前から気になっていたドイツ映画で
ネットで字幕版があったので
Amazonビデオで購入した。
『ピエロがお前を嘲笑う』
(2014年)ドイツ作品
「マインドファック・ムービー」という
よくわからん言葉で紹介されているが
ようするに「どんでん返し」が凄いよと
言いたいわけですね。
どんでん返しは
下のネタバレで語ります。
それよりも
担当の捜査官が
小倉智昭に見えて仕方なかったし、
ベンヤミン以外の3人の仲間が
特技や個性に欠けていて、
ベンヤミンが好きな女性マリも
可愛くないので魅力的に思えず
ストーリー自体に
のめり込めなかったかな。
仮想空間のネットのやり取りを
地下鉄の電車内で仮面をつけて
やり取りする演出は上手いと思った。
自分がやられた罠を
同じ手口でやり返す場面も秀逸。
ハリウッドがリメイクしたがるほど
トリック映画としての完成度は高い。
よく似た映画があるので
100%見破れないとは思わないが、
普通に見ているとやられますぞ。
<あらすじ>
学校では苛められ冴えないベンヤミン・エンゲル(トム・シリング)。好きだった元同級生のマリ(ハンナー・ヘルツシュプルンク)のために、試験問題をハッキングして手にいれようとしたベンヤミンだったが捕まってしまう。社会奉仕活動を命じられ、そこで野心家のマックス(エリアス・ムバレク)と知り合う。マックスとベンヤミンは、マックスの友人たちを交えて、ピエロの仮面を被って破壊活動を行うハッカー集団“CLAY<クレイ>”を結成する。国内の管理システムを手当たり次第ハッキングを仕掛け、さらにドイツ連邦情報局へもハッキングを仕掛け、有頂天になっていたが、仕掛けた不用意なハッキングがきっかけで殺人事件が発生してしまう。ついにユーロポールの捜査が入り、自ら出頭することにしたのだったが……。
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<スタッフ>
製作 クイリン・ベルク
マックス・ヴィーデマン
監督 バラン・ボー・オダー
脚本 バラン・ボー・オダー
ヤンチェ・フリーセ
<キャスト>
トム・シリング(ベンヤミン・エンゲル)
エリアス・ムバレク(マックス)
ヴォータン・ヴィルケ・メーリング(シュテファン)
アントニオ・モノー・Jr.(パウル)
ハンナー・ヘルツシュプルンク(マリ)
トリーヌ・ディルホム(ハンネ・リンドベルク)
シュテファン・カンプヴィルト(マルティン・ボーマー)
★★★☆☆ 犯人の意外性
★★★☆☆ 犯行トリック
★★★☆☆ 物語の面白さ
★★★★☆ 伏線の巧妙さ
★★★★★ どんでん返し
笑える度 △
ホラー度 -
エッチ度 △
泣ける度 -
総合評価(10点満点)
8点
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※ここからネタバレあります。
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●ネタバレ結末
結末
ベンヤミンの証言には穴がある。
ハンネが調べると
母親が多重人格症であり
息子のベンヤミンもそれを遺伝して
自分の中に4つの人格を作りだしていた
今まで話した話は
すべて自分ひとりの犯行で
マックスたち3人は
ベンヤミンの別人格と推理する。
彼に同情したハンネは
MRXを捕まえた功績もあり
ベンヤミンを極秘に逃がした。
その数日後、
新しい出生証明書を
持ったベンヤミンは
マックス、シュテファン、
パウル、マリと共に船上にいた。
実は3人は実在していた。
自分が一度捕まり
別人格という嘘を信じ込ませて
情に訴えて逃げて、
後から落ち合う計画で、
彼らはまんまと逃亡に成功したのだ。
●どんでん返し
この作品は
2段階のどんでん返しが仕掛けてある。
最初のどんでん返しは
ベンヤミンの証言は作り話で
<CLAY>の4人は存在せず
実はベンヤミン1人しかいなかったこと。
「4人→1人」の4重人格だった
というどんでん返し。
※水色はミスリード、紫色は伏線です。
ハンネ捜査官は
物語の終盤で
ベンヤミンの話には
矛盾があると気付く。
その原因は
①仲間のマックス、シュテファン、
パウルの死体が
どこにも見つからなかったことだ。
さらに
②マリに話を聞くと
ベンヤミンとは会っていないし
興味もないと言い、
