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【ネタバレ注意】中山七里『連続殺人鬼カエル男』の感想。

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「どんでん返しの帝王」と呼ばれる
中山七里氏。

デビュー作の
『さよならドビュッシー』が
ドラマ化されるとのことで
この本を読む。

『連続殺人鬼カエル男』  
中山七里(2011年)
連続殺人鬼 カエル男 (宝島社文庫)/宝島社

¥648
Amazon.co.jp

いや『さよならドビュッシー』じゃないんかーい。

はい。
こちらの作品の方が
前から気になっていたし、
『さよならドビュッシー』は
Amazonレビューの点数が低くて
地雷っぽく感じたので。

しかし読後、
こっちも地雷だったなぁと
複雑な心境になるわけで・・・。

あらすじ

12月1日。
新聞配達をしている高校生が
20階建てのマンションの
13階部分の庇にブルーシートが
吊るしてあるのを発見した。

不審に思って
ブルーシートをめくると
口からフックに吊るされた
全裸の女性死体が出てくる。
シートの端には
紙片が貼られ
子どもが書いたような字で
こんなことが書かれていた。

きょう、かえるをつかまえたよ。
このはこにいれていろいろあそんだけど、
だんだんあきてきた。
おもいついた。
みのむしのかっこうにしてみよう。
くちからはりをつけて
たかいたかいところにつるしてみよう


埼玉県警の捜査一課の新人、
古手川和也(こてがわかずや)
ベテラン警部の
渡瀬(わたせ)班長とともに
現場に到着した。

発見者の高校生は
3日前からブルーシートを目撃していたが
気に留めていなかった。
マンションの住人が少ないうえ、
夜は管理人も不在。
誰でも簡単に侵入して
死体を吊るすことが可能だった。

死因は後頭部を殴られた後、
紐状の物で絞殺されている。
死体をフックに吊るすには
相当の力がいることから
男の犯行だと推測する。

12月2日。
被害者の似顔絵から
殺された女性は
荒尾礼子(あらおれいこ)という
26歳のOLと判明。
上司が顔を確認した。

恋人の
桂木禎一(かつらぎさだかず)とは
結婚目前だった。
どうして礼子が
殺されなきゃならないんだ!
と、怒りをぶちまける桂木。

12月3日。
世間はこの異常な殺され方をした
殺人事件で持ち切り。
まだ手掛かりが見つからない警察は焦る。
犯人と礼子に
どのような接点があったのか?

テレビで
ゲストコメンテーターを務める
御前崎宗孝(おまえざきむねたか)
殺人の幼児性を指摘する。
犯人は精神異常者なのか?
という質問に対し
正常者と異常者を外面で
見分けることはできない、
正常な人間が異常行動に走るには
幼少時から兆候があるはずだと
持論を展開する。
テレビに見入っていた渡瀬は
鋭いことを言っていると感心し、
御前崎教授から
ヒントが得られないかと思い、
城北大学に向かった。

御前崎教授は
元府中刑務所の医官で、
警察の中でも信者が多い
犯罪心理学の権威。
3年前の松戸市の母子殺人事件で
一人娘を亡くし、
逮捕された少年は
刑法三十九条で無罪となった。
精神障害者の犯罪には
胸に秘めた思いもあるはずだ。

精神障害者は
回復はあるが完治はないと
御前崎教授は言う。
では以前に精神障害で
問題を起こした者の中に
今度の事件に
関わる人間もいるのではないか?
捜査のために
精神鑑定のカルテの提供を求めたが
患者の信頼を裏切ることはできないと
提供を断られてしまう。
最後に御前崎教授は言った。
幼児性の重要なポイントは
飽きるか叱られるかしない限り、
遊びを決して
止めようとしないことだと・・・

12月5日。
廃車工場のプレス機を動かしたところ
奇妙な音と赤い液体が漏れだした。
作業員が慌てて停めて
廃車のトランクの中を覗くと
潰された赤黒い肉の塊がそこにあった。

