昔は漫画の金田一少年を
よく読んでいたが
ミステリ熱が冷めて読まずにいた。
そして十数年ぶりに
金田一少年の事件簿を読む。
しかも漫画の方ではなく、
ノベルス版の金田一少年。
『電脳山荘殺人事件』
天樹征丸(1996年)
小説 金田一少年の事件簿(3) 電脳山荘殺人事件 (Magazine Novels)/講談社
¥680
Amazon.co.jp
この本は
ノベルス版金田一少年の
第3作目で
ノベルス版最高傑作と
評価の高い作品です。
初出は1996年で
パソコン通信を題材にしていて
いわゆるオフ会で
初めて会った男女が
殺人に巻き込まれるお話。
金田一少年らしさが
随所に見られ
安定の面白さでした。
あらすじ
6月の朝、
喫茶店で少女を待っていた青年。
彼は元教師で
自殺志願の女子高生を
説得しようとしていた。
喫茶店の表の電話ボックスから
女子高生に電話していた青年は
ボックス内に異臭が
発生していることに
気づくのが遅れ、
そのまま帰らぬ人となった。
偶然にも
近くのゴミ捨て場に
捨てられた漂白剤と
歩道の落書きを落とした洗剤が混ざり
毒ガスが電話ボックス内に
充満したのだ。
警察は不幸な事故として処理。
マスコミは青年が
体罰で生徒を
死に追いやった過去を持ちだし
これは天罰だと
書きたてるのだった・・・。
~~~~~~~~~~~
1月下旬。
不動高校に通う高校生の
金田一一(はじめ)は、
幼馴染の七瀬美雪の
買い物に付き合わされていた。
警視庁の剣持警部と一緒に、
明日から二泊三日の
スキー旅行に行くハジメたち。
剣持の弟が経営する
長野のペンションに招待されていたが
剣持から電話があり、
今朝バラバラ死体が見つかったとかで
旅行に行けなくなり、
ハジメと美雪の2人だけで
スキー場に出発した。
この旅行で美雪と
エッチしたいハジメは
スキー場の外れの山荘に目をつけ、
ここに遭難を装って
2人で泊まる作戦を計画する。
雪の山荘
「ロッジ・シルバーウッド」
琢磨はこの山荘ほど、
許し難い者たちを葬るのに
ふさわしい場所は無いと思った----。
山荘では
5人の男女が集まっている。
インターネットの
ミステリーサークル
「電脳山荘」のメンバーが
オフライン・パーティーを開いていた。
ネットでは1年以上も会話していたが
実際に会うのは今日が初めて。
それぞれが自己紹介する。
リーダー格の<僧正>は
一流商社のセールスマン。
<アガサ>は有名高校の女子高生。
<ワトソン>は医者。
<シド>はパンク・ミュージシャン。
<ぱとりしあ>は女流漫画家。
この5人の他に
あと2名メンバーが来る予定。
<乱歩>と<スペンサー>で、
<乱歩>は<アガサ>と
ネット上でメンバー公認の
恋愛関係にあり、
会うのは楽しみでも不安でもあった。
その山荘に突然、
ハジメと美雪がやって来た。
遭難のふりをするはずが、
吹雪が強くなり、
本当に遭難してしまったのだ。
金田一という名前から
名探偵といわれた祖父・
金田一耕助の孫だと知り、
ミステリー好きの彼らから
興味を持って迎えられる。
「電脳山荘」のメンバーは
それぞれ好きな作家や
人物を元にした
「ハンドルネーム」という
名前を使って呼びあっている。
決して本名を名乗らないのがルール。
外は大荒れの吹雪だし、
コテージが余っているので
よかったら一泊していきなさいと言われ、
ハジメと美雪は
No.5のコテージに宿泊する。
琢磨は戸惑う。
これは予想外の事態だ。
死体を6人分残して
自分は消えるつもりだったが、
外部の者に顔を見られては
そうもいかない。
<僧正>が2人を引きとめたのは
むしろ好都合で
上手くやれば計画に狂いはない----。
午後9時にメンバーが解散し、
メイン・ロッジから
それぞれのコテージに移動。
そして各自の部屋から回線を繋いで
チャットで会話をしよう
という流れになる。
<アガサ>だけメイン・ロッジで
残り2人の到着を待つことになった。
貴志はコテージでチャットをする。
一流商社マンと自称しているが
実際は営業成績の
上がらないサラリーマン。
しかしネットでは別の自分になれる。
琢磨はメイン・ロッジの
屋根裏から下のラウンジの様子を見る。
タクシーが到着し、
<アガサ>が<乱歩>を出迎える。
たちまち恋に落ちた2人。
それを見届けた琢磨は
こっそり屋根裏部屋から外に出て、
<僧正>のいるNo.2のコテージに向かう。
貴志は過去の
「あの事件」のことを思い出す。
あれは死んだ男の
運が悪かっただけだと思い、
自分を納得させることにした。
その時
ドアをノックする音が聞こえた。
誰か来たようだ。
ドアを開けた<僧正>の胸を
ナイフが貫く。
琢磨はナイフで
<僧正>こと貴志を刺した。
そして自分がなぜ殺される
運命なのか教えてやる----。
午後2時。
ハジメのコテージに
電話が掛かって来た。
「トロイの木馬」と名乗るそいつは
変声器で声を変えており、
「No.2のコテージで
人が死んでいる」と言う。
そして殺したのは
<乱歩>か<ワトソン>だとも言った。
いたずらなのか?
