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Channel: 裏旋の超絶☆塩レビュー
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【ネタバレ注意】七月隆文『天使は奇跡を希う』の感想。

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『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』

ミリオンセラーとなった

七月隆文氏の新刊が登場。

 

『天使は奇跡を希(こいねが)う』

七月隆文

(2016年)

 

 

文庫の帯に、

“「私を天国に帰して」

それは、心で

泣きながらついた嘘。”

“物語を一転させる天使のせつない秘密“

とある。

 

出版社も

こういう煽りが好きですね~。

さて、どんなものかと思い

読んでみたら……

う~ん、

二匹目のドジョウはいなかった。

 

あらすじ

 

愛媛県今治市の

第一高校一年生の「ぼく」、

新海良史(しんかいよしふみ)のクラスに

二学期の初日、

天使が転校してきた。

 

彼女の名前は

星月優花(ほづきゆうか)

正真正銘の天使だ。

背中の翼をばっさばっさと

はためかせているが

誰も気付いていない。

どうやら翼が見えているのは

ぼくだけのようだ。

 

最初はスルーしようと思ったが、

星月さんはぼくのそばで

天使ギャグをかましてくるので

もう限界……。

「お前天使だろ!」つい言ってしまった。

 

すると待っていたかのように

星月さんは瞳を輝かせる。

「あのね、新海くんにお願いがあるの」

星月さんは

天国から落ちて

帰れなくなってしまったそうだ。

戻る方法がわからなくて困っているらしい。

ぼくは困っている人を

見過ごすことができないタイプなので

「ぼくにできることなら」と

協力することにした。

 

ぼくは同級生の

村上成美(むらかみなるみ)

付き合っている。

2人とも新聞部で

今治の良さを知ってもらおうと

地元の特集記事を書いていた。

その他に仲の良いのは

野球部の越智健吾(おちけんご)だ。

 

と言うのも、

ぼくは以前、東京に住んでいて

高校一年の時に今治に来たのだが、

小学校三年と四年の時にも

親の都合で今治に引っ越している。

その時に歓迎会まで開いてくれて

仲良くしてくれたのが健吾だった。

健吾は成美と仲が良く、

次第に3人で遊ぶようになっていた。

 

星月さんの天国に帰る「ミッション」で

しまなみ海道を自転車で

サイクリングすることになり、

道中そんな昔話を星月さんに話す。

今治に戻ってきたのは

学校内のいじめを

見過ごすことができなくて

手を出したら親が味方してくれず、

両親に対する不信感から

おばあちゃんを頼って

今治に引っ越したのだった。

 

来島海峡を渡り、

瀬戸内海の美しい景色を眺める。

天使を後ろに乗せて

飛ぶようにペダルを漕ぐ。

彼女がこの時、

どんな気持ちでいたのか

それを知るのはずいぶん後のこと―――。

 

次のミッションは今治城。

偶然居合わせた成美に

星月さんとの関係を探られる。

「それは星月さんの背中に

羽があることと関係しているの?」

って、お前も見えるのかよ?

 

さらに健吾も

星月さんの羽が見えることが判明。

こうして3人が協力して

天国に帰る手伝いをするのだが……。

 

星月さんは

ぼくたちに言えない秘密を持っていた。

そのために

嘘をつかなくてはいけなかった。

彼女の本当の想いとは……。

 

これは天使が奇跡を希(こいねが)う物語。

 

解説

 

今治市に住む高校生の

良史のクラスに

「天使」の優花が転校して来た。

彼女の羽が見えるのは良史と、

幼馴染の成美と健吾の3人だけ。

3人は天国に帰りたいと言う優花の

手伝いをすることになるが、

彼女には誰にも言えない秘密があった……。

切ない青春ファンタジーラブストーリー。

 

『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』が

大ヒットした作者の

同系統のファンタジックな

味付けをした恋愛小説。

 

天使の星月優花の秘密は

物語の中盤(第3話の後)に

読者にだけ明かされる。

それまで良史視点だったものが

ここで三人称になり、

第4話から優花視点で話が進む。

 