その死体は
駆けつけた警官が
嘔吐するほどひどいもので、
眼球が飛び出し、
体中の穴から血が噴き出している。
死体のポケットに
またもメモが入っていた。

きょうもかえるをつかまえたよ。
かえるをつかまえるのが
うまくなった。
きょうはいたにはさんで
ぺちゃんこにしよう。
かえるはぜんぶぼくのおもちゃだ


免許証から
指宿仙吉(いぶすきせんきち)という
72歳の老人だとわかるが、
顔は潰れていて
確認に時間がかかった。
後頭部を殴って絞殺する手口から
第一の被害者・荒尾礼子を
殺した犯人と
同一人物なのは間違いない。
しかし礼子と仙吉の
繋がりを調べたが全く接点がない。
指宿仙吉は
人に恨まれるような人物でもなかった。

その日の埼玉日報の夕刊に
第二の殺人事件の見出しと
プレス機から血の滴る写真が
警察に無断で掲載されて
大騒ぎになった。
写真を撮ったのは
尾上善二(おのうえぜんじ)という
社会部の記者で
ハイエナのようにスクープを
嗅ぎまわる厄介な奴だ。

このインパクトの強い写真が
市民に恐怖を
与えたのは間違いない。
そして記事の中で
連続殺人犯をこう呼んでいた。
カエル男と。

12月9日。
一向に進展しない捜査に
市民の不満と不安が高まる。
はやくカエル男を捕まえてくれ!
子供の通学に親が同行し、
夜に出歩く人も少なくなった。

飯能市の前科のある者を
リストアップして
再発防止のため刑事が
見張りに就くことになった。
古手川が担当する人物は
18歳の当真勝雄(とうまかつお)

彼は4年前に幼女を
監禁・暴行のうえ絞殺した。
しかしカナー症候群が認められ
不起訴のまま措置入院。
3年で社会に復帰した。
再発の可能性はないだろうか?

古手川は
勝雄の担当保護司である
有働さゆりに話を聞くため
有働宅を訪ねる。
さゆりは35歳で保護司と
ピアノ教室の講師を兼業の
丸顔で可愛い女性だった。

レッスン室に勝雄がいて
「音楽療法」を実際に見せてもらう。
2台のピアノで語り合うように
演奏して治療をするのだという。
勝雄の保護司になったのも
さゆりのピアノが効果的だと
御前崎教授が推薦したからだそうで、
教授はさゆりと勝雄の
父親みたいな存在らしい。

勝雄が帰って
古手川も家を出ようとすると
1人の少年が3人の少年に
イジメられている現場に出くわした。
正義感から割って入り、
刑事だと子供を脅すと
泣きだして帰る少年たち。
それを見ていたさゆりが
大人げないと古手川を叱る。
イジメられていた少年は
さゆりの息子の
有働真人(うどうまさと)と名乗った。

イジメられた息子を
見て見ぬふりをしていたさゆりは
自立してほしいという考えがあった。
古手川はイジメに対して
過去に辛い思い出があり
ついカッとなってしまったことを詫びる。
さゆりは古手川にも
心の治療が必要ねと笑い、
ピアノ演奏を聞かせてくれた。
ベートーヴェンの
「ピアノ・ソナタ第8番<悲愴>」
美しい音色に癒される古手川は
すっかりクラシックにはまってしまう。

12月10日。
さゆり宅を訪問した古手川に
イジメた少年の親が
仕返しにやって来た。
刑事の立場を忘れて、
真人を護ろうと格闘するが
ぼろぼろに負けてしまった。

さゆりが帰って来て
傷の手当をしてもらい、
晩御飯を一緒に戴いて
ピアノで癒してもらった。
帰る時に、
玄関先で真人が
古手川に風車をプレゼントしてくれた。
さっき護ってくれたお礼だと言う。
「友達・・・になってくれる?」
古手川は風車を
ありがたく受け取った。


