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【ネタバレ注意】刑事コロンボ『第13話・ロンドンの傘』の感想・伏線解説・考察

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刑事コロンボ

#13『ロンドンの傘』

[DAGGER OF THE MIND]

(1972年11月26日放送)アメリカ

(1973年7月29日放送)日本

 

 

 

<あらすじ>

ロンドン。売れない俳優夫婦のニコラス・フレイム(リチャード・ベースハート)リリアン・スターホープ(オナー・ブラックマン)は、名制作者サー・ロジャー・ハビシャム(ジョン・ウィリアムズ)を騙し『マクベス』の公演を実現させたが、初日の前夜、それに気づいたロジャーがリリアンの楽屋にやって来て激怒し、演劇界からの追放を宣言される。彼を止めようともみ合ううち、誤って殺害してしまった2人は、死体を屋敷まで運び、階段からの転落事故に偽装したが――。

 

<スタッフ>

監督 リチャード・クワイン

脚本 ジャクソン・ギリス

原案 リチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンク

制作 ディーン・ハーグローヴ

音楽 ディック・デ・ベネディクティス

撮影 H・ウォルフ、ジェフリー・アンスワース

 

<キャスト>

ピーター・フォーク(コロンボ)ロサンゼルス市警警部

リチャード・ベースハート(ニコラス・フレイム)俳優

オナー・ブラックマン(リリアン・スターホープ)その妻、女優

ジョン・ウィリアムズ(サー・ロジャー・ハビシャム)制作者

ウィリフリッド・ハイド=ホワイト(タナー)執事

バーナード・フォックス(ダーク)刑事部長

アーサー・マレット(フェンウィック)楽屋番

ジョン・フレイザー(オキーフ)刑事

ロナルド・ロング(ジョーンズ)蝋人形館の館長

 

感想

今回はイギリスのロンドンが舞台。

売れない俳優夫婦が

衝動的に犯した殺人を隠すため

死体を移動させて偽装工作するが

被害者が持っていた傘を

間違えて持って帰った人物がいて

警察が気づく前に取り返して

元に戻そうとあれこれ奮闘する話。

初めての複数犯人。

(『悪の温室』は違うため)

 

ウィリアム・シェイクスピアの戯曲

「マクベス」を知っていないときつい。

将軍マクベスが妻と謀って

主君を暗殺し王位に就くが、

内面・外面の重圧に耐えきれず

錯乱して暴政を行い、

貴族や王子らの復讐に倒れる。

実在のスコットランド王マクベスがモデル。

夫婦が王を殺すのも

その後も罪を重ねるのも

マクベスになぞらえている。

 

死体を移動させようとして

「そうだわ、ロジャーの傘」と言った時

「うわ~傘取り違えてそう」と思ったら

やっぱり傘を楽屋番が取り違えていて

気づいた犯人が取り返そうと

焦るのが面白い。

そしてコロンボが

犯人を追い詰めるために仕掛けた

逆トリックの罠も見どころ。

 

個人的に蝋人形館の

不気味な感じが大好きなんですよね。

首がゴトンと倒れるところとか

『犬神家の一族』を思い出してゾクっとした。

 

今回コロンボは研修でロンドンに来たが

案内役のダーク刑事部長の

身内が被害者のロジャーで、

事件の現場に寄り道したのがきっかけで

たまたま事件に関わることになる。

タワーブリッジ、ビッグベンなど

ロンドン観光が楽しくて写真を撮りまくる

子供っぽいコロンボの姿も見れる。

 

警察の先回りをして

証拠を隠そうとする犯人と

それを追うコロンボの

追いかけっこの構図が秀逸で

NHKの「あなたが選ぶ!

