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Channel: 裏旋の超絶☆塩レビュー
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嶽本野ばら『エミリー』の感想。

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ある人のおすすめで

嶽本野ばら作品を読もうと思い、

最初に手に取ったのは「下妻物語」。

 

しかし語り手の独特の文体に

馴染むことができず、

途中で挫折……

これは映画化されているので

あとで映画の方を見ることにして、

その代わりに

こちらの本を読んでみた。

 

嶽本野ばら

『エミリー』

(2002年)

 

表題作「エミリー」と

他2編が収録された短編集。

「エミリー」は

三島由紀夫賞候補になったという

評価が高い作品。

 

--------------------------

 

 

『レディメイド』

 

クールでミステリアスな

会社の男性に惹かれる私。

人生観や価値観を語れば

意見が分かれてしまう2人なのに

それでも私は貴方が好きなのです。

 

そんな彼から

2人だけで美術展への

誘いを受けた私は……

 

●男のクールな態度や

「食事をするなら食事、

仕事をするなら会議室で」という

堅苦しい考え方に、

ヒロインがうんざりしつつも

惹かれる様子が良き。

 

●MoMA展、マティス、デュシャンなど

絵画の蘊蓄多めで

さっぱり理解できなかった。

「処女から花嫁への移行」は

ググって見て

「ええ?これ何?」と驚いた。

キュビスムは苦手。

 

●ヒロインの台詞が丁寧なので

俺の脳内イメージは

堀未央奈ちゃんでした。

 

--------------------------

 

 

『コルセット』

 

僕が「死のう、死のう」と

思い続けて3年が経つ。

 

3年前の27歳の初秋、

一人の女性が亡くなった。

彼女の名前は「希彌子」。

その日、僕と希彌子さんは、

カフェーで飲みながら、

お互い家に帰って

自殺する約束をして別れた。

ほんの冗談のつもりだったのに

希彌子さんは本当に自殺してしまったのだ。

そして僕は死ぬ勇気もなく

希彌子さんが死んだ年齢と同じ30歳を迎えた。

 

どうせ死ぬのだから、と

僕はある決意を実行に移す。

それはいつも通う病院の受付嬢の

君をデートに誘う事だった―――。

 

●前半の主人公は

鬱状態ながら、

共感できる部分もあったが

後半の変化には嫌悪感。

 

●ラストも好きじゃない。

コルセットを結婚に例えて

束縛するものを外すことを

表現しているのはわかるのだが、

不貞は許容したくないという

思いがあるので受け入れがたい。

 

●洋服の蘊蓄が

さっぱりわからない。

 

●婚約者の行動は立派だった。

 

 

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『エミリー』

 

私はいつものように

Emily Temple cuteのお洋服を着て、

ラフォーレ原宿に座っていた。

そんな私に

SUPER LOVERSを着た

貴方が声をかけてくれた―――。

 

中学2年生の私は

可愛らしい服に似合わない

ショートカットだけど

Emily Temple cuteを着て

放課後にラフォーレ原宿に通い続ける。

ファッション雑誌に載った

私のロリータ写真がきっかけで、

学校でひどいいじめを受けるようになり、

私の居場所はここしかなかった。

 

小さい頃のトラウマで

男性恐怖症になった私だけど、

不思議と貴方は怖くなかった。

話をしていくうちに

貴方が同じ中学の3年生で、

私のことを知っていることや、

自分も居場所が無いこと、

それはホモセクシャルが

原因であることを打ち明けてくれた。

 

いじめられる少女と

ホモと呼ばれ避けられる少年。

困難な人生を歩む2人に

幸せな未来は訪れるのだろうか?

 

●最初はとっつきにくかったが

いじめのくだりから感情移入して

読む手がとまらなくなる。

 

●溜まりに溜まった鬱憤を

スカッと晴らす場面があって良かった。

彼の行動がかっこいい。

 

●Emily Temple cuteの服。

調べたらめっちゃ女の子な服で

こんな世界を俺が覗いていいのかと。

 

●あのクソ先輩にも天罰が欲しかったなぁ。

 

●「番った」という表現は上手い。

 

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名台詞まとめ

 

受付をしていた彼女は突然、

主人公に愛の告白をする。

“「君は、混乱しているだけですよ。そう、単なるマリッジ・ブルーです。よく考えて下さい。何故、君が僕に惹かれる必要と理由があるんです」

必要と理由がなければ、人を好きになってはいけないのですか!」”(P.78)

