刑事コロンボ
#25『権力の墓穴』
[A FRIEND IN DEED]
(1974年5月5日放送)アメリカ
(1974年10月5日放送)日本
<あらすじ>
マーク・ハルプリン(リチャード・カイリー)は、友人で隣人のヒュー・コードウェル(マイケル・マクガイア)から「自宅で妻を殺してきた」と告白される。マークは彼の家に向かい、宝石窃盗犯の犯行に偽装。バーからのヒューの電話を受けて彼のアリバイを作ると自宅に戻り、妻マーガレット・ハルプリン(ローズマリー・マーフィ)の前で、不審な男が走り去るのを目撃した芝居をする。そしてマーク――ロス市警次長マーク・ハルプリンは、警察本部に通報した――。
<スタッフ>
監督 ベン・ギャザラ
脚本 ピーター・S・フィッシャー
制作 エドワード・K・ドッズ
制作総指揮 ローランド・キビー&ディーン・ハーグローヴ
音楽 ビリー・ゴールデンバーグ
ディック・デ・ベネディクティス
撮影 ウィリアム・クロンジャガー
<キャスト>
ピーター・フォーク(コロンボ)ロサンゼルス市警警部
リチャード・カイリー(マーク・ハルプリン)ロサンゼルス市警次長
マイケル・マクガイア(ヒュー・コードウェル)マークの友人
ローズマリー・マーフィ(マーガレット・ハルプリン)マークの妻
ヴァル・アヴェリー(アーティ・ジェサップ)前科者の宝石窃盗犯
ジョン・フィネガン(ダフィ)ロサンゼルス市警警部
ベン・マリノ(ランドール)ロサンゼルス市警刑事
ジョシュア・ブライアント(マレー)検視官
ジョン・カルヴィン(チャーリー・シュープ)自動車整備員
エリック・クリスマス(ウェクスラー)宝石店店主
感想
第3シーズンの最終話となる本作は
コロンボの上司が犯人という大胆な設定。
冒頭で殺人を犯すのは別の犯人だが
その犯人に協力して偽装工作する男が
11分過ぎ頃に警察に電話して
「こちら次長のハルプリンだ」と言ったところで
初めてこの共犯者の職業がわかる。
事前にあらすじを知らずに見たら
警察官が犯人なのかとびっくりするだろう。
ロス市警の次長マーク・ハルプリンは
妻を殺してしまった友人の偽装工作をして、
その見返りとして自分の妻を
同じ窃盗団の仕業に見せかけて殺す。
「交換殺人」ならぬ
「交換条件殺人」
お前の殺人の後始末をしてやるから
俺の殺人の後始末をしろというもの。
このプロットは面白い。
しかも警察の立場を利用して
コロンボの捜査に圧をかけてくる。
無理矢理に窃盗犯の
仕業にしようとする犯人に
コロンボがどうやってやり返すのかが見物。
今回のコロンボは
愛車プジョーのエンジンの調子が悪く
バッテリー上がりを起こして
現場に遅刻したり
セルモーターがいかれたりと散々。
それでも買い換える気はないらしい。
査定では80ドルとか。
あとジャニスの女優さんが
誰か知りたいんだけど
クレジットにも名前が載っていない。
すごい美人なのに。
なんで……。
シーズン最終話にふさわしく
大胆で手強い犯人との心理戦、
徐々に真相に迫っていく展開の面白さ。
細かい伏線回収も上手いし
大がかりな逆トリックもお見事。
すべてにおいて完成度が高く
文句なく名作の一つと言える。
☆☆☆☆☆ 犯人の意外性
★★★★☆ 犯行トリック
★★★★★ 物語の面白さ
★★★★★ 伏線の巧妙さ
★★★★☆ どんでん返し
笑える度 -
ホラー度 -
エッチ度 -
泣ける度 -
評価(10点満点)
9点

※ここからネタバレあります。
1分でわかるネタバレ
○被害者 ---●犯人 -----動機【凶器】
①ジャニス・コードウェル ---●ヒュー・コードウェル ---衝動【扼殺:手】
②マーガレット・ハルプリン ---●マーク・ハルプリン ---金銭欲【溺死:風呂】
※①の偽装工作をマークが行い、②の偽装工作をヒューが行っている。共犯。
<結末>
コロンボは上司のマークがヒューと協力して
ジャニスとマーガレットを殺したとにらみ、
窃盗犯ではないという証拠を集めて