翌朝、
古手川は狂ったように
パトカーを走らせて
現場に駆けつけた。
公園の砂場で
男児の死体が発見されたのだ。
四肢は胴体から切り離され、
腹部を切り開き
内臓が全て取り出して
丁寧に並べてある。
衣服にはまたも
メモ書きが挟まっている。

きょう、がっこうでずかんをみた。
かえるのかいぼうがのっていた。
かえるのおなかのなかは、
あかやしろやくろのないぞうが
たくさんつまっていて
とてもきれいだ。
ぼくもかいぼうしてみよう


被害者は
昨夜捜索願が出た少年、
有働真人くん-----。

絶対に犯人を捕まえてやる!
怒りに燃える古手川。

捜査を嘲笑うように
連続殺人を繰り返す
カエル男の正体は?

その被害者に
ある法則が見つかった時、
人々はパニックを起こし、
とんでもない行動に・・・

解説

「きょう、かえるをつかまえたよ」
マンションの13階のフックに
吊り下げられた女性の全裸死体には、
子供が書いたような
メモ書きが残してあった。
ある法則に従って
犯行を重ねていく、
猟奇的な殺人犯「カエル男」に
市民はパニックに陥る。
刑法39条の是非を問う
社会派サイコミステリー。

この作品は
中山七里のデビュー作、
『さよならドビュッシー』と同時に
「第8回このミステリーがすごい!大賞」の
最終候補に残ったが
同時受賞はならず、
『さよならドビュッシー』が
大賞を受賞したものの、
落選作を見て見たいと評判になり
文庫で刊行されたのが
この『連続殺人鬼カエル男』。
原題は『災厄の季節』であったが
出版にあたり改題された。

『さよならドビュッシー』が
爽やかな音楽ミステリーであるなら
『連続殺人鬼カエル男』は
バイオレンスと残酷描写たっぷりの
社会派ミステリー。

犯行現場に稚拙なひらがなの文章で
カエルの殺し方を書き残し、
その様子に見立てて
死体を吊ったり、潰したり、
解剖したり、燃やすという
猟奇的な犯行手口が強烈である。

犯人が精神異常者かどうかも
大きなポイントで、
心神喪失者の行為は罰せられないという
「刑法39条」が
物語のテーマになっていて
本当に今の刑法は正しいのか
考えさせられる。

メインストーリーに並行して
「ナツオ」という
精神異常な人物の物語が挿入される。
父親から性的暴行を受け
やがてナツオが
弱い虫やカエルを殺していき、
ついに人を殺すまでに至る。
ナツオがカエル男になるまでの
この異常な物語が
終盤のどんでん返しで効果を上げている。

被害者を繋ぐミッシングリンクは、
某作品を連想されるが、
その裏に隠された
もうひとつの「環」を
巧妙に仕掛けてあるのが上手い。

主人公の古手川和也は
正義感に燃える新人刑事。
捜査一課に配属されて1年、
大きな事件を解決して
出世を夢見ている。
右手の掌に2本の古傷があり、
その傷を左の親指でなぞることで
その昔、親友を
自殺まで追い詰めてしまったことを
忘れないようにしている。

その古手川の上司の
渡瀬警部は
いかつい顔をしたベテラン。
観察力に優れ、
ちょっとした変化も見逃さない。
熱くなる古手川を冷静に諭すなど、
渡瀬&古手川コンビの
バディものとしても楽しめる。
パニック状態の市民が暴徒化して
警察署に押しかけた際には
機転を働かして
切り抜ける活躍をみせた。

中山七里氏は
「どんでん返しの帝王」と呼ばれ
デビュー初期のこの作品でも
多重どんでん返しを仕掛けている。
たとえ読めていても、
最後まで気を抜けないのが
この作品の魅力である。