 

Emily Temple cuteを着た私に

店員さんが言う。

“「ボーイッシュな髪型が気になるなら、こうやって帽子を被ってみてもいいですし」。「……変、じゃ、ないですか?」「全然」「嗤われませんか?」「うーん、うちのお洋服は可愛過ぎるから、時にこういうお洋服に理解のない人達は嗤いますけれど……。でも、人の為に着るんじゃなくて、自分の為にお洋服は着るものだから、嗤われても気にする必要はないと思います。20歳を過ぎても、30歳になっても、うちのお洋服を着ておられる方は沢山、いらっしゃいますよ。皆、もうこんな可愛いお洋服を着ている場合じゃないんだけどといいながら、でも、買っていかれます。お洋服が似合うか似合わないかは、体型や年齢、容姿で決まるものではないと思います。似合うかどうかは気合いしだいです」”(P.128)

 

自分がホモセクシャルだと

告白する貴方に私は言う。

“「もし貴方のことをホモセクシャルであるというだけで、馬鹿にしたり、正当に認めない人がいれば、私はその人を殴りにいきます。素手では余り痛くないだろうから、金槌で、殴ります」”(P.161)

 

貴方が私を助けたのは

怒りを抑えることが

できなかったからだと言う。

“「自分に降りかかる誤解や嘲笑なら、自分で処理することが可能だ。絶体絶命になろうと、これで自分の一生は終わりなのかと腹を括れるだろう。でも自分の大切な人が死の淵に立たされた時、僕は自分の中でそれを仕方のないことだとは思えない。大袈裟ないい方になるかもしれないけれど、僕には自分の命より君の命の方が遥かに大切なんだ」”(P.183)

 

私は貴方と出会ったことで

居場所が出来たことを感謝する。

“貴方がこの世界に生まれたことを、そして私がこの世界に生まれたことを、私は祝福します。多分、私は貴方と出会う為にこの世に誕生したのです。貴方とこうして番う為に、生命と身体を渡されたのです。生まれてきて良かった。この残酷な世界に生み落とされたのは、きっと貴方に出会う為だったのですよね。生まれて初めて、私は自分が生きていることを感謝しました。”(P.213-214)

 

俺の感想

 

この3作では

「エミリー」が1番良い。

2番が「レディメイド」

「コルセット」は内容的に

あんまり好みではなかった。

 

「エミリー」のいじめられる様子が

ほんっと腹立たしくて

俺がぶん殴ってやりたいくらい。

なぜ学校内で問題にならないのか謎だ。

 

ひとつだけ指摘したいのは

このエミリーの場合は

昔からの男性恐怖症で誰とも口を聞かず

周りと壁を作っていたことが

最大の原因だということ。

ロリータの服が原因で

いじめられたわけではない。

学校内で孤立し、

外で雑誌に載って

調子に乗っているように見えれば

誰だって「生意気だ」と

勘違いしても仕方がない。

自分の居場所を無くしていったのは

エミリー自身だった気がしてならない。

 

そのエミリーはなぜか

まなったん(秋元真夏)の顔が

何度も出てきて

いじられキャラの定番とはいえ

申し訳ない気持ちになった。

 

実際のエミリーは

まなったんのように笑顔で

いじられる感じではないから痛々しい。

逆にいえばどんなに

ひどい扱いをされても

笑顔のまなったんは凄いという結論。

 

「レディメイド」の2人は

この先大変そうだなぁ。

意見が合わなくても、

互いに別の方向を見ていても

惹かれあう何かがある。

そういう関係は素晴らしいと思うが

男の方が素直じゃないから大変だぞ。

 

「エミリー」の脇役・マキトお兄さん。

くるくるシイタケで

強烈なインパクトを残す。

 

「コルセット」の希彌子さん。

「この世は何と生き辛い、

死んだほうが楽かなと、ふと思うのよ」

と言って30歳で自殺したが、

死んだ方が楽かどうかなんて

誰にもわからないこと。

この主人公の男が

もう少しまともだったら

彼女も居場所を

見つけられたのかもしれない。

 

 

今回、

嶽本野ばら作品を

初めて読んでみたけど、

これは女の子が読むやつだよ~

俺みたいなやつが

読むもんじゃないよ~と

何度も迷いながらも最後まで読んだ。

未知の世界に

足を一歩踏み入れた、

そんな気がする。

 


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