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【ネタバレ注意】乾くるみ『セカンド・ラブ』の感想。

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『イニシエーション・ラブ』ショック、再び。
という煽り文句の帯がついてる、
乾くるみさんの本。

『セカンド・ラブ』  
乾くるみ(2009年)

セカンド・ラブ (文春文庫)/文藝春秋

¥540
Amazon.co.jp


タイトルでわかるように
『イニシエーション・ラブ』の姉妹作。

亀梨くんとフカキョンの
ドラマではありません。
あれとは別物。
なんせこちらは
映像化が非常に難しいのです。
読めばわかる。
今作でもその衝撃は大きい。
恋愛ミステリーです。


あらすじ

1983年の元旦。
ハラモク工業の先輩・紀藤和彦
スキー旅行に誘われた里谷正明

紀藤先輩の彼女・高田尚美
友人の内田春香を連れて来て
男2人と女2人の4人で苗場スキー場へ向かう。

そこで正明は
春香にほのかな恋心を抱くが、
相手はお嬢様で自分とは身分違いだから
釣り合うわけがないと諦めていた。

その数日後、
正明のところに春香から
会って話がしたいと電話が入る。
わざわざ電話番号を調べて来るなんて
自分に気があるのかとうれしくなるが、
一度も女性と付き合ったことがない正明は
こんな美人がなぜ自分に惚れたのか
全く分からず戸惑っていた。

お互いの生まれ育った環境を語り
春香は大学院生で、
父は不動産を経営する
絵に書いたようなお嬢様だとわかった。
正明は両親を亡くし
一人で生きているという
打ち明け話を聞いた春香は
彼を「靭(つよ)い」人と褒める。

知りあって1ヵ月、
交際は順調に進んでいたが
ある日銀座でデート中に
突然、口髭の紳士に春香が腕を掴まれ、
「美奈子。お前……よくも騙したな!」
と言いがかりをつけてきた。
どこかのホステスと勘違いしているようだが、
春香は身に覚えがないらしい。
男の言った
歌舞伎町の「シェリール」という
店の名前がやけに記憶に残っていた。

2月10日。
飲み会の帰りに
同僚の倉持に連れられて
新宿でひと騒動あって
逃げ出した後、
正明は偶然「シェリール」の店に
辿りついて中に入ってしまう。

そこで出会った「ミナ」という女性。
彼女が「美奈子」なのか?
化粧が濃いが
化粧を落とすと春香に見えなくもない。
春香とは髪の長さが違うし
ホクロもある。
おそらく別人だろうと正明は思ったが
問い詰めてみると
ミナは春香のことも知っていて、
実は春香の双子の妹、
半井美奈子(なからいみなこ)だと告白した。

内田家と半井家。
同じ病院で同時に子供が生まれた。
春香と美奈子は半井家の娘として生まれ、
貧しい半井家は双子を育てられず、
内田家の子が死産したため、
親同士の話し合いで
春香を引き取って
内田家の娘として育てることになった。

春香は自身の
出生の秘密を知らないらしく、
美奈子に姉(春香)には
秘密にしておいてほしいと頼まれる。

姉のことを知りたがる美奈子。
姉の好きになった人だから、と
正明にも露骨に好意を寄せる。
彼女は水商売をしている通り、
明るくて楽しくしゃべれる。

清楚な春香と
大胆な美奈子。
対象的な二人の間で
心が揺れる正明。

恋人がいてもいい。
自分は二番目でいい。
二番目の愛をください。

そして、
正明の決断が
運命を大きく変えてしまう……


解説

清楚で美しいお嬢様と
交際を始めた主人公が、
やがて彼女にそっくりな双子の妹と出会い、
二つの恋に悩み、
真実と嘘の狭間で翻弄される
二度読み必至の恋愛ミステリー。

モチーフのタロットカードは
「The High Priestess(女教皇)」

最後から二行目で
世界が反転する衝撃を与え
大ヒットした
『イニシエーション・ラブ』

タイトルが似ているだけで
続編ではないが、
恋愛小説でありながら
ラストで
ミステリーに変貌するという
同じ系統の作品。

『イニシエーション・ラブ』と
比較すると、
真相がわかった時の驚きは劣るが
後からじわじわ衝撃が広がってくる。

ただし読後の後味の悪さは
前作と同程度なので
それなりに覚悟が必要。

欠点としては……

●主人公の決断に疑問。
本当に「靭い」人間か?

