『大誘拐』という
誘拐ミステリーの流れから
次も誘拐ものに行ってみます。
『冷たい太陽』
鯨統一郎(2014年)
![]() | 冷たい太陽 (光文社文庫) 670円 Amazon |
最近になって文庫化された本です。
第15回本格ミステリ大賞候補作。
帯に
“「どれもこれも前代未聞!!」”
“「張り巡らされた仕掛けを見逃すな!
誘拐ミステリーの新たなる傑作、誕生!」”
ずいぶんと煽るなぁ。
読了して
確かに驚きはあったけど
傑作というのは……
あらすじ
東京都練馬区にある宝石店
<ジュエリーTEN>を訪れた
高村潤三(たかむらじゅんぞう)と
その妻、高村彩明(たかむらあやめ)。
お金を作るあてがあると言う彩明は
五千万円もするブルーダイヤモンド、
「冷たい太陽」に興味を示す。
8月8日の午前8時。
<あすなろ幼稚園>の保育士
星田有紀(ほしだゆき)は、
園児たち42名を連れて
紅葉山交通公園にやって来ていた。
ふと誰か一人少ないと感じていた時、
高村美羽(たかむらみう)ちゃんが
「陸くんがいない」と言ってくる。
浜岡園長に相談していると
そこに川波陸(かわなみりく)くんが戻ってきた。
ヒメジョンの花を採っていたらしい。
大きくなったら美羽ちゃんと
結婚すると言う陸くん。
5歳の子の微笑ましいプロポーズだった。
午前8時10分。
公園の鳩を見に行こうと誘う美羽。
陸はそれを断った。
一緒に行かなかったのは理由がある。
さっき鳩に触ろうとして
男の人に「触るな!」と
怒鳴られたのが怖かったのだ。
もしもあの時、
美羽と一緒に行けば……
健康食品の輸入会社<高村交易>社長
高村謙二(たかむらけんじ)は
切迫した会社の苦境に頭を抱えていた。
一週間以内に五千万円を作らないと
会社が潰れてしまう。
夫の様子を心配する
妻の高村絢子(たかむらあやこ)。
金を作るあてはないが、
家族のためにも
なんとかしないといけない。
午前8時20分。
有紀が園児たちを集合させる。
すると美羽がいないことに気付く。
陸が鳩を見に行ったことを教える。
みんなで捜したが
美羽の姿はどこにもなかった。
高村家に電話がかかってくる。
老家政婦の荘泰子(そうやすこ)が出ると
変声器で変えた声で
「美羽を預かった。
返してほしかったら
五千万円を用意しろ」と言ってきた。
最初はイタズラかと思ったが、
相手の声が緊迫していて
冗談には思えない。
ともかく旦那様に知らせないと……
化粧品輸入販売会社<サンシャイン>社長
五井博美(ごいひろみ)は
会社内部で自分を
追い落とそうと企む部下たちの
クーデターに脅えていた。
ふと娘の美羽のことを想う。
博美は高村謙二と結婚したが
2年前に離婚して親権を謙二に
渡してしまったことを後悔している。
荘泰子が慌てて
謙二たちのもとにやってきて
美羽が誘拐されたことを話す。
そこに電話が鳴り、
犯人は
「一時間以内に五千万円を用意しろ」と
脅迫してきた。
謙二は星田有紀先生の携帯に電話して
犯人の指示通り、
美羽を連れて帰ったと説明すると、
「美羽ちゃんの姿が見えないので
心配していたんですよ」と返って来る。
誘拐は本当だった。
<サンシャイン>のナンバー2で
専務の鳩山裕一朗(はとやまゆういちろう)が、
営業部の竹川寛(たけかわひろし)と
喫茶店で何事か計画している。
そこにレース鳩を飼っている
蕪木真司(かぶらぎしんじ)も加わる。
「社長を苦しめましょう」
警察に連絡したら
美羽を殺されるとあっては
お金を用意するしかない。
高村家の蓄えの一千万円、
会社の金が一千万円、
合わせて二千万円なら用意できる。
あとは元妻の博美の力を借りるしかない。
女子高生の高村かすみは
母親から美羽が誘拐されたという
知らせを聞いて動揺する。
まさか……妹が。
すぐに家に戻るかすみ。
<東光電気>に勤める謙二の息子
高村剛(たかむらつよし)も
