Quantcast
Channel: 裏旋の超絶☆塩レビュー
Viewing all articles
Browse latest Browse all 997

【ネタバレ注意】東野圭吾『仮面山荘殺人事件』の感想・伏線解説・考察

$
0
0

 

驚愕のどんでん返しが待つ見事なエンディング

 

『仮面山荘殺人事件』

東野圭吾

(1990年)日本

 

 

 

 

2024年1月に

『ある閉ざされた雪の山荘で』が映画化。

ミリしらですがこの機会に

東野圭吾を読んでみようかと思って

どうせなら似た状況設定で先行作品の

『仮面山荘殺人事件』から読んでみよう。

(季節的にも夏だし)

「どんでん返し」がすごいミステリーとして

いろいろなところで取り上げられる作品です。

 

 

あらすじ

樫間高之森崎朋美

来年の春に結婚を約束したカップル。

朋美の父・森崎伸彦が所有する別荘の近くに

小さな教会があり、

2人はそこで結婚式を挙げる予定だった。

結婚式まであと一週間に迫った4月10日、

ビデオ制作会社に勤務する高之の元に

朋美の母・森崎厚子から電話が掛かってきた。

「朋美が事故で亡くなった」……と。

 

結婚式の打ち合わせをするために

教会に行った帰りの山道で

ハンドル操作を過って

ガードレールに衝突し

そのまま崖に転落したというのだ。

目撃者の証言では自分から

ガードレールに

突っ込んだように見えたという。

……結婚式目前で

幸せに満ちた朋美が自殺するわけがない。

警察は朋美が疲れて

居眠り運転をしていたという見解だった。

葬儀で泣き続ける朋美の母。

高之もまだ

朋美の死を信じることができない。

写真の横には4日後に着るはずだった

白いウェディングドレスが飾ってあった――。

 

朋美の死から3ヶ月後、

高之は別荘に向かって車を走らせていた。

朋美の死後も森崎家とは付き合いが続き、

芸能界に関係が深い伸彦が

高之の仕事を

バックアップしてくれている。

毎年夏は別荘で避暑を過ごすのだが

よかったら来ないかと誘われたのだ。

 

木彫りの仮面がついた玄関を入った瞬間

高之は不吉な予感がした。

ラウンジは吹き抜けで

二階の廊下が見渡せる。

ベランダの奥はすぐそばに湖が見えた。

 

別荘では朋美の兄

森崎利明が待っていた。

利明は森崎製薬会社の部長を務めている。

今日ここに来るのはあと7人。

森崎伸彦、森崎厚子、

それと伸彦の秘書・下条玲子

厚子の弟の篠一正、その娘・篠雪絵

篠家の主治医・木戸信夫

そして朋美の親友・阿川桂子だ。

 

やがて森崎夫妻が散歩から戻り、

長身でボーイッシュな短髪の秘書

下条玲子を紹介される。

遅れて篠雪絵と木戸がやって来るが

父の篠一正は

急用で来られなくなったと言う。

主治医の木戸は雪絵にべったり。

どうやら彼の目的は雪絵のようだ。

 

玄関のブザーが鳴った。

高之が出てみると警官が2人立っている。

「このあたりで不審な男を

見かけませんでしたか?」

一同見てないと答えた。

警官が帰った後、

阿川桂子がやってきたので

これで招待客は全員揃ったことになる。

 

桂子は昨年新人賞を受賞した

新進気鋭の小説家で

昔は朋美と一緒にバレエを習っていた。

厚子が朋美を思い出して

湿っぽい雰囲気に……。

木戸は雪絵への好意を隠そうともしないが

雪絵の方は木戸を迷惑そうにしていた。

木戸が離れた隙に高之に話しかけられて

雪絵はほんのり頬を赤らめる。

高之が雪絵に会ったのは

去年のクリスマスに

朋美から紹介されたのが最初だった。

雪絵は朋美の1歳下の従姉妹で

双子みたいに仲良く育ったと聞いている。

 

夕食後の団欒の席で、

桂子が朋美の事故には

明らかにおかしいところがあると言いだす。

「朋美は誰かに殺されたのだと思います」

それを聞いた伸彦も

朋美が運転に細心の注意を

払っていたことを知っているので

一度は殺人を疑ってみたが、

車に妙な細工も欠陥もなく

事故と結論するしかないと返すと

桂子は「睡眠薬」を飲まされたと反論。

医者の木戸は睡眠薬は個人差があるから

不確かな方法だと意見する。

 