物語を一転させるほどの

強烈なインパクトはないが

優花の心情を別の角度から

追いかけて見ることができるので、

この先どうなるのかと

一気に読ませる魅力がある。

 

表紙イラストに

『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』

『心が叫びたがってるんだ。』

『君の名は。』の

アニメーター田中将賀氏を起用し、

中高生向けのライト感を出している。

「ぼく明日」のような物語が好きな人は

とても好きになれる作品。

 

欠点としては……

 

●天使ギャグや掛け合いが

あまり面白くない。

面白くなくてもいいのだろうが、

スベッてるのを読まされるのは苦痛。

 

●彼女の秘密が弱い。

(ネタバレで解説します)

 

●歓迎会しようと仕切る

小学三年生がいる?

学校でやるでしょ普通。

 

●悪魔が弱い。

あんな技が使えるなら

もっとずる賢く騙せるはずだ。

 

●翼の生えた理由が苦しい。

生える必要が無い。

 

●最後の日までの

はしょり方が雑すぎて笑った。

 

●決め手のアイテムがわかりやすい。

伏線が丁寧すぎた。

(これもネタバレ解説で)

 

●「ぼく明日」に似た設定を

使うことで失敗している。

「私○○○だよ」って

言いたくて言えないってやつ。

それ前に見たし。

自分で二番煎じをやってどうする?

 

俺の感想。

 

なんか昔の

恋愛アドベンチャーに

ありそうなストーリー。

キッドとか作ってそう。

(keyまではいかない)

 

「希う」というタイトルが

中二病だなと思ったら

中身も完全なライトノベル。

リーダビリティは高いけど

文春文庫で出すほどの

内容とは思わなかった。

 

帯の裏にこう書いてある。

“私に期待されるお話はなんだろう、と考えました。

『ぼく明日』を楽しんでくれた人達が私に期待する新作は、

どんなものであろうと。

「ラブストーリー」であり「秘密」があって、

「それが明らかになったとき、

はっと印象が変わる筋書きのもの」ではないだろうか。

だから、『天使は奇跡を希う』は、

そういうお話です。”

 

ミリオンセラー作家になると

こんな勘違いをしてしまうのか。

これは皆さんの責任ですよ。

おんなじようなモンを書いて

どーすんですか!?

 

読者が望む形に合わせて

物語を作るとヒットするのですか?

そしたら世の中全部

おんなじようなモンで溢れてしまうわさ。

それって楽しい?

劣化版とか言われるだけでしょや。

新しいチャレンジ、

新しいアイディアで

こんな一面もあるんだと驚かせて

「読者を飽きさせない」ことが

みなさんが期待しているお話ですよ?

……少し目を覚ましてください。

 

と辛辣になったが、

惜しいなーと思う部分が多すぎた。

中高生には読みやすくていいと思う。

 

それと

表紙のイラストが

田中将賀さんだから

優花がめんまにしか見えなくて

イメージを変えるのに苦労しました。

実写化よりアニメ化に向いた作品。

 

★★★☆☆ 物語の面白さ

★★☆☆☆ 伏線の巧妙さ

☆☆☆☆ どんでん返し

 

<ストーリー>

笑える度 ○

ホラー度 -

エッチ度 -

泣ける度 △

 

総合評価(10点満点)

 7点

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ここからネタバレあります。

未読の方はお帰りください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレ解説

 

結末

30日のリミット最後の日、

良史に別れ話を切り出された成美が

優花のことを思い出した。

そして悪魔に

騙されそうになった優花を助けて、

良史と最後に会えるように導く。

 

優花に「好きだ」と

自分の本心を告白する良史。

良史に優花の記憶を呼び戻したのは

小学四年生に無くした名札だった。

 

記憶を取り戻したことで

優花も良史も助かり、

4人でしまなみ海道をサイクリングへ。

良史と優花がカップルになり、

健吾は成美が好きだと告白する。

 

優花の正体は?

