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【ネタバレ注意】今村昌弘『屍人荘の殺人』の感想・伏線解説・考察

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――たった一時間半で世界は一変した。

『屍人荘の殺人』

今村昌弘

(2017年)

 

 

※これは原作小説の感想です。映画ではありません。

 

随分前にコメントで

裏旋さんに『屍人荘の殺人』の

レビューをしてほしいと言われたのですが

当時はミステリーに熱が入らず

中途半端になってしまうために避けていました。

少しずつ熱を取り戻し

分析力も上がってきたので

時期を逃してしまいましたが改めて

この作品を読ませていただきます。

 

あらすじ

神紅大学一回生の俺、

葉村譲(はむらゆずる)

同大学三回生で

ミステリ愛好会会長の明智恭介

いつものように女子学生が

学食で何を頼むか推理合戦していた。

……また2人ともハズレだった。

 

明智さんとの出会いは今年四月、

俺はミステリ研究会に入りたかったが

ミス研のメンバーに熱意が感じられず

がっかりして部を出たところに彼が現れて

ミステリクイズを出されたことから始まる。

それに正解した俺に

「君、俺の助手にならんか」と声をかけられた。

明智さんも元ミス研だったが独立し

たった1人で「ミステリ愛好会」を作った。

俺が2人目の会員らしい。

2人で何か事件はないかと日々捜し中である。

 

夏休みは目前、

明智さんに8月の予定を聞かれた。

空いてますと答えると

映画研究部が夏休みに

心霊映像を撮影するため、

S県の裟可安湖(さべあこ)のそばの

山奥のペンションで合宿するから

そこに付いて行かないかと誘われた。

しかし映研の部長の進藤歩には

3度頼んで3度断られたという。

それでも明智さんはへこたれない。

何か事件が起きる予感がするという。

 

8月に入って喫茶店で会う2人。

また断られたと肩を落とす明智さん。

「事件のないまま

夏を過ごすわけにはいかんだろう」

ちょっとよくわからないが……

その時1人の美少女が

俺たちのテーブルにやって来た。

 

彼女は

剣崎比留子(けんざきひるこ)と名乗り

俺たちの名前も知っていて

明智さんが映研の合宿に

参加したいことまで知っていた。

そしてあの合宿の目的はコンパで

部外者が入れないのは

もう客室が空いてないからだったが

今は少々事情が変わってきて

参加を辞退する者が増えたそうだ。

その原因が脅迫状。

「今年の生贄は誰だ」という紙が

部室に置いてあったのだ。

 

去年の合宿参加者が

帰ってきてから自殺している。

霊が写っていたとか。

脅迫状を見た進藤は顔色が悪くなり

部員たちは何かを察するように

次々と辞退したという。

しかしこれは明智さんにとっては好機。

そこで剣崎さんの提案は

コンパ目的なら女の子が増えればOKだから

彼女も加えて3人で合宿に参加すること。

なぜこの話を持ちかけてきたのか?

それを聞かないことが取引の条件だという。

明智さんはもちろんOKした。

 

 

斑目機関――。

謎に包まれた薬品研究所が

危険な研究を繰り返し

特異集団とみなされて解体された。

その研究資料を受け継いだ男がいる。

儀宣大学の生物学准教授

浜坂智教は5人の部下を連れて

ある山中の廃ホテルにいた。

彼らはこの“成果”を

世に知らしめるためにここにいる。

今日ですべてが終わる……。

 

 

合宿当日、

俺と明智さんと剣崎さんが集まり

電車で目的地に向かう。

明智さんは彼女のことを調べていて

警察の難事件を解決した

探偵少女だという噂をつかんだ。

お嬢様の報道を制限する力で

いままで表に名前が出なかったらしい。

彼女の目的は何だろうか?

 

裟可安湖のそばのペンションは

映研のOBの親の所有物で

貸し切りで泊まれる。

降りた駅で進藤とその恋人

三回生の星川麗花と合流した。

ウェーブ髪の美人だ。

 

移動のワゴン車までは

ペンションの管理人の菅野唯人が出迎える。

待機していたワゴン車に

先に来ていた女性が3人乗っていた。

先頭の助手席に1人、

名張純江と名乗った彼女は

理知的で神経質そうな印象。

後部座席の2人は

背の高いショートヘアの女性が

三回生の高木凜

清楚で大人しそうな小柄な女性が

一回生の静原美冬

名張と後の2人は仲が悪いのだろうか?