結局この話は結論が出ず、

団欒はお開きになったが、

考え事をしてベランダに残っていた高之に

雪絵が話しかけてくる。

さっきの桂子の話、

もし朋美を殺した犯人がいるなら

高之はその人物を恨むかと聞かれ

高之は「もちろんそうです」と答えた。

なんとも言えない表情の雪絵。

 

その夜、

高之はなかなか寝付けなかった。

2年前に起きた自動車事故を思い出す。

ボールを避けようとして

ブレーキを踏んだ高之の車に

後方から突っ込んで来た

赤いスポーツカーが衝突。

2人とも命は助かったが

ドライバーの女性は左足を車体に挟んで

動けない重体に……。

その女性が森崎朋美だった。

 

彼女は将来を期待された

バレリーナだったが

事故で左足を失って絶望し

一時は生きる気力も失っていたが

見舞いに来た高之と会話するうちに

徐々に明るさを取り戻していく。

そして高之から彼女に告白して

2人の交際が始まった。

半年後に結婚の約束をし

あと少しで幸せが訪れるはずだった。

あの事故以来、朋美がスピードを

出し過ぎるなんて絶対にあるはずがない――。

 

午前4時。

高之の部屋のドアを雪絵がノックする。

台所で知らない男の声がしたから

怖くて呼びに来たという。

雪絵と一緒に下に降りた高之は

電気をつけた瞬間

「騒ぐな」と男に捕まえられる。

そこにはピストルを持った痩せた男と

大柄な男が立っていた。

 

男たちに言われて

この別荘にいる人間を

全員起こせと脅され、

1人ずつ起こして回って

全員がラウンジに集められた。

二人の会話から大男はタグという名前で

痩せたリーダー格の男はジンとわかった。

 

