刑事コロンボ
#9『パイルD-3の壁』
[BLUEPRINT FOR MURDER]
(1972年2月9日放送)アメリカ
(1973年2月25日放送)日本
<あらすじ>
建築家エリオット・マーカム(パトリック・オニール)は、実業家ボー・ウィリアムソン(フォレスト・タッカー)の妻ジェニファー(パメラ・オースティン)の出資で、壮大な住宅都市建設のプロジェクトに取り組んでいた。しかし、ヨーロッパから帰国したウィリアムソンは自分の知らないところで大金が動いていることを知って激怒し、援助を打ち切ると宣言する。その晩、マーカムは銃を突きつけてウィリアムソンを拉致して殺害。彼が再び旅行に出たように偽装を行った――。
<スタッフ>
監督 ピーター・フォーク
脚本 スティーヴン・ボチコ
原案 ウィリアム・ケリー
制作 リチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンク
音楽 ギル・メレ
撮影 ロイド・エイハーン
<キャスト>
ピーター・フォーク(コロンボ)ロサンゼルス市警警部
パトリック・オニール(エリオット・マーカム)建築家
フォレスト・タッカー(ボー・ウィリアムソン)実業家
パメラ・オースティン(ジェニファー・ウィリアムソン)その妻
ジャニス・ペイジ(ゴールディ)ウィリアムソンの元妻
ジョン・フィードラー(モス博士)医者
ジョン・フィネガン(カール)工事現場主任
ベティ・アッカーマン(シャーマン)マーカムの秘書
感想
今回の犯人は
夢の新都市建設の野望を持つ
建築家マーカム。
事業家の妻をだまして
金を出させようとするが
それを阻止してきた夫を殺害する。
ピーター・フォーク自ら監督した本作は
刑事と犯人の「対決色」がかなり強い。
コロンボは早くからマーカムに目を付け
マーカムも疑われていることを気づいて
何度も挑発するがコロンボは
お馴染みのとぼけた態度でかわす。
コロンボはパイルD-3の基礎工事に
ウィリアムソンの死体を隠したと推理し
建築局でパイルを掘り返す方法と
費用を聞くためだけに
長い行列に並ばされて辟易しながら
お役所手続きをして
やっと掘り返してみたら……
おっと、それはネタバレ解説で。
対照的な2人の妻の個性が面白く
脳天気な若妻ジェニファー役の
パメラ・オースティンは可愛かった。
コロンボが医者に葉巻はやめなさい
命を縮めるよと言われて
しょんぼり帰る姿も可愛かった。
結局それから
(今回は)葉巻を吸っていない。
カタコトの日本語を話す
ゴールディのメイドのミコも印象に残った。
「ドウゾヨロシク、コロンボサン。
アナタハステキデス。アノネ、ワタシハ
アナタスキデス。アノネ、マタ、サヨナラ」
そうそうコロンボが
キスされる場面もありました。
相手はゴールディ。
パイルを掘り返す行動力に
あなたは見込み通りねと
お礼にキスされる。
最後ちょっといい感じになってた。
☆☆☆☆☆ 犯人の意外性
★★★★☆ 犯行トリック
★★★☆☆ 物語の面白さ
★★☆☆☆ 伏線の巧妙さ
★★☆☆☆ どんでん返し
笑える度 ○
ホラー度 -
エッチ度 -
泣ける度 -
評価(10点満点)
7点
※ここからネタバレあります。
1分でわかるネタバレ
○被害者 ---●犯人 -----動機【凶器】
①ボー・ウィリアムソン ---●エリオット・マーカム ---障害の除去【射殺:銃】
<結末>
コロンボはパイルD-3の
掘り返しを決行した。
マーカムは何も出てこないのに
無駄なことをして邪魔しないでくれと
コロンボを非難するが……
掘り返したパイルを調べても
死体も衣服も見つからず
マーカムは勝ち誇り
コロンボは落胆する。
その夜、
マーカムはウィリアムソンの死体を
隠していた道具小屋に行き
車で工事現場に移動する。
一度捜査して安全になったパイルに
死体を埋めようという計算だった。