父から事件の知らせを受けて動揺した。
<高村交易>に寄って
会社の用意した一千万円を持って
家に帰ってくるように頼まれる。
午前9時10分。
五井博美のところに電話がかかってきた。
明日は三千万円を
取引先に振り込まなければ
会社がピンチに陥るという
この大事に時期に……
電話の相手は元夫の謙二で
しかもその内容にさらに驚かされた。
「三千万円貸してくれ」
「美羽が誘拐された」と言う謙二。
にわかには信じられない博美。
しかし離婚したとはいえ
美羽は博美と謙二の娘。
自分が産んだ大事な子だ。
警察に知らせましょうと言うが
謙二は聞き入れない。
明日、
三千万円を振り込まなければ
<サンシャイン>は破綻する。
会社にとっても大事なお金。
しかし……
「わかったわ。何とかする」
高村家の家族の
必死の金策で
ついに五千万円が集まった。
そこに犯人から電話がかかってくる。
犯人の指定した取引方法は
とても奇妙なものだった。
“「五千万円を持って
<ジュエリーTEN>に行き、
「冷たい太陽」というダイヤモンドを購入しろ。
買いに行くのは<サンシャイン>の社員
竹川寛に一人で買いに行かせること。”
どうして宝石を?
そして竹川寛とは誰か?
わけがわからない謙二たち。
博美が言う。
竹川寛は営業部の人間で
成績は優秀だが
この役目を担うのは重すぎる、と。
竹川寛は
「目が見えない」のだ-----。
果たして
犯人の計画は成功するのか?
美羽は無事に帰ってくるのか?
五千万円の行方は?
そして、
事件の真相を暴いたのは
意外な人物だった--------。
解説
子供が誘拐され、
身代金五千万円を
要求される事件が発生した。
犯人の指示した取引方法は
「冷たい太陽」という宝石を
盲目の人物に買いに行かせて、
その宝石をレース鳩に付けて
空に放せ、という
奇抜なものであった……。
意外な結末が待つ誘拐ミステリー。
鯨統一郎のノン・シリーズ長編。
第15回本格ミステリ大賞候補作。
序盤から登場人物が
覚えきれないくらい大勢出てきて、
ほぼ全ての人物の年齢と体型が
詳しく書いてあるのだが、
そこにこの作品の
重要な手掛かりを潜ませている。
その登場人物たちが
次々と怪しい言動をするので
読者は混乱させられるだろう。
余白や改行が多く、
会話文がほとんどなので
テンポよくサクサク読める。
そのため軽い印象も受けるが
重要な一文を見逃しやすくする
テクニックにもなっている。
物語の中心になるのは
娘の美羽を誘拐された
父親の高村謙二。
前妻の五井博美の協力で
なんとか身代金五千万円を用意するが
奇妙な取引方法を持ちかけられる。
目の見えない人物に宝石を買わせて
その宝石をレース鳩に付けて
飛ばすという方法を使っている。
警察を介入したくない謙二に対して、
たまりかねた後妻の絢子が
警察に通報したことで
事件が大きく動き始める。
さらに、
かすみが単独で
「山崎探偵事務所」に事件の解決を
依頼したことで
思いもよらない展開に……
メイントリックは
終盤で明かされるどんでん返し。
ビックリ度は高いのだが
どうもスッキリしない。
「やられた!」というよりも
「何だよそれ」と
腑に落ちない人もいるだろう。
文庫版の表紙絵が
反則スレスレの騙し絵のような
ミスリードになっているのは
ポイントが高い。
欠点としては……
●小説風にして
事件を依頼する人はまずいない。
普通はまともに相手されない。
●家族の誕生日くらい
普通は日付まで
ちゃんと覚えているもの。
(伏せ字)2月29日(ここまで)なら
(伏せ字)2月末(ここまで)と言うより
(伏せ字)2月29日(ここまで)の方が
断然覚えやすい。
●「言葉遊び」「言葉のニュアンス」を
利用したトリックなので、
無理な言い回しが多く、
「普通そんな言い方しないだろ」と
釈然としないものが残る。
●細目の件はリスクが高すぎでは?