彼らはこの別荘は使われていないと思って

以前から強盗をした後で

ここに逃げ込む準備をしていたという。

だからこの別荘のオーナーが

森崎製薬の社長だということも調査済みで

事前に合鍵も用意して侵入したらしい。

高之らがたまたま今日来たために

運悪く鉢合わせになってしまったようだ。

彼らの目的は

フジというもう1人の仲間が来るまで

ここで待機すること。

何もしなければ人質に危害は加えないと言う。

 

~~~~~~

 

こうして強盗に見張られた山荘に

閉じ込められた8人が

作戦を立てて強盗を出し抜き

必死に外部と連絡を取ろうとするが

ことごとく邪魔が入り

自分達の中に裏切り者がいることを知る。

この状況を

逆に利用しようとする人物の目的は――?

 

はたして朋美の事件の真相は――?

 

やがて起こる殺人事件。

それは強盗たちの犯行では

絶対にあり得ない状況だった――。

 

作品解説

樫間高之は婚約者を

車の運転事故で亡くし、

3ヶ月後その父親が持つ別荘で

故人を偲ぶために

8人の親族と友人が集まった。

その夜、

招待客の1人が朋美の死について

疑いを持っていると言いだし、

さらに深夜には

逃亡中の銀行強盗が別荘に侵入。

外部との接触を断たれた8人は

何度も脱出を試みるが

ことごとく失敗に終わる。

恐怖と緊張に包まれたその夜、

招待客の1人が殺されてしまうが

それは強盗の仕業ではあり得なかった。

被害者は朋美を殺した犯人だったのか?

衝撃の結末が待つ

緊迫のクローズドサークル・サスペンス。

 

本作は東野圭吾のトリッキーな面が

強く打ち出された初期の代表作の1つ。

嵐の山荘ものだと

嵐が障害になるのだが、

これは銀行強盗が障害となって

外部と連絡が取れなくなるという

閉鎖のアイディアが良い。

そして警察に連絡できない状況を利用し

偶然起きたパニックに便乗して

犯人が目的を達成するというのも

後の作品に大きく影響を与えていると思われる。

 

本文は三人称ながら

樫間高之の目線で物語が進み、

婚約者・朋美の事故死が

未必の故意によるもので、

何者かの手で生理痛の鎮痛剤を

睡眠薬にすり替えられたのでは?

という疑問が浮かんでくる。

そこで疑われた人物が

夜に死体となって発見されて

朋美の仇討ちという

動機が色濃くなっていく。

強盗の監視の中で裏切り者がいて

犯人探しをするシチュエーションは

なかなか緊張感がある。

 

感想

最初に『仮面山荘殺人事件』という

面白そうなタイトルから連想したのは

仮面をつけないと入れない山荘で

そこで殺人が起きて

仮面を付けているから誰が誰を殺したのか

中身が誰なのかわからず、

実は中身も入れ替わって……という

複雑なトリックミステリーだと思っていた。

――が複雑なところはなく

シンプルなどんでん返しものだった。

 

文庫解説で折原一が

「『仮面山荘殺人事件』は嫌いだが、

東野作品で

三本指に入る傑作だと思っている」

と書いていてすごく納得。

折原氏が嫌いな理由は

同じどんでん返しの小説を

自分も書いていたところ

先に使われたからだそうで

確かに“このオチ”を真面目に

小説でやった功績は大きいと思う。

 

しかし実は映画やドラマでは

このオチと同じものが

それ以前に多数存在する。

俺の記憶では

映画『生きていた男(1958年)』が

これとほぼ同じ目的のトリックで、

『LAIR GAME』や

『世にも奇妙な物語』でも

類似のオチを見た気がする。

しかも俺は

『ある閉ざされた雪の山荘で』を

読むつもりだったから

そのあらすじを先に見ていたせいで

読み始めた直後から雲行きがあやしかった。

 

ああこのオチか……と

正直がっかりした部分はあるが

閉鎖空間の緊張感や

犯人探しの面白さは楽しめたのでよし。

伏線回収は薄味でしたね。

 

東野圭吾さんの本はほぼ紙の本で

電子書籍になっているのは

『容疑者Xの献身』

『プラチナデータ』

『白夜行』

『流星の絆』

『ナミヤ雑貨店の奇蹟』

『ダイイング・アイ』

『疾風ロンド』の7作しか見つからなかった。

 

今やすっかりKindle読書派の自分は

電子書籍のお手軽さとメモと検索の

便利さに慣れてしまっていたので、

ノートに細かくメモを取りながら

久しぶりに文字を書いて手が疲れたが

なんか懐かしい気持ちになれました。

 

 

★★☆☆☆ 犯人の意外性

☆☆☆☆ 犯行トリック

★★★☆☆ 物語の面白さ

★★☆☆☆ 伏線の巧妙さ

★★★★☆ どんでん返し

 

笑える度 -

ホラー度 △

エッチ度 -

泣ける度 △

 

評価(10点満点)