突きつけたが権力で黙らされてしまう。
そこでコロンボはマークが
罪をなすりつけようとした
窃盗犯を味方にして
気弱なヒューの方から崩そうと試みる。
ヒューが妻を殺したことを知っていると
窃盗犯アーティが強請り、
マークに相談させて盗んだ宝石を
アーティの部屋に持って来させる。
マークはアーティを殺人犯として拘束し、
動かぬ証拠があると言って
その部屋に踏み込んで宝石を取り出した。
しかしこれこそがコロンボの罠。
この部屋はアーティの部屋じゃない。
コロンボが今日借りた部屋だという。
マークはアーティの書類を見て
そこに書いてあった住所に宝石を仕込んだが
その書類はコロンボが偽造したもので
ここに盗まれた宝石があることが
マークの犯行を立証していた。
この部屋の住所を知っているのは
コロンボとマークしかいないのだから……。
トリック解説
マークが使った
「犯行トリック」は
共犯者を利用した
「交換条件殺人トリック」
事の発端は
隣人のヒュー・コードウェルが妻を殺してしまい
信頼しているマークに相談するという
偶然の出来事から始まった。
ヒューの妻ジャニスは
若い男友達と遊んでいて金遣いが荒く
2人はたびたび喧嘩をする仲だった。
ここでマークは彼を助けることで
自分の犯行に利用することを思いついたが
その企みは自分の中に秘め
友人として犯行の後始末を手伝う。
午後10時半に自宅に電話するように言って
クラブにヒューを残し
マークがヒューの自宅へ向かう。
ジャニスが着ていた赤いドレスを脱がせて
ブルーのナイトガウンを着せる。
ベッドに寝た形跡を作り、
物音に驚いてナイトガウンを羽織って
下に降りて泥棒に殺されたように偽装した。
午後10時半にクラブのバーからかけた
ヒューの電話を受けるマーク。
ヒューは電話の向こうのジャニスと
会話しているような芝居を
バーテンダーや他の客に印象付ける。
ヒューにそのまま警察から連絡があるまで
クラブにいろと伝えて、
電話の工作を終えたマークは
最近この近辺を荒らしている
宝石窃盗犯に罪を着せるため
宝石を盗んで家を出る。
隣家の自宅ガレージの戸棚に宝石を隠して
マークは自分の家に戻った。
妻マーガレットと寝室で会話して
おもむろにベランダに出ると
隣家のコードウェル家を見て、
「不審な男が走って出て行った」と芝居をし、
警察に通報して事件発覚させる。
そしてロス市警次長の立場を利用して
窃盗犯の殺人で捜査を進める。
ここからがマークの本当の狙い。
マークは妻のマーガレットが
450万ドルもの大金を
慈善事業に注ぎ込むことに腹が立っていた。
そこで窃盗犯の報復殺人のように見せるため
昨日の強盗が逃げる姿を
夫婦で目撃したような印象を
記者会見で与えておいた。
そして今日はヘリも動員して
パトロールを強化すると話した。
午後5時前、
入浴中のマーガレットを風呂で溺死させると、
葬式の終わったヒューに殺人の後始末を要求。
断れば一生刑務所だと立場を利用して脅す。
ヒューは仕方なく
マークの計画を手伝うことに同意した。
午後8時頃、
ヘリで自宅上空をパトロール中に
プールに向かって女性を抱えて走る
黒ずくめの男を発見する。
男が女性をプールに投げ入れるのを見て
マークがヘリからプールに飛び込んだが
投げ込まれた女性――マーガレットは
すでに溺死していた。
マークはやり場の無い怒りと
悲しみで打ちひしがれた演技をする。
それぞれの殺人が起きた時刻に
それぞれアリバイがある。
――計画は完璧だった、はずだ。
今回コロンボが
犯人を追い詰めるために使った
「逆トリック」の解説。
コロンボはマークが真犯人だとにらみ、
証拠を掴むために
罪を着せられた窃盗犯の
アーティを利用することにした。
アーティはヒューに
お前が妻を殺したことを知っていると
電話をして呼び出し、
5000ドルの口止め料を要求してきた。
ヒューはマークに相談すると
逆にアーティを恐喝罪で逮捕し、
ついでに2つの殺人の証拠を捏造して
