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【ネタバレ注意】相沢沙呼『invert 城塚翡翠倒叙集』の感想・伏線解説・考察

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すべてが、反転。

『invert 城塚翡翠倒叙集』

相沢沙呼

(2021年)

 

 

前作『medium』を読んで

伏線の多さと丁寧さに

続編も読んでみようと思いました。

今度は倒叙形式の短編集。

 

あらすじ

「雲上の晴れ間」

 

「ジェムレイルズ」代表取締役社長

吉田直政はキッチンで

漢方薬を鍋で煮ながら

部下の狛木繁人の頼みを冷たく断った。

吉田は「ピクタイル」を売ると言うが

あれは狛木が企画したものだ。

今までずっと吉田は

狛木の功績を一人占めしてきた。

狛木の我慢ももう限界だ。

 

19時58分。

狛木はウレタンシートを巻いたレンチで

吉田を殴り倒した。

気絶した吉田を浴槽に引きずり

服を脱がして

上半身をバスタブに突っ込んで

自動でお湯を張り頭を押さえて溺死させた。

 

気づいたら鍋の火が点きっぱなし。

火を消したが酷い悪臭だ。

吉田に渡された炭酸飲料の

ペットボトルについた自分の指紋を拭った。

「吉田、今日から僕は自由だ」

 

狛木のスマホに着信が有り

同僚の須郷からだった。

会社のサーバーが落ちて

アラートが来ているらしい。

狛木はスマホをスピーカーモードにして

ウェブカメラで須郷とビデオ通話しながら

エラーの原因を調べる。

コードの修理作業は会社からしかできない。

作業は20時から23時までかかったが

会社から吉田のマンションまで

1時間かかるから

これで狛木のアリバイは完璧だ。

 

そんなある日、

狛木の隣の部屋に

若く美しい女性が引っ越してくる。

その女性は城塚翡翠と名乗り

狛木の部屋から

人の声が聞こえたと言ってくる。

霊感が強いらしい。

まさか吉田が……?

翡翠はその霊がなにか訴えているから

ぜひ協力したいと言うのだが――。

 

 

「泡沫の審判」

 

小学校教諭の末崎絵里

暗い廊下を歩いて

自分の担当する二年の教室に入った。

「遅かったじゃないか」

そこにいた男、

田草明夫が下劣な笑いを浮かべる。

 

絵里を脅迫していた田草は

金の入った封筒を受け取った。

その時窓の外に注意を向け

外を見た一瞬のすきに

絵里は田草の頭を

コンクリートブロックで殴りつけた。

あっさり死んだ……。

 

封筒を回収し

台車に田草の死体を乗せる。

靴を履いていない?

スリッパが二足あり片方が濡れていた。

スリッパと凶器も隠し

革靴を無理矢理に履かせるが

片方だけうまく履かせられない。

金槌を握らせてポケットに入れ

手に軍手をはめさせる。

 

台車で死体を三階の理科室へ運ぶ。

そして絵里はベランダの手すりから

田草の死体を落とした。

「大丈夫、私は何も間違ってないから」

 

昨夜、不審な男が学校に侵入し

三階から落下した事故のため

学校は休校になった。

そこに興味を持った翡翠がやってくる。

田草は2年前までここの校務員で

21時48分に防犯システムが感知して

警備会社の人間がやってきて調べたところ

田草の死体を発見した。

 

田草は配水管を昇って

理科室のベランダから入ったらしい。

理科室はよく鍵をかけ忘れると

職員の間で問題になったことを

田草も知っていたようだ。

一階と階段は防犯カメラがあるため

三階から侵入したが

廊下の赤外線感知システムは

昨年導入したもので

田草は知らずに引っかかった。

あわてて逃げようとして

転落したと警察はみている。

 

翡翠は死体のかかとに

蟻がとまっていること、

濡れた競馬新聞、

理科室の写真を見て一言。

「これは殺人事件です」

 

 

「信用ならない目撃者」

 

探偵会社「YUリサーチ」社長

雲野泰典は依頼人の秘密を握って

それをネタに政財界の大物を

意のままに操って金を稼いでいた。

そんな彼の手口を快く思っていない

社員の曽根本が告発する。

 

仕方ない。

雲野は殺人を決行することにした。

防犯カメラの死角をつき

曽根本の住むマンションの

四階の部屋を訪ねる。

雲野は話がしたいと中に入り

曽根本がかがんだ隙に

拳銃をこめかみに当てて動くなと命じる。

「今すぐ例のデータを削除してほしい」

 

しかし正義感の強い曽根本は拒否した。

雲野は抵抗する曽根本を押さえつけて

容赦なく引き金を引く。

ぐったりとなる曽根本。

その時、窓の外が気になった雲野は

開いたカーテンから外をのぞくと

50メートル先の

雑居ビルのベランダに

女性がいて双眼鏡で

こちらを見ていることに気がついた。

あわててカーテンを閉めようとしたが

円形のハンガーが邪魔で

一度外してカーテンを閉めて

ハンガーを戻す。

女は部屋の中に入ったようだ。

見られたか?どうする?