●こんなに犯人が誰にも姿を見られず
行動できるとは思えない。
●警察の介入が遅いのは
あまりにも都合良すぎる。
●身代金の使い方がその方法では
警察が真相にたどりつくのは
時間の問題。
というかそこまで警察バカじゃない。
俺の感想
真相を知った時、
「へえ~」とは思ったが
ちょっと脱力してしまった。
あまりやってほしくないタイプの
どんでん返しだね。
結末もスッキリしないし。
レース鳩を使った
身代金受け取りトリック。
それをダミーにして
本当の目的を達成するという
二重構造が良かった。
ネタバラシの伏線解説は丁寧で、
かすみが小説風に書いて
探偵に報告することで
読者と同じ目線になり、
ここの文章に
こんな手掛かりがあったんだと
一緒に振り返れる
メタフィクションな手法は
なかなか面白いと思ったが、
ちょっとクドい。
誘拐ミステリーで
安楽椅子探偵もの。
第三者を探偵役にした、
犯人サイドが描かれない
誘拐ミステリーなので
犯人当てが成立している。
長編だけど短編同様の
さくっと読める内容だし、
探偵役に魅力がないので
あまり読後に印象が残らない作品かも。
★★★☆☆ 犯人の意外性
★★★☆☆ 犯行トリック
★★★☆☆ 物語の面白さ
★★★★☆ 伏線の巧妙さ
★★★★☆ どんでん返し
笑える度 -
ホラー度 -
エッチ度 -
泣ける度 -
総合評価(10点満点)
7点
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※ここからネタバレあります。
未読の方はお帰りください。
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●ネタバレ解説
○被害者 ---●犯人 ---動機【凶器】
(誘拐)
①高村美羽 ---●高村美羽 ---金銭欲
結末
誘拐された美羽が無事に戻り、
警察は犯人を捕まえられず
事件は一応の解決。
その事件の真相を見破ったのは、
探偵・山崎……ではなく
その先輩の轟だった。
かすみの小説から
美羽は幼稚園児ではなく、
20歳前半の女性であると指摘。
美羽は父の会社の苦境に
五千万円を作るために
自作自演の誘拐劇を計画した。
真相は依頼主のかすみにだけ明かし、
経営難だった謙二の会社は
謎のV字回復を遂げる。
●叙述トリックについて
この作品の叙述トリックは
2種類あって、
まず中盤に探偵のもとに
依頼が舞い込むのだが、
ケータイ小説を投稿する趣味がある
高村かすみが、
「小説風」に依頼するという
「作中作」になっている。
どういうことかというと、
読者が今まで見てきた文章は
「かすみの書いた物語」だったということ。
と言っても内容は嘘ではない。
実際に美羽は誘拐されているし、
謙二たちの焦りや金策の場面は
かすみが「想像で」補って
三人称視点で書いたということです。
それを後追いで
探偵側が読んで推理するという
なんともおかしな形になっている。
小説風に依頼する奴は
まず頭がおかしいと思うが
そうしないと、
もうひとつのトリックの解説を
第三者にやらせることができない。
そのもうひとつが
「美羽の年齢の誤認」
高村美羽は幼稚園児ではなく、
20歳を過ぎた保母(保育士)だった。
作中で丁寧に伏線解説してあるので
説明する必要はないのですが
それでは伏線解説の鬼の
プライドが許さないので(?)