●『イニシエーション・ラブ』を
読んでいると
冒頭から疑ってかかるので
トリックを見破られやすい。

●正明が紀藤を「シェリール」に
連れていく動機がおかしい。

●登場人物に共感できない。

●一番の衝撃であろうアレは
ミステリでは使ってほしくないオチ。

●倉持が何の伏線にもなっていない。


俺の感想


この作品には
3つのどんでん返しがある。

①ミナは〇〇
②新郎は〇〇
③正明は〇〇

うん。騙されませんでした。

50ページ読んだ後、
序章を読み返したら
「叙述トリックセンサー」が反応してしまい、
全てわかってしまった。
嬉しくない。

序章があまりにも怪しい書き方だから、
あいまいな表現の裏を読んでしまう。
この序章を時系列通りに
終章の前に入れたらどうだったのか?
これなら騙されそうだけど、
衝撃度は下がる。
じゃあこれでいいのかな。

でもすぐ読み返せる冒頭に
仕掛けるのは勇気いりますね。
そこは大胆。

半井美奈子と内田春香が
中森明菜と宇多田ヒカルの
アナグラムになっているという
メイントリックは驚いた。

ラストのネタバラシを
登場人物の会話シーンで
説明するのは萎えるなぁ。
そこまで巧妙な伏線も張っていなかった。

トリックありきなので、
トリックがわかってしまうと、
ただ胸糞悪いだけの小説です。

★★☆☆☆ 犯人の意外性
☆☆☆☆☆ 犯行トリック
★★☆☆☆ 物語の面白さ
★★★☆☆ 伏線の巧妙さ
★★★★★ どんでん返し

笑える度 -
ホラー度 △
エッチ度 ◎
泣ける度 -

総合評価
 7.5点





-----------------







※ここからネタバレあり。
未読の方はお帰りください。









---------------






※ネタバレを見てはいけないと
書いてあるのに
ここを見てしまう「未読のあなた」
あなたは犯人に最初に殺されるタイプです。

十分に後悔してください。

ネタバレ解説

この作品は
各ネタバレサイトで
明かされているので
詳しく紹介はしません。
俺なりにわかりやすくまとめる。

上記の3つのどんでん返し。
いくつわかりましたか?

ひとつずつ考察していきます。


春香=美奈子

まず一番わかりやすいのが
春香の一人二役。
ミナの正体は
内田春香だった
というもの。

本文でも正明が
ミナは春香じゃないのか?と
いろいろ推測していますが
あと一押し足らなかったということ。

二人が別人っぽく思わされたのは、
まずミナと初めて会った翌日、
春香は「旅行帰り」と言って
お土産を出して来る。
 

ここがポイント。

正明が急に「シェリール」に来たから
春香も慌てたにちがいない。
早朝から岩手に行って
南部せんべいを買って来たのだろうか?
それとも松本に見つかった後で
この日のために用意していたのか?
駅で大きな荷物がなかったところからして
後者の可能性が高い。

ホクロで誤魔化しても
声がそっくりなのは致命的だと思う。
正明によくバレなかったと思うが
反対になぜ紀藤にバレたのか
はっきりしない。
春香も紀藤に気があったみたいだから
根負けして自分から
バラしたのかもしれない。
(あるいはもっと
大きな秘密を握られたか?)

せっかく
「正明くん」と「正明さん」で
呼びわけたのなら
一回くらい呼び間違ってほしかった。
どうせこれ(春香=美奈子)は
捨てトリックだし、
あざといくらいでもいいと思う。
春香が喫茶店で
幽霊を見たらしい描写があるが、
美奈子の時にも霊が見えて
ビクッてなっても面白かっただろう。

あと指輪のサイズが
合わなかったのはおかしい。
最初9号で美奈子がはめて7号で作ったら
春香は5号がちょうどいいサイズだった。
春香=美奈子なら
これはおかしくないか?
美奈子がはめた時に
プロの店員が
「7号ですね」(P.212)と言っている。

