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【ネタバレ注意】アガサ・クリスティー『そして誰もいなくなった』の感想・伏線解説・考察

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強烈なサスペンスに彩られた最高傑作!

『そして誰もいなくなった』

[And Then There Were None]

アガサ・クリスティー

(1939年)イギリス

 

 

 

初読はミステリーに興味を持った高校時代。

絶対に読むべき

クローズドサークルの金字塔と聞いて読んで

たいへん驚いた記憶がある。

細かすぎるくらい読書力の上がった今

いったい再読したらどう感じるのか?

それに加えて今回は初めて電子書籍の

Kindle版で読んでみることにしました。

紙の本では容易にできない読み返し

ハイライトにメモ機能や

気になった言葉をすぐ検索できて

新しい読書体験ができました。

 

あらすじ

ロレンス・ウォーグレイヴ元判事は

イギリス南西部を走る列車に乗って

デヴォン州スティクルヘイヴンの

「兵隊島」へ向かっていた。

その孤島は最初に

大金持ちのアメリカ人が買い取り

やがてオーエンという人物が

所有することになる。

ウォーグレイヴは古い友人からの

招待状を持ってそこに向かっていた。

 

体育教師のヴェラ・クレイソーン

夏休みのアルバイトに職業紹介所から

オーエン夫人の秘書の仕事を斡旋してもらい

列車で「兵隊島」に向かっていた。

本当は海には行きたくない。

シリルが亡くなったことを思い出してしまうから。

それにヒューゴーのことも……。

 

フィリップ・ロンバードは向かいの席の

教師風の女性を眺めながら

なかなかチャーミングだなと思った。

いや今は仕事中だ、

余計なことを考えてはいけない。

アイザック・モリスが言うには

「兵隊島」に行くだけで金がもらえる。

一週間いればいいだけというもの。

何やらキナ臭いが楽しみでもある。

どんな面白いことが起こるんだろう。

 

65歳の淑女エミリー・ブレント

近頃の若者のだらしなさに辟易していた。

そんな厳格な彼女が若者のように

ひと夏を「兵隊島」で過ごそうとしたのは

以前出会った知人の手紙だった。

収入も減ってしまったし

夏休みをただですごせるなら悪くない。

 

ジョン・マッカーサー将軍は

デヴォン州の駅に着いた。

手紙の差出人に心当たりはなかったが

何人か友人の名前をあげているなら

どこかで会ったことのある人だろう。

噂に聞く「兵隊島」にも興味があるし

昔話に花を咲かせるのもよかろう。

 

エドワード・アームストロング医師は

車を走らせていた。

優秀な医者の噂を聞きつけた

オーエン夫妻から手紙をもらい

「兵隊島」に来てもらいたいこと、

夫人の健康が心配で

診断してほしいと依頼が来たのだ。

とその時、

1台のスポーツカーが猛スピードで

アームストロングの車を追い抜いた。

暴走族の若者め、いまいましい!

 

エンジンをうならせて

アンソニー・マーストン

のろのろ運転の車を追い抜いた。

大金持ちのオーエン夫妻が

「兵隊島」でパーティーを開くらしい。

女の子も何人かいるだろう。

きっと楽しめるものになる。

マーストンは期待に胸をふくらませた。

 

ウィリアム・ブロア

手帳を見てつぶやいた。

仕事としては簡単だ。

しくじるはずがない。

同じ列車の隅で眠っていた

船乗りの老人が目を覚まして言った。

「嵐が来るな」と。

ブロアは老人の戯言だと馬鹿にしていたが……。

 

オークブリッジ駅で

ウォーグレイヴ判事、

ヴェラ・クレイソーン、

エミリー・ブレント、

フィリップ・ロンバードが顔を合わせ、

タクシーで移動。

途中でマッカーサー将軍を拾って

スティクルヘイヴンを目指した。

 

船着き場でデイヴィスという男が

みんなを案内する。

ここからモーターボートで兵隊島へ渡る。

船乗りに聞いたら

オーエン氏の招待客は

あと二人来るらしい。

その時、

猛スピードで車が坂道を下りてきて

車に乗っていた若者

マーストンが仲間に加わった。

 