ミステリー愛好会のゲームなのか?
不審に思いながらも
ハジメと美雪は
<僧正>のコテージに向かうと
<ワトソン>も同時に駆けつけて来た。
「ここで何やってる!?」
<ワトソン>も変な電話で
呼び出されたらしい。
窓から中を覗いて事態は一変。
<僧正>が血の海に倒れている!
慌てる<ワトソン>に対し、
ハジメは冷静に手掛かりを捜す。
まずコテージを一周し、
雪の上に足跡が無いことを確認した。
ではまだ犯人は中にいるのか?
中に入るが人のいる気配は無い。
後ろから声がして
赤いマフラーの男が立っている。
男は<乱歩>だと名乗った。
<ワトソン>が<乱歩>を
人殺しだと責める。
電話で「<乱歩>が殺した」と
聞いたらしい。
逆に<乱歩>も謎の電話で呼び出され、
「<ワトソン>が殺した」と
聞いていたと反論する。
ハジメの所に掛かってきた電話では
「<乱歩>か<ワトソン>」だった。
この電話の狙いは何か?
メンバー間に
疑心暗鬼を起こさせるのが
「トロイの木馬」の狙いなのか?
<僧正>のパソコンを調べるハジメ。
10分放置すると回線が切れると知り、
チャットのログアウト時刻から
死亡推定時刻は
午前0時43分と判明した。
<ワトソン>は自分には
アリバイがあると主張する。
この<僧正>が退出した後も、
<シド>と<ぱとりしあ>と
3人でネットをしていた。
だから殺しには行けない。
3人ともアリバイが成立する。
一方その時刻は
<乱歩>も<アガサ>と一緒に
メイン・ロッジにいたと主張する。
<アガサ>のコテージに電話し、
<乱歩>と一緒にいたことを確認。
これで2人にもアリバイが成立した。
ハジメと美雪も
当然アリバイがある。
全員にアリバイが成立----。
続けざまに起こる
第二の殺人。
殺されたのは<乱歩>。
彼が死の間際につぶやいた
「・・・ぱ、と・・・」の意味は?
それぞれが抱える
現実世界とネット上のギャップ。
メンバーが口を閉ざす
過去の「あの事件」とは?
第三の犠牲者が残した
ダイイング・メッセージが
ハジメに解決の糸口を与える。
はたしてハジメは
殺人鬼「トロイの木馬」の犯行を
止められるのか・・・?
