『本陣殺人事件』に収録の
『黒猫亭事件』を読むと、
『獄門島』の事件について
触れている部分があるので
次はこれしかない。
『獄門島』
横溝正史(1947年)
獄門島 (角川文庫)/角川書店(角川グループパブリッシング)
¥605
Amazon.co.jp
推理作家や
推理小説愛好家500人が選ぶ
「東西ミステリーベスト100」
というランキングで
1985年に第一回の集計があって
『獄門島』が国内第一位に選ばれた。
さらに2012年の
第二回の集計でも
『獄門島』が第一位!
世の中、これだけ
たくさんのミステリーが
溢れているというのに
驚異の二連覇です。
『本陣殺人事件』を読んで
準備は整った。
いざ読了---。
その評価に違わぬ
もの凄い小説でした。
(※注意)
この作品には
今日の人権擁護の見地に照らして
不当・不適切な用語があります。
作品性を尊重するため
そのままのかたちで引用しています。
あらすじ
昭和21年9月下旬。
瀬戸内海に浮かぶ小島、
「獄門島」に向かう巡航船・白竜丸に
3人の男が乗っていた。
「獄門島」の千光寺の
了然(りょうねん)和尚に
漁師の竹蔵(たけぞう)が話かけている。
戦争で提供した吊り鐘が戻ってくるし、
分家の一(ひとし) も
近く復員すると報せが入った。
これで千万さんが生きていれば・・・。
その船に
戦争から復員した金田一耕助も
乗り合わせていた。
耕助は戦友だった
鬼頭千万太(きとうちまた)が
死亡したことを和尚に告げる。
そして千万太からの紹介状で
「獄門島」でしばらく
厄介になれないかと頼んだ。
耕助と千万太は共に戦い抜き、
終戦まで生き延びた。
これで生きて帰れると
喜んだ千万太だが、
復員船の中で病死してしまう。
その死の間際、
千万太は耕助に遺言を残した。
「金田一君、
おれの代わりに獄門島へ行ってくれ・・・
三人の妹たちが殺される・・・」
「獄門島」は
島一番の網元である
鬼頭家が支配しているが、
「本鬼頭」と「分鬼頭」で
対立しあっていた。
「本鬼頭」には
長男の鬼頭千万太の下に
3人の妹がいる。
長女・月代(つきよ)18歳、
次女・雪枝(ゆきえ)17歳、
三女・花子(はなこ)16歳の三姉妹。
千万太の母は
千万太を産んですぐ死亡し
後妻のお小夜(さよ)が三姉妹を産んだ。
お小夜もすでに死亡している。
父親の鬼頭与三松(よさまつ)は
お小夜の死んだ10年前から
気がおかしくなり、
狂ったようにすぐ暴れるので
座敷牢に閉じ込められている。
与三松の父で
千万太の祖父・鬼頭嘉右衛門(かえもん)は
鬼頭家を長く繁栄させてきたが
昨年亡くなってしまい、
与三松が気ちがいであるため
今は男の世継ぎがいない状態。
千万太のいとこで
与三松の姪にあたる
鬼頭早苗(さなえ)が
若いのによくできた娘で
兄の鬼頭一(ひとし)が
戦争に行ってから
鬼頭家を支えている。
鬼頭家には
お勝さんという女性もいるが
嘉右衛門の妾だった女性で
ほとんど役に立っていない。
そして、
男手のいなくなった
「本鬼頭」に対し
「分鬼頭」が虎視眈々と
下剋上を狙っている。
「分鬼頭」に嫁入りした
お志保(しお)という女が
たいへんな美女で
しかも油断ならない。
年の差40も上の
鬼頭儀兵衛(ぎへえ)と結婚し
鵜飼章三(うかいしょうぞう)という
美青年を使って、
本鬼頭の三姉妹を
手懐けようとしていると
島の人たちは噂していた。
事実、
三姉妹はこの青年に夢中であった。
竹蔵が漁の肝である
「潮つくり」の名人で
竹蔵が本鬼頭についているため