 

ペンションへの道中は渋滞していた。

今日と明日はサベアロックフェスという

野外イベントのため人が多いようだ。

星川の作った合宿のしおりによると

俺たちが泊まるペンションは

「紫湛荘(しじんそう)」という名前で

オーナーの息子のOBが

友人2人を連れて来るので

合計13人が客として泊まる。

16の客室のうち

3つが空き部屋になっていた。

 

車は走り

山中の坂を登って赤茶色の屋根の

ペンションが見えてきた。

玄関を入ると広いロビーがあり

先に来ていた3人のOBの姿があった。

ギョロリとした目つきの

魚類の男が出目飛雄

日焼けした

ワイルド系の男が立浪波流也

肌の白い小柄な男が

オーナーの息子の七宮兼光だ。

 

菅野さんから

自分の部屋のカードキーを受け取る。

部屋はオートロックでロックを解除するには

その部屋の番号のついた

カードキーでしか開けることができないが

部屋の電気を点けるだけなら

別の部屋のカードキーでも

代用できるという仕組みになっていた。

 

剣崎さんは「比留子でいいよ」と

親しげに言ってくる。

俺がペンションの中を見て回っていると

金髪ポニーテールの

ギャル風の女の子に出会う。

三回生の下松孝子

彼女は七宮に取り入って

就職を斡旋してもらいたいらしい。

進藤もそれが目的で

いいなりになっているようだ。

 

ラウンジには西洋の武器が

壁にずらっと並んでいた。

オーナーの趣味のコレクションで

テレビの脇には九偉人の銅像もある。

その時ラウンジに面した

203号室の星川の部屋で星川と進藤が

なにやら口論している声が聞こえた。

星川はあのOB3人と

一緒に過ごしたくないらしいが……。

 

俺たちは映研に同行し

廃ホテルで心霊映像の撮影を見学。

休憩中、

二回生の重元充が瓦礫から

黒い手帳を拾って鞄にしまった。

俺は他人の物を勝手に

盗もうとする行為が許せなかったが

明智さんが止めたので抑えた。

 

撮影が終わった午後4時半頃、

遠くの方で救急車のサイレンが鳴っていた。

ロックフェスで何かあったのだろうか。

午後6時に広場でバーベキュー開始。

明智さんは脅迫状の件は

去年の合宿で七宮たちが

女の子に何かしたと推理している。

 

七宮が肝試しをやるというので

一旦部屋に戻って準備。

重元がスマホが繋がらないと言うので

全員が確認すると

いつのまにか圏外になっていた。

俺は置いていた腕時計を誰かに盗られて

明智さんの推理で出目だと確信。

部屋に行って取り返そうとしたがすでに

肝試しに出かけてしまった後だった。

 

午後9時に肝試しがスタート。

2人でペアになり

神社に行ってお札を取ってくるというもの。

出目は名張に言い寄って

名張を泣かせてしまったので

その罰として脅かす役で

神社で待ち伏せしているらしい。

俺の相手は比留子さんで4番目スタート。

その道中で比留子さんは

俺に探偵助手になってほしいと頼んできた。

この合宿に参加した目的は俺だと言うのだ。

しかし俺には明智さんが……。

 

その時前方で悲鳴が上がった。

男が近づいて来るが

フラフラとした足取りで様子がおかしい。

目の焦点があってないし

服が破れて血が出ているし

なによりひどい臭いがする。

これは……死体!?

「葉村くん!」

比留子さんの声に我に返った俺は

急いで来た道を戻る。

途中で出会った重元と高木に

逃げろと叫び

この異常な状況を察して引き返す。

出発地点にいた立浪と名張が驚く中

俺たちは大混乱で声をあげる。

「ペンションに戻って、戸締まりを」

「でもまだ皆戻って来てないですよ」

「武器がいる」

名張が菅野を呼びにペンションへ戻る。

 

七宮が藪の中から飛びだしてくる。

一緒にいた下松は奴らに襲われ

七宮は1人で逃げて戻ったらしい。

「ゾンビだ」と重元が言う。

菅野が槍を持って外に出て来た。

「どうしたっていうんです。不審者でも――」

ぞろぞろと下の広場に集まってくる

異様な人間――ゾンビが。

 

立浪が菅野から槍を奪って

ゾンビを押し返そうとする。

脳を破壊しないと倒せないと

重元が映画の知識でアドバイス。

そこに裏手から進藤が戻って来たが

一緒にいた星川が見つからないとわめく。

彼は半狂乱になりながら

ペンションの中へ駆け込んで行った。

 

ゾンビの数が多すぎてキリがない。

このままでは玄関まで

押し寄せるのは時間の問題だ。

とにかく建物へ避難して

ガラス扉のシャッターを閉めようとした時

広場の階段に明智さんの姿が見えた。

一緒にいた静原を先に逃がし

こちらに駆け出そうとする直前、

足をつかまれてゾンビに噛まれて……

後ろに倒れるその瞬間、

俺と目が合った。

――うまくいかないもんだな。

そう言ったように見えた。

そのまま、明智さんは落下していった。

 

 

あっという間に一階がゾンビに占拠され

二階の階段にバリケードを作ったが

いつまで持つかわからない。

電波が繋がらなくて

助けを呼ぶこともできない。

 

そこにゾンビに殺されたとしか

思えない殺人事件まで発生する。

現場には「ごちそうさま」と書かれた

人間の仕業である証拠が残っている。

一体誰が何のために?

