刑事コロンボ
#4『指輪の爪あと』
[DEATH LENDS A HAND]
(1971年10月6日放送)アメリカ
(1973年1月21日放送)日本
<あらすじ>
探偵社社長のブリマー(ロバート・カルプ)は、浮気調査を依頼していた新聞王アーサー・ケニカット氏(レイ・ミランド)に、ケニカット夫人(パトリシア・クローリー)は潔白との報告を行う。しかし、実は彼女は過ちを犯しており、ブリマーは夫人に秘密の代償として夫の日常生活から漏れる情報を報告するよう脅迫した。が、その晩、ブリマーの自宅を訪れた彼女はそれを拒絶。逆に脅迫したことを夫に告げると言われ、逆上したブリマーは夫人を殴りつけ殺害してしまった……。
<スタッフ>
監督 バーナード・コワルスキー
原作・脚本・製作 リチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンク
ストーリー監修 スティーヴン・ボチコ
音楽 グル・メレ
撮影 ラッセル・L・メティ
編集 エドワード・M・エイブロムズ
<キャスト>
ピーター・フォーク(コロンボ)ロサンゼルス市警警部
ロバート・カルプ(ブリマー)探偵社社長
レイ・ミランド(アーサー・ケニカット)新聞王
パトリシア・クローリー(レノーラ・ケニカット)その妻
ブレット・ハルゼイ(ケン・アーチャー)ゴルフコーチ
エリック・ジェームズ(デニング)探偵
シリーズ化唯一の
レヴィンソン&リンク自身が
脚本を書いたエピソード。
撮影自体は『構想の死角』より
前に行われたらしい。
愛車のプジョー403が本格的に登場。
(前回『構想の死角』でも少し登場してる)
殺人の後、
ブリマーの眼鏡に
犯行の後始末をする映像が映る
という謎すぎる演出があるが
普通にわかりにくいだけです。
そんな謎演出誰も求めてない。
探偵社の社長が犯人で
事件に積極的に関わってきて
間違った方向に誘導しようとしたり
鋭いコロンボ警部を
うちで働かないかとスカウトして
捜査をやめさせようとしたり
あの手この手で妨害しようとする。
免許証の伏線と
犯人の追い詰め方は良かったが
その他はあまり印象に残らなかったなー。
それとふと思って
いつも日本語吹替えなので
字幕で見て思ったのが
コロンボの声の違和感。
ピーター・フォークの声って
茶風林(コナンの目暮警部の声)
みたいな声なんですね。
小池朝雄、石田太郎、銀河万丈の
低く落ち着いたイメージだったので
違いすぎて驚いた。
☆☆☆☆☆ 犯人の意外性
★☆☆☆☆ 犯行トリック
★★☆☆☆ 物語の面白さ
★★★★☆ 伏線の巧妙さ
★★☆☆☆ どんでん返し
笑える度 -
ホラー度 -
エッチ度 -
泣ける度 -
評価(10点満点)
7点
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※ここからネタバレあります。
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●1分でわかるネタバレ
○被害者 ---●犯人 -----動機【凶器】
①レノーラ・ケニカット ---●ブリマー ---衝動【脳挫傷:テーブル】
<結末>
ケニカット夫人が
コンタクトレンズを常用していたので
死体にコンタクトがあるか確かめたいと
コロンボが言いだし
墓地の死体を発掘して調べると
右目のコンタクトが無くなっていた。
どうやら犯行現場で落ちたらしいと聞き
ブリマーは焦る。
必死にコンタクトを探すブリマー。
現場の床には落ちていなかったので
死体を運んだ車のトランクを探そうと
先日故障で修理に預けたガレージに潜入して
トランクからコンタクトレンズを
発見したところでコロンボたちに見つかる。
夜に忍びこんで証拠を隠そうとしたことを
もはや言い逃れできない状況になり
ブリマーは罪を自白した。
が、実は死体のコンタクトは落ちてなくて
嘘の情報でブリマーを
行動させることが狙いだった。
車の故障もコロンボの仕業だったのだ。
●トリック解説
衝動的な殺人だったので
「犯行トリック」に計画性は無い。
被害者が車も使わず
どこに行くとも言わず
極秘に犯人宅に来たことを利用し
死体を町外れの廃車置き場に放置して
夜道で暴漢に襲われたようにしただけ。
指輪を抜いていたのは
物盗りと思わせるため。
金を要求して抵抗されたから
殺したことにしたかったようだ。
むしろこの作品は
「逆トリック」しか見所がない。
コロンボは犯人を追い詰めるため
嘘の情報を聞かせて
犯人にボロを出させるテクニックを使っている。
ケニカット夫人が
コンタクトレンズを常用していたと知り
コロンボは死体がまだレンズを
はめているか知りたかった。
もしかしたら倒れたショックで
犯行時に落ちたかもしれない。
しかし死体を掘り返して確認したら
死体には両目とも
コンタクトレンズがついていた。
手掛かりが無くなってしまったが
ここでコロンボは罠を仕掛ける。
ケニカット氏に話しながら
犯人にも聞こえるように
「右目のレンズが外れている」
「犯行現場かどこかで落ちたらしい」と
嘘の情報を伝えた。
焦ったブリマーは
家の床の絨毯をめくって