島に上陸した七人は

立派な邸宅に入ると

オーエンの執事トマス・ロジャーズ

その妻エセルの出迎えをうけた。

彼が言うにはオーエン氏は

到着が遅れて明日来るとのこと。

二人とも最近雇われたばかりで

まだ一度もオーエン夫妻の姿を

見たことがないという。

 

ヴェラは自室に入って

部屋の装飾に目を凝らす。

古い童謡が

額に入れて壁に掛けられていた。

「小さな兵隊さんが十人、ご飯を食べにいったら 一人がのどをつまらせて、残りは九人

小さな兵隊さんが九人、夜ふかししたら 一人が寝ぼうして、残りは八人

小さな兵隊さんが八人、デヴォンを旅したら 一人がそこに住むって言って、残りは七人――」

 

アームストロング医師も島に到着し

夕食の席に全員が集まった。

招待客が八人、執事夫妻を含めて十人。

出された料理は素晴らしく

ワインも申し分ない。

みんな機嫌が良くなって

初対面でも会話が弾んでいる。

丸いテーブルに小さな陶器の人形があった。

十人の兵隊の人形だった。

周りの会話を聞いていたブレントは

招待主がオーエンと聞いて

そんな人物には会ったことがないし

なぜ招待されたのか戸惑うのだが……。

 

時計の針が九時二十分をさした。

そのとき突然<声>が響いた。

「淑女、ならびに紳士のみなさん!お静かに」

全員がぎょっとなって

あたりを見回したが

誰がどこからしゃべっているかわからない。

<声>は続ける。

「あなたがたは次にのべる罪状で告発されている」

そう言って十人全員の名前と

死に至らせた被害者の名前を告発していった。

 

ロジャーズがコーヒーの盆を落とし

エセルは悲鳴をあげて気絶した。

ロンバードとマーストンがエセルを運び

アームストロング医師が対応する。

あれは誰の<声>だったのか?

悪ふざけにもほどがある!と

マッカーサー将軍は激怒する。

ロンバードが隣室を開けると

蓄音機が動いているのを発見した。

ほかの人も隣室に駆けつけ

<声>の正体がレコードだと判明する。

 

ロジャーズはオーエン氏の指示で

食事の後でこのレコードを

掛けるように言われていて、

<白鳥の歌>と書いてあったから

音楽だと思っていたと告白した。

エセルにブランデーを飲ませて

自室に寝かせた後、

改めてオーエンという人物が何者なのか

全員が情報を出し合うことになった。

 

<ユーリック・ノーマン・オーエン>

ロジャーズ夫妻は

職業紹介所で雇われただけで

オーエンには会ったこともない。

エミリー・ブレントもオーエンという人物を

オグデンかオリヴァーだと思って

差出人を人違いしていた。

ヴェラは秘書として雇われた経緯を説明。

マーストンは友人からここに来いと連絡があり

ウォーグレイヴは医者として夫人を診察に来た。

マッカーサー将軍は

友人を装った手紙でおびき出され

ロンバードも同じだと言う。

デイヴィス――ウィリアム・ブロアは

元ロンドン警視庁の刑事で

夫人の宝石を狙う盗賊がいるから

探偵としてパーティーに参加するように

オーエンに依頼されたと説明した。

U.N.Owenとは、

つまり<UNKNOWEN(アンノウン)>

そんな人物は存在しないということ。

 

次に全員が告発された内容を否定する。

あれは私の責任じゃない、

犯罪の疑いなどなかった、

ただの事故で運が悪かったんだ――。

そう言いながらも

みんな心のどこかに

罪を犯したという意識は残っていた。

 