 

徐々に侵攻してくるゾンビの波。

やがて第二の殺人が起き

犯人の邪悪な企みが明らかになっていく。

 

この絶対的危機の状況でも

冷静さを失わない探偵少女。

彼女ならこの事件の謎を

解き明かすことができるかもしれない――。

 

作品解説

大学のミステリ愛好会会長

明智恭介とその助手、葉村譲は

同じ大学の探偵少女・剣崎比留子と共に

曰く付きの映画研究部の夏合宿に参加する。

しかし合宿初日の夜、

彼らは想像もしなかった緊急事態に遭遇し

ペンションに立て籠もりを余儀なくされる。

さらに翌日、

密室状態で惨殺死体が見つかり

疑心暗鬼の中で剣崎比留子は

犯人捜しに乗り出す――。

奇想と本格が融合した

型破りな次世代本格ミステリー。

 

第27回鮎川哲也賞受賞作。

「このミステリーがすごい!2018年版」1位。

「2018本格ミステリ・ベスト10」1位。

「<週刊文春>2017年ミステリーベスト10」1位。

新人のデビュー作が

主要ミステリランキング三冠を制するのは

史上初の快挙。

第18回本格ミステリ大賞も受賞した。

 

この作品において

「想像もしなかった緊急事態」の

正体について触れない向きもあるが、

このレビューではネタバラシは

不可欠になるため述べておきます。

それは「ゾンビ」である。

 

ウィルスによるバイオテロが行われ

ロックフェスの数万人の観客が感染し

近くの紫湛荘にゾンビがなだれ込んでくる。

そのため紫湛荘に立て籠もったが最後

外に出ることができない状況になる。

ゾンビを障害に使って

身動きできなくさせるという

このクローズドサークルの作り方が秀逸です。

 

従来ゾンビ映画では

食料や安全地帯の奪い合いになり

ゾンビほったらかしで人間が醜く争い

結局は人が1番怖いという描き方もされる。

その争いを本格的な

殺人事件にしたものがこの作品だ。

確かにこういったものは今まで無かった。

 

登場人物に話を向けると

語り手の「俺」こと葉村譲は

ミステリ好きの大学一年生で

勝手に作ったミステリ愛好会の会長

明智恭介に助手としてスカウトされた。

彼は「神紅のホームズ」と自称していて

ときに優れた推理力を

発揮するとかしないとか。

そこに現れた美少女・剣崎比留子は

葉村の1歳上のお嬢様で

実際の難事件を解決した

実績のある探偵少女。

 

探偵が2人登場するため

事件の推理合戦が始まるのかと思いきや

明智がゾンビに襲われて早々と退場してしまう。

しかし彼が最後に解いた

葉村の腕時計を出目が盗んだという推理が

後の行動に影響することになる。

 

ゾンビの形態は

ジョージ・A・ロメロ作品に代表される

「ノロノロゾンビ」で、

近年の『新感染』のような

「走るゾンビ」のスピード感は無いが

小説でスピード感は表現が難しく

押し寄せる壁として使うなら

「ノロノロゾンビ」が正解だろう。

 

そのゾンビをただ壁として使うだけでなく

殺人の凶器として使い

その習性を利用したり

犯人の歪な2回殺しの動機にまで使っている。

ミステリ定番の屋敷の見取り図も

人物の部屋割から

エリア間の扉の位置、

ドアの向きや開閉方向にいたるまで

ゾンビの侵攻と犯人の犯行トリックを

あらかじめ綿密に計算して

作られていることに驚きを隠せない。

 

感想

これは参りました。

新人のデビュー作といって

侮ってはいけないほどの

ものすごい傑作です。

個人的には

伏線回収が素晴らしいと思う。

よくここまで仕込んだもんだ。

 

それとペンションの見取り図。

見取り図を見るだけで

ワクワクするものだが

すごく重要な手掛りが隠されてあった。

マグネットのしおりを挟むと

いつでも見返せて便利でした。

 

Amazonレビューでは賛否両論みたい。

ゾンビが出てくるだけでリアリティが無いし

剣崎比留子が好きになれなかったら

辛い点数になるだろうね。

 

★★★☆☆ 犯人の意外性

★★★★★ 犯行トリック

★★★★★ 物語の面白さ

★★★★★ 伏線の巧妙さ

★★☆☆☆ どんでん返し

 

笑える度 △

ホラー度 ◎

エッチ度 -

泣ける度 △

 

評価(10点満点)