レンズを探すが見つからず。
可能性があるとすれば車のトランクだが
先日故障して修理に出している。
夜に忍び込んでトランクを探すと
やっとレンズが見つかったのだが……
そこにコロンボがやってきて万事休す。
この流れは
逮捕の決定的な証拠がない場合に
よくやる泳がせて捕まえるパターン。
『古畑任三郎』もこれが多いイメージだ。
面白いのは
車を故障させた方法で
少年時代のコロンボは
じゃがいもを車の排気管につめて
エンジンをかからなくさせるという
イタズラをよくやっていたらしい。
その時の悪事が
警官になった今になって役立った。
犯人がミスをして
それが犯行の露見につながる
「発覚トリック」を紹介。
①死んだ夫人の左の頬に
不思議な切り傷があった。
鋭利な刃物でついたものではない。
→犯人が左手のバックハンドで殴ったため、薬指の指輪によってついた傷。またバックハンドで殴ったことから、とっさに行った行動であり計画的な殺人では無かったと推理される。
②コロンボが事件のファイルの
受領書がいるからと
ブリマーにサインさせたとき
左手で書いたので
ブリマーが左利きだとわかる。
→犯人はとっさに左手を使ったから左利きだという話をしたのに、目の前で左利きであることを見せてしまう。案の定コロンボに「なんだかおかしな気分だなぁ~」と嗅ぎつけられる。右手でも書けることを見せたが、おそらくではあるがブリマーは「両手利き」なのだろう。冒頭の拳銃を左右に1丁ずつ持って撃っているのがその暗示では?
③ブリマーの車の
クロームメッキが錆びているので
海岸近くに自宅があると推理される。
→潮風にやられて錆びるらしい。一瞬見ただけなのに鋭い観察眼。
④部下のデニングが
コロンボにベラベラと
社内の秘密を話しているのを
ブリマーが怒って注意する。
→犯人はカッとなる性格だとコロンボに推理されているのにカッとなっちゃう。
●伏線まとめ(★はとくに巧妙なもの)
①【すぐ修理しておけと言う】
冒頭でブリマーが2丁の拳銃を
両手で持って射撃している。
「この銃は弾が右にそれる。
修理に出しておきたまえ」
と社員に命令する。
- 自分で原因を調べずにすぐ修理に出すこの性格。故障した車をすぐ修理に出したことで失敗する。排気管を見たら原因がわかったかもしれないのに。
★②【免許証の更新】
事件の現場に急ぐコロンボを
白バイ警官が止めて
免許証を確認すると
「あと一週間で切れますよ」と
注意される。
- この何気ないやりとりが重要な伏線となっていた。コロンボは免許の更新に行かなきゃいけなくて、そこで視力検査を受ける人を見て死体がコンタクトレンズをしていたかどうかに気づくのである。
③【眼鏡をしている夫人】
これに関連する追加の伏線が
ケニカットの家にある夫婦の写真で
夫人が眼鏡をしていること。
- コロンボは免許の更新でこれを思い出して、眼鏡をかけていなかったがコンタクトレンズを使っていたことを知り、死体を調べてみようとする。
④【コーヒーを渡すコロンボ】
ケニカットと対面し
夫人の死を確認してもらった後、
悲痛な面持ちのケニカット氏に
コロンボがコーヒーを差し出す。
- この時点でコロンボには死体の左頬の傷が左手の指輪によるものと気づいている(と思う)。なのでコーヒーを差し出してどちらの手で受け取るか、また左手の指輪はどのような形状か確認したかった(のだろう)。ケニカットは右手でカップを受け取ったので、少し容疑から外れた(と思う)。
⑤【手相を見るコロンボ】
探偵社の社長も捜査に協力すると聞き
コロンボはこれはついてると
運命論者なので占星術や手相など
なんでも信じるタチで……と言って
ケニカットとブリマーの手相を見始める。
- 上に書いたように、犯人は左利きで左手の指輪で被害者の頬に傷がついたとコロンボは推理している。ここでさりげなく手相を見るふりをして指輪の形状を確認しているのだ。
- さらにここで、コロンボが「運命論者でなんでも信じる」と言ってるが、ラストでは「運なんて信じない」とこれまた逆のことを言って伏線を回収している。
⑥【夫人のゴルフクラブ】
出口と間違えて開けた物入れに
夫人が使っていたゴルフバッグがあった。
- 夫人がゴルフも趣味であることがわかり、この後ゴルフのコーチが浮気相手だったことがわかる。
●欠点や疑問など
- ブリマーは左利きの設定なのに右手で受話器を持って右手の指で電話のプッシュホンを押してる。その他に食事でもグラスも右手。両方使えるのであれば、じゃあサイン書くときも右手で書けよ!って話。
- ブリマーが指紋を拭き取っていたが、夫人が先に入っているのでどこまで触ったかわからない。勝手に飲み物を作って飲んでいるし。全ての指紋を拭き取ることは不可能。
- 夫人を殺した時、ガラスが割れる演出が入ったが、実際にはガラスは割れてないはず。ガラスのテーブルだった?としても同じテーブルはコロンボが訪ねて来た時にちゃんと入口横にあったから違う。ガラスが割れたら髪の毛にガラスが付着するので、外で殺されたとかアホな推理は絶対しないし……。その後の後始末が眼鏡に映る演出といい演出が謎すぎる。
- 夫人の指輪はどこに捨てた?