本鬼頭の優位は揺るがないが、
跡取りの千万太の死亡の知らせは
本鬼頭にとって大きな痛手であり、
一刻も早い
一(ひとし)の復員が待ち望まれる。
早苗は今か今かと
ラジオの復員便りに耳を傾けていた。
現在のこの島の実権は
了然和尚と
村長の荒木真喜平(あらきまきへい)、
漢方医の村瀬幸庵(むらせこうあん)の
3人が握っているようだ。
耕助に託した
千万太の紹介状も
3人の名前が書いてあった。
この3人を頼りにしろということだ。
この島には駐在所がひとつあり、
清水さんというお巡りさんがいる。
また海賊が海で暴れているらしい。
今に何かよからぬことが
起こるんじゃないかと
清水は心配する。
金田一耕助は
床屋の清公(せいこう)や清水から
このような島の勢力争いや
鬼頭家の内部事情を聞き出したが
自分が島に来た目的や
探偵であることは
誰にも言わなかった。
千光寺は
本鬼頭と分鬼頭を繋いだ道の
中程から山の奥に伸びた先に建っている。
耕助はその千光寺に
寝泊まりしていた。
といっても
千光寺には3人しかいない。
耕助と了然和尚と
典座(てんぞ)という雑用係の
了沢(りょうたく)という
若い僧侶の3人だ。
10月5日。
和尚が耕助に
分鬼頭に行って
今夜の千万太のお通夜に
お志保さんが出てこれるか
聞いてくれと頼まれた。
千光寺の階段を下って行く時、
すれ違いに登る竹蔵と会った。
和尚の頼みで
分鬼頭に行くと言うと
不思議そうな顔になる竹蔵。
分鬼頭でお志保さんは
儀兵衛の具合が悪いから
通夜に参列できないと告げられた。
耕助は千光寺に戻ろうとすると
ちょうど寺から下りて来た
和尚と了沢と竹蔵の3人に会い、
そのまま本鬼頭へ向かう。
本鬼頭では
お勝さんが
花子の姿が見えないと
心配していたがその時は
誰も気にしていなかった。
通夜が終わっても
花子が戻ってこないので
さすがにおかしいと騒ぎになる。
最後に花子を見たのは
午後6時15分。
今は10時半だ。
幸庵がここに来る前、
鵜飼が寺に
登っていったのを見たらしい。
寺で逢い引きでもしていたのか?
月代は鵜飼さんは
自分に気があるから
花子なんかを
相手にするわけがないと言う。
家の中を捜していた
早苗が悲鳴をあげた
与三松のうなり声が聞こえる。
今の与三松は早苗にしか
言うことを聞かない。
うなり声はやがて大人しくなり、
早苗とお勝さんが戻って来た。
家の中のどこにも花子はいなかった。
午後11時。
酔い潰れた幸庵を
家に送った耕助は
分鬼頭に行った竹蔵と了沢と合流する。
分鬼頭にも花子はいなかった。
千光寺に戻る和尚に続いて
3人も寺に向かう。
その時、
先に寺に戻った和尚が急に戻って
「了沢、了沢」と叫び出す。
何かを予感した耕助が駆け出した。
石段を上がると
和尚が提灯を頭上にかざす。
千光寺の梅の古木に
花子がさかさまに
吊るされて殺されていた!
目は見開かれ、
長い髪が地面をのたうつように撫でる。
その時、耕助は
和尚が念仏を唱えながら
こうつぶやくのを
確かに聞いた。
「気ちがいじゃが仕方がない」
こうして
凄惨な殺人事件の幕が上がった。
可憐な少女たちの命を狙う犯人。
その動機は何か?
和尚のつぶやいた謎の言葉。
「気ちがいじゃが仕方がない」
その意味するものは?
気ちがいとは与三松のことか?
それとも・・・
海に飛び込んで
島に逃げ込んだ
復員兵の海賊の正体は?
早苗が復員便りを
聞かなくなった理由は?
そして、
金田一耕助は戦友との約束と、
妹を守ることができるのか?