 

今日は獅子座流星群だから

星空を見ていたのだろうと思い

落ち着いて雲野は偽装工作を済ませる。

自分の指紋を拭きノートパソコンを

スマートウォッチの連動で解除し

不都合なファイルを削除して

遺書をUSBでメールに送った。

帰り際に雲野はある物が気になり

それを持って帰ることにする。

合鍵で密室にした。

物証の無い完璧な殺人だ――。

 

一方その頃、

殺人の瞬間を見たかもしれないと

涼見梓は母に電話していた。

しかし酔っていたため自信が無い。

母も信じてくれそうに無い。

もう寝よう。

どこかにいい男が現れないかな……。

 

数日後、

雲野の元に警察と一緒に

城塚翡翠と名乗る女がやってくる。

噂に聞いていたが

霊媒で犯人を当てるらしい。

そして翡翠はその不思議な力で

雲野を犯人だと目星をつけている様子。

他殺だというのは目撃者がいたからだ。

やはりあの女が見ていたのだ。

 

雲野は目撃者が

はっきり顔を思い出せないから

決め手にできないんだと判断。

ならば目撃者に接触して

証言を撤回させればいい。

雲野は涼見梓の部屋のチャイムを鳴らす。

そして彼女が目撃したのが

誰なのかあいまいであること、

雲野に好意を持っていることを利用し

曽根本自身が銃を持っていたように

証言を誘導していくのだった――。

 

作品解説

社長に成果を奪われたプログラマー、

脅迫されている小学校の女性教師、

非情な元警察官の探偵社社長の

三人の犯人側の視点から描かれる

倒叙ミステリー形式で

霊媒探偵・城塚翡翠の

シリーズ2作目にあたる中短編集。

前作のネタバレが入っているため

前作未読の方にはおすすめできない。

 

短編「雲上の晴れ間」

短編「泡沫の審判」

中編「信用ならない目撃者」

 

この三編が収録されている。

今回は千和崎真が助手として

翡翠の推理をサポートする。

翡翠は千和崎がいないと

まともに生活できないくらいだらしないが

一度探偵として現場を訪れると

鋭い観察眼で

たちまち犯人を特定してしまう。

 

倒叙推理ということで

第三話には

探偵社社長が依頼人の秘密をネタに強請る

『指輪の爪あと』

殺人の目撃者に接触して証言を変えさせる

『ホリスター将軍のコレクション』

犯人が探偵を分析する

『殺人処方箋』

銃を向けさせて自白させる

『もう一つの鍵』と

「刑事コロンボ」ネタが詰まっている。

 

 

感想

う~ん。

これは評価が難しい。

少し辛口になってしまいますが、

そういう反転の仕方は

確かに予想外ですが

「で?」っていう感じ。

 

3つの中では「泡沫の審判」が白眉。

しかし最後の「信用ならない目撃者」が

かなりの問題作でして……

一気に評価が下がってしまった。

 

あと翡翠の口を借りて言わせる

作者の持論のパワハラ。

はい手掛かりは出揃いました、

探偵の推理を推理してください、

ここに手掛かりがあることは自明です、

犯人に気づいたきっかけを指摘してください、

たいていの読者はただ驚きたいだけ、

論理は蔑ろにされている、とか。

 

推理小説の楽しみ方は人それぞれです。

すべての犯人、トリック、動機を

当てなければいけないなんて

誰が決めたのですか?

そうやって敷居を上げると

ミステリーが売れなくなって

読者も減るのでは?

 

当てずっぽうで犯人が当たったといって

それは推理しなかったことにはなりません。

怪しいと感じたことを

うまく説明できないだけで、

後であの時の行動や台詞が

あやしかったんだよな~と

答え合わせすればいいじゃないですか。

自分でがっつり推理しながら読むも良し

推理を探偵に任せながら読むも良し。

堅苦しく読む必要なんてないと思います。

 

閑話休題――。

ところで城塚翡翠って

実写化したらみなさん誰のイメージ?