ともかくこの島から出ようと決まったが

明日にならないとボートは来ない。

ただ一人

マーストンは出て行くことに反対し

謎を解いてやると意気込んで

ウィスキーソーダを一気に飲み干した。

次の瞬間、

ひどくむせて苦しそうに顔をゆがめ

顔が紫色になって倒れ込んだ。

そのままマーストンは死んだ。

 

~~~~~~

 

グラスから見つかった青酸カリ。

彼はとても自殺する人間には見えない。

誰がマーストンのグラスに入れたのか?

 

それぞれ不安な思いを抱えたまま

夜が明けると、

ふたたび悲劇が……。

昨夜倒れたエセルが

目を覚ますことなく死んでいた。

 

童謡になぞるような死に方と

一体ずつ消えていく兵隊の人形。

すべての計画を企んだ

黒幕オーエンはこの中にいる――。

 

作品解説

ある人物に招待されて

兵隊島に集まった十人の男女たち。

彼らは過去に

犯罪と立証するには不十分だが

人を殺めた過ちを犯した者たちだった。

島に到着したが招待主は姿を見せず、

やがて夕食の席で彼らの

過去の犯罪を暴き立てる<声>が響く。

そして古い童謡の歌詞になぞるように

次々と殺されていき、

そして、誰もいなくなった――!?。

クローズドサークルの金字塔と名高い

傑作サスペンスミステリー。

 

ミステリの女王アガサ・クリスティーの

名探偵が出て来ない

<ノン・シリーズ>の代表作。

「クローズドサークル」と

「見立て殺人」を扱ったミステリとして

傑出の出来になっている。

 

一億冊以上出版され

世界で最も多く売れたミステリー作品で

戯曲化や映像化も何度も行われ、

各種ミステリランキングでも上位を占める。

クリスティー自身も

お気に入りの一冊にあげている。

 

十人の登場人物が

謎の人物オーエン夫妻に招かれて

孤島の兵隊島の邸宅に行き

嵐によって島に閉じ込められ、

童謡の歌詞の通りの状況で

次々と死んでいく。

はたして全員が死亡する前に

あなたはこの真相に辿り着けるだろうか?

 

特定の主人公はいないが

ヒロインに近いポジションなのは

ヴェラ・クレイソーン。

過去に家庭教師をしていた子供を

泳げるはずのない距離で

泳ぎを許可して溺死させた。

それが原因で恋人と破局。

 

若くて行動力のある

フィリップ・ロンバードは元陸軍の大尉。

島に唯一ピストルを持ってきている。

後の戯曲や映画では

二人が惹かれあう関係になるものもあり

パラレルワールドを楽しめる。

 

感想

何十年ぶりの再読だろうか。

昔読んだ時は古い版で

兵隊島ではなくインディアン島だった。

そこが違和感だったけど

いや~さすがに面白かった。

 

これ絶対に犯人当てられない(笑)

犯人わかった状態で読んでるのに

犯人が全くボロを出していない。

完璧です。

 

それどころかミスリードが多い。

伏線はディクスン・カー、

ミスリードはアガサ・クリスティーが

神だと思っているのですが

ここまでミスリードされると

そりゃあ犯人当てられないってば。

個人的には

もう少しわかりやすくなる伏線を

入れてほしかったな。

 

あっと、

昔の推理ノートを見つけた。

「Ten Little Niggers」という

旧版のタイトルだった。

1998年8月14日に読んでいて

初読では「B」評価。

10点満点だと8点ですか。

なになに、

8月8日から13日の事件で

デヴァン州スティクルヘブン

「インディアン島」が舞台。

犯人の意外性とシナリオを

高く評価しているが

やはり伏線の評価が低く

昔の俺も今と変わってないんだなと

妙に納得してしまった。

なんのこっちゃ。

 

★★★★★ 犯人の意外性

★★☆☆☆ 犯行トリック

★★★★★ 物語の面白さ

★★★☆☆ 伏線の巧妙さ

★★★★☆ どんでん返し

 

笑える度 -

ホラー度 -

エッチ度 -

泣ける度 -

 

評価(10点満点)

 8.5点

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ここからネタバレあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1分でわかるネタバレ