指痩せ?と思って調べたら
指も意図的に痩せられるらしい。
そこまで春香が
計算してやったなら
コイツなかなか
たいしたもんだと思う。

しかし、
実際はもっと
単純なトリックだろう。

美奈子は7号の指輪を
はめるのをためらっている。
 

“「そうですね。いつも買うのはだいたい七号です
「七号だと……たとえばこちらになりますけど」
(中略)
ミナはその指輪には手を触れないまま、「正明さん、どうです?」と訊いてくる。
値段は予算内に納まっているし、指輪の良し悪しなど、とてもじゃないが判断できない。正明にはどれも同じように見える。
「うん。いいと思う」
「じゃあ、これにしましょう」
それまで二人のやり取りを窺っていた店員が、そこで口を挟んできた。
「あの、念のために一度、嵌めてみられたほうがよろしいのでは……」
「いえ、あの、こうして一緒に買いに来てはいるんですけど、最初に指に通すのは、プレゼントされたあとにしたいなって、彼に直接そうしてほしいんで」”(P.212)

 →7号をはめたら、
 まだ大きいことがバレるからだ。
 実際は5号なのに、
 最初に9号を嵌めて見せて
 「いつもは7号です」と言い、
 誤魔化して購入した。
 店員は怪しく思っているが、
 正明は全く気づいていない。

 ちなみにこの指輪は
 最初から売るつもりなので
 サイズが合わなくても
 全く問題ない。
 可哀そうな正明。

春香が自分のマンションの部屋に
正明を通した時にも
同じ匂いという手掛かりがある。
“バッグをキッチンカウンターに置き、大きく溜息を吐くと、春香が振り返って、
「ついに正明くんを、この部屋に連れて来ちゃった」
春香の身体からは、今まで彼女から嗅いだことのないような匂いが、漂ってきていた。しかし正明はその匂いに馴染みがあった。つい五日前に、ミナの身体から漂ってきたのと、それはまったく同じ匂いだったのだ。
おそらくは欲情した時にだけ、その部分から発散される匂いであり―――それがミナとまったく同じなのだ。やはり双子だけに、ということなのだろうか。
”(P.238)

 →欲情したフェロモンの匂いが
 双子だと同じかはわからないが、
 同一人物である可能性が高い。 
 正明はやく気づけよと思う。


新郎=紀藤

「序章」を読むと違和感がある。
一番強い違和感が
新郎の名前が書かれていないこと

新婦は春香だが、
新郎は一体誰だよ?ってなる。
正明という名前があるが
彼を新郎だとすると
客観的に見過ぎているし、
距離が離れている感じがする。

新郎側の来賓席に
ハラモク工業の社長や先輩が
座っていることから
新郎はハラモク工業の社員の誰か。

「序章」の慣れ染めの説明で
重要な伏線が張ってある。
“「お二人は今年の一月、スキー場で運命的な出会いを果たしました」
とアナウンスされていたが、そこには小さな嘘が含まれていた。二人が出会ったのは正確に言えばスキー場ではなく都内だった。男二人と女二人が都内でまず落ち合って、その後四人を乗せた車がスキー場へと向かったのである。しかし会場にその小さな嘘を指摘できる来客はいなかった。新郎新婦の出会いの場に脇役として登場していた二人ですら―――一緒にスキーに行くほど新婦と仲の良かった女性も、新郎と仲の良かった男性も、披露宴には招かれていない―――招待状も出されていないのだ。”(P.13)


小さな嘘は
「スキー場ではなく都内」という
どうでもいいことではなく、
2人だけが出会ったのではなく
そこにもう2人いたこと。
 


しかし同行した男女は
披露宴に呼ばれもしなかった。
後でわかることだが、
女の方は新婦に男を寝取られて怒り、
男の方は新婦にフラれている。

「第1章」に入り、
里谷正明、紀藤和彦、
内田春香、高田尚美の4人で
スキー旅行に行ったと判明する。
ここで、
新郎=正明
新郎=紀藤かの二択になり
おそらく普通は正明だと思い、
裏を読む人は紀藤だと思う。

真相は「紀藤和彦

“「それがもし本当だったら、俺、乗り換えちゃおうかな」”(P.20) 
有言実行な紀藤先輩さすがっす。

ミスリードで
新郎と仲の良かった男性も
披露宴には招かれていない
とある。

語り手の正明が
披露宴にいるから
紀藤は呼ばれていない。
つまり新郎は正明で
紀藤なわけがないと
早とちりしそうだが、
安易に新郎を正明だとも
思えない存在がある。

それがゴリ内こと堀内だ。

紀藤が堀内と
仲が良かったという話が出てくる。(P.114)
 

