刑事コロンボ
#22『第三の終章』
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(1974年1月18日放送)アメリカ
(1974年12月14日放送)日本
<あらすじ>
出版社社長のライリー・グリンリーフ(ジャック・キャシディ)は、人気作家アラン・マロリー(ミッキー・スピレーン)が他社への移籍を決めたことを知り、保険のかかった彼を殺し、執筆中の新作もわが物にする一石二鳥の計画を立案する。ベトナム帰りの爆弾マニアのエディ・ケーン(ジョン・チャンドラー)に、爆弾教本の出版を餌にマロリーの殺害を行わせたグリンリーフは、爆弾制作中の事故に見せかけて、そのエディも始末した。
<スタッフ>
監督 ロバート・バトラー
脚本 ピーター・S・フィッシャー
制作総指揮 ローランド・キビー&ディーン・ハーグローヴ
音楽 ビリー・ゴールデンバーグ
撮影 ウィリアム・クロンジャガー
編集 ロバート・L・キンブル
<キャスト>
ピーター・フォーク(コロンボ)ロサンゼルス市警警部
ジャック・キャシディ(ライリー・グリンリーフ)出版社社長
ジョン・チャンドラー(エディ・ケーン)爆弾の専門家
マリエット・ハートレイ(アイリーン・マクレア)マロリーの代理人
ジャック・オーブション(ジェフリー・ニール)出版社社長
アラン・ファッジ(デイビッド・チェイス)グリンリーフの弁護士
ポール・シェナー(ヤング刑事)刑事
ジャック・ベンダー(ウォールパート)原稿代筆サービス
感想
今回の相手は
出版社社長グリンリーフ。
契約問題のこじれから
爆弾作りの専門家に
保険金を掛けた作家の殺害を依頼する。
その後で(おなじみ)共犯者の口も封じる。
犯人が策を弄してかなり巧妙な
アリバイを作ってくる難敵です。
犯人役は『構想の死角』以来
二度目の登板になるジャック・キャシディ。
長年の相棒の作家を殺す、
シャンパンで祝った相手も殺すと
前回のオマージュが見られる。
被害者の作家マロリー役は
ミッキー・スピレーン。
「探偵マイク・ハマー」シリーズでおなじみ
実際のベストセラー作家が演じている。
カミさんが
ベティ・デイビスの大ファンだそうで
夜中の2時に一緒にテレビを見たため
ひどい寝不足のままコロンボが登場する。
面白い演出として
殺人の前後に
ワイプで同時刻の3人が
(グリンリーフ、マロリー、エディ)
二分割や三分割になって
いま何をやっているかわかるのは良かった。
その他の演出や設定に
ヒッチコックの『ダイヤルMを廻せ!』の
オマージュがあるらしいのだが
そちらはよくわからなかった。
物語終盤に
『野望の果て』のエピソードに
触れている場面もある。
このエピソードが出るのは
前回の『意識の下の映像』に続き二回目。
今回の見どころは
ズバリ「逆トリック」
委託殺人というセコい手を使う犯人を
どうやって物理的な証拠で追い込むのか?