エンゲル家を診ていた主治医からは
③ベンヤミンの母は
「解離性同一性障害」で
4人の人格を持っていたから
遺伝の可能性があることを聞いた。
「解離性同一性障害」
つまり多重人格の話が出て
思い当たることがひとつ。
ベンヤミンの話の中では
④手に釘をさして
怪我したのはマックスなのに
実際のベンヤミンにも同じ傷があること。
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そこから
この話はベンヤミンの中で
マックス、シュテファン、パウルという
3人の人格を
作り出していたのではないかと
ハンネは推理する。
⑤ベンヤミンが常用する
リタリンは
覚醒剤に似た効果があるので
さらに幻覚や妄想状態を
引き起こしやすい。
⑥冒頭の4個の角砂糖が
1個になる手品も
4人の人格が実は1人という
トリックのための刷りこみ。
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本来ならば
これらは伏線なのですが
そのまま終わらないこの作品では
最初のどんでん返しを
ハンネと視聴者に信じさせるための
ミスリードになっています。
これが嘘だと見破る
手掛かりは少ない。
「ハッカー集団のことを
あなたにだけ話す」と
ハンネを指名したのは
彼女の経歴を調べて
この人なら騙せると狙ったところに
計画性を感じることはできる。
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そして
第二のどんでん返し。
4重人格というのは嘘で
マックス、シュテファン、
パウルの3人は実在して
しかも生きていた。
ベンヤミンは捜査官を騙して
逃げることに成功し、エンドロール。
最初のどんでん返しだけでは
正直言って評価は低い。
ベンヤミンが1人でも4人でも
証言が嘘でも本当でも
別にどうでもいいからだ。
証人が嘘の自供をするという
「信頼できない語り手」のトリックと
「多重人格ネタ」は
とても有名なのがあるし。
この映画はそこから
さらにもう一回捻って
「実は本当でした」というオチを
やっているわけだが
ただ捻っているだけじゃないのが
評価できるポイント。
この第二のどんでん返しは
それを行った理由が重要で
精神疾患者は証人保護が
適用されないということが
大きく関わっている。
証人保護プログラムとは
証人が裁判の期間中
極秘の場所で保護してもらえる制度。
しかし精神疾患者は
証人保護プログラムを受けれない。
有利な立場だったベンヤミンが
一転して窮地に追いつめられるため、
緊迫感を生み出すことに成功している。
普通の映画なら
このままバッドエンドで終わるだろう。
しかしここで疑問。
それなら4重人格にせず
単独犯で通せば
MRXを逮捕したことで
普通に証人保護が受けれたはずなのに
なぜそうしなかったのか?
それは
「仲間の命を守ること」だ。
自分がデータを盗んで
危険に巻きこんだという
罪の意識がそうさせたのだろう。
「CLAY」はベンヤミンにとって
初めて仲間と呼べる存在だった。
仲間を守るためなら
失敗して自分が犠牲になっても
構わないと思っていた筈だ。
しかし仲間たちも
ベンヤミンを危険に晒したくない。
わずかでも情に訴えて取引できそうな
人物を探さなくてはいけない。
それに適合したのが
MRXとフレンズを追いかけている
ハンネ捜査官だった。
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そこでベンヤミンは
母の解離性同一性障害を利用し
(母の病気に嘘は無いはず)
4重人格だという話を信じ込ませた。
そうすることで3人の
死体が見つからないことも説明できる。
そこからMRXの逮捕と引き換えに
証人保護プログラムで
別人として逃げ出すことに成功した。
ただ捻ったのではなく
仲間を助ける方法として
機能していたので
俺としては「1点」分アップとして
評価することにした。
これがなかったら
普通の作品だった。
先ほどの
1個になった角砂糖が
また4個に戻るのが
この「4人→1人→4人」トリックの
伏線になっている。
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●よくある疑問
Q,タイトルの由来は?