こいつが披露宴にいるということは
正明の披露宴であると
考えることも難しい。


では正明は
どうして披露宴にいるのか?
それは……


正明=幽霊

一番の衝撃ポイントは
主人公が序章で幽霊になって
幽霊の目線で披露宴を見ていることだ。
そう、
正明はフラれたショックで
自殺してしまったのだ。

ラストから2行目。
“正明は窓ガラスの外から内に移動した。ガラスを通り抜けた瞬間、春香の表情が変わるのが見えた。
やっぱり「見えて」いるんだ。
ごめんね。すっと嘘だと思ってた。”(P.292)

人間がガラスを
通り抜けることはできない。
霊感があると言っていた春香が
正明の姿が見えたということが
正明が幽霊であることを肯定している。

もちろん
第1章の正明は
1年前なので生きている。
そして、
どうして死んだのかが
明かされていく
ストーリーになっている。

確かに衝撃度は大きい。
類似した趣向でいうと
映画の(伏せ字)『シックス・センス』(ここまで)や
(伏せ字)『アザーズ』(ここまで)を
思い出す人もいるだろう。

「序章」の正明は
違和感だらけだったが、
“「今は直接話しかけることはできないので」”(P.14)
という言葉ですでに新郎ではないとわかる。
新郎が新婦に
話かけていけないタイミングなどない。
「直接」という言い方もポイント。

そして幽霊と思える記述は
“「テレパシーで会話ができたらいいのに」”
“「別世界の住人だと、
 出会った当初から思っていた」”(P.14)
 


本当に
別世界に行ってしまった。

俺もまさか死んでないよな、と思いながら
読んでいたのでこの結末は残念です。
唯一感情移入できたのが
正明だったのにこの仕打ちとは……

倉持は何のために出て来たのか?  

倉持は現在33歳。
21歳の時、
傷害事件の執行猶予中に
二度目の傷害事件を起こして
6年の実刑判決を受けているが、
実際には5年で出所した。(P.58)
その二度目の傷害事件で
心を入れ替え、
その被害者への弁償を始めて、
6年が経って(P.63)やっと
去年の10月に完済している。

その被害者が
いかにも「半井美奈子」のように
書いてあるが、
美奈子が対向車との正面衝突で
顔面が潰れた事件は
倉持とは無関係。

この自動車事故は
美奈子が20歳で
春香に姉妹だとバラした後で
失恋してから起きている。
倉持の事件は11年も前のこと。
逆算して9歳の美奈子が
車を運転できるはずがない。

弁償の完済が10月なのと
「シェリール」にミナが
現われたのが
去年の10月というのも無関係。

正明が「シェリール」に
辿り着いたのは
倉持に歌舞伎町に
連れてこられたのが
きっかけだったので、
裏読みすれば、
ミナに頼まれて
出会いを演出したようにも
考えられるが
直接「シェリール」に
連れていったわけではないし。


倉持の存在は
ただのレッド・ヘリングでしょう。
直接は何も関係がないのに、
辻褄の合う状況を出して
怪しく思わせているだけ。

なんで
夜逃げをしたのかは、
本当に謎だ。

新宿で松本に
「美奈子だろう」と
声をかけられた時、
「よくも騙したな!」(P.50)と
怒っていたことから、
裏で何人かを騙していて
それに倉持が関係している、
という解釈もできますが……


各章サブタイトルの小ネタ。  

内田春香(UTIDAHARUKA)
宇多田ヒカル(UTADAHIKARU)
アナグラム(綴り換え)になっていて、
半井美奈子(NAKARAIMINAKO)
中森明菜(NAKAMORIAKINA)
アナグラムになっている。

タイトル:セカンド・ラブ
……中森明菜「セカンド・ラブ」(1982年) 

序章:秘密をその胸に
……宇多田ヒカル「Can You Keep A Secret?」(2001年) 

第1章:緩やかな動き
……中森明菜「スローモーション」(1982年) 

第2章:時は自動的に
……宇多田ヒカル「Automatic/time will tell」(1998年) 

第3章:誰でもない私
……中森明菜「少女A」(1982年) 

第4章:一人にしない
……宇多田ヒカル「Movin' on without you」(1999年) 

第5章:二番目の愛を
……中森明菜「セカンド・ラブ」(1982年) 

第6章:はるかな初恋
……宇多田ヒカル「First Love」(1999年) 

第7章:二分の一の女
……中森明菜「1/2の神話」(1983年) 

第8章:あなたに夢中
……宇多田ヒカル「Addicted To You」(1999年) 

第9章:黄昏が訪れて
……中森明菜「トワイライト -夕暮れ便り-」(1983年) 

第10章:待つのが辛い
……宇多田ヒカル「Wait&See ~リスク~」(2000年) 

第11章:うらはらな心
……中森明菜「禁区」(1983年) 

第12章:貴女のために
……宇多田ヒカル「For You」(2000年) 

終章:北へと向かう翼
……中森明菜「北ウイング」(1984年) 


生き残ったのは美奈子か?  