 7.5点

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

※ここからネタバレあります。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1分でわかるネタバレ

<事件概要>

日付:7月中旬頃

場所:森崎伸彦の別荘

 

○被害者 ---●犯人 -----動機【凶器】

森崎朋美 ---●なし ---自殺【転落死:自動車で崖へ】

篠雪絵 ---●森崎伸彦 ---復讐【刺殺:果物ナイフ】

※①自殺の原因である睡眠薬を仕掛けたのは樫間高之。

※②芝居のため実際には雪絵は死んでいない。

 

<結末>

下条玲子の推理で

犯人と指摘された森崎伸彦は

追い詰められて湖に飛び込んで

死んだと思われた。

――が、

夜になって1人ラウンジで縛られていた

高之のところに戻って真相を告白する。

雪絵を殺したのは

朋美の鎮痛剤を睡眠薬にすり替えて

朋美を死なせたからだと。

しかし伸彦は復讐すべき相手を

間違ったのかもしれないと思い

ここに戻ってきたという。

 

それは雪絵が死の間際に

誰かを庇おうとしたこと、

破った日記のページは

雪絵が口の中に隠していて

そこに誰の名前が書かれているか知れば

真犯人がわかるかもしれない。

そう言って

二階へあがろうとする伸彦を

高之が首を絞めて止める。

 

睡眠薬をすり替えて

朋美を殺そうとしたのは高之だった。

しかし遺品のピルケースに

錠剤が入っていたので

自分のせいだとは思わず

本当に事故死だと勘違いしていたが

雪絵が錠剤を補充したことを知った今、

自分が朋美を殺したことを知って

伸彦の口を封じなければと手に力をこめる。

 

そこで照明が明るくなり、

全員がこちらを見ていた。

呆然とする高之に

この別荘で起きた強盗も殺人も

すべては君の殺意を証明するための

芝居だと伸彦が打ち明ける。

朋美は自殺してしまったため

高之が罪に問われることはないが

せめてもの復讐で大芝居を打ったのだ。

 

そして生きている雪絵に

どうして朋ちゃんを裏切ったのと

責められながら

高之は1人、

別荘を後にするのだった。

 

 

どんでん返し

この作品は

終盤に2回どんでん返しがある。

 

1つ目が

「第六幕 悪夢」で

雪絵の日記のページを確認しようと

二階へ上がる伸彦を

高之が止めようとする場面。

「連中に気づかれますよ」

「構わない。事情を話すつもりだ。手を離してくれないか」

「いいえ」

高之はゆっくりとかぶりをふった。自分の中に、何か黒いものが広がるのを感じた。「離すわけにはいきません」

「何だと?」

伸彦が怪訝そうにするのと同時に、高之は彼の首を両手で締め始めていた。(P.273)

伸彦の首を

首を絞めて殺そうとする高之。

樫間高之が真犯人だった。

(厳密には「犯人」ではないが)

 

雪絵を好きになってしまった高之は

朋美が邪魔になり

ピルケースの中の鎮痛剤を

酷似した睡眠薬と入れ替えて

交通事故を期待して

プロバビリティの犯罪に手を染めたのだ。

 

しかし高之は

ほぼ語り手といっていいポジションで

地の文章は三人称だが

高之の目線で感情が語られたり

回想が入る主役キャラ。

朋美への殺意は隠しているが

事故死の議論では

身に覚えがないといった雰囲気を

うまく装っていた。

 

そこには自分が犯人なのに

嘘の感情を出さずに読者を欺くため

本人が勘違いしているため自覚がない

というテクニックでミスリードしています。

 

雪絵が鎮痛剤を補充したために

(実際は朋美が補充した)

高之は自分の睡眠薬が原因だと思わず

ただ運悪く事故死してしまったのだと

勘違いしてしまった。

だから自分は関係ないと冷静でいられた。

 

雪絵に朋美を殺した犯人がいたら

恨むかと聞かれた時も

「もちろん、そうです」と高之はいった。「朋美の死が誰かの作為によるものだとしたら……ですけどね。でもそういうことはないと思います。やっぱりそんな仕掛けはなかったと僕は信じたいです」(P.51)

こう答えて自分は違うと思い込んでいる。

 

しかし

錠剤を補充したことを知って

自分の勘違いに気づいてしまう。

慌てて伸彦の首を絞めて殺そうとするが

そこで2つ目のどんでん返しが待っていた。

 

突然、照明が点いて

「あなたが睡眠薬を仕掛けたんでしょう」

「親父まで殺そうとして」と

全員から一斉に責められる。

そう――、

下条玲子も木戸信夫も

強盗のジンもタグも

外の警官も……すべて役者。

雪絵も死んでいない。

ここで起きた事件はすべて虚構。