外国の血が入ってるから

ハーフタレントが思い浮かびやすいから

玉城ティナさん?

池田エライザさん?

浜辺美波さんも想像しやすいが

他と被るので避けたいところ。

 

俺はですね、

齋藤飛鳥さんイメージで読んでます。

ミャンマーと日本人のハーフ。

普段ぱっつんストレートヘアーなので

翡翠のウェーブヘアーではないけど

そこはそれ、です。

 

千和崎真は小芝風花さん。

2人とも身長158cm。

実写化するなら是非これで。

 

ちなみに第三話「信用ならない目撃者」の

雲野はロバート・カルプが脳裏をよぎったが

なんとか風間トオルで修正しました(笑)

 

☆☆☆☆☆ 犯人の意外性

★★★☆☆ 犯行トリック

★★★☆☆ 物語の面白さ

★★★☆☆ 伏線の巧妙さ

★★☆☆☆ どんでん返し

 

笑える度 -

ホラー度 -

エッチ度 -

泣ける度 -

 

評価(10点満点)

 7点

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ここからネタバレあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1分でわかるネタバレ

「雲上の晴れ間」

○被害者 ---●犯人 -----動機【凶器】

吉田直政 ---●狛木繁人 ---憎悪【溺死:浴槽の水】

 

<結末>

会社にいたという狛木のアリバイを見破り

デスクの「C」の液体の痕から

翡翠は吉田の部屋に狛木を呼び出し

謎解きを始める。

 

狛木はあらかじめプログラムに

バグを仕組んでおいてエラーを起こし

殺害現場からリモートのビデオ通話で

須郷とバグを修正するふりをしていた。

背景にホワイトボードを置いて

会社にいるように思わせたが

実は吉田の部屋にいたのだ。

 

「C」は吉田の漢方のマグカップの痕で

その上に狛木がノートパソコンを置いたため

輪が欠けてしまった。

そのノートパソコンの裏にはまだ

漢方の成分がついていますと翡翠。

狛木は潔く罪を認める。

 

 

「泡沫の審判」

○被害者 ---●犯人 ---動機【凶器】

田草明夫 ---●末崎絵里 ---障害の除去【撲殺:コンクリートブロック】

 

<結末>

子供たちの会話から

絵里も知らない事実をつかんだ翡翠。

それは事件の日に子供たちが

こっそり絵里のシャボン玉で遊んでいたこと。

そのために教室の床に

シャボン玉が残っていて

田草のスリッパや競馬新聞を濡らした。

 

絵里の作るシャボン玉は

母から教わった特別なシャボン玉で

割れにくいように砂糖が入っている。

そのため死体のかかとに蟻がとまった。

 

犯行を見逃してほしいと頼む絵里に

翡翠は言う。

「自分が正しければ人を殺してもよいと

子供達に胸を張って言えますか?」

絵里は自首を決意する。

 

 

「信用ならない目撃者」

○被害者 ---●犯人 ---動機【凶器】

曽根本 ---●雲野泰典 ---口封じ【射殺:銃】

 

<結末>

マジックショーの帰りに

目撃した人物の顔を思い出そうとする梓。

もしも思い出したら殺すしかないと

雲野は銃を用意して梓の部屋へ。

そこに翡翠がやって来て

雲野の腕時計をすり盗り

この腕時計は殺人の時もつけていたから

曽根本の指紋・血痕・発射残滓が

残っているはずだと追い詰める。

 

2人とも消すしか無いと判断した雲野は

まず翡翠を撃ち殺した。

そして逃げる梓も追いかけて撃ち殺す。

だが……なにかおかしい。

梓が笑いながら立ち上がる。

後ろから翡翠が雲野を押さえ込んだ。

どういうことだ!?

 

本物の涼見梓は海外で

梓が翡翠、翡翠が真だった。

翡翠は先回りして目撃者になりすまし

雲野に近づいて証拠を探していたのだ。

 

他殺を疑ったきっかけは消えた靴下。

カーテンを閉めた時に靴下が落ちて

血だまりで汚れてしまったから

雲野が持ち去ったのが失敗だ。

あとは雲野が梓を消したくなるようにして

銃を出させればいい、という計算だった。

 

 

どんでん返し

今回のどんでん返しは

第三話「信用ならない目撃者」で

使われた叙述トリック。

 

目撃者の涼見梓は

城塚翡翠の変装でした。

と言っても最初の

母親に電話している梓は本物で

雲野がやって来た時に対応した梓から

翡翠が入れ替わっています。

※梓(本物)と梓(翡翠)で区別。

 

