(単P.45、文庫P.50)
ただしこの傷は
アテナ社のスポーツショップで
リュックを背負った男の場面(P.62)や
折り返し地点のテロ現場(P.177)で
使われていないので伏線とは言えない。
後出しの意外な共通点にとどまる。
●欠点は?
- 「主電源」と「緊急自動対応モード」がすぐ近くにあって、同じ赤いスイッチというまぎらわしい状況はあり得ない設計ミス
- 単P.45、文庫P.49に「警備ロボット同士は当然識別できる」とあり、手の甲に傷のあるロボットを認識していたはずなのに、アテナ社のスポーツショップでぶつかった時になぜ(同じロボットなのに)識別できなかったのか説明不足
- 2060年という約40年後の設定なのに、スマホやVR技術が進歩していない
- 「男」の正体に意外性が無い
- 目的のためにテロまで実行する陽一郎が理解できない
- 咲は兄の職業(ロボット研究)を理解しているはずなのに、1度も翼がロボットではないかと疑わないのは都合良すぎる
- テロを起こした者たちが生き残ってしまうのは後味が悪い
- ハッピーエンドなのかバッドエンドなのかよくわからない
- アニメPVが良すぎたために小説の内容が薄くて物足りない
●勝手にQ&A
Q,なぜ陽一郎はテロ事件を起こしたの?その標的がアテナ社なのはなぜ?
陽一郎の目的はテロではなく
AIロボットに「愛情」を持たせて
完璧なヒューマノイドを完成させること。
東京オリンピックに過激派が
テロ予告をしてきたので、
健の咲への愛情を強めるため
それを利用して実験した。
アテナ社が狙われたのは
あらゆるスポーツの総合メーカーで
オリンピックの公式スポンサーだから
ここが潰れると影響が大きいため。
咲が勤めていたのは偶然だった。
Q,そこまでしてAIロボットを完成させようとするのはなぜ?
1番の理由は
亡くなった両親の意思を引き継いだこと。
父親の研究を自分の手で
完成させたい想いが強く、
自分の私利私欲のためではない。
その目的のためには
愛する妹も利用する覚悟がある。
Q,健がテロの犯人とニュースで報道されたが、最初からそのつもりだった?
いいえ。
健が部屋を飛び出して
規則違反をしたために
もう処分するしかなくなったため。
警視庁と連動で研究しているので
健を指名手配してもらい、
警察の手で破壊するつもりだったと思う。
Q,咲のストーカー男は誰?
名前は登場していない。
大学時代に咲に言い寄っていた男で
読者にこの人物がテロの犯人かと
最初は思わせているが、
すぐ取り押さえられ
健の記憶に無い顔であることから
犯人でも無いことが序盤でわかるザコキャラ。
実は陽一郎は
こいつが咲に何かしでかすんじゃないかと
心配だったので
健をボディーガードに付ける
絶好の機会でもあった。
Q,主人公の行動が公私混同で甚だしい!感情移入できなかった。
健の行動はそうなるように
陽一郎たちに操られています。
毎日の行動を観察して微調整が加えられ
咲に愛情を抱くように操作されていた。
唯一の誤算が職務規定を破ってまで
部屋を出て咲を助けに行ったこと。
その時点で制御できなくなり
もう手遅れだった。
Q,すごく軽い内容でした。私はこの方の本を読むのは初めてでしたが、タイトルと初めの2章で結末までの予想がつき、それが当たっていました。人気がある、やアニメ化と言われていただけあり、結構残念でした。
結末を予想できたから駄作とか
驚いたから傑作という判断基準ではなく
エンタメ小説は単純に
面白いか面白くないかでいいと思います。
Q,どちらもロボットだったという結末はアリですか?
ミスリードのところで
咲がロボットのように見せかけて
……とあったが
実は咲もロボットなんじゃないか?と
疑う気持ちはわかります。
結論から言うと
そのようには書かれていない。
咲は「人間」という解釈でいいと思う。
健が初期化された後で
咲がロボットとわかっても蛇足に感じるし、
それなら健を助けて戦いながら
咲もロボットとわかるようにするべきでしょう。
そのエンディングよりも
咲が健の「メモリー」を持っていて
いつでも健が復活する希望が
未来に残されたエンディングであると
割り切った方がいいと思う。
ワスレナグサの花言葉。
「私を忘れないで」
そして「真実の愛」
咲の初恋の相手だった「章弘」は
後の「健」でもあり「翼」でもある。
つまり咲の好きになった相手は
いつも同じ人物だったのです。
何年かかったとしても……
咲はきっと「彼」に会えると信じたい。
【追記】
文庫化にあたり
「それから--」という
3年後の物語が追加されました。
3年後の札幌国際女子マラソンで
復活を目指す武見結花を
咲がサポートするエピソード。
テロを起こした
陽一郎と里見は首謀者として逮捕されたが
陽一郎は密かに健の新しい体を造り
咲の持っていたメモリーを使って
最後に咲と健が再会します。
(外見は今までの健とは違うらしい)
そしてPVのラストと同じセリフで終わる。
「これから、どうしよう」
「もしよかったら、一緒にどこか行きませんか?」
これなー。
このセリフどのシーンだろう?って
本編を探したけど無くてね、
PVのオリジナルたと思うんだけど
それを逆に取り入れてくるのは上手い。
しかもこのセリフの場面が
実は本当のラストシーンだったという
伏線回収にもなるわけで。
2人は幼なじみなのに
何でこんな余所余所しい会話なんだろうと
不思議には思ったんだけど
“新しい健”での再会の場面なら納得だし、
後ろに人の声が多数聞こえるのは
マラソンのゴール地点だとわかるし、
PV制作時からアニメのラストは
この再会シーンを追加しようと
思っていたのでしょうね。