 9.5点

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

※ここからネタバレあります。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1分でわかるネタバレ

○被害者 ---●犯人 -----動機【凶器】

進藤歩 ---●星川麗花(ゾンビ) ---衝動【失血死:噛みつき】

※犯行①を目撃した静原美冬が偽装工作する。

立浪波流也 ---●静原美冬 ---復讐【①失血死:ゾンビの襲撃/②撲殺:メイス】

七宮兼光 ---●静原美冬 ---復讐【感染死:ゾンビ感染】

 

※その他大勢のゾンビによる被害者は

出目飛雄、○下松孝子、○明智恭介、○星川麗花、そして犯人の●静原美冬もゾンビに噛まれて自ら眼窩に槍を刺して屋上から落下して死亡。

 

<結末>

進藤、立浪、七宮と3人が殺され

比留子は「やられた」と肩を落とす。

犯人の目的は達した。

比留子は犯人もトリックもわかったが

一足遅かった自分の失敗を悔やむ。

 

ゾンビの侵攻で三階に追いやられ

謎解きの真相を比留子が話す。

進藤殺しの犯人が

ゾンビ化した星川だったこと。

その犯行現場を見た犯人が

便乗してメッセージを残して

人間の犯行にカモフラージュしていた。

 

立浪をエレベーターの

重量制限を利用して殺害。

犯人は自分の部屋のカードキーを

立浪の部屋で入れ替えたため

自分の部屋にカードキーでは

入れなかったこと。

その人物は……静原だった。

それを聞いた静原は

素直に自らの犯行を自白した。

もうすべて終わったからいいのだと。

 

その時バリケードが破られ

扉も壊されて一同は屋上へ逃げる。

葉村が屋上の扉を閉めようとした時

目の前に明智がいた。

動けなくなってしまった葉村を

比留子が救う。

「――あげない。彼は私のワトソンだ」

槍でゾンビの明智を突き落とした。

 

逃亡の最中、

静原は肩を噛まれており

「ご迷惑をおかけしました」と言い

自ら脳に槍を突き刺し屋上から落下した。

こうしていろいろなものを奪って

――夏は終わった。

 

第一の殺人・進藤殺し

この作品の最大の特徴が

ゾンビによるクローズドサークル。

まずはゾンビに関する

伏線を拾い上げてみよう。

 

【タイトルの伏線】

『屍人荘の殺人』というタイトルで

ゾンビが登場することが示唆されている。

  • 屍人(しじん)は屍人(しびと)とも読む=死んだ人間。

 

【カレーうどんの例え】

葉村と明智の最初のやりとり。

「カレーうどんは本格推理ではありません」

これから始まる話の内容が

本格推理の亜種だと前置きしている。

  • この作品は、うどん(本格推理)にカレー(ゾンビホラー)をかけたようなもの。本格推理だと思って読んで腹を立てないでくださいよという予防線を張っている。

 

それでは第一の殺人、

進藤殺しのトリックと伏線を解説します。

 

密室状態の進藤を殺害したのは

ゾンビ化した星川麗花でした。

実は星川はゾンビがペンションに

侵攻してくる直前に進藤よりも先に

ペンションに戻って来ていた。

しかしゾンビに噛まれて

ペンションの裏手に潜む。

そこに進藤が駆けつける。

 

なぜみんなと合流しなかったのか?

それは進藤が重元の「ゾンビだ」という

叫びを聞いたからである。

さらに重元はこう言った。

「殺さなきゃ駄目だ!」重元が叫ぶ。「ゾンビに噛まれたらもう助からない!そいつらは人間じゃない。殺すしかないんだ!でなきゃ全員殺られるぞ!」(P.119)

  • その言葉を聞いた進藤は傷ついた星川をみんなの前に見せると殺されると思い、次の行動をとらせることになる。

 

【裏手から戻った進藤】

進藤は裏手から今戻ったようなふりをして

星川はどこだと半狂乱の演技をして

玄関から中に入り(P.121)

三階の非常階段を内側から開けて

星川を中に招き入れた。

  • こうして傷ついた星川は誰にも見られず進藤の部屋に匿われることになった。

 

【全員で固まることを拒否する進藤】

ペンションに籠城することになり

高木と名張が全員が固まって

行動した方がいいと提案するが、

進藤は「勘弁してくれ」と断る。(P.134)

重元も全滅を避けるため

バラバラの方がいいと言う。

  • 進藤は星川の容態が気になるため放っておけない。<作者は>重元も反対させることで進藤だけが目立つことを回避している。

 

星川がペンションに戻ってきている伏線は

【布団の裏側の血】

進藤のベッドの掛け布団の内側に

血をこすりつけたような跡がある。(P.282)