叙述トリックといえばミスリードです。

最初に本物の涼見梓が

出ていることが1番強力なミスリード。

次に雲野の訪問で対応した梓は

老けメイクをしているとはいえ

ふっくらした頬で

あまりにも翡翠と外見が違う。

雲野の主観が入っているとはいえ

化粧気のない三十代の女性と書いてある。(P.284)

 

④外見の特徴では

とくにシミの浮いた鼻が強力だ。

まずは梓(本物)。

梓は室内を歩きながら、そんなことを考えていた。鏡の前で立ち止まり、通話を続けながらそこを覗き込んだ。シミの浮いた鼻先を指先で擦って、考え直す。(P.255)

変装した梓(翡翠)。

「あ、これ見たことあります」彼女はシミの浮いた鼻を掻いて笑う。薄いメイクをしているようだが、隠し切れていないようだ。(P.285)

これはシミも再現した

完璧なメイクをしているということ。

 

梓(本物)から

「やっぱり曽根本だったような気がする」と

電話がかかってきたのも強い。(P.292)

しかも雲野が梓(翡翠)に接触した直後で。

唐突に梓から連絡が来て、目撃証言を撤回してきたのである。雲野泰典が翡翠の予想を裏切り、大胆にも目撃者に接触を試みてから、すぐのことだった。(P.293)

「すぐ」という書き方のため

梓と翡翠が別の場所、

かなり離れた場所にいるような

想像をしてしまう。

(実際に海外なので遠いのだが)

⑥しかも接触してくることは

翡翠には予想外だったので

翡翠が雲野にまんまと

出し抜かれたような印象を与えている。

実は真と接触してくるか賭けをしていて

その予想が外れたというだけだった。

 

終盤だが

翡翠が撃たれた時に

真が本気で心配していたこと(P.392)

ミスリードの補強になっている。

雲野の表情を読む力で

作戦を見破られないために

真にも予想外の展開を作る必要があったらしい。

 

 

では涼見梓の正体を

翡翠と見破る伏線はあったのか?

 

【雲野の接触】

梓(本物)から電話で

「やっぱり曽根本だった」の後の

翡翠と真の会話で

雲野が目撃者に接触したことを

当然のように知っている。(P.293)

  • おそらく多くの読者が一瞬ここは違和感を持ったはず。雲野が梓に接触してすぐ電話したのになぜ翡翠はもう知っているのか?そこまでお見通しなんてエスパーかよと。……梓が翡翠本人だからでした。

 

【メイクの変化】

クルーズ船のディナーの時は

梓(翡翠)のシミが消えて

肌は若く見える。(P.329)

  • 老けメイクからメイクを薄くして元の若さに戻しているだけ。

 

【明日締め切りのイラスト】

雲野が一線超えて来ないように

明日締め切りの

イラストの仕事があると嘘をついた。(P.348)

  • 変な雰囲気になってエッチに持ち込まれたら嫌だから翡翠は予防線を張ったのだが、読者は意外と梓は身持ち固いのかなと思ったはず。イケメンに飢えていた最初の梓の印象と矛盾している。

 

【カードの記憶力】

梓(翡翠)がマジックショーで

マジシャンがトランプを広げて

10秒間で梓(翡翠)が記憶し

雲野が言った「クラブのキング」が

何番目にあったか当てる場面。

梓(翡翠)が「18枚目」と言って

本当に18枚目にあって雲野が驚く。

梓(翡翠)は自分の潜在的な記憶力に

自信を持った。(P.367)

  • 雲野はマジシャン側のすり替えトリックだと思っていたが、これは梓(翡翠)が優れた記憶力で10秒でカードの位置を覚えて当てていた。これも自分の時計の文字盤がローマ数字かどうか記憶していなかった場面とのギャップで違和感を与えている。

 

【信用ならない目撃者】

ミステリーには

「信頼できない語り手」という

語り手が嘘をついても

許されるポジションがある。

犯人だった場合とかがそうです。

今回の目撃者の梓も

そのポジションでした。

  • タイトルが「信頼できない目撃者」だと、仕掛けがバレそうだから変えたんでしょうなぁ。いや変えたとは言ってやしませんよ。変えたんでしょうなぁと言ったんです。

 

もう1つのどんでん返し。

この話で警察と一緒に

雲野の事情聴取に来た翡翠は

千和崎真でした。

翡翠は生理のため体調が悪く

真に代役を頼んでいた。

こうやって2人が入れ替わることは

推理の訓練をするため何度かあるらしい。

 