コロンボの仕掛けた罠に注目。
☆☆☆☆☆ 犯人の意外性
★★★☆☆ 犯行トリック
★★★☆☆ 物語の面白さ
★★★☆☆ 伏線の巧妙さ
★★★★☆ どんでん返し
笑える度 -
ホラー度 -
エッチ度 -
泣ける度 -
評価(10点満点)
7点
※ここからネタバレあります。
1分でわかるネタバレ
○被害者 ---●犯人 -----動機【凶器】
①アラン・マロリー ---●エディ・ケーン ---※委託殺人【射殺:38口径スミス&ウェッソン】
※グリンリーフがエディに殺人を依頼。障害の除去。
②エディ・ケーン ---●ライリー・グリンリーフ ---口封じ【爆殺:爆薬】
<結末>
グリンリーフは共犯のエディを
爆弾事故に見せかけて殺し、
エディが「サイゴンへ60マイル」の
梗概を書いたことにして
自分とマロリーを恨んで
犯行に及んだことに偽装した。
グリンリーフを疑うコロンボは
梗概の文体と結末をヒントに
グリンリーフのミスをついて
エディにマロリーを殺させて
すべて罪をなすりつけて殺したことを追及。
グリンリーフにしか教えなかった情報で
合鍵を作らせて追い詰め、
そして決め手になったのは
物語の結末の矛盾。
エディが書いたという9ヶ月前の梗概は
先週思いついたばかりの結末であり
それを今知っているのは
グリンリーフだけなのだ――。
トリック解説
グリンリーフの使った
「犯行トリック」を解説します。
まず動機から。
グリンリーフはお抱え作家のマロリーに
セックスの物語ばかり書かせていて
うんざりしたマロリーは
ニールの出版社に移籍すると言い出した。
三週間後に契約が切れるが
その新作をうちで出してくれないと困る。
(新作は「サイゴンへ60マイル」という題)
だがマロリーははっきり拒否した。
前からマロリーに生命保険を掛けていて
彼を殺して金と小説を
どちらも自分のものにしようと企む。
そこでベトナム帰りの爆弾専門家
エディにマロリーの殺害を依頼する。
エディは爆弾を扱った教本を出版したくて
それを交換条件に依頼を受ける。
実行の時間は「2230」
グリンリーフは自分の指紋がついた銃と
マロリーの部屋の合鍵をエディに渡し
22時30分にアリバイを作ることになった。
殺人の夜、
エディはマロリーの部屋に入る。
マロリーは小説の執筆を
口述で行っていて
テープレコーダーに
声を吹き込んでいるところだった。
エディはそっと近づいてマロリーを射殺。
録音に銃声が残った。
一方そのころグリンリーフは
マロリーとニールたちと口論し
バーで酒を飲んで泥酔(したふり)。
22時30分に駐車場でわざと車をぶつけて
相手の人と揉めた後、
公園で車を停めて寝ているところを
警察が見つけて取り調べを受ける。
やがて警察がマロリーの事件を
グリンリーフに知らせると
マロリーの死を悲しんでみせた後
アリバイを聞かれても
泥酔して記憶がはっきりしないと
あやふやな態度でごまかした。
このアリバイ作りが上手い。
警察があやしんで調査すると
彼が泥酔して絡んでいたことや
車をぶつけたことが明らかになり
自動的にアリバイが強固になっていく。
最初から鉄壁のアリバイを作るより
警察自身によって
アリバイを補強させる手口が巧妙です。
第二の事件エディ殺しは
彼のアパートに行き
祝いのシャンパンに睡眠薬を入れ
エディを眠らせる。
エディのタイプライターで
「サイゴンへ60マイル」の梗概を作成する。
(グリンリーフはマロリーの原稿の
コピーを読んでいるので内容を知っている)
エディのキーホルダーに
新しく作ったマロリーの部屋の合鍵を付ける。
これはマロリーが三週間前に
鍵穴を替えたために
床に落とした合鍵で入ったという
偽装が使えなくなったため。
エディが部屋に入った証拠を
作るために合鍵を用意したのだが……。
コロンボの仕掛けた
「逆トリック」
今回はかなり解釈が難しい。
物語の中盤で
コロンボはグリンリーフに
「どうやって犯人が部屋に
入ったのかわからない」と
不思議なことを言った。
グリンリーフはエディに合鍵を持たせ
ちゃんと鍵は床に落ちていた。
何も問題はないはず。
その鍵を使って入ったに
決まっていると言うと
予想外の答えが返ってきた。
「この鍵は合わないんです。
マロリーさんは鍵を付け替えたんですよ。
きっと何を書いてるか見られたくなかったんでしょう」
グリンリーフは「しまった」と思った。
マロリーのやつめ
余計な邪魔しやがって……。
窓もドアも壊れていない。
マロリーが犯人を招き入れた形跡も
テープレコーダーに残っていない。
犯人はマロリーが口述しているところに
忍び寄って殺したことになり
どうやってドアを開けたか説明が必要になる。
それにはやはり新しい合鍵を作って
エディが持っていたことにするしかない。
グリンリーフは新しく鍵を作り
それをエディを殺した時に
キーホルダーにつけておいた。
これでもう大丈夫だ。
――と思ったのが間違いだった。
最後の追い込みの場面。
実は鍵を付け替えたのは
マロリーが死んだ後だとコロンボが言う。
問題はなぜこの新しいドアの鍵を
死んだエディが持っていたのか?