全員がグルになって芝居をしていた。

(ただし高之を除く)

 

その目的は

高之の「殺意の証明」

 

あの日、

小さな教会で雪絵と会った朋美は

いつものように鎮痛剤を飲もうとして

錠剤を取り出したら

雪絵にその薬は

違うんじゃないかと尋ねられて

よく見たら確かに違っていた。

 

朋美は誰が薬をすり替えたのか

何の目的でそんなことをしたのか

すべてわかってしまい、

生きる気力を失って

自ら命を絶ってしまった……。

 

鎮痛剤の話を雪絵から聞いて

伸彦たちは高之を許せないと思い

このような大がかりな芝居を計画し、

高之の本心を暴いて

精神的ダメージを与えて

せめてもの復讐をすることにしたのだ。

 

 

伏線解説

それでは

全部芝居だったと見抜ける伏線を

できるだけ拾ってみましょう。

 

【章題が「幕」】

各話の章題が「幕」になっていること。

  • 「第一幕 舞台」「第二幕 侵入者」と、各話が「章」ではなく「幕」としていることが意味深です。

 

【伸彦の芸能関係の人脈】

朋美の死後も高之が

森崎家のバックアップを受けていて、

伸彦は芸能や文化に関心が深くて

人脈があるので仕事が助かっている。(P.14)

  • 伸彦は田口団長の主宰する劇団の顧問をしており、今回の芝居に協力してもらっていた。

 

【木彫りの仮面】

玄関のドアの上に

つり上がった目と横に広がった口の

木彫りの仮面が飾ってあった。(P.16)

  • これから別荘で行われるのは、全員が仮面を被ったような偽りの人間だという示唆。つり上がった目と広がった口が、遺族の怒りを表しているようだ。

 

【「役者が揃ったな」】

第一幕で招待客が全員集まった時、

伸彦がさりげなく言った台詞。

「さて、これでようやく役者が揃ったな」(P.29)

  • 文字通り今回の芝居の「役者」が揃ったことを伸彦は示唆していた。

 

【ライフルを横取りする利明】

強盗たちに脅されて

ラウンジに集められた時、

高之はテーブルに置きっぱなしの

ライフルを取ろうと手を伸ばしたら

隣の利明がライフルを奪って

「ピストルを捨てろ」と威嚇した。(P.84)

  • この場面、高之がライフルを取ってしまうとライフルが偽物だとバレてしまうし、落ち着かせるのも困難になる。利明がとっさの機転でライフルを横取りして強盗もアドリブの演技で事態を収めた。

 

【部下のジンノ】

警察が別荘の中を見たいと言って

中に入って来たときに、

ジンは伸彦の部下ジンノとして

礼儀正しくお辞儀した。(P.125)

  • 役者なので演技はお手の物。警官は疑いもしなかったが、面が割れてないということなのか、それともグルなのか……。

 

【雪絵の死体を確認させない】

雪絵のドアを破って入ったら

背中にナイフが刺さっていた。

誰も動くなとジンがピストルで威嚇し

木戸に雪絵を調べさせて

死んでいるとみんなに告げる。(P.152)

  • 生きていることが近づいてバレないようにジンが足止め。高之が暴走してジンに殴りかかろうとしたら、再び利明が羽交い締めにして高之の動きを封じた。この後、桂子が都合良く日記帳をベッドの下から発見して物語が進んでいく。

 

芝居だとわかる伏線はこのあたりか。

そうしてすべてが終わった後、

高之の「もう幕だろ」の一言で締め。

もう気が済んだろじゃなくて

あえて演劇に寄せていった。

 

 

ちなみに朋美の事件の伏線では

ピルケースの中身を

睡眠薬にすり替えることが

できそうなのは高之しかいない。

 

【ペンダント型ピルケース】

朋美のピルケースはペンダント型

普段いつも身につけていた。(P.122)

  • ペンダントでいつも身につけていたピルケースなら普通の人が中の薬をすり替えようとしても難しいだろう。朋美と同棲していて風呂や就寝などで外す機会に容易に近づける人物が1人いる。――高之だ。

 

 

欠点や疑問など

  • タイトル詐欺。殺人は起きていない。雪絵は芝居。朋美の死も自殺ですし。
  • せっかく仮面が飾ってあるのに仮面が出た意味が薄い。せめてフジが仮面を付けて登場してほしかった。
  • フジ役は篠一正でいいと思う。名前の出た登場人物は上手に使ってほしい。
  • 強盗が朋美の事故死の真相を知りたい理由もなく、議論をもちかけて話を強引に進めようとするのは無理がある。
  • ピルケースの件で矛盾がある。高之によると睡眠薬と鎮痛剤の形状は酷似しているがよく見たら少し違うらしい。それならば、遺品のピルケースを確認したとき、高之はそれが睡眠薬か鎮痛剤かわかったはず。自分の仕掛けた睡眠薬ではなく、雪絵の入れた鎮痛剤だったのがわからないほど確認の時間が短かったのか、あるいは錠剤があるのを見た瞬間、頭の中が「朋美が睡眠薬を飲まなかった」という安心感で大事なことを見落としてしまったのか……?自分と繋ぐ証拠の睡眠薬をそこに残しておくのは危険だという意識がなかったのは意外。