  • つまりこのベッドで傷ついた星川が寝ていたということ。

   ↓

少し弱いが

【鞄の中のパンプス】もある。

進藤の部屋を調べている時

比留子が何かに気づいて目を見開いた。

そして葉村に

鞄の中も写真を撮ってほしいと言う。(P.284)

  • 星川の靴が入っていて、ここに戻って来たことがわかるのだが、「鞄の中」とだけしか書いてないため、なんのことかわからない。しかも終盤での後出しなのと中身を教えていないためフェアではない。
  • この星川の靴は廃ホテルの撮影の時に幽霊役で裸足だから比留子に貸すという件で、⑧この一足しか持って来ていないことを強調してある。(P.73) 

 

星川がゾンビになったという

はっきりした伏線は無い。

⑨ニュースでは感染から発症まで

3~5時間という情報が流れていた。(P.287)

肝試しが9時スタートで

だいたい9時過ぎに噛まれた星川は

翌日の午前2時頃に転化する。

名張が「どすんっ」という音を聞いたのが

午前2時半だった。(P.157)

  • 時間的に星川のゾンビ化とぴったり合う。

 

さてその夜どうなったかというと――。

 

午前2時、

星川がゾンビとなって進藤を襲う。

進藤は必死に星川を押さえつける。

30分は食い止めていたがやがて力尽きて

ベランダで星川に噛み殺されてしまった。

 

星川ゾンビはベランダの手すりから

身を乗り出して地面に落下。

ここに犯人が関係している。

 

【部屋の向きが違う305号室】

進藤の305号室は窓が東に向いていて

他の部屋とは1つだけ向きが違う。

 

この進藤殺害の

一部始終を見ていた人物がいた。

それが静原美冬

彼女の部屋は307号室で

ベランダから進藤の部屋が見える。

 

進藤を殺害した星川ゾンビは

生きている人間に敏感に反応する。

静原の姿が目に入った星川ゾンビは

そのまま真っ直ぐ歩き出して

ベランダを乗り越えて落下した。

 

★⑫【知能のないゾンビの習性】

それはちょうど葉村と立浪が

屋上で見た光景と同じ。

生きている人間を見ると足場も気にせず

真っ直ぐ進んでは

非常階段から転落していた。(P.203)

  • 立浪が「まるでレミングスだな」と言う場面。これと同じことが第一の殺人で起きていたとは……。この手掛りの出し方は上手い。

 

名張の聞いた「どすんっ」という音

星川ゾンビの落下した音である。(P.157)

 

 

静原は姉のように慕っていた沙知が自殺して

復讐のために合宿に来ている。

医系キャンパスから

本学の映画研究部に入ってまで(P.199)

 

進藤も殺す対象だったが

思わぬ展開により始末する手間が省けて

しかもこれを利用すれば

自分が疑われることが無くなると計算した。

そこで「ごちそうさま」

というメッセージを紙に書き、

305号室のドアの隙間に差し込んでおいた。

 

そこからは誰かが紙に気づいて

進藤の部屋を開けてくれるのを待ち、

全員が死体に注目している間に

ドアの隅に「いただきます」という紙を置き

自分で見つけて

文章の繋がりから殺害時に

中にあったように思わせた。

  • 静原が犯人という伏線の一つ。早業殺人のトリックなどでよく使われる手だ。「いただきます」が先だから中から外に出て「ごちそうさま」の紙を残したという思い込みを利用した。

 

進藤の顔は判別がつかないほど

食いちぎられていたが

これは星川ゾンビにキスして

食いちぎられたため。

「顔のない死体トリック」もあるかもと

一応疑わせるミスリードだろう。

 

七宮が進藤の死体の

指がちょっと動いたと言うので

高木が槍で止めを刺した。

実際に指が動いたのを確認できたら

進藤がゾンビに殺されたことが確定するので

静原にとっては不都合だっただろう。

 

第二の殺人・立浪殺し

第二の殺人は次の夜に行われた。

静原が1番殺したい相手は立浪だ。

 

その準備として

立浪の部屋のカードキーを

自分(静原)の部屋のカードキーと

すり替えておいた。

 

部屋を開けるには

その部屋のカードキーが必要だが

電気を点けるだけなら

他の部屋のカ-ドキーでも

ホルダーに差し込めば使えると

菅野が説明してくれた。(P.138)

  • 菅野が部屋を代わった名張にマスターキーを渡して、自分が星川の部屋を使うと言った時だ。よく考えたら、名張にマスターキーを渡さず星川の部屋(203号室)を使ってもらい、菅野が205号室でもいいような気がするが――⑯名張がやけに神経質そうな伏線を張っていたのは女性だし施錠を気にしそうだという意図もあるのだろう。

 

午後4時半に

立浪が屋上にいる間に

静原は立浪の部屋のカードキーと

自分の部屋のカードキーをすり替えた。

立浪はドアガードで半開きにしておこうと

率先して提案した人物なので

自分の部屋もいつも半開き。

カードキーで部屋を閉めないので

(ホルダーから抜かないので)