確かに今のドアに
エディのキーホルダーの鍵は合う。
グリンリーフが新しく作らせたからだ。
しかしこの鍵穴を交換したのは事件の後で、
グリンリーフだけに鍵の交換の話をしている。
わざわざエディが
「終わった事件の部屋に入るための鍵」を
作るはずがない。
となると容疑者はただ一人、
グリンリーフしかいない。
さらに「梗概の結末の矛盾」という決め手で
完全に詰まされることになる。
……実はここで
「鍵」に関する
二つの解釈が生まれています。
①鍵穴は1回替えた説
三週間前に鍵を交換したというのは
コロンボが犯人をハメるための作り話。
つまり事件の時は鍵を替えてなくて
床に落とした鍵で部屋には入れた。
コロンボはグリンリーフをハメるために
事件後に新しく鍵を替えた(1回目)。
②鍵穴は2回替えた説
三週間前に鍵を交換した(1回目)
というのは本当のこと。
事件の時にはこの鍵では入れなかったが
たまたまドアが開いていて運が良かった。
コロンボはグリンリーフをハメるために
事件後に新しく鍵を付け替えた(2回目)。
――さて、
鍵の交換は1回か?2回か?
これが①だと
コロンボはほぼ序盤から
嘘の情報まで使って
犯人に罠を張り巡らせていたわけで
まさしく名刑事。
こちらの解釈をしている人も
いることでしょう。
俺は②だと思います。
実際に三週間前に
マロリーが鍵を交換したんだと思う。
それを証明する証拠は
コロンボ登場シーンにしっかりとある。
★①【回らない鍵】
眠そうなコロンボが
ドアの鍵穴に鍵を差し込んで
ガチャガチャやっているが回らない。
この場面でコロンボが
鍵が回らない芝居をする必要がなく
そもそも誰もコロンボを見ていない。
だから芝居をする必要もない。
ではこのシーンはなんなのか?
制作側がアップにしてまで
無駄なシーンを入れるだろうか?
そう考えると
実際に鍵穴は交換してあったのだと
推理するほうが正しいように思います。
この後で刑事がコロンボに
鍵のことを質問すると
コロンボはベティ・デイビスの
映画を持ち出して答えをはぐらかした。
鍵が合っているのか合っていないのか
視聴者に答えを教えないつもりだろう。
一応
コロンボが寝不足で
鍵をうまく回せなくて
回るけど回せないという解釈も可能です。
犯人がミスをしたり
些細な矛盾点から
コロンボが真相に近づいていく
「発覚トリック」をピックアップ。
①一年半前にグリンリーフが
マロリーのために部屋を借りていて、
グリンリーフが持っているはずの合鍵が
殺害現場の床に落ちていた。
マロリーの鍵はちゃんとキーホルダーについていて、合鍵を使って入った犯人が落とした物と思われる。実行犯のエディが鍵を落としていったが、実はこれはグリンリーフの命令でやったこと。彼はなぜかわざと自分に不利な状況を作っている。
②殺害に使われた銃が
グリンリーフのものだと判明。
車のダッシュボードに
銃を入れていたらしいが
今見ると車のドアの鍵が壊されていた。
合鍵もすぐそばに入れていたらしい。
昨夜あの部屋に入った殺人者は、
グリンリーフの車から
鍵と銃を奪って部屋に入ったことになる。
グリンリーフは昨夜は記憶がないと言うし、アリバイもない。これもグリンリーフの計画のうちで、あらかじめ自分で車の鍵を壊して第三者の仕業に見せるような逃げ道を作っている。そこに駐車場の事故の報告があり、昨夜のアリバイが成立する。
③駐車場の事故の相手は
自動車保険会社に連絡して
午後22時半に事故があったと
グリンリーフに電話を寄こした。
犯行時のアリバイが出来て
ホッとしたグリンリーフは言った。
「彼らが保険会社に
連絡してくれなかったら僕は……