アーティに罪を着せようと計画する。
そのためには
アーティの住所を知らないといけない。
朝出勤したらコロンボが
熱心に窃盗犯の資料を見ていた。
その中にアーティの書類があったので
彼の住所を覚えたマークは
ガレージから盗んだ宝石を取り出して
そのアパートへ向かう。
鍵を外して部屋に宝石を隠しておいた。
アーティを拘束し
部屋の捜査令状を持って
アパートに踏み込んだマークたち。
コロンボも付いてきて
犯人は他にいると矛盾を並べて
「犯人はあなたです」と告発してきたが
マークも「君はクビだ」と
まだ強気な態度を崩さない。
刑事が宝石を発見すると
「ではこのジャニスの宝石をどう説明する」と
マークが勝ち誇るが、
コロンボは冷静に
「簡単です。あなたが置いたんです」と答える。
「そんなことは立証できん!」と怒鳴るマーク。
そこにアーティが連れて来られて
「ここは俺の部屋じゃねえぜ」と言った。
そう。
この部屋はアーティの部屋ではない。
今朝コロンボが借りた部屋で、
すべてはマークを自白させるための罠。
アーティの書類の住所だけ
この部屋の住所に換えた書類を偽造して
それを見たマークがこの部屋に
盗んだ宝石を隠すように仕向けたのだ。
決定的な証拠を突きつけるつもりが
完全に墓穴を掘ったマークは
もはや言い逃れすることができなかった。
犯人がミスをしたり
些細な矛盾点から
コロンボが真相に近づいていく
「発覚トリック」をピックアップ。
①事件の夜、
マークが自宅の寝室のベランダで
隣家のコードウェル家から
不審な男が出てくるのを目撃したと言うが
実際に男を目撃したのはマークだけで
妻のマーガレットは見ていなかった。
不審な男の存在はマークの証言のみで成立している。実際にコードウェル家で殺人事件が起きているが、その男が実在するかどうかで犯人が誰なのかも変わってしまう。マスコミも「奥さんも犯人を目撃したのか」と質問したが、マークはそれに答えなかった。これはその後、窃盗犯の報復殺人に見せかける必要があったため。
②ジャニスの夫ヒューに
コロンボが初めて面会した時に
「何か不審でもおありですか?」と聞かれた。
妻を物盗りに殺されて一刻も早く犯人を見つけてもらいたいはずの人物にしては変な発言。普通なら「なにか手掛りは掴めましたか?」と聞くはずなのに、現場の様子に「不審なところ」があるかどうかを気にしていること自体がおかしい。
③当日は昼にメイドが家中を掃除していて、
下の物音を聞いた被害者は
ブルーのナイトガウンを着て
一階に降りたはずなのに
衣装戸棚から誰の指紋も出なかった。
それを聞いたヒューは
妻はいつも朝起きるとナイトガウンを畳んで
枕の下に入れていると答えたが、
枕の下にピンクのナイトガウンが
畳んだまま残っていた。
コロンボはスッキリしましたと答えたが、これは物盗りに偽装したのがヒューではないことがわかったから。衣装戸棚にジャニスの指紋がないから、ブルーのナイトガウンを着せたのは偽装した人物で、その偽装したのがヒューなら枕の下のナイトガウンを使うはず。そうしなかったのはジャニスの習慣を知らなかったからだと推理できる。
④マークが自宅の周辺を
ヘリで警戒していた時にちょうど犯人が
妻をプールに投げ込むのを目撃した。
都合良すぎるタイミングだったが
嫌な予感がしたんだとマークが答えると
コロンボは不審な男を見ただけの第一報で
殺人課の自分が現場に呼び出されたのも
「殺しがあった」という直感かと訊ねる。
世間を騒がす窃盗犯はこれまで殺人は犯していなかった。不審な男が出ていく姿だけで「殺し」が起きたことをマークが予想できたのは本当に「虫の知らせ」なのかと疑いを持つコロンボ。というかもうロックオンしています。
⑤午後10時半にヒューが自宅に電話して
ジャニスが電話に出たというが
寝室の電話の受話器に
ジャニスの指紋がなかった。
指紋を残さない窃盗犯が
わざわざ電話の指紋を拭くとも思えない。
つまりジャニスは電話に出ていないことになる。