入れ替わっても気づく心配はない。

 

しかしその際に

★⑰【鳴っていたラジカセが止まる】

という大きなミスが起きてしまう。

なぜ止まったかというと

ラジカセが電池ではなく

コンセントに繋いで鳴らしていたからだ。

一応部屋の中も調べたが、やはり昏睡している間に体の自由を奪われたのか、争ったような形跡もない。彼愛用のラジカセは部屋に入って左の奥、ベッドの陰に隠れるようにしてコンセントと繋がっていた。(P.257)

  • つまりカードキーを外したため電気が一瞬途切れた。バーベキューの時には立浪のラジカセが電池で動いていたから、ラジカセが止まるのは静原にとって予想外のことだった。カードキーを入れ替えた後、あわててラジカセを点けたがこの些細な出来事を覚えている人物がいたため大きなミスになる。

   ↓

このラジカセの音に気づいたのは

重元と菅野の2人。

ちょうど菅野が重元の部屋に

ゴミを取りに来たところで聞いた。

3時ちょうどから90分の映画を

DVDで観終わった時だから

午後4時半だと

時刻まで正確に証言する。(P.305)

  • 立浪の部屋に誰かがいる。止まったラジカセを点けた人物が犯人。この時点で、重元、菅野、屋上にいた名張は容疑から外れることになる。重元がしきりに⑲「ラジカセの音がうるさい」と文句を言っていた(P.156)のもこの伏線を補強するため。隣の部屋は防音だが真下と真上は音が聞こえる構造になっている。305号室(重元)の真下は205号室(立浪)です。作者はすべて計算して部屋割りを考えてある。

   ↓

さらにカードキーを入れ替えたが

このカードキーは進藤の部屋の

カードキーではあり得ない。

【消し忘れのデスクライト】が証拠。

進藤の部屋は

デスクライトが点きっぱなしだった。(P.232)

  • 立浪が殺された後もそのまま点いていたのは電気が点いているからだ。犯人は他の部屋のカードキーが使えなかった。

   ↓

自分のカードキーを入れ替えたなら

自分の部屋をカードキーで開けられない。

葉村が教えた外から開ける

物理的なトリックを使うしかない。

㉑そこで【自分のカードキー】を使って

部屋を開けた人物も容疑から外れる。

葉村は比留子を見送って

カードキーを挿し込んで開けたのを見た。

そこに高木がやって来て

眠そうにカードキーを挿し込んだが裏返しで

葉村が手伝ってやらないと

開けられないくらい眠そうだった。(P.229)

  • 比留子と高木も容疑から外れる。残りは葉村と静原(と七宮)。葉村は静原よりも先に部屋に入った。ということは……。

 

このように

カードキーの動きを推理したら

かなり真相に近づけたことになります。

 

 

――話を静原の犯行に戻そう。

 

カードキーの次に静原は

全員を眠らせるために

夕食前にコーヒーメーカーの中に

強力な睡眠薬を投入しておく。

コーヒーが夕食後に出るかどうかは

前日に菅野が

コーヒーを出した(P.128)ので

飲みたい素振りを出せば

今日も菅野が気を遣って

コーヒーを出してくれると予想できた。

 

しかしコーヒーを飲まない人間は3人いた。

部屋に閉じこもっていた七宮と、

自分でコーラを持って来ていて

コーラしか飲まない重元、

コーヒーアレルギーの葉村の3人。

 

【葉村のコーヒーアレルギー】

葉村はコーヒーは

アレルギーが出て飲めない。

比留子が最初に会った喫茶店で

葉村がクリームソーダを

注文していたことを覚えていた。

「また断られた」

年月を感じさせるコーヒー色の椅子に座り、低いテーブルの下に長い脚を押し込みながら明智さんはそう吐き出した。彼の前にはコーヒー、俺の前にはエメラルドグリーンのクリームソーダ。(P.28)

  • この何気ない一場面で、葉村のコーヒーアレルギーと比留子の記憶力の凄さを表現している。

 

それでも静原は計画を実行する。

この機会を逃すわけにはいかないからだ。

 

すり替えたカードキーを使って

立浪の部屋に入った静原は

立浪を縛って

比留子が実演したような

介護で使われる方法(P.258)

大柄な立浪をラウンジまで

引きずって行った。

  • 静原が㉕「医学部の看護学科(P.199)」というのも伏線。この実演の時、比留子がこれなら「一番小柄な静原さんも可能ですよ」と知ってか知らずか名前を出している。

 

立浪をゾンビにして回収するには

エレベーターを使うしかない。

 

このペンションのエレベーターは

積載重量が

260キロだと書かれている。(P.68)