「フィニッシング・ストローク
(最後の一撃)」という
最後の1行で衝撃を与える手法がある。
この作品も、
最後の1行で不穏な空気を
醸し出すことに成功している。

欠点としては・・・

●主人公がキレやすい。
熱くなるのはいいが
大人げない態度が目立つ。

●殺害現場がグロすぎる。
犬猫虐殺や性描写や暴力描写もあり、
耐性がないときつい。

●わざと難しい漢字を
使うのが鼻につく。
「裡(うち)」
「寧ろ(むしろ)」
「些か(いささか)」
「漸く(ようやく)」
「拵えて(こしらえて)」
「齎された(もたらされた)」
ひらがなで読みやすくして。

●市民の暴徒化は
現実離れしすぎて正直白けた。
あそこの警察の対応もありえない。
どうせなら、
あそこで市ノ瀬を
助けに来させてほしい。
一度拳を交えた敵が
今度は助けてくれる熱い展開なら
俺もあの場面を評価したのに・・・

●戦闘シーンが無駄に長い。
しかも古手川が負傷しすぎて
読んでいて辛い。

●P.100のトリック部分の伏線に
アンフェアな記述がある。
(詳しくはネタバレ解説にて)

●犯行トリックが反則です。
こんなにうまくいくはずがない。

●探偵と犯人が緊迫した場面で
呑気に犯行手口を
説明し始めるのはやめてほしい。
2時間サスペンスかよ。

●「逮捕だあっ」
「おとなしくしろおっ」という
気の抜けた台詞は何?

●拳銃の弾数を
部外者に漏らすことはありえない。

俺の感想は・・・

『さよならドビュッシー』という
地雷を避けたのに
地雷を踏んでしまった。

なんすかコレ。
B級アクション映画に
ミステリー要素を加えた感じ。

一番いけないのが、
市民がカエル男に恐怖して
暴徒化して警察署を襲うシーン。
現実の日本で
こんなこと絶対ありえないです。
この市民が最初から
異常な人の集まりならまだわかる。
でもそうじゃないでしょ?

そうなる動機が
「虞犯者のリストを出せ」
というのも無理がある。
カエル男が虞犯者と
確定している証拠もないのに
どうしてそうなる?
あなたの隣の澄ました顔の優男が
カエル男かもしれないんですよ?
むしろ普段おとなしい人物の方が
危ないはずです。

警察は「敵じゃない」
いくら捜査が進展してなくても
協力しなくてどうするんだ。
もう途中でこんな市民
全員逮捕しろと何度思ったか。
とにかくムカついたし、
嫌になった。

戦闘シーンが3回あり、
古手川がぼろっぼろに
怪我をするのもきつかった。
しかも戦闘描写がクソ長い。
はよ終われよと
何度思ったか。

どんでん返しは
さすがにわかりやすくて
二転目までは読めた。
最後にもうひと捻りしたのは
不意を突かれて
おっ!と感じたものの、
想像を越えるほどの衝撃はなかった。

作中にさゆりが
ピアノを演奏する場面がある。
そこで取りあげられた曲が、
ベートーヴェン
「ピアノ・ソナタ第8番<悲愴>」


確かに第二楽章のメロディーは
聞いたことがある。
劇場アニメ
『心が叫びたがってるんだ。』でも
使用されていました。

前半は面白くて良かったのに
中盤からリアリティの無さや
長い戦闘シーンで読み疲れて失速。
最後の1行で
奇蹟的なV字回復を遂げたが
全体として評価は低くなる。

「このミス大賞」の
最終選考まで残ったらしいが、
目の肥えた読者なら
最終選考まで残ったことが
不思議だと感じたと思う。
いろいろ残念な作品。

★★★☆☆ 犯人の意外性
☆☆☆☆ 犯行トリック
★★☆☆☆ 物語の面白さ
★★★★☆ 伏線の巧妙さ
★★★★☆ どんでん返し

笑える度 -
ホラー度 △
エッチ度 〇
泣ける度 △

総合評価(10点満点)
 7.5点
 










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※ここからネタバレあります。
未読の方はお帰りください。
 