これはマークの凡ミス。自分が電話に出た時に手袋をしていたから当然誰の指紋も出て来ない。死体の指を電話に触らせるべきだったが、電話を動かしても死体を動かしても、痕跡が残りそうなのでこれは難しいところだ。(コードレスなら解決するがこの時代にはまだない)
⑥ジャニスは手に指輪を嵌めていたが
窃盗犯に盗まれていなかった。
専門家に聞くと
それはガラスの模造品だと言われ、
鑑定でイミテーションだと確定したが
同時に他の宝石類も模造品だと判明する。
ジャニスは若い男との浮気でお金を遣い込んでしまい、昔買った宝石を売っては夫にバレないようにイミテーションにすり替えていたことがわかった。ジャニスと宝石商しか知らないこの事実から、目が利くはずの窃盗犯が模造品を盗んだことになり、物盗りが偽装工作だとバレる。喧嘩の原因だった「ジャニスの浮気」設定を発覚トリックに使うとはなかなか巧妙。
⑦ジャニスの男友達のチャーリーは
事件の夜に会う約束だったが
ジャニスが来ないから午後9時半に
コードウェル家に電話を掛けた。
しかし誰も出なかったという。
ジャニスが9時半の電話に出ないのに10時半の電話には出ているのはおかしい。午後9時半の電話に出られない=すでに死んでいたことがわかった。10時半の電話に出た人物が現場に偽装工作をした犯人だとすると、ここで矛盾が生まれる。もしも午後9時半にジャニスが死んでいた場合、犯人は10時半の電話を待って、しかもマークに家を出て行く姿を見られた午後11時前まで殺人現場に残っていたことになる。そんな暇でマヌケな窃盗犯がいるわけがない。
⑧マーガレットの死体を解剖したら
肺の中の水から
三価アルコール(グリセロール)と
パルミチン酸が見つかった。
これは「石けん」の成分。
つまり被害者は入浴中に溺死している。
プールで溺れる前から風呂で殺されていた。そして、浴槽が乾いていたことから、マーガレット殺害はもっと前の時間に行われたものだとコロンボは推理する。あの泡だらけのお風呂に足下をすくわれるとは……。
⑨マーガレットの死体の
ドレスの袖が破れていたが
コロンボが声を掛けた時に
トゲにひっかけて破れてしまった。
問題はその夜も
その袖の破れたドレスを着ていたことだ。
彼女は受賞パーティーに行こうと車に乗るところを襲われたはずなのに、袖の破れたドレスのままパーティーに出ようとしていたことになる。他にドレスはたくさんあるのに着替えないのはおかしいから、犯人が着せたのだとわかった。あの袖の破れた服に足下をすくわれるとは……。
⑩アーティのアパートから
盗まれた宝石が出て来たが
そもそもこのアパートはコロンボの部屋で
アーティの資料に書いてあった
この部屋の住所はコロンボの罠。
盗まれた宝石も模造品だった。
今回の逆トリック。
伏線解説(★は巧妙なもの)
①【マーガレットの慈善事業】
マークはマーガレットの慈善事業を批判。
出所しても定職に就けない前科者や
麻薬中毒患者や売春婦に
金や食事を恵んでいることが気にくわない。
- 自分が批判したその前科者であるアーティにいっぱい食わされるのは因果応報というか、よく出来ている。
★②【袖の破れた服】
マーガレットがサボテンの花を
手入れをしているところに
後ろからコロンボが声を掛けたせいで
ドレスの袖がトゲで破れてしまった。
- この何でもないような小さな出来事が真相解明に繋がる。マーガレットが死んだ時にこの服を着ていたが、これから受賞パーティーに出るというのに袖の破れたドレスを着るはずがない。もっといいドレスはたくさんある。
★③【酔っ払ったコロンボ】
マーガレットに
どこかで会ったことがあるかと
聞かれたコロンボが恥ずかしそうに
「去年、本部長のパーティーで
酔っ払ったコロンボです」と頭を掻く。
- マークがコロンボを見くびっている原因はここ。マークの中のコロンボのイメージにお酒で酔って失敗した記憶があるために過小評価して今回の捜査に加えてしまった。④コロンボが家に来た時に「どうだね、コニャックでも」とアルコールを勧めたのも彼に失敗してほしい意図が窺える。