原題は『WHO AM I』
私は誰?という意味。
多重人格を予想させるタイトルなので
ネタバレを避けたっぽい。
邦題は『ピエロがお前を嘲笑う』
「Clowns Laughing At You」という台詞から。
彼らのグループ名は
その頭文字を繋げて
「CLAY(クレイ)」となった。
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Q,ベンヤミンの曾祖父の
形見の薬莢は
どこに消えた?
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ベンヤミンはハンネに
3つの薬莢を見せて
3人が銃殺された時の弾だと
思わせていたが
祖母のところから
形見の薬莢を拝借していただけ。
鑑定で第二次大戦のものとすぐバレる。
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3人の死体を見たというのは
元々バレていい嘘。
精神がおかしくなっていることを
印象付けるミスリードのためにやっただけ。
Q、伝説のハッカー「MRX」の正体は?
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ニューヨーク在住、
本名ショーン・ダナム、19歳。
彼らのグループ
「FR13NDS(フレンズ)」は
MRX、セクデット、
トウボート、クリプトンの4人。
ちなみにベルリンにいたのが
殺されたクリプトン。
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本名はモーリッツ・L。
彼は連邦情報局と繋がっていた。
そのためMRXに消される。
Q,マリはいつから
仲間になっていたのか?
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最後ちゃっかり居ましたね。
ベンヤミンが追いつめられて
3人が姿を消す段階で
仲間に引きいれたのでしょう。
ベンヤミンとは会ってないことを
証言してもらわないといけないから。
マリの友人の証言まで聞きこまれると
嘘がばれると思うんですが
聞かなかったのか
口裏を合わせたのか不明。
マリを好きな男友達は
口裏を合わせるか微妙です。
やけに町で遭遇するから
ベンヤミンを見張るための
MRXの手下かと
思っていたんですが違った。
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MRXの名前がマ(M)リ(R)と似ているので
こいつがMRXかもと疑ったが
勉強が苦手なようなので
ハッカーは無理そう。
ネットのレビューで
恋人役がブスすぎると酷評されていて
なんだか可哀想になった……。
Q,チョコドーナツのエピソードは
何の意味が?
あれは人間の弱さを
表現している。
あの気弱な店員は
マックスの言葉の勢いにひるんで
店長にも他の店員にも
確認も取らずに
チョコドーナツを2個出してしまった。
人間誰しもそうやって
すぐに争いを避けて
妥協してしまう部分が
あるんだということを
見せたかったらしい。
Q,「レモンが出たら
塩とテキーラを頼め」とは
どういう意味?
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これは
テキーラのおいしい飲み方。
塩はテキーラの甘みを増幅させ、
レモンの酸味が味を引き締め、
ビタミンCが喉をアルコールから
守るといわれている。
レモンはライムでもいい。
飲み方は
レモンをかじった後、
テキーラを流し込み、
指の付け根に置いた塩を舐める、
というのが
おいしいと言われています。
テキーラが出た時じゃなくて
「レモンが出たら」と
主役が逆になっているのが
シュテファンなりのジョーク。
日本流で言うと
「サラダが出たら焼肉を頼め」
みたいな言い方です。
なお店内で商品をかじって
捨てるのはやめましょう。
Q,こんな奇策に頼らなければ
ならない理由が分からない。
ベンヤミンの目的は別にあったのか?
前にも言ったが
ベンヤミンが
多重人格を演じた理由は
仲間を守ること、
ただそれだけです。
それ以外に理由は無い。
学校ではいじめられ、
透明人間となって耐えて過ごす。
ベンヤミンにとってCLAYが
ただひとつの居場所だった。
ベンヤミンのピンチに
こんなことを言ってくれる奴らを
助けることに他の理由がいりますか?
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仲間を守る方法が
身バレした1人を
スケープゴートにして
多重人格を装うのは
奇策というより知能的な判断です。
そのためには
証人保護の問題を
解決しなければならず、
ハンネに白羽の矢が立った。
確かにハンネを
騙せなかったら
ベンヤミンはアウトだった。
しかしハンネも
ただで見逃したわけではない。
「5分でやってみなさい」と
ベンヤミンを試してみて
それに応えたから逃亡できた。
ベンヤミンが
「タネを知ったら
がっかりするよ」と言う場面。
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ハンネはこの後の
4個の角砂糖を見て
真相に気付くわけで、
ベンヤミンの逃亡後に
全てを理解している。
ベンヤミンが逃亡するまで
トリックは見破られていなかった。
こうして
小倉智昭は騙されたわけですが
タネを知った彼女の表情は
がっかりしていません。
とくダネでも
こんな清々しい顔は見ない。
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Q,この場面の窓の外に
人が立っているんですが?