ネットでは、
紀藤と結婚した春香が
本当は美奈子ではないか?と
考察している人もいる。

正明も「序章」で
“春香―――そう、君はそもそも、誰なんだい?本当に「内田春香」なのか?”(P.13)

と言っているように、
その正体を疑っている。

この物語は
春香が二役で美奈子を演じ、
正明を振ったあげく
紀藤と結婚して終わっている
……ように見える。

でももし、
春香と美奈子が
入れ替わっている時に、
春香が事故にあって
そのまま美奈子として
自殺したのだとしたら?
生き残っているのは
美奈子だとは
考えられないだろうか?


実は俺も、
生き残った春香は
美奈子ではないか
と思っています。

その推測の
最大の決め手は
春香が20歳の時に
付き合っていた(P.143)という
恋人の「西川」の存在。

美奈子が春香に双子のことを
打ち明けたのが
20歳の誕生日。(P.286)

本編にはっきりと記述が
あるわけではないが、
“それからはお互いに
こっそりと連絡を取り合って”(P.287)
 

とあることから、
気分転換と称して
入れ替わり生活を
続けていたと思われる。

春香が美奈子に。
美奈子が春香に。
そうしているうちに
春香の恋人・西川と出逢う美奈子。

大学時代の話を知る尚美は言う。
“「あのね、その西川って奴、とんでもなくサイテーな奴で、ウッチーに振られた後、腹いせに自殺しやがったの。校舎の八階から飛び降りて
正明は思わず息を呑んだ。まさかそういう話になるとは思っていなかったのだ。
「―――当然ウッチーはショックを受けて、立ち直るのに相当時間がかかったんだけど、二人が付き合ってたってことは一部の人しか知らなかったから、それは不幸中の幸いだったと思う。ちょうど三年の夏休みの時期だったから、学校自体休みだったし」”(P.265)

なぜ春香は
西川を振ったのか?
そしてなぜ
振った春香がショックを
受けているのか?

ここを考えていくと
ある推測が浮かんできます。

幸せそうな春香を
妬んでいた美奈子は
春香のふりをして
西川を手酷く振ったのでしょう。
その結果、
西川は飛び降り自殺してしまった。

20歳で交際を始めたなら
大学2年生の終わり頃。
3年の夏だと交際期間が短い。
そんな急速に
冷めてしまったと考えるより
邪魔が入ったと考えた方が
しっくりくる。

この時、
美奈子は西川の自殺を見ていた。
ショックを受けながら
春香に電話する。
「西川さんが自殺したの!
すぐ来てちょうだい!」
春香は美奈子の恰好のまま、
大急ぎで車を運転する。

その時、
運悪く対向車と正面衝突。
春香は美奈子のまま
病院へ運ばれた……

お嬢様として育ち、
プライドが高くて、
顔が命だった春香は(P.286)
醜い自分の顔に
絶望したはずだ。
今更自分が春香だと言っても
誰も信じてくれやしない。
「死にたい、死にたい」と嘆く。

好きだった西川を
入れ替わってる間に
美奈子に取られ
西川が校舎の八階から
自殺したらしいと聞き、
彼をまだ愛していた春香は
同じように病院の屋上から
飛び降り自殺をした。

これで一応
辻褄は合うはず。

次に、
免許証の謎を考える。

ミナが見せた
半井美奈子の免許証は
美奈子本人の免許証だった。
“免許証にはその他にも、個人的な情報が多く書かれている。誕生日は≪昭和三十五年三月二十三日≫で―――そういえば正明はまだ春香に誕生日を聞いていなかった。三月生まれなのか。だから春の香りで、春香なのか。
青く塗られた有効期限の欄は、≪昭和六十年の誕生日まで有効≫となっている。本籍の欄には≪秋田県仙北郡田沢湖町―――≫とあり、住所欄にも同じ文字が書かれている。先程の説明では、去年ようやく東京に出て来たという話だったと思いながら、裏を返すと、追記事項の欄に≪現住所 東京都新宿区新宿四丁目―――≫と書かれている。”(P.81)