繰り返しになりますが
説明していきます。
※ミスリードは水色、伏線は紫で説明しています。
保育士の星田有紀が登場した時、
走り回る園児たちを見ている。
①そこに「星田先生」と言って
美羽が声をかけてくるから
自然に幼稚園児だと認識させられる。
②美羽が「美羽ちゃん」と呼ばれているのも
園児だと思わされるポイント。
さすがに20歳すぎて、
ちゃん付けは厳しいが、
27歳の有紀には年下の可愛い後輩だし
そこは目をつぶろう。
③次の文章も美羽が幼稚園児に思わされる一文。
“<あすなろ幼稚園>の園児の親には、安全面から子供に携帯電話を持たせる者が数人いる。園もそれを禁じてはいない。”(P.15)
このことから
美羽が電話を持っていても不自然ではないし、
より幼稚園児だという認識が高まる。
最大の騙しポイントは
④美羽が「五歳」と答える場面。
“「陸くんは五歳か」
浜岡園長が口を挟む。
「うん。美羽ちゃんは?」
「五歳」
「そっか。菊組だもんね」
「結婚はまだまだ先だな」
そう言うと浜岡園長は笑いながらその場を離れて別の園児のもとへ向かった。”(P.17)
美羽と結婚したいと言う陸が五歳。
美羽も五歳と答える。
当然2人とも五歳なのだと考える。
しかし、
実際の美羽は22歳前後の女性で
幼稚園の保母さんだった。
美羽の誕生日は
2月29日。
閏年で4年に一度しか
正確な誕生日が来ないことを
陸くんとの間で冗談のように
同い年の五歳だねっていう
笑い話にしていた。
ここの菊組というのは
美羽の担当するクラス。
結婚はまだ先なのは、
お互いの歳が離れすぎているから。
そしてもうひとつの
重要なミスリード。
⑤高村かすみが
美羽を「妹」と呼ぶこと。
女子高生のかすみの妹なら
16歳以下と考えるのが普通。
かすみは美羽を「妹」と
言っているが、
血のつながった姉妹ではない。
美羽の兄の高村剛と結婚して
義理の妹ができたのだ。
この「かすみの設定」が
強力すぎて、
美羽が大人であることを
予想できなくしている。
17歳という年齢の
現役の女子高生が
まさか結婚していると
考える人もいないだろう。
続いて伏線解説。
この作品はやたらと
人物が登場した時に
年齢と顔立ちや背格好を
詳しく書いてあるのに
①高村美羽の登場の時だけ紹介がない。
→星田有紀の紹介のついでに
美羽が登場している。
②星田有紀と美羽たちが話しているところに
浜岡園長がやってきて
どうしたのか尋ねた時
有紀に「星田先生」と話しかけたが
美羽の名前を一回も呼ばなかった。
もしも呼んだら
「高村(美羽)先生」と呼んだのだろうか。
③美羽は携帯電話を持っているが
GPS機能がついていないこと(P.154)から
子供ではないことがわかる。
④美羽が5歳であれば、
現在42歳の五井博美は
37歳で出産したことになる。
17歳のかすみの妹として
5歳の美羽だと12歳の差があるのは
間が空きすぎている。
作中でも丁寧に指摘があったが
⑤高村家の玄関入ってすぐの廊下には
高村剛の目線と同じくらいの高さに
カレンダーが掛けられていて、
そこに美羽が文字を書いている。
“リビングに戻るために振り返ろうとしたとき、玄関にかけられたカレンダーに目が止まった。今日の日付の箇所に美羽の字で「こうつうこうえん」と書きこまれている。剛はその書きこみを立ったまま、まっすぐに見つめた。”(P.138)
→立った状態でまっすぐの、
つまり剛の目の高さに
美羽の文字があるということは
美羽も同じくらいの身長だということ。
この廊下には椅子などは置いてない。
美羽が自分で立った状態で
書きこんだということは
美羽が幼稚園児でないということだ。
高村かすみにとって
美羽は義理の妹。
⑥高村家の二階の間取りから
かすみが剛と
結婚していることがわかる。
“「二階建てで一階がリビング、ダイニング。バス、トイレがあります。二階は三部屋ありまして、それぞれ家族全員の寝室として使っています」”(P.148)
二階に三部屋……
“(美羽に自分の部屋を与えたのはいつだったろうか?)