思い出のコロンボ ベスト20」では

第7位に入っている。

とくにラストの自白方法が

強く印象に残ったのだろう。

ただし吹替は小池朝雄の喉の調子が悪く

大変聞きづらかった。

 

☆☆☆☆☆ 犯人の意外性

★★★☆☆ 犯行トリック

★★★★☆ 物語の面白さ

★★★☆☆ 伏線の巧妙さ

★★★★☆ どんでん返し

 

笑える度 -

ホラー度 -

エッチ度 -

泣ける度 -

 

評価(10点満点)

 8点

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ここからネタバレあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1分でわかるネタバレ

○被害者 ---●犯人 -----動機【凶器】

サー・ロジャー・ハビシャム ---●リリアン・スターホープ ---衝動【殴殺:コールドクリームのビン】

タナー ---●ニコラス・フレイム ---障害の除去【絞殺:ロープ】

※ニコラス・フレイムとリリアン・スターホープは①②とも共犯。死体を屋敷に移動させた。タナーを吊したのはニコラスと思われる。

 

<結末>

あの夜に被害者が

ロンドンにいた証拠の傘を探し、

傘を取り違えていたことまで

突き止めたコロンボだが

一手遅く元通りに入れ替えられていた。

 

その後、

ロジャーの執事タナーが

首吊り自殺したが

真犯人に殺されたと推理するコロンボ。

それを証明するため

蝋人形館のオープンの日に

ニコラスとリリアンを呼ぶ。

 

ロジャーの蝋人形を前にして

コロンボは謎解きを始める。

濡れた傘を立てかけておいたら

中に何か入ったかもしれない。

とくに喧嘩したネックレスの珠なんか。

そう言ってロジャーの傘をひっくり返すと

中から珠が1個転がり落ちた。

それを見たニコラスは発狂し

リリアンは故意に殺したのでは無いと弁明。

自白した2人は逮捕される。

 

トリック解説

ニコラスとリリアンは

衝動的に殺してしまったので

事前の「犯行トリック」は無いが

被害者がこっそりやって来たことを利用して

屋敷に死体を運んだ。

同じパターンの殺人は

#4『指輪の爪あと』にも有る。

 

ここからは殺した後の話。

「マクベス」のリハが開演直前だったので

ひとまず楽屋の衣装ケースに隠し

終演後に衣装ケースを車に積んで

1人がロジャーの車、

もう1人が自分たちの車で屋敷に行く。

 

できるだけ物音を立てずに中に入って

ニコラスは2階の読書机に開いた本を、

階段下に死体を移動させて

階段から転落死したように偽装した。

 

警察が解剖して

不審な点を見つけた場合を考えて

ニコラスがロジャーに貸した

アーヴィングの「マクベス」台本を

探したが見つからないから

強盗が盗んだかも

という線を匂わせておいた。

 

しかしそれよりも

もっとまずいことが発覚する。

リリアンはロジャーの帽子と傘と

コートをいつもの場所に戻したが

実はその傘は別の人の傘で

楽屋番のフェンウィックが

ロジャーの傘を間違えて持って帰っていた。

 

なんとか楽屋番に気づかれずに取り戻し

蝋人形館に進入して傘を入れ替えたが

執事タナーに気づかれて脅迫される。

そこで2人はタナーも殺し

主人殺しの罪を着せるのだった。

 


 

今回の1番の見どころは

コロンボが犯人を

自白させるために仕掛けた

「逆トリック」です。

 

コロンボは蝋人形館の

オープン直前に

ニコラスとリリアンを呼び出して

ロジャーの蝋人形を見せた。

そしてロジャーを殺したのは

タナーじゃなく

あなたたちだと追及する。

 

コロンボは持っていた

こうもり傘を壁に立てかけて

雨で濡れた傘はこうやって紐で縛らず

乾くまで軽く開いて立てるから

中に物が入っても不思議じゃない。

だとすればあの日、

ロジャーの傘にも何か入った可能性がある。

 

そこでネックレスの珠を取り出す。

あの夜の喧嘩の時にネックレスの珠が

傘に入っていたとしたら?