-----------------------------






※ネタバレを見てはいけないと
書いてあるのに
ここを見てしまう「未読のあなた」
あなたは
犯人に最初に殺されるタイプです。
十分に後悔してください。


ネタバレ解説

〇被害者 ---●犯人 ---動機【凶器】
荒尾礼子---●有働さゆり---金銭欲【絞殺:ビニール紐→ フックに吊るす】
指宿仙吉---●有働さゆり---金銭欲【絞殺:ビニール紐→ プレス機で潰す】
有働真人---●有働さゆり---金銭欲【絞殺:ビニール紐→ 砂場で解剖】
衛藤和義---●有働さゆり---金銭欲【絞殺:ビニール紐→ 燃やす】

<黒幕>●御前崎宗孝

結末
カエル男の犯行声明文は
当真勝雄の日記と判明し、
古手川は勝雄と格闘の末、
勝雄は逮捕される。

さゆりに報告に来た古手川だが
そこでさゆりこそ真犯人である
証拠を見つけて、
レッスン室の暗闇の死闘の末に
さゆりも逮捕した。

これで事件は終わったと
安心した古手川だが
渡瀬は御前崎教授が
全ての事件の黒幕と推理する。

ナツオをさゆりに改名した恩人で、
さゆりを治療した御前崎が
衛藤和義を殺すために
真人の保険金で借金を返済したい
さゆりを操って
無関係な礼子と仙吉から始まる
50音順殺人計画の中で始末させた。
しかし証拠がないため
御前崎教授を逮捕することはできない。
悔しがる古手川に
因果応報は必ずあると語る渡瀬。

一方その頃、
逮捕された勝雄は
自分がカエル男だと
まだ思いこんでいた。
ここから出たら
続きをしよう。
次は「オ」の人物である
「御前崎宗孝」を殺そう・・・。

叙述トリックについて

この作品のどんでん返しの
メインである叙述トリックを分析。

物語の途中に
「ナツオ」という精神異常の
人物が登場する。
男の子だと思わせているが
実は女の子だった。
性別誤認のトリックが仕掛けてある。


第二章の「潰す」が始まって
「1 十二月五日」と
段落ごとに日付が見出しについていたのに
急に「2」だけの
日付のないパートが入ってきて
何年前の出来事か
わからない物語
が始まる。

主人公のナツオは10歳。
父親から性的暴行を受け
弱いカエルを殺したり
犬や猫を殺し、
最後は美香ちゃん(9歳)を殺した。
ナツオがカエル男なのは
間違いない。

作者としては、
ナツオが当真勝雄だと
思わせるようにミスリードしたいので、
そのためにまず
「ナツオは男」だと
思いこませなければいけない。

ナツオという名前自体が
男か女かわからない
中性的な名前なので
どちらで読めばいいのか
読者はまず混乱する。

重要なポイントは2つある。

まずは「一 吊るす」の最後で
あやしい人物が
ちらっと登場していること。
こいつが犯行声明文と
全く同じ日記を見て
にやついている。
その人物を「彼」と
地の文で表現していることだ。(P.70)


さすがに地の文に「彼」とあっては
犯人を女だと思うわけにはいかない。
この錯覚は主犯と
日記の描き手が別であるという
二重構造によって
嘘をつくことなく読者を騙している。

死体を運んだり、
吊りあげたことから
体力のある男
だと
印象付けているのも大きい。

犯人は「男」だと思っているところに
あやしいナツオという人物が
登場するのが第2のポイント。

ナツオ初登場の後、
父親の辰哉と風呂に入り、
フェラチオさせる場面がある。
そこで③ナツオが自分のモノと
父親のモノを比べている。

“「咥えろ」
正面に立ってそのまま跪くと目の前に屹立した性器があった。自分のモノとは形も大きさも違う。ナツオは眼と心を固く閉じる。ここにあるのはバナナだ。そう思い込もうとする。”(P.100)