- アーチャーが帰ろうと車に乗るとコロンボが乗っていた。その向こう側にブリマーの社員が見張っていたが、あの位置だとコロンボにバレバレでは?
●名台詞
ゴルフコーチのアーチャーが
夫人との関係を隠そうとしているのを
コロンボが咎める。
コロンボ「1つ忠告しとこう。同じ嘘をつくならもっと上手にやることだ。下手に誤魔化そうとするとかえって尻尾出すぞ。わかるかね?よく餅は餅屋って言うだろ。私は捜査の専門家であんたはゴルフだ。お互い先輩の言うことは聞かないとな。デカのくせにこんな余計な忠告をするのもほんのお礼さ。ゴルフの手ほどき受ける以上あんたは先生だ。(スイングしてボールをかっ飛ばす)簡単じゃないか。何事でも同じだな。どっかに無理があったり緊張があると上手くいかんよ」
夫人がコンタクトレンズをしているか
墓地から死体を掘り出して確認。
コロンボは勘が当たったと
ケニカットとブリマーに話す。
コロンボ「勘が当たりましたよ。右のレンズが外れてて棺にも見当たらないんだそうです」
ブリマー「殺人現場以外で落としたかもしれないだろう。死体置き場とかそこへ運ぶ途中、いやあるいは殺される前に無くしていたかもしれない。ようするに何の役にも立たんよ」
コロンボ「いやそうとは言い切れないでしょう?少なくとも有力な手掛かりですよ。レンズの落ちてる場所が殺人現場だという」
ケニカット「しかしそこがどこか見当もつかん」
コロンボ「いや心当たりは何カ所かあります。そこを片っ端から洗うんですよ」
ブリマー「手が足りないんでしょう?なんなら手伝おうか?」
ケニカット「やめたまえ、君は反対してたじゃないか。今更何だ?」
ブリマー「じゃあお好きなように」
(去り際にコロンボがケニカットに言う)
コロンボ「これは冗談ですがホシ(犯人)にこのことを教えてやりたいですな」
ケニカット「なぜだね?」
コロンボ「ホシの身の回りにはこの他にも証拠がゴロゴロしているに違いないから、慌てて隠すところを見て笑ってやりたいんですよ。何かわかり次第すぐ連絡します」
ブリマー逮捕の決め手になった
コンタクトレンズを見て
ケニカットが言う。
ケニカット「家内がこれを落としてくれて良かった」
コロンボ「いやぁ落としませんよ」
ケニカット「え?」
コロンボ「レンズは2つとも死体についていたそうです。墓を掘り返したけどその点は期待外れでした」
ケニカット「……わからんな。家内のでないとするとこれは一体誰の?」
コロンボ「さあ誰のでしょう?そのレンズの持ち主が誰であろうとこの場合そんなこと問題じゃありませんよ。罪を立証するのはブリマーの行動。ここへ忍び込み、それを処分しようとしたことだ。しかも大勢の証人の前で」
ケニカット「……運良く車が故障したもんだ。でないと細工できんだろう」
コロンボ「さぁ~あたしゃ運なんて信じない方でしてね。しかしこういう場所は懐かしいなぁ。子供の頃を思い出すんです。あたしの育ったところは修理工場やら駐車場のたくさんあるところでしてね。気取った車見つけるとよくいたずらしたもんですよ。ジャガイモ持って来て排気管の中に突っ込むんです。そうすりゃ別に害はないけどエンジンがかからない。でもある日持ち主に見つかってえらくどやされたっけ。そんないたずらするとおまわりに言うぞって。そのあたしが刑事やってるなんて、フフッ」
●好事家のためのトリックノート
8-A、発覚トリック
●物理的手掛かりの機智・犯人の失敗
【指輪の切り傷】
カッとなって左手のバックハンドで被害者を殴ったらそのままテーブルに後頭部をぶつけて死んでしまった。被害者の左頬に切り傷が出来てしまい、左手に指輪をしていること、左利きなことがバレる。
8-C、犯人自白、告発トリック
●犯人逮捕直前の自白強要
【物理的】
被害者の死体を掘り返してコンタクトレンズが片方外れていて、殺された現場に落ちたかもしれないと吹き込むがそれは実は嘘で、慌ててレンズを探しに戻った犯人を言い逃れできない状況にして取り押さえる。
9-A、特殊トリック
●イタズラトリック
【車を故障させる】
車の排気管にジャガイモを詰めてエンジンをかけれなくする。