ミスリードですが

翡翠(真)の言動は

全て翡翠の真似なので

見破ることは難しいです。

 

入れ替わりの伏線としては……

【体調の悪そうな翡翠】

ベッドで寝そべっている翡翠は

お腹に枕を載せている。(P.275)

  • Tシャツにジャージという服装に目を向けがちだが、枕を腹部に載せて暖めていることに注目。生理痛である。真が気を遣ってノンカフェインの珈琲を渡した。

 

【背の高い翡翠】

梓(翡翠)は刑事2人と

一緒にやって来た翡翠(真)を

背が高いと描写している。

「あ、ええ、怖そうな顔の……。あと、若い女性の方にいろいろしつこく……。なんて言ったかな、変わったお名前の。すごく綺麗で、すらっとして背の高い方

「城塚さんではないですか?」(P.287)

  • 翡翠の身長に関しては『medium』でも本作でも全く触れていない。が、背の高いイメージではない。

 

【あらら、あわわ】

翡翠(真)が真似る翡翠の口癖

「はわわ」を「あわわ」

「あれれ」を「あらら」と

間違えて使っている。

  • こんな細かい違いに普通は気づかない。読み返すと確かに翡翠(真)は「あわわ」が3回(P.262、P.303、P.377)「あらら」が6回(P.265、P.307、P.309、P.333、P.376、P.385)だ。

 

★⑨【表紙の2人の翡翠】

今回も表紙にヒントがあった。

眼鏡を外した翡翠と

赤い眼鏡をかけた翡翠。

どちらも翡翠だが

その意味は?

  • 城塚翡翠の二面性を表現しつつ、翡翠に変装した真とのツーショットにも見える。さて、どちらが本物の翡翠でしょう?みなさんも考えてみてください。ヒントは……「」です。

 

その他の伏線解説

「雲上の晴れ間」

 

【ノートパソコン】

須郷とサーバーエラーの

原因を突き止めるために

狛木がノートパソコンを開く。

会話を交わしながら、狛木は黒いデスクに載せられているキーボードを脇に除けた。リュックから、スリーブに収められていたノートパソコンを取り出す。(P.17)

  • 狛木が会社内でエラーに対応するためになぜノートパソコンを取り出すのか?というのが最も重要な手掛かりだった。会社内であればデスクトップを使うのが普通だし、持ち運べるノートというのが作為的。(狛木はアリバイ工作で殺人現場から通信しています)

  ↓

【片付けたい誘惑】

そのデスクは散らかっているが

狛木は片付けたいと思っても

片付けようとはしない。(P.17)

  • 自分のデスクじゃないから。

 

【吉田のホワイトボード】

吉田の部屋のリビングには

ホワイトボードが置いてある。(P.51)

そして――。

  ↓

【狛木の机の後ろにホワイトボード】

翡翠が狛木の職場を訪ねて

狛木の働いている机を見て言う。

「すぐ後ろにホワイトボードを置かれているんですね」(P.69)

  • 翡翠が確認したかったのはホワイトボード。これを背景にすればビデオ通話の相手の須郷には狛木が会社にいるように見える。

 

【ファイルの反映】

20時からバグの原因を調べて

コード書き換えに

合計3時間かかったと説明。

でももっと簡単な方法もあると言う狛木。

「ああ、そうですね。ファイルを加筆して修正すると考えて間違いはありません。実際にはもっと便利なシステムがあって、修正をしたところの差分だけ、一気にファイルの上書きを反映させることができるんですけどね」(P.78)

  • そう言った後、狛木は「少し話しすぎてしまったかもしれない」と考えたが、これが今回のトリックに使われた。

 


 

「泡沫の審判」

 

【ハムスターのタンジ】

スクールカウンセラー奈々子に

真央が相談したことは、

ハムスターのタンジが

よくケージを脱走するからいつかは

帰ってこれなくなることを心配していた。

絵里は大丈夫、脱出してもタンジは

絵里の机の下がお気に入りだから

ここに戻って来ると言う。(P.149)

  • 三階廊下の赤外線センサーに反応させるためにタンジをわざと脱走させておいた絵里。タンジは机の下に必ず戻ってくるからすぐ元のケージに戻せると安心しているいうこと。

  ↓

【赤外線感知システム】

その赤外線感知システムを導入したのは

田草の退職後だった。(P.135)

  • 田草は赤外線感知を知らなかったから引っかかったというのも重要だが、この「赤外線感知システム」のことは、ここでしか触れていない。他はただ「防犯システム」としか書かれていなかった。赤外線感知だとハムスターのトリックが見破られやすくなるためだろう。