いきなり子供に
性処理させる姿に呆然となるが、
見逃してはいけないのが
ここでナツオが自分の性器と
父親の性器を比べて
「形」と「大きさ」が違うこと。

◆「形」とは
ナツオ・・皮を被っている。
辰哉・・・皮がむけている。

◆「大きさ」とは
ナツオ・・スモール。
辰哉・・・ビッグマグナム。

ということだから
男性器だと読者は思いこむ。
(ここは後で
伏線部分で再び取り上げます)

この後で
挿入までされているが、
男同士のアナルセックスだと
違和感なく読めてしまう。

そのうち
新しい靴を買ってもらって
はしゃいでる様子(P.232)
から
日記を書いた「彼」が
当真勝雄だと決定的になる。

最終的にナツオが
名前を改名したことまでわかり、
勝雄=ナツオのミスリードが完成。

しかし実際は
ナツオは「女」だった。
ナツオの性別が違うことから
真犯人の有働さゆりにつなげていこう。

まずは父親の辰哉が
男性が好きなのかがポイント。
小学生の息子を性処理に利用するほど
女に興味が無いのか?

ナツオが11歳の時、
鈴置美香という少女が引っ越してくる。
その子を辰哉が犯したがっている。
 

“それでもこの男は、自分なんかよりまだ声も掛けていない美香の方が良いと言う。
ああ、あの子は、手が、吸い付く、くらい、滑らかな、肌だろうな。中だって、お前より、ずっと、ずっと、柔らか、そうだ
そう言いながら辰哉は果てた。”(P.248)

 →もしナツオが男だったら
 比べるまでもなく美香の方が良い。
 少なくとも辰哉は
 男には興味がないように思えるし、
 女性である美香と
 ナツオの身体を比べているので
 ナツオが女性の可能性が出て来る。

鈴置美香がナツオを
「ちゃん付け」で読んでいること(P.250)
が、
さらに女性の可能性を高める。
 →もちろん子供なので
 おにいちゃんのつもりで
 ちゃん付けしていることも
 考えられるが
 幼馴染でもなく
 急に引っ越してきた子が
 そこまで親しみを持つとは
 考えにくい。

ここで少し戻って
最初の風呂の場面から。

③ナツオは自分のモノと
父親のモノを見比べたが
「形」が違うという方に注目すると
男性器と女性器であり、
違うのは当たり前
ということになる。
 →欠点で指摘したが
 「大きさ」は
 アンフェアな表現だと思う。
 比較の対象が
 同じモノではないので
 大きさを比べることは
 最初から無理です。

尻を広げられた時の
「亀裂」という書き方は
肛門とは考えにくい。(P.102)

 →もちろん〇〇ン〇でしょう。

ナツオが女性だとしたら
勝雄ではなくなる。
別の角度から
ナツオと勝雄を比べてみると
別人なのが決定的にわかる。
 
⑤ナツオが美香を殺して
逮捕されたのが
12歳の夏休みのこと。(P.246)
勝雄は現在18歳。
逮捕されたのは4年前だから
14歳の時のこと。(P.105)
 →美香がやって来た時は
 ナツオは12歳。
 もしかすると2年経って
 14歳で美香を殺したかもしれないが、
 その機会は思いのほか早く到来した
 という言葉があるので
 12歳の夏に実行したと考えられる。

⑥ナツオは美香を
廃屋で殴って絞殺し
首を切断しようとした。(P.252)
 

勝雄は幼女を
監禁・暴力を加えて絞殺した。(P.105) 
 →「監禁」という言葉に注目。
 ナツオが美香を殺した
 空き地の廃屋は
 監禁などできる場所ではないし、
 そんな状況ではなかったはず。


それでは誰がナツオなのか?