★⑤【泡だらけの風呂】
マーガレットが泡だらけのお風呂に入って
見ないでちょうだいと恥ずかしがっている。
「それだけ泡で身を固めれば大丈夫」と
マークもおどけて返す。
- 微笑ましいやりとりだが、この直後にマーガレットは湯船に押さえつけられて溺死させられる。ミステリ慣れしている人なら、「肺の中の水に泡が混じる」ことを危惧するが、普通の人にはまったく気づかない。だから泡風呂である必要があったのかと後で気づくだろう。
- 上の【袖の破れた服】の伏線に関係するのが「被害者がお風呂に入っていたこと」で、帰宅したマークはマーガレットがどんな服を着て出掛けるつもりなのかわからなかった。だから「脱いだ服」をそのまま用意してしまって墓穴を掘っている。
⑥【宝石は模造品だと教えない】
実は盗まれた宝石は
すべてイミテーションだった。
それをプロの宝石窃盗犯が
見破れないのはおかしい。
コロンボはマークに
この疑問をぶつけようと一度話しかけたが
「ウェクスラーさんにお会いしましたが……、
お疲れでしょう。またにします」と
話をせずに切り上げてしまった。
- ここで手の内をすべて明かさなかったことが逆トリックの引っかけに繋がる。マークが宝石が模造品だと知っていたら、罠にうまく引っかかってくれただろうか?
⑦【窃盗犯を追いかけろ】
ジャニスを殺したのは窃盗犯ではなく
夫のヒューでもない別人だと
コロンボがマークに進言するが、
マークは犯人なので当然それを拒絶し
容疑を窃盗犯に被せてきた。
「その推理はこじつけだよ。我々が求めているのは泥棒なんだ。その線で捜査をするんだ。これは命令だぞ」と圧をかけてくる。
- これは『刑事コロンボ 完全捜査ブック』の鋭い指摘を引用する。“今回のコロンボの<逆トリック>で、解決の手助けをするのがプロの窃盗犯であることが必然性を持っている。すなわち、その少し前、コロンボが上司である犯人から「窃盗犯に的を絞った捜査」以外の行動を禁じられているのだ。つまり、警部は今回「窃盗犯」という「お題つき」で解決しなければならなくなったわけで、だからこそあの大胆極まりない大トリックに思い至ったというわけなのである。”……なーほーね!
⑧【アパートの契約料】
コロンボは時計のバンドが
25ドルと聞いて
買うのをためらってしまう。
- 1974年の1ドルは275円くらい。25ドルは6875円くらいでわりと高いが、きっと逆トリックのためのアパートの契約料はもっと高かったはずだ。コロンボが犯人を追い詰めるためなら、金に糸目はつけないということがわかる。⑨マーガレットがマークに「お金は武器と同じ。正しい使い方をすれば社会をよくするわ」と言ったが、結果的にその通りになった。これもまた伏線回収の1つ。
その他、
細かい設定が後でいろいろ繋がっている。
⑩ギャンブルでの度胸の据わった態度が
後の大胆な犯行計画を示唆していたり、
⑪喧嘩の原因であるジャニスの浮気が
宝石のすり替えに繋がったり、
⑫車の調子が悪くて
見てもらった車屋の従業員が
その浮気相手だったり、
⑬ヒューとマークが隣家なのが
嘘の目撃証言をでっちあげやすかったり
逆にすぐ隣だから捜査網に掛からずに
逃げることが出来たり、
⑭捜査にコロンボを加えたことが
墓穴を掘ったり……(まさに権力の墓穴)
⑮マークがアーティの部屋だと思って侵入して
引き出しから白いシャツを取り出して
すぐ戻しているのだが
それがコロンボのシャツだと
気づかない演出があったりする。
⑯アーティの奥さん?が見に行きたいという
ローラーゲームに嫌々連れて行かれたことで
アーティに鉄壁のアリバイが出来たりと
無駄なものがほとんど無いのはすごい。
『刑事コロンボ 完全捜査ブック』で
⑰アパートの管理人が
コロンボに向かって不思議そうな顔で
「どうぞ」という身振りをして
そのままコロンボが中に入ったのが
誰が部屋の借主かわかる