 

★⑰【お母さんのシャボン玉】

絵里の母も小学校教諭で

その昔、絵里にこう言っていた。

「お母さんのシャボン玉には秘密があるの」(P.140)

  • その秘密とは、砂糖を加えることでシャボン玉を割れにくくすること。この特製シャボン玉が決め手となって絵里は逮捕された。もしかすると、娘が間違った道に進まないように母が救ってくれたのかもしれない。

 

【転校生の小池大地】

奈々子が子供を

よく観察していることがわかる場面で

小池大地くんは

周囲の子と壁があると指摘すると

絵里が大地は四月に転校して来たので

まだみんなと打ち解けていないと聞く。

宗也と秋秀とは親しいようだ。

  • これを踏まえて次の場面を見てみよう。

  ↓

【一年ぶりのシャボン玉】

転校する優太のお別れ会のために

絵里が一年ぶりに特製シャボン玉を作った。(P.190)

「お別れ会では、シャボン玉をするんですか?」

「去年の生活の授業でやったんだけれど、好評だったから一年ぶりにね。一年生の九月にやる授業だから、二年生になると遊ぶ機会がもうないのよ」(P.190)

  • さらに次の場面では――。

   ↓

【特製シャボン玉を知っている大地】

子供達が口々に先生のシャボン玉は

他のと違って高くまで飛んですごいと言う。

「先生のシャボン玉は凄いんだよ!」

「他の先生のとは違うの!凄いんだ!」

宗也に続いて、大地が身体を跳ねさせながら言う。微笑ましい光景だったが、低学年児童とのこうしたスキンシップに慣れていないのか、奈々子はどっと疲れた表情でされるがままになっている。いい気味だった。(P.191)

  • この違和感に気づく人は鋭い。今年の四月に転校してきた大地がなぜ特製シャボン玉が凄いことを知っているのか?これがわからなかったんだ。奈々子(翡翠)もそれは親しい宗也に乗っかって大地がついた嘘だと思って本気にしていなかったが、実はもう大地はこっそりみんなと絵里の特製シャボン玉で遊んでいたのです。それが教室の床に落ちて田草のスリッパや競馬新聞を濡らす結果になった。

 

 


 

「信用ならない目撃者」

 

【妻の思い出の大事な腕時計】

雲野は亡き妻が選んでくれた腕時計を

長い年月大事に使っている。(P.331-332)

革のベルトは替えるが

本体は海外のメーカーから

部品を取り寄せないと交換できない。

  • こういった代えの効かない一点物は犯人特定の定石。案の定、この腕時計に曽根本の指紋・血痕・発射残滓などの殺人の痕跡が残ってしまった。

  ↓

時間を遡って殺人の直前。

雲野は腕時計を見ていた。

【腕時計に残った痕跡】

雲野は殺人の前に

コートを脱いで袖口をめくり上げ

腕時計をいつでも確認できるようにした。(P.240)

  • これがアダとなって、より腕時計に痕跡が付着した可能性が高くなってしまった。

その証拠品の腕時計をめぐる

攻防の仕上げ。

【腕を絡ませて歩く仲】

梓(翡翠)は雲野と

腕を絡ませるくらい懇意になった。(P.363)

  • この表記があるのはショーへ向かう道中だったが、実際に腕時計をすり盗ったのはショーの帰りだと翡翠が言っていた。(P.421)※ここは「欠点」でつっこみ。

 

【車の座席の下の隠し場所】

翡翠(真)が雲野の車の中で

缶コーヒーを渡そうとして

雲野の座席の下に落下。

翡翠(真)が手を伸ばしたので

雲野はあわててしまう。(P.303-304)

  • このわざとらしい落下の際に座席の下に銃を隠しそうだと(この時は隠してなかった)目星をつけておいた。翡翠はその驚き方で大事な物をここに隠していると指摘したが、大事な股間に若い女性の顔が近づいたら誰でも同じ反応するとは思うよ。

  ↓

銃をめぐる攻防は

ここで決着する。

【コンビニに行く雲野の隙】

雲野と梓(翡翠)が車での帰り道、

梓(翡翠)がミルクティーを握っている。

雲野がコンビニで買ってきてくれたらしい。(P.371)

  • コンビニに行った隙に座席の下の拳銃を空砲の拳銃にすり替えておいた。

 

【消えた靴下】

雲野が銃を突きつける時に

ソファの下に靴下の片方が

転がっているのを見つけて

それを教えて曽根本を屈ませた時に

銃を突きつけた。(P.241)