屏風に書かれた3つの句。
俳句に隠された謎が解ける時、
恐るべき真相が見えて来る----。
解説
「金田一君、
おれの代わりに獄門島へ行ってくれ・・・
三人の妹たちが殺される・・・」
復員船で死亡した戦友の遺言で
獄門島を訪れた金田一耕助は、
島の権力争いの中心である
鬼頭家の三人娘と出会い、
凄惨な殺人事件に巻き込まれる。
戦後の閉鎖的な小島を舞台にした
本格ミステリー。
金田一耕助シリーズ第2作。
『本陣殺人事件』から
9年後の34~5歳の金田一の物語。
死んだ戦友の遺言で
獄門島に渡った金田一が
閉鎖的な島の権力争いの内情を知り
三姉妹を狙う犯人を探るのだが、
この三姉妹がどこかおかしい。
兄の千万太が死んでも泣きもせず、
ふざけあって騒ぐという始末。
鵜飼という美しい男に夢中で
三人で取り合っていたり、
どこか幼くて異常な雰囲気。
それより異常なのが
「気ちがい」と呼ばれ、
座敷牢に閉じ込められている
父親の与三松という存在。
妻のお小夜も晩年は
狂いはじめたらしく、
過去の因果が事件に関わってくる。
死体の殺害方法は絞殺だが
それを逆さに吊るしたり
吊り鐘に入れたり
奇妙な殺人現場がインパクト大。
戦後まもない時代背景、
封建的な因習に縛られた島という
舞台だからこそ起きた悲劇であり、
最後に明かされる
「笠岡からの電話」が
よりいっそう悲劇性を高めている。
とんでもない大トリックが
あるわけではないが
ミステリーの面白いエッセンスを
これでもかと詰め込んだ大作。
欠点としては・・・
●建物の配置などで
「まえにもいったとおり」と
いちいち手掛かりを出しましたよと
前置きするのがウザい。
●動機はいまいち納得できない。
この島の住民の
封建的な意識では
起こるべくして
起こったとも言えるが・・・
●雪枝をどうやって呼び出したか
という説明が無い。
そもそも三姉妹、
呼び出されやす過ぎるし、
注意力が無さ過ぎ。
●俳句がよくわからない。
●第三の殺人は
時間的に無理がある。
猫を簡単に捕まえられると思えない。
●山狩り中に、
逃亡する男にこっそり近づいて
殴り殺したという部分が
超人的すぎて解せない。
相手ピストル持ってるんですけど。
こちらも応戦して
ピストル乱射してるんですけど。
どういう身体能力だよ。
●金田一が前振りも無く
プロポーズするのは変。
●結末に救いがない。
金田一は何のために
やって来たのか・・・
俺の感想は・・・
これが横溝正史の最高傑作か。
なるほど納得、
という部分と
もう少し・・・
という部分があったかな。
さすがに古さは感じるけど
読みやすかった。
全体として見たら
すごく面白かった。
三姉妹が殺されるのは
可哀そうだったけど。
そうそう。
この月代、雪枝、花子の三姉妹。
「わて」「これでええのン」「~やわ」
という言葉遣いが
妙に心地よかった。
しかし性格は確かによくない。
馬鹿っぽいというか子供というか。
好感は持てなかった。
だからといって
「殺して惜しい人物ではなかった」
と言って開き直る犯人は
間違っていると思う。
世の中に殺してもいい、
殺されて当たり前なんて人は
一人もいない。
それにしても
金田一は殺人防御率が悪いなぁ。
あの事件は仕方ないにしても
最後くらい防げただろうに。
誰が狙われるかわかってるのに
それを守らないってアンタ・・・。
手掛かりを見つけても
言葉を濁して言わないから
清水さんに怪しまれて
留置場に入れられる。
あれは自業自得だと思った。
もったいぶるからだよ。
もちろん
金田一は応援してるけど
こんな探偵じゃ不安。
まあそこが天才すぎなくて
いいところでもあるけどね。