素晴らしい伏線だとあったが、
個人的にそれは微妙かな。
だってコロンボが借主なら
「鍵をお渡ししませんでした?」と
絶対に聞きたくなるはずで
無言で「どうぞ」は逆におかしいし、
鍵を無くしたのかもしれないから心配して
開けた鍵をコロンボに渡そうとするはずです。
コロンボは入り際にさっと手でそれを制して
何事もなかったように歩くでしょう。
その僅かな動きを入れていたら
「素晴らしい伏線」と言えますが
それすら無かった。
さらにコロンボが中央にいるため
端に立っていたらわかりやすかったけど
全員に「どうぞ」のようにも見える。
「伏線」の線引きは難しくて
人によって基準が違うから
好意的にみれば伏線かもしれんけど……。
欠点や疑問など
- コロンボを捜査に加えるという最大のミス。会話の端々からコロンボを過小評価しているのだろうなということはわかるのだが……。日本の『古畑任三郎』の「最後のあいさつ」の犯人は古畑が共感できる上司だったが、こちらの上司はコロンボの能力を知らないただ目上のうるさい人という印象で魅力を感じなかった。
- 上記に関しては今回の事件が時系列でどの位置にあるのかも重要。初登場時からコロンボは警部(正確には警部補)で、ここまで20件以上の難事件を解決しているはずなのに警察内部でそこまで評価されていないの?
- 2つの殺人の死亡推定時刻がいいかげんすぎる。再生1分58秒くらいに時計が映っていて、時刻が午後9時4分になっている。ジャニスを殺してしまったヒューは、クラブに行って午後10時半に自宅に電話をする。代わりにマークがコードウェル家で偽装工作をして自宅に戻り、(仮に)午後10時50分に不審な男を目撃したとする。すぐ警察がやって来たら午後11時過ぎには死体を発見しているはず。だったら死亡推定時刻は午後9時前後だとわからないものだろうか。1時間以上ズレている。マーガレット殺しはもっと時間のズレが大きく、午後5時前の死体を午後7時半と推定している。何日も経っている死体ならともかく、すぐ発見された死体の死亡時刻が2時間以上もズレるのはさすがにありえない。
- アーティの書類を偽造したと堂々と言ってるけど、これは……良いの?
- アーティも一応、犯罪者なので(前の3件の宝石強盗のどれかは彼だろう)、犯罪者とこんなおとり捜査していいのか疑問がある。
- アーティのアパート(実際はコロンボのアパート)に行くのはいいが、留守かどうかわからないのに鍵を外して中に入るのは大胆というよりも無謀。それにあんなやり方で簡単に鍵が外れてはいけないと思う。
- ウェクスラーの宝石店でコロンボの対応をした若い女性(アーレン・マーテル)が「主人は今、お得意様のお相手をしてますの」と吹替えで言っていたが、コロンボは「お嬢さん」と呼ぶし、おかしいなと思ったら奥さんではなく実はただの女性店員だった。お店の「主人」のこと。
- マーガレット殺しは入浴中でないと失敗だが、午後5時頃に入浴する習慣があったのだろうか?夫婦の習慣だから知っているのは当然だが、視聴者への伏線は無かった。
- ここまで伏線回収やってくれるのなら、最後は「これが報告書です」と、「早く報告書を出せ」と言ってきたマークに突きつけたら最高だったのになぁ。
名場面・名台詞
ジャニスの葬式で
ヒューがマークに
犯罪を揉み消してくれたことを感謝する。
ヒュー「マーク、本当にありがとう。もしあんたがいてくれなかったら……」
マーク「君は第一級殺人罪だ」
ヒュー「……あんたのために出来ることがあれば――」
マーク「それがあるんだよ。今夜だ」
2人きりになって小声で会話する。
マーク「マーガレットは家に残してきた。玄関の床のタイルの前に転がってる。死んだんだ」
ヒュー「まさかマーク……」
マーク「風呂で溺れたんだ。だが警察は気づかないだろう。例によってこの辺を荒らしてる泥棒の仕業になる。そう仕組むんだ」
ヒュー「でも、僕は巻き込まれたくない」