解説
本名も素性も知らず
ネットの中だけで知り合った
「電脳山荘」のメンバー7人。
初めてのオフ会で
雪の山荘に集まった夜、
一人また一人と殺されていく。
雪山で遭難した
金田一一と美雪が
迷い込んだ雪の山荘は、
殺人鬼「トロイの木馬」の仕掛けた
殺人ゲームの舞台だった・・・。
ノベルス版金田一少年の
最高傑作と評される本格ミステリー。
金田一少年の事件簿
ノベルス版第3作。
小説という媒体だからこそできる
巧妙なトリックが売り。
プロローグの事件が
犯人の動機であることは
容易に想像できるが
その結び付け方は
実に金田一少年らしく
漫画版と同じ感覚が味わえる。
吹雪の山荘という
クローズドサークルの定番に、
インターネットのオフ会という
1996年当時では
あまり馴染みのない設定を
上手く絡めている。
SNSが身近になった今では
古臭く感じる部分もあるが、
ネットとリアルの
二面性をよく表しているし、
加害者が自分は悪くないと
思っているところとか
ネットでなら何でも言える
現代のすさんだ部分を
先取っているように思える。
アリバイトリックは
綱渡りのような
ギリギリの面白さがあるが、
多少強引に
後始末しないといけないので
リスクが高い。
犯人を追いつめるロジックは、
乱歩の「ぱと」の意味が納得。
ストンと腑に落ちた。
謎の電話でわざわざ
乱歩とワトソンを疑わせたやり方に
別の目的があったのも巧妙。
作家の名前や
作品名で呼び合うことから
綾辻行人の
「十角館の殺人」を思わせるが
その雪の山荘バージョンとも言える。
完成度では文句なく
サプライズ要素もあって
おすすめできる作品。
欠点としては・・・
●雪山で
厚手のジャケットを着ていて
そう簡単にナイフで
貫かれるものだろうか?
●犯人の動機が予想つくし、
いつものパターン。
●「裸眼」は一般的に普通に使う。
「利き腕」の指摘も強引。
●「切り札」の証拠、
〇〇〇〇は弱い。
それで自白するって・・・。
●名前にルビをつけるなら
あの名前を変更してほしかった。
(詳しくはネタバレ解説で)
●クライマックスの
P.359(漫画文庫版)の
挿絵がいただけない。
ページをめくると
先に目に入ってしまい
何が起こるかモロバレ。
俺の感想は・・・
さすがノベルス版の
最高傑作といわれるだけある。
いつもの金田一少年に
小説ならではの楽しみを
プラスした感じだった。
しかし・・・
俺の読む順番の運の無さというか、
逆にすごいというか。
「〇と〇」を読んだ後に
これを読む俺は
ある意味天才的なひらめきを
持っていると思う。
そういえば昔、
「スタイルズ荘」の後に
ヴァン・ダインの某作を読んで
同じトリックに驚愕したっけ。
ハジメがやたら
エッチのことを考えているのは
久し振りに読んで引いた。
確かにこのノリだったよなぁ。
「金田一少年」は
中高生向けということを再認識した。
これでコンドームが
何かの役に立つなら
良かったのに・・・。
俺は大人になりすぎたかもしれぬ。
その他に
ハジメの追い込み方が
いまいちな気がして
雰囲気で自白まで
持っていったような?
まあいつものことですが。
伏線よりも
ミスリードが素晴らしく、
展開も面白かったことは確かで、
この冬の時期に読めて
良かったです。
★★★☆☆ 犯人の意外性
★★★★☆ 犯行トリック
★★★★☆ 物語の面白さ
★★★★☆ 伏線の巧妙さ
★★★★★ どんでん返し
笑える度 △
ホラー度 -
エッチ度 △
泣ける度 △
総合評価(10点満点)
8.5点
---------------------------
※ここからネタバレあります。
未読の方はお帰りください。
----------------------------
※ネタバレを見てはいけないと
書いてあるのに
ここを見てしまう「未読のあなた」
あなたは
犯人に最初に殺されるタイプです。
十分に後悔してください。
●ネタバレ解説
〇被害者 ---●犯人 ---動機【凶器】
①<僧正>貴志日出男 ---●<アガサ>琢磨ゆり ---復讐【刺殺:ナイフ】