『獄門島』は、
まえにもいったとおり、
ミステリーランキングの
国内ベスト1に輝いた作品。
日本推理小説史に残る
不朽の名作です。
★★★★☆ 犯人の意外性
★★★★★ 犯行トリック
★★★★★ 物語の面白さ
★★★★☆ 伏線の巧妙さ
★★☆☆☆ どんでん返し
笑える度 △
ホラー度 △
エッチ度 -
泣ける度 -
総合評価(10点満点)
9点
---------------------------
※ここからネタバレあります。
未読の方はお帰りください。
-----------------------
※ネタバレを見てはいけないと
書いてあるのに
ここを見てしまう「未読のあなた」
あなたは
犯人に最初に殺されるタイプです。
十分に後悔してください。
●ネタバレ解説
〇被害者---●犯人---動機【凶器】
①鬼頭花子---●了然和尚---利他主義【絞殺:日本手ぬぐい】
②鬼頭雪枝---●荒木真喜平---利他主義【絞殺:日本手ぬぐい】
③鬼頭月代---●村瀬幸庵---利他主義【絞殺:日本手ぬぐい】
④山田太郎---●了然和尚---口封じ【撲殺:鉄如意】
〇了然和尚---●なし---ショック死【心不全】
結末
了然和尚、荒木、幸庵の3人が
それぞれ花子、雪枝、月代を
鬼頭嘉右衛門が屏風に書いた
3つの俳句に従って
見立て殺人を行った。
千万太が生きて帰れば
三姉妹を殺すこともなかったが、
千万太が死んで一が生きていたら
一に相続させるには
三姉妹が邪魔になるため
見立てに使う
吊り鐘も戻って来た今が
殺す絶好の機会だと決断した。
しかし一の復員は
復員詐欺による嘘だとわかり
一も死んでいたならば
三姉妹を殺す必要など
最初から無かったと知り
和尚はショックのあまり死亡。
村長の荒木は逃亡し、
幸庵は発狂してしまった。
金田一は島を出るまえ早苗に
一緒に東京に行かないかと誘うが
「島で生まれた者は島で死ぬ」と
この島で本鬼頭を守る決意が固く
金田一は一人で島を後にする。
●3つの見立て殺人。
この作品は
俳句の見立て殺人が使われている。
作中に用いられた俳句は
◆「鶯の身をさかさまに初音かな」(宝井其角)
・・・花子の死体を梅の古木に
さかさまにして吊り下げた。
◆「むざんやな冑の下のきりぎりす」(松尾芭蕉)
・・・雪枝の死体を吊り鐘の中に入れて
振袖だけを外に出した。
◆「一つ家に遊女も寝たり萩と月」(松尾芭蕉)
・・・月代を祈祷所で殺し
その死体の上に萩の花びらを撒いた。
これらの「見立て殺人」は、
鬼頭嘉右衛門が
考えた殺害方法であり、
それを忠実に3人が実行した
「教科書殺人」であり、
「死者が真犯人」とも言える。
戦争で千光寺の吊り鐘を
提供したため、
一度はこの計画も消えかけた。
しかし本家の千万太が死に、
分家の一が復員し、
吊り鐘も戻ってきた。
3つの偶然が同時に起こったために
この度の悲劇的な
殺人事件が遂行されてしまった。
そしてやるせないのが、
一はすでに死んでいたこと。
復員詐欺という
島に全く関係ない人間がついた
たったひとつの嘘で
殺す必要のなかった三姉妹を
殺してしまったことになる。
被害者も犯人も
誰も救われない結末であった・・・。
●花子殺しのトリック
花子を殺したのは
千光寺の了然和尚である。
花子を最後に見たのが
午後6時15分。
あらかじめ和尚は
鵜飼の名前で花子に手紙を出し、
つづら折れの途中にある
地神様の祠に隠れるように指示する。
寺にいる金田一を
分鬼頭に行かせ、
了沢を忘れ物を取りに寺に戻らせ、
祠の花子を殺すつもりだったが、
竹蔵が来たため
下駄の鼻緒が切れたと言い、
先に下に行かせる。