○被害者 ---●犯人 -----動機【凶器】

アンソニー・マーストン ---●ロレンス・ウォーグレイヴ ---娯楽【毒殺:青酸カリ】

エセル・ロジャーズ ---●ロレンス・ウォーグレイヴ ---娯楽【毒殺:クロラール】

ジョン・マッカーサー ---●ロレンス・ウォーグレイヴ ---娯楽【撲殺:棒】

トマス・ロジャーズ ---●ロレンス・ウォーグレイヴ ---娯楽【斬殺:大斧】

エミリー・ブレント ---●ロレンス・ウォーグレイヴ ---娯楽【毒殺:青酸カリを注射】

エドワード・アームストロング ---●ロレンス・ウォーグレイヴ ---娯楽【溺死:海へ転落】

ウィリアム・ブロア ---●ロレンス・ウォーグレイヴ ---娯楽【殴殺:クマの時計】

フィリップ・ロンバード ---●ヴェラ・クレイソーン ---防衛【射殺:ピストル】

ヴェラ・クレイソーン ---●なし※ ---自殺【絞殺:ロープ】

 ※ウォーグレイヴが自殺に誘導した。

ロレンス・ウォーグレイヴ ---●なし ---自殺【射殺:ピストル】

 

アイザック・モリス ---●ロレンス・ウォーグレイヴ ---娯楽【毒殺:バルビツール酸系の睡眠薬】

 

<結末>

最後に一人残ったヴェラは

なにかに導かれるように

首を吊って死亡した。

島にいた十人すべていなくなった……。

 

ロンドン警視庁はこの事件を調査したが

誰がオーエンだったのか

明らかに出来なかったが、

真犯人の手記が入った瓶が見つかり

ウォーグレイヴが真犯人だとわかる。

 

病気で余命わずかのウォーグレイヴは

死ぬ前に犯罪を犯してみたいという

衝動にかられたために

まだ裁かれていない犯罪者を

島に集めて殺していった。

その殺人計画の中で

自分を嫌疑から外すために

アームストロング医師に協力してもらって

自ら被害者のふりをしていたのだ。

 

九人の死を見届けた彼は

この殺人の手記を瓶に詰めて海に流し

他殺に見えるように偽装して

ピストル自殺してすべてに幕を閉じた。

 

当たらない真犯人

世界で最も有名なミステリーだけあって

Wikipediaの情報量もすごい。

まずはこちらに目を通して

いただくと理解しやすいです。

 

この作品の真犯人は元判事

ロレンス・ウォーグレイヴ

以前から人を殺したいという欲求があり

獲物になりそうな人物を探していた。

その相手は罪のない人物ではいけない。

過ちを犯しながら

法で裁かれなかった者たちを選んだ。

 

判事の職を退き

余命わずかと悟った彼は

計画の実行に移る。

アイザック・モリスという男を仲介に

犠牲者たちを島に集めた。

そして自らも招待客のふりをして

計画の中で死亡したように偽装した。

 

そのための協力者として

アームストロング医師を利用する。

二人は裁判で顔を知っている仲で

医師はロンバードを疑っていたから

同じ考えだと伝えて

犯人に罠を仕掛けようと話を持ちかける。

そしてウォーグレイヴ自ら

六番目の被害者として嫌疑から逃れた。

 

死亡した人物が犯人で

しかも医者が死亡を確認しているため

それがまさか共犯だと思えないから

真犯人を当てることはかなり難しい。

それ以外にもミスリードで

あらゆる人物に疑わしい言動がある。

 

まずウォーグレイヴを犯人ではないと

思わせるミスリードに

島への招待の手紙を読む場面、

★①コンスタンス・カルミルトンの手紙がある。

判事は思った。コンスタンス・カルミルトンこそ、いかにも沖合の島を買い取って、謎めいた噂に包まれそうな女性ではないか!自分の出した結論に満足した判事は、こっくりうなずいた。そして、うなずいたままうなだれて……。

判事は眠っていた……。(P.11)

この手紙はもちろん自分で用意した物で

自分もおびき寄せられたという小道具。

その差出人が

コンスタンス・カルミルトンなら

いかにも辻褄が合いそうだと

自己満足しているだけ。

島の招待客の中に

夫人を知っている人がいたらまずいので

アームストロングやロジャーズに

「コンスタンス・カルミルトンを知っていますか」と

確認していた。(P.46)

普通に読むとなんの疑いもなく

本当に手紙をもらったようにしか

見えないのがすごい。

 

フィリップ・ロンバードは

仲介したアイザック・モリスと知り合いで