そんな考えが唐突に浮かんだ。”(P.91)
三部屋の一室は美羽。
残り二部屋に謙二と絢子が一室。
すると剛とかすみが残ってしまう。
20歳前後の兄妹が
一緒に暮らしていると考えるより
2人は結婚していると考えた方が自然だ。
⑦剛がやけに
かすみの行動を気にしていたのも
2人が抱き合っていたのも(P.92)
夫婦であれば納得できる。
●欠点が多すぎる。
この作品の
人物の年齢誤認トリックは
確かに面白いのだが
「言葉遊び」のような
無理矢理な言い方が多すぎて
いまいち納得できない。
①まず「カレンダーの高さ」
身長175センチの剛が
「立ったまま、まっすぐ見た」場所に
美羽の文字があることから
美羽の身長が判明するわけですが
この書き方だと
剛の目線の高さに
文字があるのかどうか
はっきりしませんよね。
「立ったまま」「まっすぐに」
頭を正面に向けていても
目だけで斜め下を見ることだって
できるわけですから。
結局はカレンダーがどの位置にあるのか
別の方向から手掛かりがないと
これは上手い伏線とはいえないです。
※例えば
「落ちたカレンダーを剛が拾いあげて
エアコンのすぐ横に掛け直した」
とすれば高さがわかります。
「エアコン」なら幼稚園児の手の届くような
低い位置にないでしょ?
②そのカレンダーに美羽がひらがなで
「こうつうこうえん」と書いたのはなぜ?
漢字が書けないの?
それとも知能障害なの?
そんな説明は一切なかったけど。
日めくりカレンダーじゃないなら
狭いスペースしかないはず。
そのスペースに「交通公園」と書くなら
漢字で書くのが普通です。
③次に「五歳」の件。
陸くんに「五歳」と答える美羽。
2月29日生まれだから
いまは22歳だけど
閏年だけ数えると5歳。
……というのは
さすがに無理がありませんか?
それが幼稚園の中では
通用する冗談だって言われても
誰もわかりません。
④それに関係するのが「二月末」
剛が美羽の誕生日を思いだそうとして
「美羽の誕生日は二月末」と言うのだが、
家族の誕生日くらい
日付で覚えていませんか?
俺でも家族全員の誕生日の日付が言えますよ。
離れて何年も暮らしているわけでもないし
ましてや美羽は
すぐ下の妹だから誕生日を
覚えていないのはおかしい。
だいたい「2月29日」って
すげー覚えやすいと思うんすけど!
それに「二月末」って
あやふやな言い方しますか?
そこまで言うなら
2月29日って出てくるでしょ。
⑤そして「かすみの妹呼び」
美羽のことを「妹」と
呼ぶこと自体はまあ許す。
問題は警察に対してまで
「妹呼び」で通したこと。
そこはきちんと説明しなさいよ。
警察は
美羽を幼稚園児と思っているのか
保育士と知っているのか
最後まではっきりしない。
いやおそらく
実物を見て驚いたのではないか。
かすみが妹だ妹だって言うから
警察も読者と同じように
騙されていたのかもしれない。
⑥ついでにもうひとつ。
かすみが結婚しているのに
高校に通っている設定に無理がある。
(マンガやドラマではよくある設定だけど)
17歳で結婚できるのはわかるが
デキ婚でもないのに結婚するのは
早すぎると思う。
(子供を産んだとも、
妊娠しているという描写もなかった)
赤ちゃんがいないのなら
高校を卒業してから結婚しなよ。
結婚したなら学校行ってる場合じゃないでしょ。
バレた時点で退学だよ?