その隙に祠の中の花子を殴り
絞殺した死体を
そのまま中に入れておく。
通夜のあと、
花子の捜索に指示を出して
自分が先に寺に帰るようにする。
ゆっくり帰りながら、
後続に了沢たちが
付いてくるのを確認し、
祠の花子の死体を背負って
石段を登る。
(暗くて提灯以外見えない)
梅の古木に死体をさかさまに吊り、
今発見したようなふりをして
後続の了沢たちを呼ぶ。
・・・というものです。
読み返すと
確かに和尚は
あやしい動きをしている。
①花子を捜す時、
みんなにテキパキ指示していた(P.76)が
あれは計画的だったのか。
②それに和尚は常に凶器である
重い鉄如意を持っていた。(P.84)
③金田一が分鬼頭に通夜のことを
知らせに行くのを
通りかかった竹蔵が
変に思っていたのも
今思うと納得。
“「分鬼頭へ?」
男はちょっと驚いたように眉をひそめて、
「なにか御用で---?」
「和尚さんに頼まれて、今夜のお通夜のことを知らせにいくんです」
「和尚さんに頼まれて---?」
男はけげんそうに、いよいよ眉をひそめたが、すぐ思いなおしたように、
「それは御苦労さまで。では、またのちほど」”(P.63)
→竹蔵は自分が昨日
分鬼頭にお通夜のことを
知らせに行ったのに
なぜまた行くのかと
いぶかっている。
そしてやっぱり、
あの台詞が最大のポイント。
④花子の死体を見て、
「気ちがいじゃが仕方がない」(P.83)
「鶯の身を逆さまに初音かな」は
春の句であり、
今は秋であるため
俳句の見立てと
殺人現場が正しくない。
そのため、
「季節がちがうが仕方がない」
という意味でつぶやいた言葉だった。
ところが
金田一は与三松という
狂人がいたため
先入観で
「気ちがいじゃが仕方ない」
と思い込んだ。
そのことを和尚に直接尋ねたら、
和尚はものすごく大袈裟に
顔を覆って驚いて・・・
いたように見える。
“「気ちがいじゃが仕方がない。わしがそんなこと言うたかな。気ちがいじゃが仕方がない・・・気ちがいじゃが仕方がない・・・」
不意に和尚は、くゎっと大きく眼をひらいた。耕助の顔をまともから、にらみすえるように、はげしくにらんだ。大きな肩が波打って、くちびるのはじがものすさまじく痙攣した。と、思うとつぎの瞬間、和尚は大きな両手をひらいて、ひしとばかり顔をおおうと、二、三歩うしろへよろめくようにあとずさりした。
「和尚さん!」
耕助も思わずいきをはずませる。
「なにか・・・思いあたることが、ありましたか」
和尚は顔をおおうたまま、しばらく無言のまま、はげしく肩をふるわせていたが、やがて両手を顔からとると、耕助の視線を避けるように、まぶしそうに眼をそらして、
「金田一さん」
と、ひくい声で呼んだ。
「はあ」
「あんたは勘違いをしとるんじゃ。なるほどわしはそんなことをいうたかもしれん。しかし、それは本家の主人と、なんの関係もないことじゃ」”(P.95)
和尚の動揺ぶりから
確信を突かれたのだと誰もが思う。
しかし!
和尚は内心で
大爆笑していたのである。
ここでその時の
和尚の心の中をのぞいてみよう。
“気ちがい?・・・プププッ・・・金田一君はブフーッ! か、勘違いして・・・おるブォフォッ! 気ちがいじゃと・・・ンゴフー! さすが名探偵、いや・・・プヒ! 迷探偵じゃわいブボーフォッフォウ! いかん、あやしまれる・・・ボフッ! 笑いをこらえるのじゃフゴオオオ!ププッ・・・な、なにか思いプッ! あたること?オブッ! ・・・駄目じゃドゥフフ! まともに・・・ファァーーー! 顔が見れんンゴッ! 」”
これを先程の95ページの
和尚の動きに合わせて読むと
みなさんも納得できるはず?