島で危険なことが

起きることを知っていた。

彼がピストルを持っていないと

童謡に当てはまらない部分(九人目)がある。

よって真犯人の疑いが強い。

 

最もあやしいのはブロアです。

デイヴィスという偽名で現れて

招待客の名前もリサーチ済みで

仕事のために来ているという。

 

一人遅れて島に到着した

アームストロングも

元の世界に戻らない気分とか

なにか計画を持っている様子。(P.44)

人殺しの夢を見たりもする。(P.100)

こいつもやばい。

 

⑪ロンバードも

オオカミの笑い方をする。(P.190)

 

ヴェラが部屋の天井に吊ってあった

海草に驚いて悲鳴を上げる場面では

巧妙なテクニックを駆使している。

★⑫倒れたヴェラに

男達が駆け寄って来るのだが

誰がしゃべっているのか書いていない。

そのときドアのむこうの廊下で明かりがまたたいて、ヴェラは正気を取りもどした――ローソクだ――男たちが部屋に駆けこんできた。

「いったい、どうした」「なにがありましたか」「なんだ、どうした」

ヴェラは身体をふるわせて、一歩前に出た。そして床に倒れた。(P.226)

ここは意識のぼんやりした

ヴェラの視点で描かれているため

はっきり書かなくてもいい。

一階でウォーグレイヴが

殺されている時に

(という芝居をしている最中)

誰がここに遅れて来たのか

読者にわからせない工夫でしょう。

 

伏線解説(★は巧妙なもの)

ウォーグレイヴの手記に

自分が犯人だと推理できた

3つのヒントがあったと書いてある。

つまり伏線が張られてあったという。

 

【唯一、罪を犯していない人物】

ウォーグレイヴは無実の人間を

死刑に追いやったと思われたが

エドワード・シートンは実際に有罪だった。

  • 死刑執行後に有罪を裏付ける証拠が実際に見つかっており、オーエンの言う罪のない者を殺害したという条件に当てはまらない。それが招かれて来たのではなく真犯人であることの示唆だという。

 

★②【燻製のニシン】

童謡の七番目の歌詞には

海で燻製のニシンに飲まれたとある。

燻製のニシンには

人の注意をそらす(欺く)という意味がある。

  • 「燻製のニシン」は英語で「Red Herring(レッドヘリング)」と言う。騙しのテクニックとして有名な言葉です。ここで殺されたアームストロングが誰かに欺かれたことを指し示している。
  • これがミスリードでもあり、⑬海に消えたアームストロングは死亡が確認されるまでは最もあやしい存在になる。

 

【カインの刻印】

ウォーグレイヴは死んだふりをするため

額に赤い粘土をつけていた。

  • 「カインの刻印」とは、旧約聖書に登場するカインが神に付けられた印。神がカインが誰からも殺されないようにつけたもので、ウォーグレイヴは誰からも殺されない。つまり自殺したという示唆。

 

【人を裁くということ】

罪に問われなかった犯罪者を

自らの手で死刑執行する正義感は

人を裁く職業を連想させる。

  • 犯人の動機を「殺したい欲求」から娯楽と表記したが、正義もあるだろう。それは他人を裁くという職業を続けた結果、増幅していったともいえる。

 

その他の伏線。

【クマの置き時計】

ヴェラの部屋のマントルピースに

クマの形をした置き時計がある。

大きな大理石の彫刻だった。(P.41)

文句のつけようのない、すばらしい寝室だった。隅から隅まで、モダンなインテリアで飾られている。つやのある寄せ木細工の床に敷かれた、オフ・ホワイトのカーペット――淡い色合いの壁――ライトに囲まれた細長い鏡。マントルピースに、置き物が一つだけのっていた。クマのような形をした、大きな白大理石製の現代風の彫刻だった。時計がはめこんである。(P.41)

  • ブロアを殺したクマの置き時計。こんな堂々と登場しているとは……。

 

【青酸カリ】

ヴェラの腕に

スズメバチが止まったり(P.30)

ブレント殺しの時に

窓の外にミツバチがいる。(P.210)

  • 当時のイギリスではスズメバチ退治に青酸カリを買えたらしい。ハチのいるところ=青酸カリあり。

 

【エルマー・ロブソン】

兵隊島の前の持ち主

エルマー・ロブソンという

若いアメリカの大富豪は

島に邸宅を建てて、

友人を呼んでどんちゃん騒ぎしていたと