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ベンヤミンが
「人は見たいものだけ見る」と
言った場面で
ピエロの仮面を被った
変質者がいますね。
見えてしまいましたか。
Q,マックスとマリのキスシーンを
見てしまう場面で
一瞬ベンヤミンと
入れ替わるコマが入っている。
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これも見えてしまいましたか。
ベンヤミンの欲望が
一瞬入れ替わったのでしょう。
4人が実は1人だったという
最初のどんでん返しの伏線と
とらえてもいいでしょうね。
まあ早い話、
監督のお遊びです。
Q,『ファイトクラブ』のポスターが
あるのはもしかして?
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このオチの先駆者に対する
リスペクトですね。
一瞬だけ別の映像が入る
サブリミナル手法も真似です。
Qマリが仲間に加わる意味がわからない。
ネットでは
「最初から仲間だった」という意見がある。
“そもそもベンヤミンの証言には嘘が混じっていて、基本的にCLAYの仲が悪いことにまつわる話は全て嘘だと思われる。最初からマリはCLAYの一員であったと考えられる。
というのも、エンディングでハンネ捜査官が4つの角砂糖でトリックに気づいたような描写がされているのだけど、本当は角砂糖は5つあった。
それは、冒頭でコーヒーの中に溶かされている一つ。以降、ベンヤミンはコーヒーを飲まない。
なので、マリとマックスの関係の話も創作だと思われる。”
なるほど。
面白い意見だけど
角砂糖を入れたのはハンネです。
自分側のカップに入れただけ。
左がベンヤミン、右はハンネ。
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それと
溶けた角砂糖を計算に入れて
場に出ている山盛りの角砂糖を
忘れてもらっても困る。
溶けた角砂糖を数に入れるなら
見えない仲間として
逃亡を許した
ハンネに当てはめたほうが良いのでは?
あのマリとの関係は嘘ではない。
最初から仲間だったわけでは
ないと思いますよ。
どうして学校やめてまで
ついてきたかは
「落第するほど馬鹿」という伏線
があったはずです。
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まぁどのように解釈しても
その人の自由ですが。
Q,ハンネがベンヤミンを逃がした動機は?
ベンヤミンに
「冷たく見えるが孤独な人」と
指摘されたように
息子に対するような感情が
芽生えたのかもしれない。
流産で子供が産めない身体になったのが
その要因のひとつではないか。
それにCLAYはあくまでも小物。
ハンネが追っていたのはMRXで
逮捕に協力してくれた分の借りを
きっちり返さないと気が済まなそうだ。
決め手になったのは
ベンヤミンを連行中、
マルティンが母親と楽しそうに
電話している様子を
見たことじゃないかと思う。
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この子は幼くして母を亡くした。
母親になれなかった自分が
母親らしいことを
してやれないだろうか?
そう思ってハンネは
ベンヤミンの逃亡を
助けたのだと思いますよ。
●欠点を挙げればきりがない
ネットの評価は
前述した有名作品のオマージュが
出過ぎているため、
二番煎じだ何だと評価が低い。
「アレとアレを足した映画ね」と
言われて片付けられる始末。
リアリティが無いのも原因だ。
集団で行動している痕跡が
たくさんあるのに
今更単独犯を装ったり、
指紋ベタベタ残したり、
簡単にPCに近づける杜撰な警備や、
身分証なしで入れるセキュリティの甘さ、
机の下に隠れてばれないのに
捕まる時は理不尽なくらい早く捕まるなど
都合良すぎな展開が多すぎ。
俺はそこまではフォローしない。
ただ最後に
「やられた」感はあったので
それなりに満足してる。
欠点を挙げればきりがない。
まあ俺は
「見たいものしか見ない」でおこう。