この一連の和尚の動揺は
ミスリードになっている。
和尚にとって予想外だったのが
寺に海賊が逃げ込んでいたこと。
そのため、
⑤禅堂に賊が隠れたと思った和尚が
竹蔵に呼びかけられて
ボーッとしていたり(P.84)
⑥賊を逃がすために
勝手口の方に金田一を誘導している。
和尚以外の伏線では
花子が隠れた祠。
意外に広いことが書かれてある。
“このつづら折れを下から幾曲がりかしていくと、何度目かの折れ目に、小さいお堂がひとつ建っている。狐格子をのぞいてみると、中は二畳ぐらいの板敷きになっていて、その奥の白木の壇に、唐子のような感じのする、えたいの知れぬ像がまつってある。格子のうえにかかげた額を見ると、地神様。”(P.58)
→畳二畳なら充分ですが、
そんなに広いイメージがなかった。
ここでひとつ謎がある。
「手紙は2つあったのか?」
ということ。
鵜飼が月代を
午後7時に呼び出した手紙と
和尚が鵜飼の名前で
花子を呼びだした手紙の2つ。
金田一たちが実際に目にしたのは
鵜飼が月代に宛てた手紙だけだった。
それでは和尚が花子を
呼びだした手紙は
いつ始末したのだろうか。
和尚は鵜飼と月代が
愛染かつらの幹で
やり取りしていることを
知らなかったはずで、
あの手紙は本当に
花子が横取りしたものと思われる。
同時に(和尚が書いた)鵜飼の
花子宛の手紙を
和尚が鵜飼から頼まれたと言って
花子に渡し、
6時半頃に地神様の祠に呼びだした。
この時、
2つの手紙の内容を見た花子は
「わてに会った後で、
月代ちゃんにも会うん?」と
多少は怪しんだだろうが、
鵜飼に会える喜びと
手紙を横取りした満足感で
深く考えなかったと思う。
てゆうか
それほど頭のいい娘たちでは
絶対ないからね。
2つの手紙は
月代宛ての手紙はしっかり
懐に隠していたが
(濡れていないため)
花子宛ての手紙はわりと
わかりやすいところにあったか
手に持っていたはず。
和尚がその手紙を
取りあげるタイミングは
暗くなった夜では難しいので
最初に祠で殴って絞殺した直後、
見えていた手紙を取りあげた。
もうひとつ手紙があったことは
和尚も知らなかったはずだ。
・・・と俺は推測している。
●復員兵の海賊殺し
海に飛び込んで島に逃げ込んだ男。
山田太郎。
仮名なのか本名なのか・・・。
ドカベンなのか(違う
作者はこの男を
復員間近の鬼頭一(ひとし)だと
読者にミスリードさせている。
「海賊=鬼頭一」
花子を捜す時に
早苗が悲鳴をあげる場面。
①早苗の悲鳴のあとで
与三松のうなり声が聞こえた。(P.75)
また気ちがいが暴れている
と思わせて
このとき早苗が驚いたのは
与三松ではなく
この海賊だった。
それなのに大騒ぎしない。
さらに本鬼頭の渡り廊下の近くに
海賊の靴跡が残っているし、(P.154)
食糧が無くなったり
あきらかに早苗がこの海賊を匿っている。
②あれほどラジオの復員便りを
欠かさず聞いていた早苗が
急に復員便りを聞かないのが
強力なミスリード。
これらの事実から
もしかして兄の一では?と
読者に勘違いさせている
たしかに一が犯人なら
三姉妹を殺す強力な動機がある。
自分が本鬼頭を相続するために
邪魔な存在だからだ。
復員する前にこっそり島に来て
早苗を味方につけて
殺人を犯している可能性は
十分に考えられる。
しかし実際は
ただのレッドヘリング。
海賊は一の名を騙ったわけでもなく、
早苗が後姿で勝手に
勘違いしていたというオチ。
この海賊を殺したのは和尚で
寺で花子殺しを見られたかもと思い
山狩りで海賊の後頭部を殴り殺した。
しかし・・・
これ無理じゃね?
リューマチで体が動かない和尚が
あの暗闇の中で
ピストルが乱れ飛ぶ中を
素早く背後に忍び寄って
一撃で殴り殺すなんて
いったいどういうことだよ?