考えただけでぞっとするね」
「その事故でいい車をへこましちゃったんだなぁ」とコロンボ。そうして帰る直前に、もう一つ質問する。その事故の相手の名前を訊ねた。チェイス弁護士は「モーガン夫妻」だと答えた。それを受けてコロンボは「先程の弁護士さんの話では先方の車に一人乗っていたかそれ以上乗っていたかわからなかったのに、しかしあなたは“彼ら”のおかげだと言われました」と、記憶がないと言いながら複数人いたことをなぜ知っているのか?と詰める。大事な言葉は絶対に聞き逃さないコロンボ。「無意識に記憶が戻ってきたのかもしれませんなぁ」と、ここはそれ以上詰めることなく退散する。
④銃にはグリンリーフの指紋しか
付いていなかった。
しかも鮮明すぎる。
殺人者はわざと指紋を消さないで撃った。グリンリーフに罪を着せたいほど敵意のある人物による犯行だと思われるが……。
⑤グリンリーフはマロリーに
100万ドルもの生命保険を掛けていた。
グリンリーフは「作家に保険を掛けるのは出版界ではよくあることでさっきまで忘れていた」と答えたが、先週更新の書類を送られていたことまでコロンボは調べていた。そういうことは計理士が引き受けているからと誤魔化すと、「ほぉ~ん」と気のない返事をするコロンボ。
⑥グリンリーフの合鍵では
マロリーの仕事部屋を開けられない。
実は三週間ほど前にマロリーは
ドアの鍵を付け替えていたと
コロンボが教える。
犯人はドアも窓も壊さずに
部屋に入ったことになってしまった。
これにはグリンリーフも焦る。マロリーはグリンリーフと手を切るため、鍵穴も付け替えていたことを知らなかった。この部屋はグリンリーフがマロリーに提供した仕事部屋なので合鍵で入られたら困るし、確かにマロリーならやりそうなことだ。コロンボが「新しい錠前の合鍵を持っている人物が犯人だ」と言い切ったので、グリンリーフは動くことを決める。同じ釣り方が『二枚のドガの絵』でもあった。
⑦グリンリーフはマロリーの部屋に
エディが入ったことにするため、
マロリーのドアの鍵の複製を作り、
その鍵をエディを殺した際に
キーホルダーに付けておいた。
だがこれはコロンボの罠。
新しく鍵穴を付け替えており
それは殺人の後だった。
※上の逆トリックで説明しています。
⑧事件の時、
窓もドアも開いていた。
だからエディは鍵を使わずに入れた。
開いていた原因は
エアコンが故障して蒸し暑かったから
少しでも風を取り入れるため。
グリンリーフは入る手段の「鍵」に固執したが、実際にはその必要すらないことがわからなかった。これは頭の中でのみ犯行を企てた人物の陥りやすい罠です。そのことから、計画した真犯人はこの部屋に入らなかった人物だとコロンボにはお見通しだった。
⑨9ヶ月前にエディが書いたという梗概が
主人公が修道院に入るという結末だったが、
9ヶ月前にそれが書けるはずがない。
なぜならばその結末は
マロリーでもエディでもなく
アイリーンのアイディアだった。
(これが邦題『第三の終章』の意味だと推測)
先週結末を書き直して
殺人の直前に口述筆記した原稿を
グリンリーフが読んでいたので
そのままの内容で
エディの梗概としてタイプしてしまったのだ。
今回の決め手。吹替えで「梗概(こうがい)」を連呼してなんのことかわからないが、「あらすじ」のこと。一般に「あらすじ」と聞くと冒頭の数ページの内容のイメージだが、小説を応募した人ならわかるが「梗概」はオチまでしっかり書かないといけないのです。なので、結末が入れ替わるという決め手が有効だった。鍵の入れ替えと合わせて今回は「入れ替わり」がテーマだったようだ。服を入れ替えた『野望の果て』に触れたのももしや伏線?