  • その酷似した睡眠薬を飲むところを見た雪絵が見抜くのが超能力すぎる。朋美が先に気づいてショックを受けて、雪絵にすべてを教えたほうがまだ納得できる。
  • 諦めようとしたのに手作りチョコなんかあげるから勘違いさせた雪絵も自分で言うように同罪。
  • 警官の服装をして警察だと思わせた者は軽犯罪法1条15号により拘留又は科料に処されます。
  • 首を絞め始めているのに冷静に二階で見守っているのはおかしい。すぐ止めよう。
  • 現金の袋を3つ持って逃げてきたはずなのにそんな荷物どこにも出てこなかった。厨房の方に置いているのかもしれないが、自分達の近くに置いて見張らなくていいの?
  • 帯に「スカッとだまされてみませんか」とあるが結末はスカッとしない。
  • 実は芝居でしたオチは昔から映画やドラマに多いため驚きが少ない。
  • 高之が別荘を後にしたところで監督のカットがかかり、高之も含めて全部芝居オチでもよかったかも。(登場人物が全員芝居をして映画のワンシーンだったというオチは、古くはコ〇ン・ド〇ルの短編『悪〇の〇屋』がある)……いや、やっぱりよくないわ。

 

裏旋探偵の推理

答え合わせ。

 

雪絵殺しの犯人は森崎伸彦→〇

まず犯人の目的を考察。銀行強盗の侵入というパニック状況を利用して、朋美に睡眠薬を飲ませた雪絵(と思っている)を殺すのが目的だろう。ならば、SOSを消したのもタイマーを壊した人物=雪絵殺しの犯人の仕業と推理することが自然だ。

①まず下条玲子と森崎利明は除外される。この2人はわざわざ外部と連絡を取ろうと計画して自分でそれを壊したことになる。もしもバレたら自分が殺されかねない危険を冒してまでわざと失敗することに意味がない。

②木戸信夫ではない。雪絵を殺すのは朋美の復讐のはずだから動機が不自然だし、惚れた相手を殺すはずがない。それに犯人は果物ナイフを持って雪絵の部屋に入っているため、最初から殺意を抱いていたことになる。

③森崎厚子ではない。ただし、共犯はあり得る。ジンとほぼ一緒に居て殺人に行く時間がない。物理的に不可能。

④樫間高之ではない。(雪絵殺しに関しては)雪絵に殺意を抱いていないし、彼は何も知らない役割の人。それに高之の部屋は左端で雪絵の部屋が右端なので、見張りの隙をついて間の5人の部屋を音を立てずにゆっくり通り、雪絵を殺して、またゆっくり戻って来るのは至難の業。

⑤したがって、森崎伸彦と阿川桂子の二択。伸彦は3つ隣、桂子はすぐ隣の部屋なので桂子の方が見られず殺しにいける。「鍵を開けて」のメモは高之の名前にしておけば誰でも可能。犯人が自分の名前を使う必要は無い。桂子はビールを運ぶ姿を見られている。しかし、桂子が雪絵を殺す動機が弱すぎる。親友として朋美の仇を討ちたいほど深い関係でないと難しい。

伸彦は動機も十分あるし、機会もあった。ビールに睡眠薬を入れるのは厚子が手伝い、果物ナイフも厨房から厚子が持ち出して伸彦に渡せる。2人が寄り添う場面が何度もあったのでその時に。タイマーが壊れていると言ったのは伸彦が最初。一度遅らせておいて後で自分で時間を戻して壊せばいい。――伸彦が主犯で厚子が共犯だろうと思った。

 

別荘で起きたことは全部芝居だった→〇

かなり早い段階で気づいていました。第一幕の伸彦の「これで役者が揃ったな」の瞬間、「あれ?」と引っかかり……次に章題が「幕」になっていて、これはまさか……と。そして『ある閉ざされた雪の山荘で』のあらすじも思い出してしまった。「山荘で舞台稽古……はたしてこれは本当に芝居なのか?」その予感はジンが警官に対して「部下のジンノです」とお辞儀した場面で確信へと変わる。そういえばライフルもピストルも実際には撃ってないよなぁ。なんか全部嘘くさいなぁ。やけに朋美の事故を詮索してくるなぁ、ということはグルか~という感じで。

伸彦と厚子が強盗とグルなら雪絵をもっと殺しやすい。それなら利明も知ってないとおかしい。え?待てよ、雪絵もグル?そういえば、雪絵を地の文で「死体」と書くかどうか注意して見たけど書いていなかった。やっぱり生きてるんだな。じゃあ……高之1人だけ知らないってこと??

 

高之が睡眠薬を入れ替えた真犯人→〇

そうなるともう答えは1つ。高之だけがだまされている理由を推理すれば、朋美の事故の謎も勝手に解けていった……。お疲れ様でした。

 

 

好事家のためのトリックノートトリック分類表

準備中です。

 

 

 

裏旋の読書レビュー倉庫へ


Viewing all articles
Browse latest Browse all 997

Trending Articles