船乗りフレッド・ナラコットは言う。(P.35)

  • 前の持ち主のせいで変わった客が島に行っても、スティクルヘイヴンの人たちはまたかと思って誰も気にしていなかった。

 

【裁判官】

ブレントのグレーの毛玉が紛失し

浴室の赤いカーテンも消えた。

  • ウォーグレイヴの偽死で裁判官の格好をするために盗んでおいた。

 

★⑨【銃声】

ウォーグレイヴが死んだ場面で

ブロアから鋭い指摘がある。

「どうして誰もピストルの音に

気づかなかったんだろうな」(P.234)

  • ヴェラの悲鳴を聞いて駆けつけてみんなパニックになっていたし、風も吹いていたから聞こえなくても仕方ないと彼らは勝手に納得してしまった。実はそこが重要だったんです。

 

【天井のフック】

ヴェラを驚かせた天井のフック

海草が吊ってあったこと。

フックを見上げるヴェラ。

  • 最後の自殺につながる伏線です。

 

2つの歌詞

ヴェラが首を吊る前に

「十人の小さな兵隊さん」の歌詞を

思い出そうとして

最後は「結婚して」だったと言う場面。

“小さな兵隊さんが一人、あとに残されたら”だったわね。最後のところは、なんだったかな。あっ、そうそう!“結婚して、そして誰もいなくなった”だった。(P.275)

しかし作中で額に飾られている歌詞は

「首をくくって」になっている。

小さな兵隊さんが一人、あとに残されたら自分で首をくくって、そして、誰もいなくなった(P.43)

どうしてこの勘違いが起きたかと言うと

「十人の小さな兵隊さん」の

歌詞が2通りあるため。

 

1868年に原曲「Ten Little Injuns」に

セプティマス・ウィナーが

「He got married(彼は結婚した)」と歌詞をつけた。

1869年にフランク・グリーンが

歌詞を置き換えた

「Ten Little Niggers」を作成する。

その最後の歌詞に

「He went and hanged himself(彼は首を吊った)」が出てくる。

 

犯人は童謡に合わせて

首を吊らせようと罠を用意していた。

幸せな終わり方の歌詞で

覚えていたヴェラ

その罠を警戒することもできず

犯人の計画通りに誘導されてしまった……。

 

欠点や疑問など

  • 登場人物が多くて理解が追いつかない。
  • 犯人を示す伏線が少ないしわかりにくい。
  • ウォーグレイヴが死んだふりをした時、地の文で「ウォーグレイヴ判事の遺骸は部屋に運ばれて、ベッドに横たえられていた」(P.232)とあるが、実際は“遺骸”ではないため「ぐったりした身体を」などの文章でないと“嘘を書いた”ことになります。地の文に嘘があるのは反則です。原文がどうなのかわからないので翻訳が悪いのかもしれない。それに運ぶ時に判事の身体を二人以上が触るわけで、アームストロングが上半身側を持って、もう一人に足を持たせないと生きていることがバレそうです。
  • 3日目の夜、ウォーグレイヴがアームストロングのふりをして玄関から出た。その姿をブロアが見て追いかけた、という場面。その少し前にウォーグレイヴとアームストロングがこっそり屋敷の外で会って、アームストロングを海に落としたらしいが、こっそり外に出るのは難しいと思う。ブロアが足音で気づいたが、それは“アームストロングの部屋が奥にあってブロアのドアの前を通らないと階段へ行けない(P.243)”ためだ。アームストロングは1回目に外に出た時もブロアの部屋の前を通らないといけないが、まだ寝てもいないブロアがその足音に気づかないものだろうか?
  • ブロア殺しの成功率の低さ。ブロアがヴェラの部屋の窓の下にいて、なんらかの理由で動かなくて、窓を開けても気づかれずに、クマの置き時計を落下させて、的確にブロアの頭上に命中させる、そして確実に死亡する――なんてことが最初の計画の中にあったとしたらうまくいきすぎ。
  • ヴェラがロンバードとやりあってヴェラが生き残るとウォーグレイヴは予想したが、ロンバードが戻って来たらどうしたのか?彼は自ら自殺するタイプでもないし力もあってピストルも持って戻るはず。

 

Kindle(キンドル)のすすめ

再読ということもあって今回は

Kindleという電子書籍で読んでみた。

とても良かったのでおすすめしたいと思う。

 

<メリット>