門を開けようとしたとき照明がついた。
コロンボや刑事たちが取り囲み
マーカムはすべてを悟った。
罠だったのか――。
パイルを掘り返すのも
そこに死体が無いことも
実はコロンボはわかっていて
マーカムが死体を運ぶ
この瞬間を待ち構えていたのだ。
トリック解説
今回の「犯行トリック」は
死体の隠し方が秀逸。
建築中のビルの基礎工事の
パイル(柱)に死体を隠すのだが
殺害してすぐではなく、
自分に疑いが向いてじゃあ掘り返して
パイルを調べてみてくださいと
面倒な手続きと莫大な費用を使わせて
掘り返したパイルに
何も無いことを確認させた後で、
死体をパイルに本当に埋めて
工事を進めるという大がかりなトリック。
一度捜査をした場所、
しかも手続きが面倒なところに
隠すのは相当頭がいい。
成功していたら絶対に見つからない。
ただし一時的に
死体を隠した道具小屋を
捜索される危険もあるし
海外に旅行に行った偽装も
すぐ見破られる杜撰なものだった。
先妻のゴールディが
ウィリアムソンの死を伝えようとして
帽子に自分の血をつけて
(同じ血液型だった)
殺されたような偽装をしたが
余計な捜査攪乱なので
やめてほしい。
今回もあります。
犯人を逮捕するために
コロンボが犯人に仕掛けた
「逆トリック」
コロンボは決定的な証拠である
ウィリアムソンの死体を発見するために
パイルD-3を掘り返した。
と言っても死体が埋まっていると
思ったわけじゃない。
マーカムの自信満々の態度から
何も出ないことは予想していた。
問題はその後、
1度捜査をして安全な隠し場所となった
そのパイルD-3に
死体を隠しに来るだろうと読み、
夜に待ち伏せて逮捕した。
パイルを掘り返して
何も見つからず落胆するコロンボは
相手を油断させるために演技している。
もう1度見直してみたら
その演技力の高さに驚くだろう。
犯人がミスをしたり
些細な偶然から
犯行が明るみになる
「発覚トリック」を見てみよう。
①ウィリアムソンは2~3日の旅でも
元妻のゴールディに電話を入れるが
今回に限って何日も連絡がないから
死んでいるかもしれないと心配になって
ゴールディが警察に連絡をした。
現在の妻ジェニファーは若いだけで、22年連れ添った元妻ゴールディはウィリアムソンの精神的な支えになっていた。コロンボが事件に関わる発端がゴールディの通報なので、彼女がいなかったらウィリアムソンの死は迷宮入りした可能性もある。
②心臓に持病のあるウィリアムソンは
近日中にモス博士の病院を
訪れる予定があったのに
海外に旅行に行くはずが無い。
ウィリアムソンの予定が手帳に残っていた。ゴールディはきっと殺されたのよと言い、ジェニファーは調子が良くなってきたから約束を忘れたんでしょうと適当だ。どうせなら「マーカムの計画に断固反対する!」とか書いておけばいいのに……。後にウィリアムソンはペースメーカーを使用していて、1年に1回の電池交換を怠るなど考えられないことが発覚する。
③マーカムの事務所で
秘書のシャーマンから
ウィリアムソンがやって来て
ウィリアムソン・シティの模型を
壊して怒って帰ったという話を聞く。
マーカムはウィリアムソンから計画の同意をもらったとジェニファーに言ったのに、事実はまるで逆。秘書の口止めが必要だった。というか模型を早く直せや。
④空港に車はあったが
飛行機の乗客名簿を調べたが
ウィリアムソンの名前は無かった。
マーカムは匿名で旅行をすることなど日常茶飯事で別に珍しいことじゃないとコロンボに言ったが、く、苦しい(笑)。コロンボは冷静に「ええ、ごもっともです」と答えたが、内心「何言ってんのコイツ?」と笑いをこらえていたと思う。
⑤車のカーステレオにカントリーの
カセットテープが大量に置いてある。
(※吹替は「ウエスタン」ですが
台詞や字幕は「カントリー」なので
カントリーということにしておきます)