●雪枝殺しのトリック
雪枝を殺したのは
村長の荒木だった。
6時半には雪枝は生きていた。
7時半頃に荒木も本鬼頭に来たから
この時までに「仕込み」は
出来ていたことになる。
雪枝を(どうにかして)呼びだし、
殺害後に「天狗の鼻」の
吊り鐘の中に入れて
振袖だけはみ出させる。
その上から張り子の吊り鐘をかぶせ
網に重しを付けて
崖に置いておく。
これが「仕込み」
雪枝をみんなで捜す時に
荒木は清水と組になり
天狗の鼻で清水に吊り鐘を見せる。
この時点で吊り鐘の中に
死体があるが
かぶせた吊り鐘のせいで
はみ出した振袖が見えない。
小便すると言って
清水から離れた隙に
重しを海に流し、
張り子の吊り鐘を海へ捨てる。
振袖のはみ出した吊り鐘が登場。
この吊り鐘の前を
何度か通るが
確認済みなのでスルーしてしまう。
結局は翌朝に発見。
・・・というトリックです。
マトリョーシカ作戦で
死亡時刻を誤認させるのは良い。
しかしそれを捨てるタイミングが
危険すぎやしないかな?
荒木が小便に言ったというのも
金田一のいつもの後出し情報で
いまいち納得できないし。
振袖の柄にもよるが
暗くても振袖くらい見えるんじゃ・・・
ってそれを言ったら
花子を背負った和尚も
見えることになってしまうのか。
じゃあ見えなかったということで。
犯行時刻の頃に
仙ちゃんという男が
天狗の鼻の下の坂にもうひとつ
吊り鐘を目撃しているが
こちらが張り子の吊り鐘で
おそらくかぶせる前の
移動中だったのだろうか。
このトリックには
能の「道成寺」が関係していて、
母親のお小夜が女役者で
道成寺が得意だった
という前振りがある。
その「道成寺」で
白拍子が鐘の中に逃げ込むことから
吊り鐘がトリックに利用されている。
ちなみに読後、
1977年の映画『獄門島』を見たら、
第二の殺人で
落ちてきた吊り鐘が
首を切断し、
生首が飛ぶシーンで超びびった。
さすが市川崑監督。
子供の時に見たら
トラウマになってたなぁ。
●月代殺しのトリック
月代を殺したのは
漢方医の村瀬幸庵。
本鬼頭の祈祷所で
祈る月代を殺そうと
酔ったふりをして
タイミングを伺う幸庵。
了沢がいなくなった隙に
祈祷所の月代を殺しに行く。
あらかじめ祈祷所の柱に
長く伸ばした反物の端をくくり
祈祷所に入ると
それを右手に持ち
月代の背後からグルッと
巻きつけて締め殺した。
反物を短く切り、
最初から手ぬぐいだったように
見せかける。
そして月代の死体に
萩の花びらを撒く。
猫のミイを捕まえて
鈴を鳴らして遊ばせる。
鈴の音で月代がまだ生きていると
勘違いさせるために。
しかし猫を
家族以外の奴が
簡単に捕まえられるのか疑問。
というかミイって
急に出て来たような?
もっと早い時点で出して
誰にでも懐くんですよーと
伏線を入れてほしかった。
それとどのタイミングで
月代を殺しに行ったのか不明。
了沢が玄関で
長話をしていた時間の方が長いが
勝野がフリーになるため
リスクが高い。
とすれば
了沢にもう一杯酒を
取りに行かせたタイミングの方が
勝野と一緒に動きを封じれるし
動きやすいと思う。
ただし時間は限りなく少ない。
まえにもいったとおり、
猫を捕まえて来ないといけないし。
幸庵はたまたま海賊と格闘して
片手になったが
この殺害計画は嘉右衛門自身が
行うことを想定して
計画したものなので
左手を使わずに
済むようになっていた。
わざわざこの方法で殺したことが
裏に嘉右衛門がいるという
伏線になっている。