  1. 気になった言葉をすぐ検索できること。とくにありがたかった機能。――オーエンの告発レコードのタイトルが<白鳥の歌>とあったので文字をなぞると、Wikipediaの欄が出て「死ぬまぎわに白鳥が歌うという歌。その時の声が最も美しいという言い伝えから、ある人が生前最後に作った詩歌や曲のこと」と説明が出た。なるほど!そういう意味だったのかと。それと小説内検索でその言葉が出て来たページが全部わかるのもいい。
  2. 「ハイライト」機能が便利。ピンクイエローオレンジのハイライトが使える。――男性の名前に青、女性の名前にピンク、伏線っぽい気になる文章にイエロー、青酸カリとかクロラールなど重要な単語や時刻などをオレンジで整理した。ハイライトにメモも書けるので、その人物の外見や年齢や特徴を書き足し、死因なども書き込んだ。そうすると名前を選ぶだけで思い出せる。
  3. しおり機能として「ブックマーク」があり、重要なものは★お気に入りするとすぐ探せる。――登場人物表を★にするのが便利です。
  4. 文字の大きさやフォントを自由に変えられる。――年をとっても安心。ルーペいらず。
  5. いつでもすぐ手に入る。売り切れがない。――紙の書籍だと絶版になったり、読みたい時に買えず、そのために新刊が出るたびに買ってしまって溜まるという悪循環だった。
  6. 紙の書籍より若干安い。――10%オフとかセールで半額になる時もある。
  7. 場所を取らない。物が溜まらないからスッキリ。――俺の家の物置は本でいっぱいです。
  8. 目的の本を簡単に探せる。――多くなればなるほど実感するだろう。
  9. 持ち運びが簡単。旅先でいつでも読める。――何冊でも持ち運べるのはありがたい。

 

<デメリット>

  1. スマホのブルーライトで目が悪くなる可能性が高い。――確実に目が悪くなってる気がする。
  2. 本を持っていないため読み進めているという実感が薄い。――個人的な感想。
  3. 帯がついてない。――帯の煽り文もわりと好きなんです。
  4. 本体のみ販売のため、あとがきの解説がついていない。――これ地味に痛い。まず最初に巻末の解説を読んで面白そうか判断するため。外国人作家だと他作品の面白そうな内容に触れていることもあるので読めないのはもったいないかな。
  5. 購入したら売ることができない。――中古で売れないため出費は戻ってこない。中古だと100円で買えるものが定価ぐらい出さないと買えない。
  6. 人にプレゼントできない。――「これ面白いよ」って友達に貸したりできない。
  7. サイトやアプリが終了した場合が不安。――KindleはAmazonなので大丈夫だと思うが。
  8. スマホを壊したり紛失したら最悪。――それはそう。アカウントが使えなくなったらすべて失ってしまう。

 

『そして誰もいなくなった』は

めちゃくちゃ登場人物が多い。

メインが十人、

それぞれに被害者もいて

手紙を差し出した人も合わせると

三十人以上登場する。

登場人物をきちんと整理して

話の内容も追いかけるのに

Kindle読書は便利すぎました。

これからも使おうと思います。

 

好事家のためのトリックノートトリック分類表

1-A、人間「一人二役トリック」

●犯人が被害者の一人を装う

【6番目の被害者】

10人もの連続殺人の中、医者を丸め込んで自分が死亡したような偽装をする。

 

1-A、人間「犯人の事故抹殺トリック」

●その他の偽死

【医者の協力】

医者を丸め込んで射殺死体のふりをして医者に「死亡している」と言わせて死んだことにする。

 

5-B、隠し方「生きた人間の隠れ方トリック」

●心理的に見えない隠れ方

【シーツの死体】

一度死亡を確認した後で、死体のふりをしてベッドに入りシーツをかける。

 

5-C、隠し方「物の隠し方トリック」

●その他

【ピストル】

ピストルを缶詰に入れて封をし、山積みにした他の缶詰の底にしまう。

 

6-A、自殺・動機「自殺トリック」

●他殺を装う自殺

【射殺】

ゴム紐付き眼鏡をドアの把手に絡ませピストルをゆわえて、ベッドに横になり眼鏡を体の下に置いて、引き金を引く。ピストルは自殺後、ドアの外へ飛び、紐は外れて体の下にある眼鏡のところへ引き戻される。

 

 

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