伏線解説(★は巧妙なもの)
★①【回らない鍵】は
逆トリックの項で。
②【風で揺れるブラインド】
現場の窓が開いていて
アルミのブラインドが風に揺れている。
- エアコンが故障していて風を入れたかった。そのために窓もドアも開いていた。コロンボが意味ありげにブラインドを見ていたので伏線というほど隠れてはいないが……。
- 解決編以前に「部屋が暑い」という伏線はない。アメリカでの放送が1月なので、部屋が暑くて風を入れたいという発想自体がやや遠いか。事件発生日がよくわからないが、エディの梗概が届いたのが去年6月の設定で、その写しが9ヶ月前のものとあるから3月の事件ということだろうか?
③【原稿サービスの青年】
殺人現場にウォールパートという
青年がやってきて
「口述テープを取りに来た」と言う。
- マロリーは自分でタイプせずに原稿サービスのウォールパートにタイプの代筆を頼んでいた。この情報とこの青年はラストにしか出て来ないため忘れがち。
- マロリーを口述にしたのは音をシナリオに利用するための手段だろう。銃声(事件性)、風で揺れるブラインドの音(窓が開いている)、録音中に撃たれた(客が来た様子がない)、小説の内容(グリンリーフが内容を知る)……など、効果的に利用していた。
④【彼ら】
駐車場で車がぶつかった
モーガン夫妻が保険会社に連絡して
グリンリーフにアリバイが出来た。
ホッとしたグリンリーフは
「もし彼らが連絡してくれなかったら……
考えただけでぞっとするね」
- 昨夜ぶつかった時に「ここに連絡しろ」と電話番号を書いて渡したので連絡が来ることはわかっていた。計画通りにアリバイが出来て油断したのか“彼ら”と言ってしまい、さっそくコロンボに「先方が一人かそれ以上かわからないのに、あなたは先方が複数いたことを知っているのは記憶が戻ったんですか」とつつかれる。
★⑤【鍵の交換の依頼】
36分頃のシーンで
コロンボが鍵屋の主人・ブラックと
鍵を見ながら話をする場面が
BGMつきでさらっと流れる。(約16秒)
- その後にグリンリーフとの会話で「実はこの鍵は合わないんですよ。三週間前に交換していた」という話をするため、その時に情報を聞いていたのだと我々は思うが、コロンボは一歩先を行っていて「この時点で現場の鍵の交換」も依頼している。用意周到にグリンリーフをハメるための準備が行われていた。
⑥【グリンリーフは新作の内容を知らない】
決め手のための伏線その①
マロリーのエージェントの
アイリーンから
グリンリーフは今度の新作の
内容までは知らないことを聞く。
マロリーも隠していて
二人しか内容を知らないらしい。
しかしグリンリーフは質問された時に
ベトナム戦争ものだと言って
どうして内容を知っているんですかと
コロンボにつっこまれると、
さきほどの口述テープで
少し内容を知ったんだと答えた。
- 実際はグリンリーフは知っていた。原稿代筆サービスのウォールパートという男から原稿のコピーを金で買収して横流ししてもらっている。内容を知らないはずの彼が結末を知っていたことで矛盾が生まれて逮捕につながる。
⑦【アイリーンの助言】
決め手のための伏線その②
ロック・ハドソン主演で
新作の映画化を予定していて
マロリーは主人公を最後に
死なせるつもりだったが、
スターを死なせるのは
映画会社も納得しないから
最後に修道院に入る結末がいいと
アイリーンが助言した。
- これが決め手になる。まさか結末が第三者のアイディアで変更されているとは思わず、「9ヶ月前の梗概」ではあり得ないことが発覚する。結末すら書き直させるロック・ハドソンという映画スターの存在も重要なポイント。彼が出演するなんて9ヶ月前にわかるはずもない。
⑧【口述したような文体】
決め手のための伏線その③
エディが書いたという
「サイゴンへ60マイル」の梗概を読んだ