犯行後、靴下が血だまりに落下したため

雲野が靴下を持って逃げたが

ソファの下の片方を

持って帰り忘れてしまう。

  • 自分が最初に靴下に気づいていたはずなのに忘れてしまうのが面白いですね。

 

欠点や疑問など

  • 「すべてが、反転。」はしていない。Amazonレビューに「作者への信頼度はしっかり反転はしました」とあった(笑)
  • ハムスターのトリックは良かったが、他に面白い犯行トリックは無かった。連作短編のような話の繋がりも皆無。
  • 翡翠が嫌な女を演じて犯人をイライラさせているのだが、読者が犯人に共感できる第一話と第二話は、やりすぎて読者までウザく感じて逆効果になっている。コロンボは犯人がクソ野郎ばかりだからイライラしないのだ。前作より翡翠を嫌う人が増えたのは、そういうこと。
  • 翡翠の過去について全く語られないため、キャラの掘り下げを期待していた読者には肩すかし。
  • 第一話「雲上の晴れ間」は、キャップが開いているのに炭酸飲料の上部とキャップが拭いてあったことから第三者が現場にいたという論理がよくわからない。なぜ「被害者がわざわざ拭き取る必要がありません」と断言できるのか?開栓時に炭酸が噴きこぼれて被害者が拭いた可能性は?閉め方がゆるいのは、途中でなにかあって中断し(例えば電話など)閉め忘れたという可能性もある。あの臭い漢方を飲む被害者の嗜好なら炭酸を抜いて飲みやすくしている可能性だってあり得る。
  • 吉田のマンションのセキュリティの甘さは目を瞑るとして、IT企業の会社は警備会社が施錠の管理をしているので、狛木が24時に会社に入ったら警備を切った記録が残るのでは?
  • 吉田のリビングにホワイトボードがあるのはご都合主義。家でホワイトボード使います?パソコンでよくないっすか?
  • 第二話「泡沫の審判」は、タイトルでシャボン玉が決め手になることが読めてしまう。
  • あの子供達が先生に内緒で教室で勝手にシャボン玉で遊んだというのは苦しい。そんな先生の許可もとらないで勝手なことをする悪い子達に見えません。
  • 第三話「信用ならない目撃者」は、翡翠と真が入れ替わる叙述トリックがただ読者を騙すためだけのものにしか見えないため、不要に思われる。入れ替わっていたから何?だからどうだと?真が梓の役でもいいし。だったら、第一話も第二話も翡翠だと思っていたのが千和崎真だった方が驚く。そして三話とも翡翠を真が演じて、翡翠(本物)は海外で仕事中。2人の会話は実はリモートで通話していて、最後の事件で真がピンチに陥った時に翡翠が海外から帰って来て「待たせたな」ってヒーローのように颯爽と登場したら100点満点だった。
  • ……これを書いた後、ふと気づいた。いや俺が勘違いしてるのか!?と。あわてて第一話と第二話を読み返してみた。第一話は翡翠と狛木の接触を真がイヤフォンで聞いている。「あれれ」も使っているから間違いなく翡翠は翡翠だ。第二話も口癖「はわわ」と「あれれ」を使っているので、奈々子になっているのは翡翠だった。――焦った。もしかして、第一話と第二話もどこかでこっそり入れ替わっている仕掛けかと思ってしまったがそうじゃなかった。どこか一カ所でも「あらら」があったらさすがにやられたと思う。もう少しで「すべてが、反転。」するところだった。
  • 三人称の地の文で翡翠を「涼見梓」と書くのは反則と言う人もいるでしょう。涼見梓が“最初から翡翠の変装”ならまだ受け入れられたが、最初に“本物の涼見梓”が登場しているので、地の文で嘘を書いたことになります。叙述トリック警察は厳しいよ。最初の本物が“涼見”で翡翠の変装が“梓”で別人を示唆する書き方ならまだマシだったかも。
  • パスコードを誕生日にするという安易すぎることを探偵社の社員がするとは思えない。それと、身近にいる雲野なら曽根本のパスコードを盗み見たことがあるとかひどい決めつけ推理があったが、普通は同じ職場の仲間でも知られないようにしますよ。まあ雲野が知ってること自体も変だけど。
  • 犯人の目撃証言が窓越しに限定される発言を雲野がしたという話だが、雲野は曽根本の死が自殺だという話をしているのだから、自殺した部屋から想像が出ないため、窓越しに不審人物を目撃した人がいたと考えることに何も不思議は無い。少なくとも「致命的なミス」(P.360)ではなかった。前ふりで犯人が拳銃を持って逃げたという話をして、目撃者がいたら普通は不審者が夜道を逃げる姿を目撃したと想像するというのもわからんでもないが……逃げ出した瞬間を見たのならまだ部屋の中だし、廊下だってあり得る。
  • 警察が尾行を2種類使って雲野を欺いたというが、それくらい元警官の雲野ならわかるでしょ。
  • 第三話は追い詰め方にキレが無い。靴下に血がついたことはバレバレなのだからそこを詰めたり、スマートウォッチの心拍数ももっと早くわかりそうなのに一手遅い。結局、銃口を向けさせて自白させるだけとはがっかりだし、入れ替わってまで寸劇をする意味がわからない。
  • 第三話にはまだ致命的な欠陥が有る。梓(翡翠)はショーの帰りに腕を絡ませてその時に証拠品の腕時計をすり盗ったと言う。真に「よく気づかれなかったね」と言われると、翡翠はこう答えた。“「時計を気にさせないほど夢中にさせてあげればいいんです。冬なので、コートの袖で服は隠れてしまいますから、よっぽど意識しなければ気づかれません」”――とあるが、雲野は時計が無いことに気づくでしょう。“梓の自宅へと二人で向かう車内で、ハンドルを握ったまま雲野は言った。”(P.371)――車を運転する時、みなさんどうされます?ハンドルを握りますね。腕を前に上げますね。コートの袖がめくれますね。腕時計が見えますね。つまり……車を運転している時に、腕時計が目に入らないなんて、あり得ないんですよ。あれれ?もしかして相沢先生、腕時計を普段つけない方なんでしょうかぁ?うっかりさんですね~。文庫版で出すときはぁ、ベランダで梓(翡翠)の肩に雲野が手を回した場面で腕を絡めてぇ~、直前で盗んだことにした方がいいですよぉ~。テヘペロ!
  • 前作の連続殺人鬼の彼をボロクソ言い過ぎているのはライン超えてる。
  • これは欠点ではなく、俺もそうなりがちですが……他人の感想やコメントにいちいち反応してへこまないほうがいいですよ先生。批判っぽく見えてしまうけど、こんなに文字数費やして書くほどにレビューに「愛」はあります。ただ文句を言うつもりはありませんし、深掘りしまくって他の人が発見できなかった良い部分も伝えようとして書いてるつもりなんで――。ミステリマニアなんて因果な商売で、細かいことが気になって評価が辛くなるのに、翡翠がディスってる多くの驚きたいだけの読者は絶賛しているのが皮肉なもんですなぁ。