②<スペンサー>飯田文江 ---●<アガサ>琢磨ゆり ---復讐【絞殺:不明】
③<乱歩>辰巳哲 ---●<アガサ>琢磨ゆり ---復讐【刺殺:ナイフ】
④<ぱとりしあ>浅香奈々 ---●<アガサ>琢磨ゆり ---復讐【毒殺:青酸ガス】
〇本物の<アガサ>A子 ---〇琢磨ゆり ---復讐【絞殺:不明】
結末
「電脳山荘」のメンバーを殺したのは
<アガサ>こと琢磨ゆり。
恋人の青年・榊原秋男を殺した7人を
自分の手で殺すため、
彼女は本物の<アガサ>を殺して
入れ替わってオフ会に参加していた。
<スペンサー>が
女性だと知った彼女は
<乱歩>への恋心を利用して
<スペンサー>に
自分のアリバイを作らせるため
名前の入れ替わりを提案する。
<乱歩>がメイン・ロッジで
会っていた女は
<スペンサー>だった。
<僧正>殺しでアリバイを作り
用済みの<スペンサー>と
<乱歩>を殺し、
<ぱとりしあ>も手にかけたが、
ハジメに看破されて、
駆けつけた剣持警部に逮捕された。
●叙述トリックについて。
この作品には
叙述トリックが使われている。
「トロイの木馬」を名乗る犯人は
「琢磨」という人物だと
最初から読者にわからせてあるが、
いかにも男のようにみせかけて、
実は女性だった。
性別誤認の叙述トリックです。
作者としては
琢磨が女性ということはもちろん、
<アガサ>とは別人だと
思わせなければいけない。
人物誤認の叙述トリックにも
なっているおまけつき。
そのためのミスリードを
いくつかあげると・・・
①琢磨という名前が
男っぽい名前であり、
他の登場人物は出揃っているから
②姿を現さない<スペンサー>に
当てはめてしまうように誘導している。
③メイン・ロッジの屋根裏部屋から
琢磨が下を覗いて
<アガサ>らしき人物がいるのも
強力なミスリード。
しかも<乱歩>が相手を
<アガサ>だと
認識しているからなおさらだ。
④琢磨が<乱歩>を殺した際に、
顔を見られても<アガサ>だと
思わなかったのもポイント。
完全に知らない人物に
刺されて混乱している様子が
<アガサ>=琢磨から
遠ざけている。
⑤極め付きは
コンピュータ・プログラムの
バイトをしている<アガサ>
“<アガサ>は、少し困ったように、
「モデルなんて、まさか。・・・コンピュータ・ソフトのプログラムとかって、けっこういいお金になるのよ」
「プログラム?すげーな、それは。でも、高校とか行きながらじゃ、大変じゃないの?」
ハジメは、思いきってカマをかけた。
<アガサ>は、ハジメの意図を知ってか知らずか、少しだけ間を取って、
「大丈夫よ。うちの高校、出席甘いから。休講も多いしね」”(P.195)
ここは一見、
ハジメの罠で
<アガサ>が「休講」と言ってしまい
高校生じゃないことが
バレるだけのシーンに見える。
その中に<アガサ>が
コンピュータ・プログラムの
バイトをしていたことを入れてある。
それは
泉という人物が
パソコンに向かっている場面で活かされる。
“コンピュータ・プログラマーとしての退屈きわまりない日常が、今はひどく懐かしかった。今すぐに逃げ帰りたいとさえ思った。”(P.203)
この場面で
泉=<アガサ>だと
思った人は多いはず。
布石として
貴志=<僧正>
辰巳=<乱歩>が
読者の想像そのままだったことで
あらかじめ油断させてあるのが上手い。
そして作者は
次の3人だけ
誤認を仕掛けてある。
泉 =<アガサ>(本当は<ワトソン>)
泉はプログラマーの仕事で
プログラムのバイトをした
<アガサ>だと思わせる。
吉行=<ワトソン>(本当は<シド>)
吉行は医大に進学したり
すぐ脅える様子から
<ワトソン>だと思わせている。
琢磨=<シド>(本当は<アガサ>)
琢磨は男のどちらかで
はっきり誰とは推測させていない。
あえていうなら
消去法で<シド>だろう。
しかしよく見れば
<シド>のパンクなルックスが
ただの強がりで
音楽に詳しくなく、
派手な格好をしているだけなのが