これはウィリアムソンの趣味で
彼はカントリー以外は聞かない。
ところがラジオに切り替えると
クラシックの専門チャンネルに
ダイヤルが合わせてあった。
――ということはウィリアムソン以外の誰かが車に乗ってクラシックを聞いていたことになる。夫人はクラシックが好きだが自分の車があるから夫の車に乗った事は無いと言う。マーカムの事務所には大量のクラシックの入ったステレオがあった。つまり……。
⑥マーカムがしきりに
ウィリアムソンは海外に行った
死んでいないと主張する。
マーカムだけ強固に海外に行った説を推していたのは、死亡を確定させたくないから。死亡が確定した場合、遺産は25%がゴールディへ、75%が信託になっていてジェニファーは年金しか遺産が受け取れずマーカムのプロジェクトに出資する金が無い。
⑦逮捕の決め手になったのは
死体を埋めようと工事現場に
やって来たところで待ち伏せされた。
読まれてたね。その前にあった、タイヤがパンクしてすぐ後ろに白バイ警官がいて「トランク開けてタイヤ修理手伝いましょうか?」ってのコロンボの差し金じゃないかとすら思った。パンクは偶然にしてもすぐ警官が来るのは尾行されてたからでしょ。
伏線解説(★は巧妙なもの)
発覚トリックの1つ
車のBGMの伏線が良い。
★①【カントリーとクラシックのBGM】
ウィリアムソンの音楽の好みは
カントリ・ミュージック。
車に乗るとすぐ
カントリーのBGMを流した。
その直後マーカムに脅されて
道具小屋に2人で入った後、
BGMがクラシックに変わり
マーカムが車を運転している。
- BGMがカントリーからクラシックに切り替わった。これが一瞬、演出上の(実際には流れていない雰囲気作りのための)BGMかのように思わせて実はカーステレオ(ラジオ)から流れる音楽だったのがポイント。車のBGMを切り替えた人物がいることの証拠になるからです。
- ここで特筆すべきなのは音楽のボリュームの変化。車から流れていることを意識させるために、マーカムが建物の中に入ったらBGMが聞こえなくなり、車に戻るとBGMが大きくなった。つまりメタな演出上のBGMじゃないよ、これは実際に流れてるBGMだよという示唆だ。外にいると音楽が聞こえるから、俺はてっきり近所の住人がピアノでも弾いてるのかと思っちゃった(笑)
- さらに言うと、コロンボがマーカムの事務所を訪ねた場面。秘書のシャーマンが社長はすごい人でどうのこうのとBGMのようにおしゃべりしている間にコロンボが勝手に社長室に入って模型を眺めている。その時、上記のマーカムが家に入ったのと同じくシャーマンの声のボリュームを落として、わざと同じシチュエーションを被せてヒントにしてあるのだ。
②【ビルという名の墓石】
ウィリアムソンに出資を拒否され
マーカムと口論になる。
ウィリアムソン「どうしても道楽をやりたいならあぶく銭を持ったお人好しを探すんだな!」
マーカム「ええそうしましょう。でもあんたの墓地の設計だけはやらせてもらいましょうか」
- この会話は一見すると、さっさとくたばりやがれ的な意味に聞こえる。だが実際にマーカムは、ウィリアムソンの墓地を建設する途中だった。ビルという名の墓石を――。
↓
それに繋がる伏線。
③【ピラミッドの下に生き埋め】
マーカムが大学で
ピラミッドの講義をしている。
ピラミッドの内部は複雑な構造で
侵入者を罠にはめる仕掛けも有り
秘密保持のために
生き埋めにされた設計者がいるらしい。
- ピラミッドのような建築物の下に死体を隠す、という着想をコロンボに与えた。が、これは伏線というほど隠れておらず微妙。
欠点や疑問など
- マーカムが車の後部座席に乗り込んでウィリアムソンを待っていたが、どうやって隠れたのか?乗る時に見えると思う。
- マーカムはウィリアムソンの家に堂々とやって来たが途中で見られる危険は?あの家は何度も来たことがあるのだろうか?
