刑事コロンボ
#2『死者の身代金』
[RANSOM FOR A DEAD MAN]
(1971年3月1日放送)アメリカ
(1973年4月22日放送)日本
<あらすじ>
弁護士レスリー・ウィリアムス(リー・グラント)は、自宅で夫ポール(ハーラン・ウォード)を射殺。死体を海に捨てると自分宛に脅迫状を送り、誘拐事件に偽装した。さらにテープに残った声とタイマーを使って夫からの身代金受け渡し指示の電話を偽造し、FBIの面々を見事に欺くレスリー。だが、居合わせたコロンボだけは、彼女の電話の受け答えに疑問を感じていた……。
<スタッフ>
監督・製作総指揮 リチャード・アーヴィング
脚本・製作 ディーン・ハーグローヴ
原作 リチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンク
音楽 ビリー・ゴールデンバーグ
撮影 ライオネル・リンドン
編集 エドワード・M・エイブロムズ
<キャスト>
ピーター・フォーク(コロンボ)ロサンゼルス市警警部
リー・グラント(レスリー・ウィリアムス)弁護士
ハーラン・ウォード(ポール・ウィリアムス)その夫、弁護士
パトリシア・マティック(マーガレット)レスリーの娘
ハロルド・グールド(カールソン主任)FBI捜査官主任
ジョン・フィンク(マイケル・クラーク)レスリーの秘書
第1話『殺人処方箋』から3年、
シリーズ化の前の
パイロット版として作られた第2話は
初の女性犯人。
かなり切れ者で冷酷な強敵が相手だ。
殺人シーンは昔ながらの
止め絵とBGMのお粗末な感じだが
レスリーの目と
車のライトの重なる演出が不気味。
コロンボが小型飛行機を
操縦させられたり
前回の舞台劇の雰囲気から
大きく外に飛びだした印象を受ける。
なぜ22口径の
小さい弾丸の銃を使ったかで
被害者の体を突き抜けて
殺人現場に痕跡を残したくなかった
というアイディアはよかった。
犯人の計画になかった
娘が海外から帰ってくるという
小さなハプニングによって
全ての計算が狂ってしまう結末は
なかなか良いのだが
犯人の性格を利用した自白方法は
少し納得度が低いかもしれない。
☆☆☆☆☆ 犯人の意外性
★★★★☆ 犯行トリック
★★☆☆☆ 物語の面白さ
★★☆☆☆ 伏線の巧妙さ
★★☆☆☆ どんでん返し
笑える度 -
ホラー度 -
エッチ度 -
泣ける度 -
評価(10点満点)
7.5点
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※ここからネタバレあります。
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●1分でわかるネタバレ
○被害者 ---●犯人 -----動機【凶器】
①ポール・ウィリアムス ---●レスリー・ウィリアムス ---障害の除去【射殺:銃(22口径)】
<結末>
決定的な証拠のないまま
事件は迷宮入りかと思われたが、
娘マーガレットは
執拗にレスリーを犯人扱いし
目障りになってきたレスリーは
スイスに戻るように言い聞かせ
毎年2万ドル払う約束をして
マーガレットを追い払おうとした。
さっそく2万ドルを持たせて
空港まで見送ったら
そこにコロンボがいる。
何か待っているらしく
2人はしばらくカフェで雑談する。
そこにマーガレットに渡した
2万ドルが帰ってきて
身代金の紙幣と番号が
一致したと教えられる。
決定的な証拠である
身代金を使わせるために
コロンボはマーガレットに
一芝居を打たせたのだ。
普通の人間は
お金を積まれても
肉親を殺した犯人を追い詰める。
しかしレスリーはそのような感情も
金で動かせると信じてる
その傲慢さが墓穴を掘った。
彼女は素直に負けを認めた。
●トリック解説
まずはレスリーの使った
犯行トリックがかなり凝ってる。
それは「偽装誘拐」
事前に被害者の会話を
録音しておいて、
>「君かい?」
>「レスリー?」
>「やむを得ない。30万ドル届けてくれ」
>「明日の晩、指示通り頼む」
これを繋げたものを
オフィスの電話機のタイマー装置にセット。
自分宛てに
新聞の文字を切り貼りした
誘拐犯の脅迫状を投函する。
その夜、
被害者が帰宅するのを待ち伏せ