 

好事家のためのトリックノートトリック分類表

3-E、不在証明「視覚によるアリバイトリック」

●映像

【オンラインビデオ通話】

被害者の部屋からビデオ通話する際に、背景にホワイトボードを置き、会社の自分の席から通話していると思わせてアリバイにする。

 

8-A、発覚「物質的な手掛りの機智」

●犯人の失敗

【漢方の液体の輪】

被害者のデスクに、特製の漢方を入れて飲んだマグカップの底の輪の痕がついていて、そこに犯人が自分のノートパソコンを置いたために底のゴムに漢方の成分が付着し、輪が欠けていた。

 

8-A、発覚「物質的な手掛りの機智」

●探偵が仕掛けた発覚

【デジカメ】

盗撮マニアの被害者は金の受け取り現場もカメラで撮影して証拠を押さえていたという嘘の話を犯人に聞かせて、犯人が殺害現場を探して、探偵の置いたデジカメを発見したところに踏み込んで問い詰める。

 

8-A、発覚「物質的な手掛りの機智」

●偶然、超自然的なものによる発覚

【特製シャボン玉】

犯人の作るシャボン玉には砂糖が入っている。殺人の日、子供達が教室でシャボン玉で遊んでいて、夜の教室で殺害後、被害者の足や競馬新聞が床のシャボン玉で濡れた。外で発見された被害者のかかとには蟻がとまっていた。

 

9-A、その他「特殊トリック」

●小動物を利用する犯罪

【ハムスター】

教室で飼っているハムスターを逃がし、犯人が帰った後で廊下の赤外線感知システムに引っかかるようにして、夜中に不審者が入った偽装をする。

 

9-B、その他「叙述トリック」

●人物誤認

【梓→翡翠、翡翠→真】

目撃者として犯人と接触した女性は探偵が変装した姿で、探偵役はその助手が変装していた。

 

 

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