ゾンビを中に入れて

上がって来ないようにするには

この重量ギリギリまで調整して

ゾンビ1体でも乗ったら

音が鳴るように計算して

ラウンジにあった銅像を

エレベーター内に運び込んだ。

 

【銅像の向きが違う】

その証拠に九偉人の

銅像の向きが変わっている

菅野が教えてくれる場面がある。(P.263-264)

  • 高さは1メートル、重さは1体40~50キロはある銅像が9体。静原はこの銅像をエレベーターに乗せて、積載重量のギリギリまで重さ調整した。260キロと書いてあっても実際は少し余裕があるから290キロくらいが目標値。立浪の体重を70キロとして、銅像を5体で200キロ弱、合わせて270キロ前後。ゾンビ1体が20~30キロと少なく見積もって1体でも乗ればブザーが鳴る計算になる。

 

こうして立浪を一階のゾンビに襲わせて

ブザーが聞こえなくなったら二階へ戻す。

使った銅像の血をタオルなどで拭いて

元の場所に戻しておく。

銅像のあった場所に

円形の跡が残っていたので

立浪の死体を引きずって跡をごまかす。(P.238)

  • ゾンビが死体を引きずり回す凶暴性のアピールかと思いきや、別の意味があったとは。

 

そして静原は

立浪がゾンビとして動き出すのを待っていた。

4時間も……。

 

ここが彼女の狂気的な部分で、

なぜわざわざゾンビに殺させたか?

そして死体を回収したのか?

という疑問に対する答えが

2回殺したいからという鬼畜なものである。

「さっき私はゾンビを復讐の啓示だと言いましたね。それはなぜか?――ゾンビは2回殺せるからですよ。人間としての死と、ゾンビとしての死。私は沙知さんの直接の仇である立浪だけは、二度殺さねば気が収まらなかったんです。だって立浪は二人の――沙知さんとそのお腹にいた赤ちゃん、二人分の命を奪ったんですから」(P.358)

立浪がゾンビに転化するのを待って

静原はメイスで頭を叩き潰した。

 

七宮の赤いGT-Rで

ゾンビを轢くという話にこう言っていた。

「赤いからちょうどいいじゃないですか」(P.197)

静原の狂気的な嗜好の一端が

垣間見える。

 

ゾンビ化した立浪を2回殺した時

ここで予定外の事態が発生。

二階の非常口が破られて

ゾンビが建物に入って来た。

あらかじめラウンジは

人に見られないようにするために

エリア間の扉を閉めていて

今のところ大丈夫だが

予定よりも早くみんなに

見つけてもらわないといけなくなった。

目的の相手以外を殺すつもりはないので

閉じ込められた比留子と高木を助けようとする。

 

静原は比留子を起こすために

206号室から内線電話をかける。

最初206号室は名張の割り当てだったが

今は誰も使ってない空き部屋だった。


出るまでに時間がかかったが

比留子が起きたので

ゾンビの声真似をして電話を切る。

血に汚れた浴衣は窓の外へ捨てた。

高木にも電話をしたがなかなか起きない。

すると菅野がラウンジに出て

ラウンジの惨状を目撃して

大慌てで三階に駆け出して行った。

 

菅野が通り過ぎたので

静原はドアガードの隙間から

そっと廊下を覗いて見た。

ここで予期しなかったハプニングが起こる。

 

「信頼できない語り手」葉村

静原がドアガードの隙間から

廊下に顔を覗かせると

隣の部屋の葉村と目が合った。

一瞬どういうことか戸惑う2人――。

 

ここは葉村視点の語りで

「叙述トリック」が使われています。

 

第五章の冒頭で

「どうしようもないクズ」

「だから、やった」

「なんとか目的は達した」と

一人称が「俺」の人物が

憎い奴をやったという語りが入る。

これは葉村が殺人をやったように

勘違いさせるミスリードです。

 

実際に葉村が「やった」のは

出目の部屋に忍び込んで

盗まれた腕時計を取り戻したことだった。

 

★㉚【葉村の腕時計】

この腕時計は妹が入学祝いでくれた

葉村にとって大事な時計(P.108)で

バーベキューの時に外して置いたのを

出目に盗まれてしまった。

1度取り戻しに行ったが留守で

後で取り返そうと葉村は決意している。

「高価な物だったのか」

「いえ、値段自体は大したことはないんですが、妹が高校の入学祝いにくれた時計なんで」

しかも震災から間もない時期で皆がてんやわんやしていた中、苦労して買い求めてくれたものだ。金銭には換えられない価値がある。タイミングを見て取り戻さねばならない。(P.108)