次第にわかってくる。
そして<ぱとりしあ>事件の時、
甘酸っぱい臭いを
青酸ガスと指摘したり(P.259)
医学生らしい部分を見せている。
<ワトソン>は
「アアーッ、アアーッ!」と
奇声を発したりしていたが
パソコンに向かうと落ち着くタイプ。
ハジメが<ワトソン>を
“このメンバーの中では、もっともパソコンに詳しいようだ。”(P.84)
と評しているのも
かなり重要な伏線。
さらに
合間に挟まれる本名のパートが
この叙述トリックに一役買っている。
⑥<僧正>の貴志、
<乱歩>の辰巳など、
いかにも下の名前らしき
本名がでてくるから
琢磨も「〇〇琢磨」という
下の名前に思わせている。
これらは全て苗字である。
ひとつ欠点があって、
俺の読んだ漫画文庫版では
<僧正>の「貴志」に
「きし」とふりがなが振ってあった。
これはもったいない。
おそらく「たかし」と読ませて
下の名前のミスリードを
補強するはずだったと思うが、
「きし」では苗字だと
見破る人が出て来る。
(今は貴志佑介がいるので)
そうなると琢磨も苗字で
じゃあ女だろうと
鋭い人は見破ってしまいそう。
どうやら以前の
講談社ノベルス版では
貴志にルビは
振っていなかったらしい。
文庫版は読みやすくするため
たくさんルビが振ってあるから、
名前だけルビが無いと
逆に違和感を持たれると
出版社が判断したのだろうか。
ルビを振らないか、
苗字でも下の名前にもなる
別の名前に変えた方が
よかったと思うが、
逆に言うと
叙述トリックを見破る
伏線にもなるので
これはこれでアリなのかも。
(個人的には変えてほしい)
次は伏線の分析。
①琢磨の中で<乱歩>の到着が
最後の一人になっているのは
見逃せない伏線。
“寒そうに白い排気ガスを吐きながら、タクシーが『ロッジ・シルバーウッド』のメインロッジの前に乗り着けた。
琢磨はそれを、屋根裏部屋の小さな窓から覗きながら、口の中でつぶやいた。
「ふん。来たか、最後の一人が・・・」”(P.91)
→最後に到着したのが
<乱歩>だとするなら、
<スペンサー>はいつ到着したのか?
琢磨は知っている。
この下にいるのが
<乱歩>と<スペンサー>であることを。
琢磨が失敗したのは
この到着した時の<乱歩>の
「服装」を見ていなかったことだ。
玄関の辺りに節穴が見当たらなくて
下の様子が見えなかった。
そのために「赤いマフラー」を
していないことに気づかず、
<スペンサー>から
プレゼントされたことに
気付けなかった。
(声で「これプレゼント」という
会話は聞こえても
何をあげたか見えなかったのだろう)
②その赤いマフラーを
<乱歩>がしていたことを
うっかり言ってしまう場面。
“「背が高くて・・・あと、赤いマフラーしてました。気をつけて・・・、絶対、絶対連れてきて、お願い・・・」
言葉が先細りになり、半泣きに近い表情になる。”(P.165)
→<乱歩>を殺した時に
赤いマフラーは印象的だった。
<アガサ>はメインロッジで
会っていることになっているので、
赤いマフラーをしていることを
知っているのは当然だが、
一度自分のコテージで
寝ていた<乱歩>が
今も赤いマフラーをしているかは
定かではない----。
というハジメの論理もわかるが
普通外に出るなら
マフラー巻くと思うし、
自慢したいだろうし、
いちゃもんレベルの指摘で
これは<アガサ>の
ミスでもないような・・・。
③そこまで<乱歩>に
恋していた<アガサ>なのに、
<乱歩>が殺されたと聞いた時、
ほとんど取り乱さなかった。
→“「どうなっちゃうの、あたしたち!」”と
自分のことを心配している。
<乱歩>はどうした・・・。
④<アガサ>の視力が1.5。
右利きであるのは、
通信ログの<アガサ>と違和感。
→いきなり<アガサ>が
視力を言った時、
これはわざとらしいなと感じた。
反論させてもらうと
これは強引なこじつけだろう。
通信ログの「裸眼」から
<アガサ>は眼鏡をしていると
ハジメは言ったが
「裸眼」は目の良い人も
普通に使うんじゃない?