アイリーンは
「マロリーさんの口述みたいな文体ね」と言う。
- マロリーの口述を読んだ人物が書いた梗概だということを示唆。「口述みたいな文体」自体がどんなものかはよくわからないが……。
- その後にコロンボがアイリーン言った⑧「結末のところを読んでください」で上の伏線⑥につながる。
欠点や疑問など
- プロットが複雑で理解するのが難しい。とくに重要な「鍵」の動きがよくわからない。鍵穴を1回替えたのか?2回替えたのか?見る人によって解釈が変わる。
- 初見の映像では部屋のドアを開けていた理由がはっきりわからなかった。エアコンのダイヤル?らしきものをいじって窓を開けるのだがあれがエアコンとは現代の日本人は想像つかないだろう。
- 冒頭でエディが「時計を合わせるか?」聞いてグリンリーフが断ったが、これが伏線で「時間の誤差」が皮肉な形で首を絞める発覚トリックになるのかと思ったがなかった……。
- 猜疑心の強そうなエディがまったく無警戒にグリンリーフに眠らされて殺されるのはちょっと。睡眠薬入りのシャンパンをグリンリーフは少量だけ注いで飲むふりをしていたが、全く飲んでいないのはジロジロ見られたら疑われる。
- グリンリーフがモイシュという錠前屋に新しい合鍵を作らせたが、どうやって?マロリーのキーホルダーは警察が保管しているだろうし、現場のドアしか考えられない。モイシュが直接現場に行ったのか?警察がいたら何やってるんだと怒られない?……わからん。それと合鍵にエディの指紋を付け忘れています。
- エディはマロリーの部屋のドアは最初から開いていたとちゃんと言ってるのに、なぜグリンリーフは信じなかったのだろう。
- グリンリーフはエディの部屋で「サイゴンへ60マイル」の梗概を書く間、タバコを吸っている。爆薬を取り扱うエディが引火の危険のあるようなことをするのは不自然。エディがタバコを吸う姿は一度もないし、タバコの灰が床に残ってしまうと警察に第三者がいたことがわかってしまう。
- どういう方法で時限爆弾を仕掛けたのか不明。まさかと思うが「何でも爆破する方法早わかり」というエディの書いた原稿にあった方法で爆破したというのか。地雷の説明ですらチンプンカンプンだったグリンリーフがこの短時間で正確に命を奪うような時限爆破をやったと?早わかりすぎるだろ……今回はちょっと雑に感じる点が多いのが残念です。
- コロンボが「新しい合鍵を持った人物が犯人だ」とけしかけたのだから、相手が動くことを予想してグリンリーフを尾行していなければいけないと思う。『溶ける糸』『断たれた音』と同じ失敗をしている。
- 「刑事コロンボ完全捜査ブック」に、マロリーが口述で「wrap it up for the first draft.」と言う場面で日本語吹替えは「第一部をまとめてしまおう」と言っているが、原語だと「第一稿は終わり」という意味で、結末までひととおり完成した「第一稿」までをグリンリーフが読んで罠にはまったのだから日本語吹替えの「第一部」ではまだ完成していないことになるという指摘がある。なんとも鋭い。ちなみに字幕版は「修正する箇所がある。次のように変更しよう」と、簡略化してあるから何も違和感がなかった。
名場面・名台詞
警察の取り調べを受けるグリンリーフ。
コロンボから質問された際に
マロリーが死んだと聞かされて
小さな鍵を見せられる。
コロンボ「この鍵に見覚えがありますか?」
グリンリーフ「いや?」
コロンボ「手に取ってよく見てくれませんか?」
グリンリーフ「(手に取って)鍵なんてどれも同じに見える」
コロンボ「そうです。でもこれはあなたの鍵だ」
グリンリーフ「……」
コロンボ「ビルの管理人の話じゃあの部屋は一年半前あなたがマロリーさんのために借りた。これは管理人があなたに渡した鍵です」
グリンリーフ「……なら、そうでしょう」