22口径のピストルで射殺し
車に乗せて移動。
近くの海に投げ捨てる。
事前に12時15分に
一言だけ電話をかけるように
友人に頼んでおいて
翌日第三者が見ている前で
その電話に自分が出て
誘拐犯からだと言って事件を発覚させる。
警察とFBIがレスリーの家に張り込み。
誘拐犯からの電話を待っているところに
事務所の電話にセットしておいた
被害者の声をタイマーで再生し
自宅に電話をかけることで
まだ生きていると思わせる。
(短すぎて逆探知できない)
身代金の入ったバッグAと
全く同じバッグBの2つを用意して
小型飛行機で飛ぶ直前に
ロッカーでAとBを入れ替え
バッグBを持ってフライト。
バッグBに入っていた
犯行に使ったレコーダーなどを
フライト中に投げ捨て
取引現場に空のバッグBを捨てる。
警察が空のバッグを見つけ
後で被害者の死体を見つけて
誘拐犯に金を盗られ
人質も殺された……というシナリオ。
誘拐の自演だと
『古畑任三郎』の「殺しのファックス」が
この話に似ている。
今回も犯人のミスに探偵が気づいたり
思わぬ誤算が足を引っ張る
「発覚トリック」があります。
①レスリーが電話に出たとき
夫の安否を気にしなかったことを
コロンボは不自然だと感じる。
また夫の死体が見つかったと聞いて
どこでどのようにしてか聞かず
大勢の前で崩れ落ちた様子が
今までのレスリーらしくないと指摘される。
→コロンボはもう夫が死んでるからレスリーは冷静に演技していると言いたいのだが、電話から夫の声が聞こえるのだから生きていると思うし、死んだと聞いて冷静さを失うのはむしろ自然。
②夫ポールが死んだ夜、
階段を降りた娘マーガレットが
レスリーが鼻歌を
歌っているのを聞いてしまう。
→これは完全に墓穴。
③電話トリックに使った
事務所の電話をコロンボに見られる。
→1番見られちゃまずい物を1番見られたくない奴に見られた。後でコロンボが同じ電話を買って部屋に入る直前にタイマーで電話をかけるイタズラでおちょくってきます。
④誘拐の犯人が
バッグの中身だけ抜いて
空のバッグを置いて逃げたこと。
→レスリーは誘拐犯が身代金を受け取ったように見せるため、事前に空のバッグとすり替えて飛行機から投げ落としたが、わざわざ現場でそんな時間かけなくてもバッグごと盗めばいいことをコロンボに指摘される。レスリーは中にお金が入っているか確認のために開けてそのまま取り出したのではと説明したが、「バッグ」と聞いた時「どっちの?」とおかしなことを言ってしまっていた。
⑤弾丸の角度が
下から撃たれていた。
被害者は立っていて
犯人は座っていた。
状況としては不自然。
→被害者は部屋に入ったところを座っていた犯人に撃たれた。顔見知りの犯行だと推理されてしまう。
⑥弾丸が22口径。
強盗や犯罪者は
32か38口径が多いのに
なぜ口径の小さい弾丸だったか?
→被害者の体を弾丸が突き抜けて現場に痕跡が残るのを恐れたから。つまり本当の殺害現場は別のところ、おそらく部屋の中ではないかと詰められる。
⑦発見された被害者の車の
座席シートの位置が前に出ていた。
最後に車に乗ったのは
背の高い被害者ではなく
背の低い犯人だと推理。
→これは凡ミス。ちゃんとシートは戻しておこう。
⑧車のキーが無かった。
被害者が運転したはずの車にも
被害者の服にも現場周辺も
車のキーが見つからなかった。
→大きなミス。うっかり癖でキーを抜いてしまった。そのまま見つからないならいいが、下手に自分の周りで見つかると厄介。
⑨最大の誤算は
スイスにいるはずの娘マーガレットが
帰ってきたことだろう。
レスリーを敵視していて
なにかと邪魔な存在。
→最後はマーガレットに金を渡してしまい、紙幣番号が身代金と一致してバレてしまう。
そして
コロンボが犯人を自白させる
「逆トリック」今回もあります。
マーガレットに協力してもらい
徹底してレスリーの目障りになるよう動き
追い払いたいなら金をくれと、
すぐ2万ドルもらったら
大人しく出て行くと約束する。
金に余裕は無いが
隠している身代金は30万ドルある。
マーガレットに持たせて
スイスで使うなら足も付きにくいだろうと
レスリーは2万ドルを渡した。
そのお金を警察が調べて
身代金の番号と照合し一致した。
決定的な証拠になり