 

優花は最初から

天使だったわけではなくて、

良史や成美や健吾と同じように

今治で育った同級生だった。

 

それが良史の事故死で

絶望したその時、

悪魔に付け入られ

≪賭け≫をすることになる。

 

その内容とは―――

新海良史を生き返らせてやるが

星月優花に関する記憶も

戸籍も写真も全て消えている。

30日以内に良史に

優花のことを思い出させたら「勝利」

そのまま良史は生きたまま、

記憶も元に戻してやろう。

ただし30日で思い出さなければ「敗北」

良史は死亡し、

優花の魂は悪魔がいただく。

優花は生まれながらに天使の素質があり

天使の魂は宝石のような貴重なもので

需要があるのだそうだ。

 

そうして優花は

必死に良史に思い出してもらおうと

天使ギャグや昔の話をして

記憶を蘇らそうとしていたが、

秘密を自分から言うのは禁じられていて

なかなか上手くいかない。

 

しかし……

この設定かなり無理がある。

 

天使のビジュアルとして

羽を生やす必要があったのか?

羽があればツッコミどころも多いし、

シュールだし笑えるネタになる。

しかし「空を飛んで命を助ける」とか

「タイムリミット寸前に飛行して

時間を短縮する」などの

羽を使う重要なシーンがなければ駄目。

俺は羽がある必要を感じなかった。

 

元は人間だったのに

天使にする必要も

あったのだろうか?

羽がある必要がないなら

別に天使でなくてもよいのでは?

悪魔が出てくる対比として

天使になっているだけのように思える。

 

「天使となる魂の持ち主」って何すか?

地元を馬鹿にして登校拒否して、

良い事ひとつもしてないのに

天使って言われても……。

 

悪魔と≪賭け≫をするなんて、

そんな優しい悪魔がいるのも疑問だ。

優花の記憶や写真まで消せるなら

めんどくさいことせず、

良史が生きてる写真を作って

その場で騙してしまえばいいのに。

「はい生き返りました。魂もらいます」って。

 

「星月優花」という名前も

そのままなのに何も思い出せないの?

成美の隣のタオル屋が「星月」なのに

誰も結びつけないのか?

自分に関する情報を

どこまで言っていいのか

どこまで言っていけないのか

設定があやふや。

重要なキーワードを言おうとしたら

言葉が出なくなるなどの

制限もないし。

 

というか、

名前も顔も声も「優花」として

目の前にいるのに

誰も全く気付かなくて、

「名札」で思い出せるっていうのが

どういう仕組みなのか

ちゃんと説明してほしい……。

 

 

伏線が惜しい。

 

俺が一番もったいないと思ったのが

良史が記憶を取り戻す

あのアイテムが出る場面。

 

そのアイテムとは

「小学四年生の良史の名札」

 

転校する前の日に落として

良史はきっと優花が

今も持っていると思っていた物。

これが決め手になるのは良いです。

しかしこの名札の伏線が

わかりやすすぎて

読者はみんな「アレだろうな」と

先読みできてしまった。

 

それはなぜか分析してみよう。

 

最初に登場した時はさりげなかった。

“想いを告げる勇気もなく、近づく別れの日の前に佇んでいることしかできない。

彼が引っ越してしまう前の日、廊下に彼の名札が落ちているのを見つけた。

それを拾って教室に戻り、席についている彼に声をかけようとして―――

とっさに、止まった。

優花は何も言わず、名札をこっそりポケットにしまった。

放課後のお別れ会でも罪悪感で彼の顔をまともに見ることができず、家に帰って、夕暮れの部屋で彼の名札をじっとみつめ、夜は抱いて寝た。”(P.156)

 

次に登場した時が失敗している。

優花が自分の部屋に入った時だ。

“わたしの部屋は―――からっぽになっていた。

家具も何もない。物置とかになってるわけでもなく、空白の場所がなんの疑問もなく放置されているという異様な雰囲気が漂っていた。わたしの物は全部なくなっていた。

だから―――それは落ちていた。

奥の隅っこに、わたしが小学生のとき盗んだヨシくんの名札が、あった。

わたしはそれを持ち帰り、その夜、お守りみたいに抱きしめた。”(P.218)

ここです。ここ!