勝雄と同じ人物(御前崎)に
保護司としてお世話になり、
同じような過去を持つ人物が
もう一人いる。
それが「有働さゆり」だ。
“「ええ。勝雄君が医療少年院にいた頃の矯正スタッフのリーダーだったの。半分父親代わりでもあったみたい。それにわたしの恩師でもあるわ。隠してもしょうがないから言うけど、わたしも昔はひとかどの不良娘でね。捕まって府中の少年院に収容されて、ああ、ハクがついたなあなんてヤケになってた頃、先生と出逢ったの。運命の出逢いよねー」”(P.121)

 →いやいや不良どころじゃねーし。
 人殺しておいて軽いなぁ。
 「府中の医療少年院」が
 さゆりも精神療法を
 受けていたヒント。

嵯峨島夏緒(さがしまなつお)が
島津さゆりと改名し
結婚して有働さゆりになったのだ。
これで
「ナツオ=さゆり」が確定。

・・・とまあ
長々と叙述トリックを解説しましたが
正直コレはわかりやすかったと思う。

ナツオという
男か女かわからない名前と
どちらにも受け取れる描写で
あやしいのはわかっていたから
両面待ちしていた読者も多いはず。

俺が思うに
このトリックは
半分捨ててるように感じました。

三重構造の犯行トリック

むしろ御前崎を黒幕とする
三重構造の犯人の関係が
メイントリックだと思う。

最初にカエル男と思われた
当真勝雄
自閉症で思いこみが強いことを
利用されたスケープゴート。
勝雄の日記がそのまま
犯行声明文に使われて
自分が本当にカエル男だと
信じてしまっている。

手錠を見ただけで
捕まった時の恐怖を思い出し
ひと騒動を起こしたが、
真人の死体を並べるのに
手を貸しただけで
実際には何もしていない。

実行犯の有働さゆり
礼子を殺して吊ったり、
仙吉を殺して潰したり、
息子の真人も
衛藤弁護士も殺したのは
すべてさゆりの仕業だった。

さゆりが本当に殺したかったのは、
息子の真人だけ。
夫がいなくなってから
借金苦に陥り、
陰で真人の身体に青痣をつけるくらい
DVを行っていた。
真人を殺してこども保険(1500万)と
犯罪被害給付金(3000万)が欲しかった。

そこに目を付けたのが
黒幕の御前崎宗孝
御前崎が本当に殺したかったのは
娘を殺した少年を無罪にした弁護士
衛藤和義だけ。
そこでさゆりの目的と合致して
さゆりを操って
50音順殺人で本当の目的を隠し
殺人を行わせた---というトリック。

普通の小説なら
さゆりが真犯人で終わりです。
そこをさらに
もうひと捻りしてくるのは
さすがどんでん返しのなんとかだと
思いはしますが
結局は想定の範囲内で
そこまで驚きはしなかった。

女のさゆりが実行犯なので
いろいろ設定が必要らしく、
ピアニストのさゆりは
指だけはピアノで鍛えて
男性のように力強いことになっている。
 

“対面のピアノにさゆりが陣取る。勝雄と目で合図を交わした後に鍵盤に指を置く。その指は華奢な身体に似合わず、関節が太く先の広がった隆々とした形だったので古手川にはひどく異様に見えた。ピアノ弾きの指が細くしなやかだというのは先入観に過ぎなかったのか。”(P.114)


死体をフックに
吊りあげるのは無理でも
落としてフックに
引っ掛けるのは可能。
13階ではなくて
14階から死体を吊り下げたのは
面白いアイデアだった。

死体運搬に使った
ベースキャリーがさりげなく
レッスン室に置いてあるのもいい。

ただ、
やけにレッスン上が詳しくて
完全な防音だの
配電盤がドアの上だのと
「ここで何かあるな」と
思わせすぎたのは失敗。

さゆりが真犯人だと
発覚する演奏シーン。
衛藤を襲った犯人が
指を怪我しているはずだという推理から
さゆりの指の怪我に繋がっていく。
勝雄に襲われた時の「違和感」
ここで回収される。
 →勝雄は指を
 怪我してなかったんですね。

これは文句ではないが、
古手川がさゆりに
真人が死んだと知らせた時も
ピアノに突っ伏した時も
涙のひとつも流してなかったことを
指摘していたが
そんなの書き方ひとつだと思う。
「半狂乱になった」で
すでに泣いてると思うよ。
涙は最初から見えないんだから。