レスリーは逮捕される。
お金を使わざるを得ない状況に
追い込んだわけだ。
コロンボが言うには
普通の人間なら
この作戦は成功しないが
あんたの性格なら
成功する確信があったと言う。
欲深くて野心家、
金さえあれば何でも丸め込める
そうやって育った人間だから
他人の気持ちなどわからないのだと。
なるほど深いねぇ。
ところで
この逆トリックは2回行われていた。
それは次の伏線まとめで解説。
●伏線まとめ(★はとくに巧妙なもの)
★①【車のキーの茶番劇】
コロンボとマーガレットの会話で
実は車のキーが見つかっていない、
もしもキーをレスリーが持っていたら
決定的な証拠になると教えた。
マーガレットがキーを見つけるが
それはレスリーを陥れるために
君が合鍵を作ったんだろうと
コロンボが止める“茶番”が行われた。
- この1回目の逆トリックはただの誘い水。「証拠のでっちあげは罪だよ」と釘を刺し、マーガレットがコロンボの頬を平手打ちまでする迫真の演技。ここでうまいことマーガレットとコロンボのライン切りが行われている。ゆえに2回目が不意を突くかたちになった。
②【犯人の性格】
逮捕の決め手になる
金で人を買収しようとする性格。
裁判での立ち振る舞い
コロンボへの言動など
それらしい強欲さは見えるが……。
- 肝心の金に執着した様子ははっきりしなかったので、裁判のどこかで買収するような動きを入れて欲しかった。
③【保険金について話すテレビ】
マーガレットが帰ってきた翌朝
テレビを見ているがその内容が
「死亡した場合の保険金」
- ドラマか保険会社のCMかわからないが、保険金殺人という可能性がマーガレットの中にすり込まれているところだろう。直後に言った「うまくいくといいわね」のあと「裁判のことよ」とはぐらかしたが、レスリーには痛く刺さったはず。
●欠点や疑問など
- コロンボが気になった電話の対応は別に不自然に思わない。無事かどうか聞く時間はなかった。その後、夫が死んだと聞いて崩れ落ちた様子がさっきまで冷静だったのに都合良すぎると語ったが、これも言いがかり。今回に関しては最初の疑い方が下手。
- 犯人の射撃の腕がすごい。外したら部屋に痕跡が残ってしまうのに。
- 飛行機で飛ぶシーンが多くて中だるみしているように感じる。
- 海に捨てた死体がタイマーの電話より先に発見されたら破綻してしまうのでは?もしも予定より早く死体を発見されたら「警察に通報したから殺されたのよ」と警察になすりつけてタイマーを切るつもりかな。
- 葉巻吸いながらビリヤードすな。
- 犯人の追い詰め方が運まかせ。
- マーガレットが可愛くないため犯人側に感情移入してしまう。
●名台詞
FBIのカールソン主任に
レスリーを疑うのは失礼だと窘められ
田舎警察はひっこんでいたまえと
辛辣に言われたコロンボの返し。
コロンボ「お言葉ですけどね、それは筋違いじゃないですか。単なる誘拐事件じゃなく、殺しと決まったんですよ。つまりこの事件は私の管轄だ。後には引けませんな」
犯人がバッグの中身だけ
持って逃げたことを
やけに気にしているコロンボ。
ほんの小さなことが
なぜか気になってしまう性分だと話す。
コロンボ「おそらくそうかもしれない。でもどういうわけか、こないだからそのことが気になって仕方がないんですよ。自分でも情けなくなることがあるけど、こうなると一種の病気ですな。頭にこびりついて離れないんです。確かそんな病気がありましたなぁ」
レスリー「強迫神経症」
コロンボ「それだ、強迫神経症。なんというか……ぴったりの言葉だ」
レスリー「感心してる場合?」
身代金という
決定的な証拠を前にして
コロンボがレスリーに
なぜ墓穴を掘ったか教える。
コロンボ「普通ならこんな作戦で成功する見込みはないんだけど、この場合は成算があった。そのわけはあんたの性格さ。欲が深いうえに自信家だってこと。人は金さえもらえれば肉親を殺された恨みも忘れてしまうもんだと。あんたはそう確信した。あんた自身がそういうタイプだからだろう。そこが誤算。とんでもない思い違いさ。人間にはいくら金を積まれても売り渡せないものがあるってことをあんたは知らなかった。マーガレットを買収できると思ってた。それが命取りだった。あんたは自分の欲の深さに裏切られたんだ」