館長がロジャーの傘を持ち

ゆっくり開くと珠が1個転がり落ちた。

 

あまりのことにニコラスは

発狂して笑いながら

「明日……そして明日……」

としか言わなくなり、

リリアンは「あの刑事が入れたのよ」と

抵抗するが無駄とわかり

「あれは事故だったの」と弁明を始めた。

 

実はこの珠は

コロンボが仕組んだ物で

珠を取り出す時に

後ろを向いて咳をしたが

その際に爪でピンと弾いて

早業で傘の中に入れたのであった。

コロンボは子供の頃、

気になる女の子がいたら

こうやってイタズラして

振り向かせたという。

この小さい頃のイタズラが

役に立つ展開も

『指輪の爪あと』に似ている。

 

館長のジョーンズが

目の前でコロンボが何か飛ばしたのを

見ているはずだが

それを言わなかったのは

あらかじめ打ち合わせて

あったわけではなく

あの時の会話に秘密がある。

 

リリアンが

「あの刑事が入れたのよ」とわめいたので

ダーク刑事部長が館長に質問した。

「誰かあの傘に触れた者は?」

「いいえ、1人もいません」

そう、コロンボは珠を飛ばしたが

傘には触れてはいないのである。

だから館長は「いいえ」と答えるしか無い。

この会話の流れまで計算していたのなら

コロンボはすごいと言わざるを得ない。

 

ダーク刑事部長の聞き方が上手かったので

もしかしたらダークに電話して

「あたしが何か珠を拾い上げたら

“傘に触れた者はいるか?”って聞いてください」

という会話をしていた可能性はあるが、

新聞記事の蝋人形館のオープンに気づいて

オキーフの車で急いで向かっていたので

打ち合わせなどする時間はなさそうです。

 

まあ冷静に考えたら、

取り返したニコラスが傘を開いて

中を確かめていないことが前提の罠だし、

さらに抜群のコントロールで珠を

傘に入れなければいけないし、

そのチャンスは1度しかなく、

しかも立ち位置によっては

見えてしまう可能性もあるという

かなり成功率の低い逆トリックだろう。

 

あらかじめ珠を仕込んでいたとしたら

俺はそこまで評価しないと思うが

(仕込んだタイミングにもよる)、

珠の仕掛け方自体が

アクロバティックな早業で

予想外の驚きがあったので

これは成功率が低くても

“面白い”から高く評価したいです。

エンタメとして面白いものは許容したい。

 

それから、

勘違いしやすいがニコラスが

発狂して自白したのではなく

妻のリリアンが罪を認めている。

こんな状況でも

夫だけは救いたいという

夫婦の愛情だったのだろう……。

 

後にこれと同様の方法が

「古畑任三郎vsSMAP」で使われた。

古畑が自白させるために

紙吹雪をズボンの折り返しに入れている。

キムタクがひっかかったやつです。

 


 

犯人がミスをしたり

矛盾から事件の真相が明るみ出る

「発覚トリック」をピックアップします。

 

①ロジャー愛用の読書机に

読書中らしき本が置いてあったが

『不思議の国のアリス』の初版本で

読みかけのページを開いて

うつ伏せに置いてあった。

それと近くに老眼鏡らしきものは

置いて無かった。

コロンボは本を開いてうつ伏せにすると背が痛むと母親に怒られたことがある(料理の本を開いてうつ伏せに置いた)。『不思議の国のアリス』の初版本は希少価値が高く、本を大事にする主人らしからぬ行動と指摘。部屋着ではなく外出着を着ていたことも不審に思っていた。

※字幕は、「女房の母親の本をうつ伏せに置いて怒られた」とある。カミさんに怒られたような言い回しだった。

 

②ロジャーはいつも

胸ポケットに老眼鏡を入れている。

あの高さの階段から転落したら

さぞ老眼鏡も割れているはずと思ったら

胸ポケットに割れずに入っていた。

――とすれば階段から落ちたというのは偽装の可能性がある。

 

③死体の太ももに死斑、

腹部にも血液が凝固している。

死後数時間経ってから

死体は動かされた形跡がある。

死斑は死後30分で出始める。腹部に死斑が出るのは死体がうつ伏せに倒れていた証拠。トランクに隠したときにうつ伏せにしていたが、階段に運んだときは仰向けに置いたので、死体の状況が矛盾してしまった。

 

④ロジャーの蔵書に

ヘンリー・アーヴィングが使った

「マクベス」の台本があったらしいが

探しても見つからず

盗まれたんじゃないかと

ニックは言うが、

コロンボは他にも希少な本があるのに

それだけ盗むのはおかしいと指摘する。

コロンボは犯人の偽装工作の可能性が高いとみている。

 