- 吹替えは「クモ」で原文や字幕は「ダニ」とコロンボを表現している。虫を変えてしまうと意味が違う。「コンクリートの壁を破る」だとか今回も吹替えがひどい。
- コロンボがパイルを掘り返すことが前提のトリックなので、死体をあのまま小屋に置いておかなければいけない場合、時間が経つと腐敗して見つかりやすい。
名場面・名台詞
コロンボが
マーカムの大学の講義中に現れ
ピラミッドの下に設計者を埋めた話に
とても感心を持つ。
コロンボ「ピラミッドの下なら物の隠し場所として最高でしょう。同じ手口を犯罪に使われたら、まずお手上げですなぁ」
マーカム「ピラミッドの中にはそう簡単に入れないよ」
コロンボ「ああピラミッドとは限りませんよ。似たような場所が他にもあるでしょう。なんて言うのかなぁ……ビルディングの」
マーカム「ビルの底、つまり基礎工事かな?」
コロンボ「それそれ。何でも隠すには打ってつけじゃないですか?大きなビルの下に埋めこんでしまえば、100年経っても見つからんでしょう」
マーカム「私も人を殺すかもしれんから覚えておこう」
元妻のゴールディは
ウィリアムソンが殺されたと断言する。
ゴールディ「やっぱり死んだとしか思えない。体にはとっても気を遣っていたし、先生との約束を忘れるような人じゃないもの」
コロンボ「そうかもしれないけど証拠がどこにも無い。これ以上つっこむわけには……」
ゴールディ「あなた刑事のくせに死体でも突きつけられないと信じない主義!?」
またもコロンボが
工事現場にやって来たので
うんざりするマーカム。
マーカム「ところであんたは人からクモみたいだと言われたことはないかな?」
コロンボ「はぁ?」
マーカム「クモは一見ノロマだけど、実に執念深くて、狙われたら最後、獲物はまず逃げ出す望みは無い」
コロンボ「あたしはそんな……」
※原文では「クモ」ではなく「arachnid(アラクニドゥ/クモ類の動物)」と言っていて、その後「ダニ(tick)」と説明しています。吹替はクモだと解釈して意味を変えている。
マーカム「君はダニのようだと言われたことは?」
コロンボ「なぜ?」
マーカム「平凡な虫だが実にしつこい。振り払っても容易には離れないからだ」
コロンボ「ありませんね」
遺言の内容によれば
ウィリアムソンの死亡が確定しない方が
マーカムにとって都合がいい。
そこをコロンボが突くと……
マーカム「死体無しでも死亡広告は出来るが、証拠も無しに人を殺人犯人には出来ないということさ。それが法律の壁というものだよ」
コロンボ「ああ、知ってます。だから、なんとかして、コンクリートの壁を破るハラなんです」
※コンクリートの壁とは?原文は「samething concrete」で「具体的な事柄」のこと。字幕は「動かぬ証拠を見つけないと」となっていてこちらが近い。
死体を運んできたマーカムを逮捕。
やっと勝利したコロンボが
マーカムの犯行手口を褒め、
最初に疑いを持った原因を語る。
コロンボ「最初に引っかかったのは音楽なんだ。ウエスタン(カントリー)とクラシックじゃ、水と油だ」
マーカム「建築屋と殺人もだ」
好事家のためのトリックノート
5-A、死体の隠し方トリック
●永久に隠す「土中に埋める」
【建築中のビルのパイル(基礎柱)】
建築家の犯人が死体を建築中のビルのパイルに埋めて隠す。その前準備でわざと犯人が疑われて、警察にパイルを掘り返させて何も無いことを確認させてから、死体を埋める。
8-A、発覚トリック
●物質的手掛かりの機智
「犯人のミス」
【カーステレオのBGM】
犯人が被害者の車に乗った時に、被害者の好みのカントリーではなく犯人の好みのクラシックにBGMを変えたことで疑惑を招く。
8-A、発覚トリック
●物質的な手掛かりの機智
「被害者の残した手掛かり」
【ペースメーカーの電池交換】
帰国後またすぐ海外に旅行に行ったと思われた被害者だが、心臓に持病のある被害者は近日中にペースメーカーの電池交換をするため医者に予約を入れていた。命の危険があるのに忘れて海外へ行くとは考えにくい。