チェイス弁護士「なにが言いたいんです?」
コロンボ「こいつが現場の床に落ちてたんだ。マロリーさんの死体の近くにね」
グリンリーフ「じゃあ彼が持ってた鍵でしょ?」
※ここのコロンボとグリンリーフの心理戦は解説がいるだろう。グリンリーフはわざと合鍵を現場に落として自分を不利にした。当然この鍵が自分の物だということは知っている。しかし、頑なに「わからない」態度で通している。例えばこれを見てうっかり「そうこれは私のだ」と答えた後に、実は別の鍵を見せられてコロンボにひっかけられていたとしたら、そこで終わりです。だから自分の鍵だと知っていてもうかつに肯定できなかった。一方でコロンボは自分の鍵だと言わせたくて何度も釣ろうとしているのがわかります。
帰ろうとしたコロンボが
チェイス弁護士を呼び止める。
コロンボ「ああ、チェイスさん。もう一つだけ。その車の事故ですが、先方の名前をご存じで?」
チェイス弁護士「エル・モンテから来た夫妻で……モーガン夫妻ですが何か?」
コロンボ「いやいやその~あなたのお話じゃあ、その先方の車にですねぇ、一人乗ってたかそれ以上乗ってたかわからなかったんです。それがその~……」
コロンボはグリンリーフの様子をうかがい、彼にも聞こえるように話す。
コロンボ「いやぁあたしは弁護士さんに、先方の車に一人乗ってたかそれ以上乗ってたかわからなかったって言ってるんです。しかしあなたは“彼ら”のおかげだと言われました。複数ですね。彼らが連絡してくれたから助かったと言われたんです。すこーし記憶が戻ったんじゃないかと思ったんです。ゆうべのことが思い出せてきたかとね」
チェイス弁護士「そうかもしれんな。無意識のうちにね」
コロンボ「たぶんそうでしょう。無意識にね」
※日本語吹替えは「一人乗ってたか一人以上乗ってたかわからなかったんです」とあるが、一人以上だと一人も含まれてしまうので文章として変。
レストランでチリを食べたコロンボが
会計のレシートを見て
値段の高さに驚く。
コロンボ「6ドル?ねえ君、これ間違いなんじゃない?チリとアイスティーなんだけど」
店員「おや……(紙を受け取って金額を書き直す)」
コロンボ「6ドル75セント?」
店員「アイスティーを忘れておりました」
原稿サービスのウォールパートに
マロリーの原稿のコピーを
誰かに渡したのか?と詰めるコロンボ。
コロンボ「クビになるならんの問題じゃないんだよ。殺人だよこれは?」
グリンリーフ「何も言うな。弁護士を呼んでやる」
コロンボ「君、共犯にされちまうんだよ。それも承知のうえか?」
ウォールパートがグリンリーフを指差して告白する。
ウォールパート「俺あのぅ……原稿のコピーは渡してましたけど、でも殺人なんて全然知らなかった。今まで一度だってそんな……殺人なんて」
コロンボ「わかってる。もう帰りなさい。後で供述してもらうから」
ウォールパート「すみません」
グリンリーフに向き合うコロンボ。
グリンリーフ「話はわかったよ。原稿を手に入れていたことは証明された。だがそれがどうした!?」
コロンボ「つまりあなた小説の内容を知ってたわけです。毎日少しずつ、結末まで」
グリンリーフ「結末を知っていたらどうなんだ?それで俺がマロリーを殺した証拠になるのかね?」
コロンボ「10万ドルもかけたからには、ロック・ハドソンは殺せないんです。この梗概はね、9ヶ月前にエディ・ケーンが書いたんだとあんたが言われた。この結末じゃあ主人公は仲間を救出して修道院に入る。言いたかないんですがねぇ、エディ・ケーンがこの結末を思いつくはずがないんです。マロリーですら思いつかなかった。これはアイリーン女史が提供したアイディアなんです。だから9ヶ月も前にエディ・ケーンがこの結末を梗概に書けるはずがない。先週変更したばかりなんですから」
好事家のためのトリックノート(トリック分類表)
準備中です。