⑤昨夜、ロンドン市内で

小時間だけ雨が降った。

ロジャーの家の付近は

昨夜は雨は1滴も降っていないが

ロジャーの車のボンネットには

水滴の痕が残っていた。

ロジャーが家に戻ったことにするため劇場の近くに停めてあったロジャーの車を移動させた。執事のタナーは毎日車を洗車するように言うので昨日の雨の痕であることが確定した。

 

⑥楽屋番が言うには

さっきまで持っていた傘が

酒場で誰かに盗まれたという。

ニコラスもそこにいて

みんなに愛想良く

金や酒を振る舞っていたらしい。

忙しい身なのに遅くまで飲んで、しかも金や酒を振る舞うのは何かある。どこかで楽屋番がロジャーの傘を取り違えたんじゃないか?と気づくコロンボ。

 

⑦決め手になったのは

ロジャーの傘の中に

もみ合った際にちぎれたネックレスの珠が

1個傘の中に入っていたことだった。

上の「逆トリック」にあるように、これはコロンボが自白させるために仕掛けた罠。

 

 

伏線解説(★は巧妙なもの)

【楽屋のヒーター】

リリアンが舞台の演出家に怒っている。

「こんな貧乏くさい王冠で演じろって言うの!?」

「わかった、変えるよ。メモしといて」

「楽屋のヒーターはいつ直るの?」

「楽屋番には言っておいた」

  • いきなり冒頭の何気ない喧嘩のやりとりの中に、今後の展開の伏線が張ってある。怒りにまかせて不満をぶつけた結果、自分でピンチを招くことになるというのが皮肉。

 

【マクベス】

この作品は「マクベス」自体が

重要な伏線になっていて

台詞を引用したりなぞらえている。

  • 犯人夫婦の犯行、主君を殺害、従者を殺して口を封じ王殺しの下手人にすることなど。
  • ニコラスが最後に取り乱したのも「バンクォーの亡霊が自分の席に座っているのを見て怯える」シーンの再現。リリアンが抵抗した後で罪を認めるのは「怯える夫を見てマクベス夫人は気丈に振る舞うが次第に不安になる」シーンの再現。そこでニコラスが言った「明日……」云々も、リハーサルの時の台詞にちゃんと出ている。「明日……そしてまた明日と、1日ずつ最期の時に近づいていく

 

【飛び散ったネックレスの珠】

逆トリックのための伏線①

ロジャーがリリアンの楽屋に来て

わしを騙したなとを怒り、

ネックレスを引きちぎって

床に叩きつけた。

翌日の終演後、

コロンボが床に転がっていた珠を踏んづけて

何があったのか聞くと

リリアンとニックが夫婦喧嘩して

その時に飛び散ったと2人は答えた。

  • ロジャーの怒りを表現した行動が、後にこれほどまでに重要なものとなろうとは……。夫婦喧嘩をした裏付けは楽屋番からも聞き込みで確認している。

 

★④【ネックレスが切れた場面を見ていないニコラス】

逆トリックのための伏線②

見逃してしまいがちだが

もう1つ重要な伏線が張ってある。

それは、

「ネックレスが切れた場面を

ニコラスが見ていないこと」

ロジャーがネックレスを

引きちぎって床に叩きつけた。

その騒ぎを聞きつけて

ニコラスが入って来て

ロジャーを止めようとした。

  • リリアンはネックレスが切れた場所は部屋の中央だと知っているので、叩きつけた時に入口横に立てかけている傘の中に珠が飛んで入ることはまず無いと思うだろう。しかし、後から部屋に入ったニコラスはネックレスがどこで飛び散ったのか見ていないため、傘に珠が入っていたと言われたら信じてしまう可能性があるのだ。たとえそれが極めて低い可能性だとしても、罪の意識に苛まれるニコラスには効果的だった。ニコラスが先に崩れてくれたおかげで、共犯のリリアンが罪を認めざるを得なくなった。

 