マーク「もう巻き込まれてるさ。これは言うなれば代償なんだ。君は自分の妻を殺し、私がそれをカバーした。今度は君の番だ。嫌だと言うなら一生刑務所に送ってやるぞ」
ヒュー「……ああ。わかった」
ナイトガウンの問題から
ジャニス殺しを偽装した人物は
夫ではない別人だと推理を述べるコロンボに
マークは窃盗犯の仕業だと固執する。
マーク「いいかね、君は私と警察の時間を浪費してるんだぞ。いや……いいかコロンボ君。君にもそれはわかるだろう。私は誰よりもこの犯人の逮捕を望んでるんだ。だからはっきり言う。我々が探すべき相手は泥棒だ。奴は発見された恐怖から1人を殺し、口を封じるためにもう1人を殺したんだ。この前提にたって、捜査を進めれば解決ができる。わかったか?」
コロンボ「じゃああたしのは、見当違いだとおっしゃるんで?」
マーク「間違いのない人間などおらんよ」
コロンボ「……」
マーク「とにかく泥棒を探せ。その中にきっといる」
コロンボが泥棒が犯人じゃないと言い
共犯者がいるとしつこく食い下がるので
マークが釘を刺す。
マーク「なあコロンボ君、私はだ。君の職務熱心には敬服しているよ。君は得難い人材だよ。だがその推理はこじつけだよ」
コロンボ「そうでしょうかねぇ」
マーク「いいかね我々が求めてるのはな、恐怖から2人の女を殺した泥棒なんだ。我々はこの前提で捜査を進めるんだ。いいか、これは命令だぞ」
コロンボ「わかりました」
マーク「よろしい」
コロンボはマーガレットがもっと早くに
風呂で殺されていたと見抜き、
それが出来たのはマーク次長だと告発する。
コロンボ「奥さんが亡くなったのは、次長が食事に帰られた頃なんです。……次長、あなたが奥さん殺したんです」
コロンボをにらみつけるマーク。
マーク「何を言い出すんだコロンボ」
マークが仕込んだ宝石が出て来る。
マーク「じゃあこれをどう説明する?ジャニス・コードウェルの宝石だ」
コロンボ「説明は簡単です。あなたがコードウェルの家から持ち出して、今日アーティに罪を着せるためにここへ置いたんです」
マーク「何を馬鹿な!そんなこと立証できるか!」
コロンボ「ランドール君!」
コロンボが扉の外の刑事を呼んでアーティを連れてこさせる。
コロンボ「次長はあれがあんたのマットの下にあったとおっしゃるんだ」
アーティ「ふんっ!アホかいな」
マーク「とぼけるんじゃない!」
アーティ「だって俺の部屋じゃねえぜ?」
マーク「……なんだと?」
コロンボ「そう。その通りなんです」
マーク「……」
コロンボ「アーティの部屋じゃない。あたしんです。(引き出しからワイシャツを取り出し)あたしのシャツに、あたしの下着に、(今度は写真を取り出す)あたしの義弟に、あたしの姪、あたしの甥。――あたしが借りてるんです。今朝からね。ここ3週間前から空いてましてね。で、契約したんです。戸棚見てください。あたしのパジャマや部屋着があります」
マーク「だがあの書類は……あの住所はどうしたんだ?」
コロンボ「はい、あれについちゃあたしが責めを負うつもりです。あたしはアーティを口説いてコードウェルに電話させた。必ずあなたに相談するとわかってたからです。あなたが泥棒の身元をつかんだらきっと細工すると、そう思ったからです。そこで今朝起きがけに部屋の契約済ませて、アーティの書類を偽造したわけです。他のことには手をつけず、住所だけをここにしました。あたしの他にこの住所知ってる人物はたった1人だけ……つまり、あなたですよ」
マーク「……」
コロンボ「これだけです」
※マークの「何を言い出すんだコロンボ」のところは、字幕だと「君はクビだ」となっており、原文は「You just lost your badge, my friend.(バッジがなくなったぞ)」となり、ニュアンス的に「クビだ」という字幕の方が近い。
※アーティの「アホかいな」は「That's crazy.(それはおかしいぜ)」なので、吹替えの関西弁の方が相手を見下した感じが出てGOOD。
好事家のためのトリックノート(トリック分類表)
準備中です。