世間からの目に耐えられるの?
いったい親はどういう神経しているのか。
⑦あとこれは余談だけど、
美羽は五千万円を<高村交易>に使って
謙二の会社は回復したけど
我が娘のために三千万円を投げだした
博美のことはどうでもいいのか?
俺は博美が「何とかするわ」と言って
三千万持って来た時、
素直にこの人すごいと思ったよ。
そんな一番感情移入できた人が
一番不幸になっているのだから
読後に面白いと思えるはずがないでしょう。
⑧五千万円の使い方もひどい。
謙二の会社が急に持ち直したら
馬鹿でも犯人がわかるし、
美羽がどうやって
そのお金を使ったのか
全く書いていない。
足のつかないように
金を渡すのは
簡単なことじゃないよ?
もしかすると
謙二もグルだったのかも。
だから警察を介入させなかったのか。
仮にそうだとしても、
警察は騙せないと思うけどなぁ。
⑨小説にして事件を依頼するとか
⑩株で五千万円儲ける作戦を
わざとらしく口にするとか、
⑪宝石店の合鍵を気付かれずに作るとか、
⑫謙二に恨みを持つ細目を協力させるリスクとか
⑬誘拐計画を立てる家族がいるとか、
⑭その計画を嫌悪する陸くんが
なぜか美羽に話すとか……
あまりにもリアリティがなさすぎて
ツッコミどころ満載です。
Amazonのレビューに
こんな意見がありました。
“こういう叙述トリック系の作品に必ずある設定に無理があるという意見がこれまたあるが、叙述トリックなんだから読者に向かって騙しを仕掛けているんだから一種の全ての話の要素がリアリティがなくなってくるのは当然だろう。叙述トリックに対して設定に無理があるなんて意見ほど意味のない意見はない。”
はあ?
こいつ馬鹿なこと言ってんな。
例えばハードル走で
10台のハードルを綺麗に跳んで
早いタイムを出した選手と、
10台のハードルを全て倒して
早いタイムを出した選手を
同じように評価できますか?
できませんよね。
一つ二つ無理して
跳び越えられなくてもいいけど
あまりにも多すぎるのは
見栄えがよくないでしょう?
結果的に同じタイムだったとしても
その内容が伴わなければ
満足感は得られません。
ここで言う「ハードル」を
「無理のない設定」に
置き換えて考えてみてください。
「叙述トリック」は
嘘の記述をせずに
いかに無理のない設定で
読者を驚かせるかにある。
読後に納得できる設定ほど
やられた!という
快感が得られます。
叙述トリックならなおさらです。
“設定に無理があるなんて意見ほど
意味のない意見はない。”などと
言う奴は「叙述トリック」を
全く理解できていない証拠。
これほど意味のない意見はないですよ。
はい、出直してらっしゃい。
●文庫版の表紙絵
文庫の表紙絵は
なかなか上手いミスリード。
幼稚園で
背中を向けた園児と
手をつないだ黒い人物の
絵が描いてありますが
これ、どう見えますか?
黒い人物が誘拐した「犯人」で
園児が「被害者」に見えますよね。
しかしそれは間違いです。
園児の足に注目。
若干ガニ股ではないですか?
つまりこの園児は男の子。
おそらく陸くんでしょう。
とすると、
この手をつないでいる黒い人物こそ
高村美羽ということになりますね。
表紙を見た時点で
幼稚園児が誘拐される事件だという
先入観を植え付けている。
そして手前の鳩が
不気味にこちらを睨んでいます。
しかし奥の方に視点を移すと
冷たい太陽こと黒い太陽が
鳩の目に見えてくる。
そうなってくると
黒い人物と幼稚園児も……
思い込みを捨てて
視点を変えて見たら
全く違う光景が見えてくるのは
まるで騙し絵のようです。