欠点や疑問など

  • あんなコールドクリームのビン投げたくらいで死ぬな。
  • 「マクベス」を知らないと理解が難しい。
  • 吹替えの小池朝雄の声がコンディション悪すぎ。喉が枯れていて聞きづらい。誰かモノマネしてるのかと思ったほどひどい。なぜ撮り直さなかったのか。
  • 観光のシーンが長い。
  • そもそもリリアンの楽屋に楽屋番が傘を置いていたのが変。自分のかどうか確かめることもせず、間近で見ても気づかないのなら、視力が悪いとか説得力を持たせるべき。それに傘を部屋の中に置くのも変に感じる。外だと盗られるから?酒場で傘を大事に抱えているのなら楽屋に置いたのは何なの?酒で気分が良くなって傘のことを忘れてしまうのも都合良すぎる。
  • 毎日車を洗わされるのは可愛そう。というより、そうしないと雨の痕が証拠にならないからというご都合主義。
  • なまりを表現するために地元の巡査の口調をべらんめえ口調にしているのが違和感。「けぇだん(階段)」「まってえらに(真っ平らに)」「少しめえ(前)」とか、やりすぎである。
  • フィクションだからアリだが、解決方法はフェアとは言えなかった。妙な正義感を持っている方はコロンボが証拠を捏造したのは反則だと批判するだろう。ただ、ネックレスの珠が傘から出てもそれはロジャーと会った可能性を捏造しただけで弱いし、「殺人の証拠」を捏造したわけではないので個人的にはセーフ。コロンボはアメリカに戻る直前で時間が無く、揺さぶって自白させる唯一の手がこれだった。確定黒の人狼を騙すのは村利。そもそもあれくらいであっさり落ちる方が悪いと思ってしまう。

 

名場面・名台詞

死体に不審な点があると

警察が話していることを知り

解剖されたらまずいかもしれないと

不安になるリリアンに

「マクベス」を引用してニコラスが言う。

ニコラス「偽りの顔は偽りの心の知ることを隠さねば」

 

初日の公演を終えた2人を

労いつつも事件の疑問を

しつこく聞いてまわるが、

2人ともロジャーは来なかったし

ただ夫婦喧嘩しただけと言い張るが

それでも疑うのでニコラスが怒鳴る。

コロンボ「どうも、申し訳ありませんでした。あたし疑問が浮かぶとついつい夢中になっちまうタチで……。いやぁ~しかし、お2人のような方は初めてです。実に素晴らしい演技でした」

ニコラス「ハハハッ、ありがとう。私もすぐカッとなるタチでね。忘れてくれたまえ」

コロンボ「お2人ともお疲れだろうに、そう見えないな」

リリアン「そりゃあなた、愛のせいよ。おやすみ警部さん」

コロンボ「ま、なんであるにせよ、とにかく珍しい方ですね。と言うのはですね、つまり、うちのカミさんとあたしが昨日あったことを思い出そうとしても、てんでチグハグなんですよ。ところがお2人はチグハグどころか、台詞までそっくり同じだから立派です。それじゃあ」

リリアン「おやすみ」

 

 コロンボが出て行くとリリアンが怒りを露わにする。

 

リリアン「あれだけいい芝居してやったのに。なんてずうずうしい!」

 

蝋人形館で傘を見つけたが

間違いなくロジャー氏の傘だと言われて

そんなはずはないと

コロンボが意見し、

犯人に先回りされた可能性を考える。

コロンボ「タナーさん。他に傘のことを聞いた人は?それも今夜だ。あたしがお宅に伺う前に」

タナー「どなたも」

コロンボ「ほんとに1人も?」

タナー「1人もございません」

コロンボ「確実と思ったが……。あの家行く途中でタクシーがイギリス製のスポーツカーにぶつかりそうになった。フレイムさんのと同じ車だった」

タナー「フフ、こちらにはイギリス製の車はいくつもございますしな。危険なドライバーはどこにもおりますでしょ?」

コロンボ「何かあるはずなんだが……」

 

 ダーク刑事部長がコロンボを制止する。

 

ダーク「鳥が飛び去ったかね?」

コロンボ「は?」

ダーク「君の推理のことだよ。(時計を見る)なんだこんな時間だ

コロンボ「待ってくださいよ。……どこで間違ったんだろう」

ダーク「まあそう気を落とすことはないさ。アメリカ風の堂々巡りもたまには気が変わって良いよ」

 