優花の部屋がからっぽで

優花の物がすべてなくなっていた。

しかし「優花の物ではない」ものが

ひとつだけそこに残っていた。

そこで何を拾い上げたか

絶対に書いてはいけないやつです。

 

最初に名札を部屋に

持ち帰っていることを提示してます。

抱いて寝てるんだから。

なので、

この部屋にある

「優花の物ではない」アイテムが何かは

読者にはすでに手掛かりが出ている。

名札を最後の決め手として使うのなら

もっと大事に隠してほしかった。

伏線が丁寧すぎて

失敗したパターンです。

 

それにしても、

からっぽの部屋って……。

それで疑問も抱かない(抱けなくされてる)

設定って無理がありすぎる。

 

そこまで言うなら。

 

そこまで言うならお前は

もっと良い小説書けるのかよ?

いえ書けませんし書きません。

ワナビでもないです。

 

でも俺だったら、

こうしたいという思いはある。

まずは

「優花の秘密」をもっと強力にする。

この作品の秘密は、

「死んでしまった良史を

生き返らせるために

悪魔と契約して天使になり、

記憶を思い出させる」ことだった。

 

しかしこれは

そこまで強い恋愛感情が無いと、

同級生を救う為に

命まで賭けるのは無理がある。

いじめられて孤独な彼女を

救った過去があっても

なかなか苦しいところ。

 

ここは兄弟や家族にする方が

絆と愛情は強くなる。

俺だったら、

優花は

「良史と成美が将来産む子供」にする。

 

そしてタイムスリップして過去に戻り、

父と母が喧嘩しているのを仲直りさせたり、

良史の事故死を救って

自分が生まれるように

しなければいけないから

天使の姿でやってくる。

本当の恋のキューピッド役だ。

「空を飛んで命を助ける」シーンも入れたい。

なんかバック・トゥ・ザ……ゴホッ!

トランク……ゴフッ!

でもそうなっちゃうかー。

前例はどこにでもあるなぁ。

おんなじようなモンを書いて

どーするんだってブーメランだな。

 

じゃあさ、

「優花と良史は2人とも天使で、

2人で駆け落ちしたら

足を滑らせて天国から落ち、

良史が記憶喪失になった」

というのは?

 

最初から恋人同士なら納得できるし、

思い出させる方法が変わるけど

これはこれで

面白い物語になりそう。

 

帯に

「物語を一転させる天使の切ない秘密」とあるが

本当に一転させるなら、

「良史が実は記憶喪失の悪魔で、

天使の優花は良史を殺すために

人間界にやってきた」というのはどう?

 

サイクリングのシーンは

加速して事故らせようとしていたし、、

実は高いところから突き落とそうと

狙っていたのだとしたら、

今までのシーンの見方が一転しますよ。

 

それで言うとこの物語は

「天使」が本物の天使ではなかったことが

新しいチャレンジだったのかも。

ファンタジーの設定自体は

つっこみどころ多いが

ありがちな「天使が恋する物語」ではなく

変化球だったのは良かった。

 

他に良かった点は、

良史が思い出す前に

成美に先に思い出させて

アシストをさせたことだろう。

どうして成美が

良史と付き合っているのかわかったし、

三角関係の本音もここで見えた。

成美が優しいばかりの子じゃなく、

実はズルい女だったことも

上手く描いてあると思う。

 

最後がハッピーエンドだったので、

俺はそこまで低く評価してない。

もう少し劇的に盛り上がるシーンか

どんでん返しがあれば

良かったのに、とは思う。

 

そう言えば

エピローグで町の人全員の

優花に関する記憶は戻ったのかな。

写真や戸籍も……。

両親ほったらかしで

何も説明なく4人だけで

サイクリングして終わってたけど。

 

「ぼく明日」もこの作品も

小学生時代に生まれた恋心が

物語を動かすきっかけになるところは

この作者のお決まりの

パターンなのだろうか?

聖地巡礼を意識した

実在の町のスポットを

登場させるのもお決まりになりつつある。

 

おかげで読み終わっても

「しまなみ海道を

サイクリングしよう」という

今治観光PR的な面しか

印象に残らなかった。

 

 


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