健康診断の紙にも書いてあるから
当然みんな見ているし
別に専門用語ではない。
「利き腕」という言い方にも
無理やり感があった。
チャットの<アガサ>は左利きで
話の流れが右利きの人たちが
左に注射したという流れだったから
気を遣って
「利き腕にはしなかった」という
言い方をしたらしい。
そこは
「あたしは左利きなので
右腕にしました」と
言えばいいだけで、
「利き腕」という言葉を使ったから
左利きであるという
絶対的な証拠にはならない。
⑤<ぱとりしあ>が<乱歩>に
電話を掛けた(P.136)という伏線は良かった。
→アリバイに関係ないため
スルーしそうだが
<ぱとりしあ>が
この件を否定したことで
「もう一人女がいること」を
読者に示唆している。
この直後に女性の死体が見つかり、
この女が電話を掛けた
可能性があるため
疑惑が<アガサ>の方に向かない。
(もちろん電話のかかったところに
<アガサ>がいたから
さらに疑惑は向かないと思うが)
⑥物語冒頭のバラバラ死体が
最後に<アガサ>に繋がってくるのも
なかなか上手い。
⑦パソコンのディスプレイに
<僧正>=貴志など
名前の判明した人物の
「?」のところに名前が入るのに
<スペンサー>が
飯田文江とわかっても
<スペンサー>=飯田と
記入されなかった。(P.253)
→「飯田」と記入したら
苗字だったことがバレるし、
「文江」だとアンフェアだ!と
叩かれるからでしょう。
転じて
何か仕掛けがあるという
暗示になっている。
●入れ替わりのアリバイトリック。
<アガサ>は別人だった。
琢磨ゆりが本物を殺して
すり替わっていた。
そして全員を殺すため
かなり危険な
アリバイトリックを使っている。
これには<乱歩>に恋する
<スペンサー>を
利用することが不可欠。
<スペンサー>と仲良くなった琢磨は
<スペンサー>が<アガサ>を名乗り
<アガサ>が<スペンサー>を名乗ると
山荘の中だけ役割を入れ替わる約束をする。
<乱歩>と<スペンサー>には
遅れてくるように言う。
最初に集まった他の4人
<僧正><ぱとりしあ>
<シド><ワトソン>には
自分が<アガサ>だと認識させる。
4人が解散した後でやって来た
<乱歩>は<スペンサー>を
<アガサ>だと認識する。
<僧正>を殺し、
<ぱとりしあ>の名前で電話し、
<乱歩>たちを解散させる。
その時、
用済みの<スペンサー>を殺した。
あとは<乱歩>を始末するのみ。
だがその前に
<アガサ>のアリバイを
成立しなければいけないので、
<僧正>のコテージに呼び出す際に
<乱歩>と<ワトソン>を疑わせる。
<乱歩>が犯行時刻に
<アガサ>と一緒にいた
と証言させると
もう用済みなので、
最後にメインロッジに
戻るように仕向けて
<乱歩>を殺しておく。
これが第一の殺人の
アリバイトリック。
「二人一役トリック」である。
基本的には
このアリバイがあれば
嫌疑を逃れるため
あとはアリバイがなくても
大丈夫だと踏んでいたのだろう。
電話でわざわざ<乱歩>と
<ワトソン>を疑心暗鬼にさせたのは
<乱歩>のアリバイを成立することで
自分のアリバイを成立させるためだった。
●金田一の追い込みロジックのこと。
<アガサ>を犯人だと
追い込むロジックが強引だと
何度も書いたが
「裸眼」「利き腕」
「赤いマフラー」
その他には
「電話の返答」
<乱歩>が電話を代わった時、
<アガサ>は
「ロッジに集まりましょう」と
<乱歩>を促した。
確かに<乱歩>を
こっそり始末したい犯人は
必要な台詞だったと思えるが
「ロッジに集まる」のは
普通の提案では?
それで<アガサ>を犯人にするのは
もはや無茶だ。
ただひとつ
良かった点は
<乱歩>の死に際の
「ぱと」の謎。
一瞬<ぱとりしあ>が犯人の
ダイイング・メッセージに思えるが
<ぱとりしあ>ではなかった。
と思わせて<ぱとりしあ>と
言ったのが正しいという
裏の裏をかいたロジック。
<乱歩>の中では
メンバーの女性は2人。
<スペンサー>を
男だと思っていた。
メインロッジで
<アガサ>には会っている。
(それが<スペンサー>と知らずに)
となれば、
俺を襲った女は<ぱとりしあ>に
間違いないという
簡単な引き算だ。
重要なダイイング・メッセージ
だったにも関わらず
その人物が
入れ替わっているために
逆に真相から遠ざかってしまう。
「ぱと」で<ぱとりしあ>は
単純だなと誰もが思うし、
その盲点を突いた
上手いやり方だと思う。