コロンボはあの晩ロジャーが

リリアンの楽屋に

来たことを証明しようとする。

コロンボ「そこで傘が登場する。傘ってやつはここもアメリカも同じで、差してた人が中に入ってきて傘をどうするか観察したんだが、傘をつぼめて、こうやって雨を振って、どっかそこらに立てて置く。ただし濡れてる間は絶対にきちんと紐を巻かないんだ」

リリアン「面白いこと」

コロンボ「それで困るのはねぇ、何かが中に入ることです。とんでもないもんが入ります。……そこで考えました。サー・ロジャーも多分あの晩そうしたろうとね。そして、何かが入ったんじゃないか?何かが。だとすると、えー……どっかに入れといたんですがね……」

 

 ポケットに手を入れて何かを取り出そうとするが、咳が出そうになり後ろを向く。

 

コロンボ「オホン、ああ失礼。(蝋人形を見て)実によく出来てますなぁ。(こちらに振り向いて)どこでしたっけ。ああ、そうそう。初日の晩、あなたの楽屋で踏んづけた奴ね。あれとおんなじ物を衣装係からもらって来たんですよ」

 

 ネックレスの珠を見て表情がこわばるニコラス。

 

リリアン「……ええ」

コロンボ「ひょっとして喧嘩の間にネックレスが切れたとしたら?」

リリアン「でも!でもあれは、主人とあたしの喧嘩……」

ダーク「ジョーンズ。あの傘を取ってきてくれんか」

ジョーンズ「はいはい、ただいま」

コロンボ「見込みですがね。しかしかなり有望な見込みだと思うんですよ」

リリアン「いいえ!違うわ!」

コロンボ「すぐわかるこってす。ジョーンズさん、傘開いてみてください」

 

 ジョーンズが傘を開くと、ネックレスの珠が1個転がり落ちた。それを拾ったダーク刑事部長が言う。

 

ダーク「同じ物だ。まったく同じだ」

コロンボ「いかがです?」

ダーク「どうです?」

 

 ニコラスが急に笑い始める。

 

ニコラス「フフフ、ハハハッ。……明日。……明日。そして明日……」

リリアン「ニックやめて!彼が入れたのよ!ねえ、わからないの?あの人が今ここで入れたんだったら!」

ダーク「ジョーンズ。誰か傘に触れた者はいるかね?」

ジョーンズ「ありません。それは証言します」

リリアン「ニックやめてよ!(コロンボにすがりつく)この人……わかるでしょう?正気じゃないのよ。普通の状態じゃないの!」

コロンボ「よくわかってます」

リリアン「サー・ロジャーは、あたしのせいで……事故だったの。誓って言うわ。ああ、ダークさん。馬鹿なことしちゃって……でもどうかわかってください」

 

 警官に連行されるニコラスとリリアン。

 

ダーク「ついていたな」

コロンボ「はい?」

ダーク「傘に入っているとどうしてわかった?」

コロンボ「いやなに、賭けですよ」

ダーク「だが見込みは千に一つだった。いったい何がヒントだね?ここだけの話」

コロンボ「部長もねぇ、3年か4年生の頃、同級生の可愛い女の子が気になることがあったでしょう?」

ダーク「それで?」

コロンボ「振り向かせようってんでね。オホンオホン、どうも今日は喉がね……。さかんにやったもんだ」

 

 コロンボが爪を弾いて珠を飛ばすと、蝋人形の杖の中に珠が入った。

 

ダーク「やったな」

 

好事家のためのトリックノート

8-B、発覚「心理的手掛かりの機智」

●――

【うつ伏せの本】

被害者が本を読んでいる途中に何かあって本を置いて階下に降りたような偽装をしたが、高価なハードカバーの本をうつ伏せにすると背が痛むので、蒐集家の被害者ではなく犯人の偽装だとバレる。

 

8-C、発覚「犯人自白トリック」

●犯人逮捕直前の自白強要トリック

【ネックレスの珠】

犯人と被害者が喧嘩して、ネックレスが引きちぎられて床に散らばったが、その時に入口横に立てかけてあった被害者の傘に珠が入っていたかもしれないと思わせておき、一瞬の隙をついて探偵が珠を飛ばして傘に入れて自白の材料を捏造する。

 

 

『刑事コロンボ』各話レビューまとめ


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