昭和35年は1960年。
この物語は
1982年の12月から始まり
1983年(昭和58年)の4月まで。

有効期限が「昭和60年」なら
3年前の昭和57年に
美奈子は
免許証の更新
行っていなければならない。

しかし、
昭和57年(美奈子22歳)の時、
すでに美奈子は事故で
顔が潰れている。
なぜなら、
失恋したのが西川の自殺絡みなら
大学3年―――つまり昭和56年の
21歳の時に事故にあったと
推測できるため。

別の見方をしてみよう。
「形成外科と脳神経外科で計5回の手術」
「一時的に左目が見えなくなった」ほど
重傷だったら長期の治療を強いられる。

昭和58年に「もうすぐ一周忌」で
昭和57年に死亡であるから
昭和57年に免許の更新を
行ったのは誰か?

※ここで「美奈子」を
「春香」に置き換えて
考察を続けます。

事故にあったのは春香なので
春香は免許証の更新に行けない。
しかも顔が整形だらけで
まともな顔なわけもない。
自分の写真は使えない。

この「美奈子の免許証」は
美奈子本人が
免許証を更新していることになる。
(ちなみに春香の免許証も
自分で更新して持っているはず)

“免許証を所持しているのは、取得した本人だけとは限らないから。形見として受け取った姉妹が、持っている場合だってある。”(P.290)


ここで正明が言うような
自殺後に形見として免許証を
受け取ることはないと思う。
半井家に所持品が戻されたら
双子の存在を知らない春香が
半井家に行って
免許証を受け取る術は無い。

生き残りが春香だとすると、
美奈子が死ぬ前に
美奈子の免許証を
受け取っておかなければならない。
しかし、
生き残りが美奈子なら
最初から自分が持っているので
話はもっと簡単である。

春香を演じるとして、
春香の両親を騙せるかどうかは
微妙なところだが、
実家は横浜だし、
しょっちゅう顔を会わせて
いるわけでもないので
何度も入れ替わり生活をして
環境に慣れていったのだろう。


美奈子が「シェリール」で
ミナとして働く必要が
よくわからないという感想があるが、
そっちが元々の美奈子で、
春香の方が演じてる方だとすれば?

春香になりきるのに、
ストレスも溜まるし、
たまにはハメも外したい。
そう考えたら
二重生活も理解できそう。

最後の空港で
ドヤ顔で死んだ男のことを
笑い者にしている
性格の悪さを見ても
お嬢様育ちの
「春香」だとは思えない。

そして、
最後にひとつ
ボロを出している。

その空港の暴露話の中で―――
“「しかも単にそっくりな人間じゃなくて、双子のきょうだいだし、その子が、あなたは本当は私の両親から生まれたのよって言うんだもん。それからはお互いにこっそりと連絡を取り合って」
「なるほどね。そういう裏があるとは知らずに―――」
「そう。良家のお嬢様として、和くんや正明くんと出会って。どっちも男くさくて魅力的だったんだけど」”(P.287)

ずいぶんと
「美奈子目線」で
語ってらっしゃいますね。
まるで自分が「美奈子」だと
言ってるようではないですか?

あるブログに
春香は美奈子の霊に取り憑かれて
二重人格になってしまい、
自分が美奈子だと
思いこんでしまったのでは?
とする感想もあるが、
さすがにそれはないでしょう。

霊が見える程度の霊感で、
精神がおかしくなるような
女じゃないですコイツは。

作品のモチーフになっている
「女教皇」の
タロット・カードは
直感や平常心、
知性や安定した心理状況

などを意味します。

直感は霊感のこと、
落ち着いた精神と
狡猾な知性を持ってますよと
ヒントが出ているじゃないですか?


……ということで、
俺の結論は
生き残ったのは美奈子説
最後にもうひと捻りあったと
いうのはどうでしょう。

まあこれは
あくまでも俺の考察なので、
正しいとか間違ってるとかより、
そんな考え方もあるんだーと
面白く感じてもらえたらいいかなと。


------------------

※初読:2016.3.27
※再読:2016.5.15

>今まで読んだ推理小説まとめ。

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