最後の1行をバラすと、
 「---オマエザキムネタカ。」 

これは読者によって
受け取り方が違うかも。

俺は御前崎が
さゆりをレイプして
トラウマを呼び覚まして
犯行計画を吹き込んだという件で
すげームカついたし、
証拠がなくて逮捕できない
御前崎を許せなかったから
最後に因果応報の
未来が待っているとわかって
溜飲が下がった。

終わったはずの物語が
また悲劇が繰り返されるわけで
イヤな後味は少しだけ残る。

ミッシング・リンク

被害者たちを繋ぐ
ミッシング・リンク。

荒尾礼子(OL)26歳。
指宿仙吉(元中学校校長)72歳。
有働真人(小学生)10歳?
衛藤和義(弁護士)4☓歳。
この4人に接点はない。

ではなぜ
被害者に選ばれたかというと
「ア」荒尾礼子
「イ」指宿仙吉
{ウ」有働真人
「エ」衛藤和義
・・・と、
アイウエオの順番で
名前を持っている人が
殺されているのが法則だった。

誰でもよかったわけではない。
「ウ」の有働真人は
さゆりが殺したい相手で、
「エ」の衛藤和義は
御前崎が殺したい相手。
「ア」と「イ」は
弱い女性や老人を狙って決めた。

これが
表のミッシング・リンク。
もうひとつ
裏のミッシング・リンクがある。

この4人が全員、
沢井歯科の患者であることだ。
そのため
患者のカルテから
名前と住所を知ることができた。
その伏線もきちんと張ってある。

◆荒尾礼子
“「上腕部と腹部に鬱血とやはり索条痕が認められるが、これはシートの上から縛られた痕らしく克明なものではない。死体運搬時についた痕だろう。ちなみに被検者はごく最近、挿し歯の治療を施されている。多分、八重歯を抜いたのだろう」”(P.22)

◆指宿仙吉
“指宿仙吉の財布の中身と言えば所持金三千五百二十円と免許証、それ以外には歯科の診察券と図書館カードがあるだけでキャッシュカードの類いは一枚もなかったのだ。梢の言う通り金には縁のない老人だったのだろう。”(P.83)

◆有働真人
“真人は眩しそうに笑ってみせる。笑い方は母親にそっくりで、微かに開いた口に銀歯が一本光った。”(P.156)

◆衛藤和義
“病院食の不味さも腹立たしい。ここ市立医療センターは仰々しい名前に相応しく脳外科、咽喉科、耳鼻科、胃腸科、心臓外科、泌尿器科と殆どの医療施設が揃い、ないのは歯科くらいだが、半年に一度外部から開業医を出張させて強制的に検査させている。異常が発見されればセンターから送迎バスで通院もできる。お陰で衛藤自身、虫歯を早期治療できた。”(P.234)

 →このように
 全員、歯科に通ったことがある。
 この飯能市で一番評判が良いのが
 この沢井歯科だった。

他作品とのリンク

俺はこの作品が初読みなので
よく知らないが
中山七里作品は
ある作品の主役が
別の作品の脇役などに出演したり
作品世界がリンクしているらしい。

古手川刑事と渡瀬警部も
またどこかで会えそうだ。
ただし、
古手川刑事は
右足の土ふまずの肉をえぐられ、
骨を粉砕されているから
義足あるいは足を引きずるように
なってしまったのでしょうね。
この作者の書き方だと
どうしても歩様は悪くなる。
そうなるのが当然ですから。

平然と歩く古手川が出てきたら
俺はこいつ偽物だと
思うことにします。
・・・って
それは意地が悪すぎるか。

少し気になるのが、
古手川は解離性同一性障害、
つまり二重人格じゃないのか?
ということ。
勝雄の靴を捨てちまえよと
言おうとして「靴屋ないか?」と
別の人格を臭わす描写があった。
果たしてどうなのだろうか?

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