  • ここのタイミングで実行したのは二階がゾンビに侵攻されたら、もう出目の部屋に入れなくなるためだ。さらに言うと、葉村の左こめかみの傷は震災で火事場泥棒に遭って殴られた時の傷である。㉛重元が他人の手帳を勝手に持ち帰ろうとしたのを見て火事場泥棒と被って怒りがこみ上げてしまった場面(P.82)を見てわかるように、葉村は盗みが許せない性格で、盗みは重罪と考えている。

   ↓

第五章の最初の葉村の動きは

腕時計を取り戻した直後のこと。

時刻は★㉜【午前4時半前】

葉村は取り戻した自分の腕時計を見ている。

まだ夜も明けきらない時間のことだった。

目が覚めた後、ベッド脇の鞄をまさぐっていた俺は、顔を上げて耳をすました。

不意にドアの外、遠くから叫び声が聞こえてきたのだ。

悲鳴かと思い反射的に息を潜めたが、そうではなかった。数秒と経たないうちに声の続きが、先ほどよりも近い距離で聞こえたからだ。

男の声。そう、それは菅野の声のようだった。

時計を見ると、針は午前四時半になる寸前だった。

「大変だぁ!ゾンビだ!二階の非常扉が破られたぁ!」

声が遠ざかる。(P.234)

  • ベッド脇の鞄は当然ながら出目の鞄で、まさぐって腕時計を探し出したところだ。時計を見た描写に「針は」と書いてあるからアナログ時計を見ている。㉝紫湛荘に到着した時にも葉村が腕時計を見る描写があり、そこでも「時計の針は」と書いてある(P.62)。そして部屋にあるのは㉞デジタルの掛け時計だけ(P.63)。後に比留子が葉村が言った言葉「4時半前」という言い方から、アナログ時計を見た=腕時計を取りに出目の部屋に行ったことまで看破される。

 

元はと言えば㉟出目が腕時計を

盗んだことを推理したのは

今は亡き明智だった。(P.107)

それを信じて葉村は出目の部屋に入った。

その結果、

第二の殺人で犯人と遭遇することになった。

すべては繋がっているのか……。

 

菅野が叫びながら通り過ぎた後、

葉村がドアガードの隙間から

廊下の様子をうかがうと

隣の部屋の静原も顔を覗かせて

葉村と目が合った。

ここの描写、

全く違和感が無いのだが

2人が自分たちの部屋にいたら

絶対にありえない状況である。

 

ここでは見取り図が大活躍する。

【ドアの開く方向】

三階の葉村(308号室)と

静原(307号室)のドアの開き方が

逆になっているため

2人がドアガード越しに

目が合うことは不可能だ。

  • よってこの状況が起こりうるのは二階の207号室と206号室。葉村は腕時計を取り戻しに207号室へ、静原は比留子に電話するため206号室へ。2人の行動とぴったり一致する。

 

【起きていた静原】

睡眠薬を飲んだ他の人は

電話が鳴ってもなかなか起きないのに

なぜか静原は菅野の声で起きていた。

  • これも静原を犯人と見破るポイント。

 

そしてこの時から

葉村の語りに嘘が混じってくる。

目が合った後の会話を語らず

犯人っぽいあやしい言動が目立つため

読者もこれは語り手が犯人の趣向かと

一瞬くらいは迷っただろう。

 

ちなみに菅野が

叫びながら遠ざかっていくのだが

三階だと思って読んでいるので

菅野が右から左に走る姿を想像する。

しかし実際は二階だったので

菅野は左から右に

走っていくところだった。

これも叙述トリックの一つ。

 

第三の殺人・七宮殺し

立浪を2回殺した直後

非常扉が破られてゾンビが侵攻。

 

この時に静原は閃く。

身動きできない比留子を

ベランダから救出する時に

真上の七宮の部屋から

縄梯子を降ろすから

七宮の部屋に入る機会ができる。

これはチャンスだと感じた。

そこで自分の使っている

コンタクト用目薬に

立浪の血を吸って入れておいた。

 

【七宮のコンタクト用目薬】

七宮のコンタクト用目薬は

静原の使っている物と

同じという話を高木から聞いた。(P.194)

  • 閉じこもって出て来ない七宮を殺害するには毒殺しかない。その毒は㊴【ゾンビの血】ニュースでは裟可安湖の水が目や口に入ったらすぐ綺麗な水で洗うようにしきりに注意喚起していた。(P.196)

 

そして静原は

比留子を救助する際に、

七宮の部屋の目薬を入れ替える。

これで復讐は完了した。

 

 

その他の伏線では――

【明智を殺せない葉村】

出目のゾンビを倒した後

あんなふうになった明智を

俺は殺せるのだろうかと考える葉村。(P.301)

  • 最後の最後に明智ゾンビが登場し、葉村は迷ってしまう。そこを比留子が助ける場面は切なかった……。最後の一撃は、せつない。

 

 

●文字数が限界のため

別記事で追記します。

『屍人荘の殺人』追記

 

 

 

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